『司馬遼太郎全講演 第３巻』
司馬遼太郎・著/朝日新聞社2000年
いろんなことを語られていますよ。
日本＝猿真似、中国は独自といわれていたという。
中国へ遣唐使を送り、猿真似。そして19世紀は明治維新で西欧の猿真似。下「」引用。
「英語では猿真似といわずに、オウム真似というそうですな。」
「本来の仏教は霊魂の存在を否定します」
ロレンソ了斎。下「」引用。
「ロレンソは肥前うまれと推定されています。視力に不自由があり、琵琶法師として旅をしていた人で、このとき（一五六九年）から十八年前、山口にきたザヴィエルに会い、受洗しました。
その後、この日本人の修道士は日本布教にあたって異能ともいうべき働きをします。かれは教義にもポルトガル語にも通じ、さらには仏教についても一通りの教養をもつ人物でした。」
朝鮮人と飛鳥。下「」引用。
「飛鳥のチは日本人の魂の故郷のようなところです。しかし、その飛鳥の地をつくったのは、考えてみれば、たいてい朝鮮半島から来た人々でした。官吏が多かった。
どうも日本に行き、文字さえ知っていれば官吏になれるというふうだったかもしれませんね。日本はいい就職場所だったのです。」
漱石の父・夏目小兵衛と漱石について書かれてあった。
－－漱石はやはり苦労したようだ。
日本の愛国者……。下「」引用。
「イギリスは海軍が世界一上等でした。しかし陸軍はフランスに及ばない。フランスの陸軍は砲兵が優秀だが、歩兵はドイツには及ばない。フランスの砲兵はドイツより勝っている。ちゃんと比較ができたうえで自国を愛していた。
日本人にも愛国者を称する人いましたね。しかし、比較を拒絶した愛国者でした。そういう人が軍部をおだてた場合に、軍部は比較も何もしないものですから、大変なことになる。」
革命となったポンペの長崎療養所。下「」引用。
「松本良順は幕臣ですから、平素は殿様と呼ばれている人でする
諸藩から来ているポンペ先生の弟子たちも、その藩に帰れば身分の高い人が多かった。
その殿様たちが、長崎の町人の熱をみて、世話をする。
小さな世界でありますが、日本の近代というのは長崎の療養所から始まったといえるかもしれません。
つまり、ここで市民社会が始まったわけで、ポンペ先生の病院は、たしかに革命を起こしたのです。」
龍馬の夢？ 下「」引用。
「バルチック艦隊がどこから来るのか、日本中が心配していた時代のことです。皇后が夢を見られました。夢枕に上も袴も真っ白な人が立って、「バルチック艦隊のことは大丈夫でございます」と言ったという。このことを皇后は宮内大臣の田中光顕（みつあき）に言ったんですね。
「不思議な夢だった。あれは誰なんだろう」
田中光顕は土佐の、志士あがりの人でした。明治に入ってからは、土佐の勢力はふるわず、宣伝的に言ったのかもしれません。
「それはわが土佐の坂本竜馬に違いありません。坂本は長崎の亀山というところで、私立の海軍の学校を興した男です。亀山では、上も袴も白でした」
この話を新聞が書きたてました。－略－」
ロビイストがペリーを送った。下「」引用。
「十九世のアメリカにおいては、捕鯨がさかんでした。第一級の産業であり、議会にもずいぶん献金し、ロビイストもたくさんいた。捕鯨業者の勢いは大変なものでした。－略－
私は『竜馬がゆく』を書いていて、捕鯨について知り、うれしかったのを覚えています。捕鯨のロビイストが大統領を動かし、ペリーを日本に派遣させたのですね。
アメリカ人の家庭の灯火を確保するため、クジラをとる。蒸気船だから石炭がいりますね。それほど積めません。
日本を開港させろということになった。－略－」
－－正岡子規怒る。
中江兆民が癌にかかり『一年有半」という本を出版。下「」引用。
「ところが、それを読んだ正岡子規が、病床で激怒したのです。
