迷宮映画館

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道 ~白磁の人~

2012年07月06日 | ま行 日本映画
地味ながら、その世界で真摯に懸命に生き抜いた方を、これまた真面目に描く伴明監督の作品。昔はこんな作風じゃなかった気がするが、こういう切り口の映画も必要だなあと思う。

さて、今回のターゲットは浅川巧。とんと知らなかった。営林署に勤め、植林事業に従事した人。ただし、植林は朝鮮半島で行っていた!と言うにがミソ。山梨出身の巧は、1914年、朝鮮半島に既に住んでいた母と兄のもとに行く。ここから彼の半島での不屈の日々が始まる。

朝鮮が日本に併合されたのが1910年。徐々に半島に渡る日本人も増えて、どんだけ横暴なことをしてたんだ・・・と言うことが容易にわかる。半島から日本に来て、日本での生活を描いたものはあったが、併合されてすぐ、半島での日本人がどんなだったか?というものを描いたのはあまりなかった。

ここでステレオタイプな横暴な日本人代表を務めるのが堀部さん。めっきりこんな役が定着してしまった。権威主義で横暴で超やな奴の典型!堀部さんって、コメディアンでしたよねえ。彼独特のコメディも好きだったのですが、最近ないなあ。

軍人の権威をかさに来て現地の人を足蹴に扱う様を見た巧は、即座に助ける。朝鮮人をあしざまに扱う日本人はうじゃうじゃ居れど、助けるなんて!こんな日本人は見たことない。何の偏見もなく、人にどう思われようと曲げない。おかしいと思ったことはおかしいと声をあげる。朝鮮の方々が日本語を使うのを聞いて、自分らの朝鮮語を使わないのは公平ではない、朝鮮語の勉強をする。

どうせ日本人のきまぐれだ!と、冷やかに見られるが、彼の真摯な気持ちを理解し、木を植えることに一緒に情熱をかける!と協力したのがチョンリム(青林)。

赤茶けて禿げてしまった山肌を見てショックを受けた巧は、ロシアや清の侵略でこうなったと聞く。朝鮮のために木を植えねば!と決意するが、その原因の大半は日本のやったことだと言うことをすぐに知る。ますますなんとかしなければ!と。しかし、なかなか芽は育たない。なぜにカラマツは育たないのか。。。。

様々な試行錯誤を経た結果、ものすごい単純で本質的な答えにたどりつく。朝鮮に植える木は朝鮮の木。過保護に育てるのではなく、自然にまかせて育てる。こんな当たり前のことが一番大事なんだ!ということ。でも、それもいろいろと実験した結果のキチンとたどりついた答えだ。

せっせと木を育てる一方で、朝鮮では独立運動が激しさを増し、巧も結婚し、父になる。しかし、体の弱かった妻は子供に「お父さんを守ってね」と言い残して、他界。

木を植え、父業をこなしながら、兄とともに朝鮮芸術を後世に残そうと、家庭に伝わる白磁を中心に、半島に残る身近な芸術品を蒐集して、いずれ美術館を作ろうと奔走する。その時もせっせと手伝ってくれたのが、チョンリムだった。

チョンリムも今の日本の支配の体制をよしとするはずがない。友人は3・1独立運動の時に殺され、息子は日本人に憎悪しか抱いていない。しかし、巧のような日本人もいる。理解しあえないはずはない・・・と。

そして念願の美術館が開館した。誰のためでもない。朝鮮のために作った美術館。しかし、日本人を憎悪するチョンリムの息子は、手製の爆弾を抱えて、総督府のお偉いさんが来ている美術館に投げ込もうとする。間一髪でとどめるチョンリム。爆弾を持つチョンリムは反逆者として囚われの身になってしまう。

なぜ爆弾を??巧はチョンリムに問いただすが、息子をかばったとは言えない。自分は日本人を憎んでいるのだと言い張るチョンリム。二人は決別する。

それでも木を植え続ける巧。体を壊し、余命いくばくかとなってしまった巧は最後の願いを家族や仲間に頼む。それは・・・・・。

と言うことで、いろいろとベンキョになりました。まずこんな人がいたんだ!と言うこと。まっすぐで自分の信念を一切曲げず、誰かのためと言うのではなく、本当に公平に、平等に大地を愛し、自然を愛し、そのために木を植え続けた人。「明日、世界が終ろうとも、私は今日木を植える」という名言があったが、真面目にそれを地で行った人だった。

