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アラビアのロレンス 完全版

2003年10月31日 | あ行 外国映画
舞台は1916年、第一次世界大戦がはじまったのが1914年。7月に始まった戦闘はクリスマスには終わるだろうといわれていたのが、いまだ、終わりが見えていない状態だった。大英帝国の敵はドイツ。そして、ドイツと同盟を結んだトルコがイギリスの行く手を阻んでいた。大英帝国はトルコを内部から切り崩すそうと、トルコの支配下にあったアラブ人たちを支援する画策にでた。そのためにはアラブ人たちの情勢や真の狙いを知らなければならない。そこで、英軍が派遣したのが、アラブ通の考古学者、トーマス・エドワード・ロレンスだった。

軍人ではないロレンスは英軍の面々から見れば、変人に他ならなかった。敬礼は様にならないし、立居振舞もとうてい軍人とは程遠いものだった。しかし、今は彼に頼るしかない。幾多の部族に分かれるアラブ人たちをひとつにまとめることができるのは彼らの慕う、ファイサル王子のみ。彼のもとに行って、彼らの真意を探るのが役目だ。一人のベドウィンを案内人にして、ファイサルのいる砂漠のテントに向かうロレンス。

灼熱の砂漠の中、案内人のハジミ族のベドウィンは、ハリト族の井戸から水を飲んだ。ベドウィンの掟ではやっていけないこと。そのとき、陽炎の向こうからひたひたとやってくる黒い影。それが、このあと、ロレンスとともに苦難を分かち合うことになるハリト族の首長・アリだった。一発で案内人をしとめたアリにあからさまな反感を示すロレンスだったが、実はアリこそが誰よりもアラブのインデペンデントを願っていた人物だった。

ファイサル王子のもとに何とかたどり着いたロレンスは、アラブ側がイギリス軍を支援するという約束を手に入れる。それは、トルコ軍の要塞・アカバを襲撃することだったが、紅海に面している正面は鉄壁の守りだ。背後を突く。しかし、それは死の砂漠・ネフド砂漠を横断することだった。

名シーン その1

 灼熱の砂漠を黙々とらくだとともに進むロレンスの一行。行く手は砂、また砂、砂、砂。そして容赦なく照り付ける太陽。果てしなく続く砂漠は、本当に容赦ない自然の姿をあらわしている。
乗り手を失ったらくだが、とつとつと歩いてくる。それを見て、落ちた乗り手を助けるため戻ろうとするロレンス。しかし、乗り手の死は運命なのだと言い張るアリ。あの砂漠に生き、灼熱の太陽に照らされて生きてきたベドウィンの得た観念だった。しかし、「運命などない!」と言うロレンス。アリの反対の声を押し切ってガジムを助ける。その後に待ち受ける歓喜の声。

このときにロレンスは大きな味方を得る。ハウェイタット族の悪名高いアウダ=アブ=タイだった。利害が合わなければ行動しないアウダに財宝を約束し、アカバ攻略に突き進んでいく。予期せぬ後方からの攻めにあっという間に背走するトルコ軍。アカバ攻略は成功した。

アカバ占領の事実をカイロの英軍に知らせるために、ロレンスはすぐ次の行動を起こす。従者となった二人の少年を連れてシナイ半島を横断するという。途中、流砂に巻き込まれて少年の一人ダウドを失ってしまう。苦難の後にカイロについたロレンスは、英軍の助力を得、また戦闘につくのだった。

トルコ軍の輸送路を断ち切るために線路を破壊するロレンスたち。しかし、ロレンスの軍に加わったベドウィンたちは自分たちのインデペンデントなどに興味はなく、略奪に専念するのだった。この軍は私設の軍とみなされ、正規軍とはされていなかった。ただの泥棒ということになる。捕まっても捕虜には適合されず、泥棒ということで処分されてしまうのだ。獲物を手に入れ、故郷に帰っていくベドウィンたち。それをとどめることはできず、ロレンスの軍は、どんどんと縮小していく。しかし、アリは決してロレンスの傍を離れなかった。力のなくなった彼らなど、英軍は必要とはしないのだった。