浅川巧に合わせたように見せ方も朴訥そのもの。もうちょっとあざとく、ひねくれた見せ方でもいいんでは・・と思うくらいにまっすぐ、ストレートで、見てて気恥ずかしさを覚えるくらい。映画の面白さから言ったら、微妙なところだが、これほどまっすぐな人を描くには、まっすぐが一番なのかも。

こちら本物の浅川巧




で、その要求に見事にぴったりだった吉沢君。いまどきいないべ!!と言うくらいに大正の人だった、昭和を超えてます。浅川巧の人となりは本当にこんな人だったんだろうなあ~とつくづく思った。

チョンリム役のペ・スビンは、この間までずっと見続けた「トンイ」のお兄ちゃん役。トンイの子供の時から成長して、その後も守護天使のように見守り続けた役柄が今回もぴったり。

日本人の役者さんは、見事に皆ステレオタイプで、もうちょっと意外性があってもいいかと思うくらいのあて役。その中でどこまでも大根だったのが二股男。。。下手くそ!あんなに下手くそだった?

どう見ても巧のお兄ちゃん役の方が若く見えてしようがなかった。亀ちゃんの使い方ももったいなかったなあ・・・・。

さて、朝鮮白磁の美しさは言うまでもないが、白磁は日帝時代にかなり貶しめられた。中国や朝鮮は、王朝が変わるごとに前の時代を全否定して、前の時代の文化や政治、人物までも徹底的にダメなものにしてきた歴史がある。あの美しい高麗青磁は李朝朝鮮時代に、やはり否定された時代があった。

とすると、今は日帝時代。いま日本が支配している時代が否定するのは李朝朝鮮。李朝白磁を芸術とは言い難く、高級品なのではないと貶しめたのは日本だったということだ。

◎◎◎●

「道 ~白磁の人~」

監督 高橋伴明
出演 吉沢悠 ペ・スビン 酒井若菜 石垣佑磨 黒川智花 近野成美


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4 コメント

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Unknown (KLY)
2012-07-06 23:24:29
全くその通りでお勉強になりました。てかちと恥ずかしいでさーね。日本人のクセに日本人の事知らないってのは。
ただ…観ながら思ってたのは、きっと韓国でもあまり知られてないだろうし、韓国人がこの映画観たら不愉快になっちゃう人結構いそうだなぁと(苦笑)
石垣君のあのひげは何かのコスプレですか?いやもう滑稽にしか見えないんですが…。
>KLYさま (sakurai)
2012-07-11 08:12:00
朝鮮半島のために半生を生き抜いた!なんていう人は、あえてフューチャーしなかったのかもしれませんね、この日本じゃ。
どう描いてもこの民族問題、植民地問題は禍根を残す!このこと自体がとっても大事なことなのかなあと思いました。
なによりやはり知ることですね。
主人公はピッタリはまりまくってましたが、脇がねえ・・・。。
こんばんは! (kira)
2012-07-12 22:38:30
中途半端な記事ですがTBさせて下さいねぇ♪

この時代の朝鮮を、日本人が描くことの難しさがあると思いますが、
どちらの国の人が観ても驚きの人物だったと思いますね~。
普段使いの、汚れない美しさ――吉沢悠君にはぴったりでした。
脇の日本人キャスト、、いかにもザンネン
>kiraさま (sakurai)
2012-07-17 15:52:57
いえいえ、TBありがとうございます。
見られてる方が少ないようで、そこも地味な映画を象徴してますが、いろんな面から勉強になりました。
この二つの国の問題は、一筋縄には行かないものがありますが、こんな人がいたんだ!という事実を知ることはとっても大事なことだと思います。
あとは脇でしたね・・。
もうちょっと何とかならなかったものかと!

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