次の要所、デラアの街にアリとたった二人で乗り込んだロレンスは、トルコ軍に捕まり、拷問を受ける。このときに強く自覚した自分の肌の色の違い。アラブ人の気持ちをわかり過ぎるほどわかり、しかし、イギリス人である自分はいかんともしがたい。アラブ人になろうとしても、この白い肌だけはどうにもならないジレンマ。このときのロレンスの痛ましい顔つきがすべてを物語っている。

自分はアラブ人を率いることがもうできないと思い込んだロレンスは久しぶりに英軍の軍服に身を包み、イギリス人に戻ろうとする。そこで知った祖国の裏切り。自分が今までアラブ人に約束してきたインデペンデントはすべて偽りだった。祖国イギリスはすでにフランスと協定を結び、戦後、アラブの地を山分けすることを決めていたのだ(サイクス・ピコ協定)。これを覆すためには、英軍より先にアラブ軍がダマスクスに入るしかなかった。ロレンスの決戦のときだった。

名シーン その2

 アラブ人たちを動かす原動力はただ一つ、自分のため、オレンスのため。オレンスのもとに参集するアラブ人たちだったが、ロレンスの顔はすでに変わっていた。憤り、夢を無くし、祖国の裏切りを知りつつ、未来のない戦いに皆を率いていく。感情を無くしたような表情のロレンス。そして、ダマスクスに行く途中、背走するトルコ軍を虐殺する。ロレンスの変貌を嘆きつつ、寄る辺のないアリは、意に反して刀を振り回して、戦いに参加する。このときのアリの究極の葛藤は本当に胸に迫る。オマー・シャリフ最高。

トルコ軍を殲滅し、ダマスクスに入ったアラブ人たちだったが、結局は烏合の衆。占領と破壊はできても、作り上げることはできなかった。ただ、対立するだけのベドウィンの部族たち。政治などできるわけもなかった。一体ロレンスは何のためにここまできたのか。自分は一体何をしてきたのか・・。本当にアラブのためを思い、アラブの国を作ろうとしていたのはアリだけだった。ファイサルは、ベドウィンたちはこうなるとわかっていたのかもしれない。このあとに老政治家たちと駆け引きをし、イギリスの支配下に入ることになるのだが、これは、自分たちのとる道をどうしたらいいのか、何が一番の最良策なのか、彼なりの苦渋の選択だったのかもしれない。すべて敗れ去ったロレンスは英国に帰る。

「サハラに舞う羽根」上映記念で、夢のリバイバルができた。「アラビアのロレンス」完全版の上映。それも大スクリーンで、多分、自分の目の黒いうちはこれが最後かも。たくさん人が来てくれるか、少々心配だったが、たくさんの方がきてくださって、うれしい悲鳴だった。待ちに待っていた方、本当にうれしそうにやってきてくださった方がた。本当にありがとうございました。私が上映したわけではないのですが、企画に携わった人間として、厚く御礼申し上げます。

久々に見たロレンスだったが、この年になってから見ると、また感慨もひとしお。改めて思ったのは、なんてバランスのいい作りなのだろうと思った。イギリスの立場、ロレンスの立場、ファイサルの立場、アリの立場、アウダの立場、アメリカの立場、トルコの立場。どれも皆的確で、どれにも加担してない。あえて言えば、アリの立場に一番感情移入しやすいが。しかし、いかんともしがたい、答えの不可能な状況をよくもここまで描いていたのかと改めて感動してしまった。

太陽の強さ、砂漠の残酷さ、ロレンスが砂漠の魅力を「清潔だから」と語るが、ベドウィンたちは「砂漠には何もない」と言い張る。ベドウィンの思いを見事に表している。そして、それが痛いほどに伝わる映像だった。その素晴らしい映像だけでなく、人間の心理も砂漠以上に的確に描かれている。このキャラクターの描き方の違いを見ているだけでも素晴らしさがわかる。これぞ、名作。至福の時間だったが、真の意味で大作と呼ばれるものはもう二度と作られないのだろうな・・。一抹の寂しさも感じる一晩だった。

『アラビアのロレンス 完全版』

原題「Lawrence of ARABIA」 
監督 デビッド・リーン  
出演 ピーター・オトゥール オマー・シャリフ アレック・ギネス アンソニー・クイン ジャック・ホーキンス アンソニー・クェイル 1962年 アメリカ作品


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