子規は三十半ばで、生きるのはもうわずかなんです。それは本人も知っている。地獄のような苦しみのなかにいながら、俳句、短歌の改革を進めている。生命は尽きようとしているが、それまで仕事をしなければいけないんだと思っている。－略－子規から見れば同じ四国人として生っちょろいと言いたかった。生っちょろいという批判こそが子規のリアリズムでした。
死に瀕した現実とはそんなものではないという、子規のぎりぎりの、悲痛なリアリズムがそこにあったのです。」
もくじ
目次
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司馬遼太郎・著/朝日新聞社2000年
いろんなことを語られていますよ。
日本＝猿真似、中国は独自といわれていたという。
中国へ遣唐使を送り、猿真似。そして19世紀は明治維新で西欧の猿真似。下「」引用。
「英語では猿真似といわずに、オウム真似というそうですな。」
「本来の仏教は霊魂の存在を否定します」
ロレンソ了斎。下「」引用。
「ロレンソは肥前うまれと推定されています。視力に不自由があり、琵琶法師として旅をしていた人で、このとき（一五六九年）から十八年前、山口にきたザヴィエルに会い、受洗しました。
その後、この日本人の修道士は日本布教にあたって異能ともいうべき働きをします。かれは教義にもポルトガル語にも通じ、さらには仏教についても一通りの教養をもつ人物でした。」
朝鮮人と飛鳥。下「」引用。
「飛鳥のチは日本人の魂の故郷のようなところです。しかし、その飛鳥の地をつくったのは、考えてみれば、たいてい朝鮮半島から来た人々でした。官吏が多かった。
どうも日本に行き、文字さえ知っていれば官吏になれるというふうだったかもしれませんね。日本はいい就職場所だったのです。」
漱石の父・夏目小兵衛と漱石について書かれてあった。
－－漱石はやはり苦労したようだ。
日本の愛国者……。下「」引用。
「イギリスは海軍が世界一上等でした。しかし陸軍はフランスに及ばない。フランスの陸軍は砲兵が優秀だが、歩兵はドイツには及ばない。フランスの砲兵はドイツより勝っている。ちゃんと比較ができたうえで自国を愛していた。
日本人にも愛国者を称する人いましたね。しかし、比較を拒絶した愛国者でした。そういう人が軍部をおだてた場合に、軍部は比較も何もしないものですから、大変なことになる。」
革命となったポンペの長崎療養所。下「」引用。
「松本良順は幕臣ですから、平素は殿様と呼ばれている人でする
諸藩から来ているポンペ先生の弟子たちも、その藩に帰れば身分の高い人が多かった。
その殿様たちが、長崎の町人の熱をみて、世話をする。
小さな世界でありますが、日本の近代というのは長崎の療養所から始まったといえるかもしれません。
つまり、ここで市民社会が始まったわけで、ポンペ先生の病院は、たしかに革命を起こしたのです。」
龍馬の夢？ 下「」引用。
「バルチック艦隊がどこから来るのか、日本中が心配していた時代のことです。皇后が夢を見られました。夢枕に上も袴も真っ白な人が立って、「バルチック艦隊のことは大丈夫でございます」と言ったという。このことを皇后は宮内大臣の田中光顕（みつあき）に言ったんですね。
「不思議な夢だった。あれは誰なんだろう」
田中光顕は土佐の、志士あがりの人でした。明治に入ってからは、土佐の勢力はふるわず、宣伝的に言ったのかもしれません。
「それはわが土佐の坂本竜馬に違いありません。坂本は長崎の亀山というところで、私立の海軍の学校を興した男です。亀山では、上も袴も白でした」
この話を新聞が書きたてました。－略－」
ロビイストがペリーを送った。下「」引用。
「十九世のアメリカにおいては、捕鯨がさかんでした。第一級の産業であり、議会にもずいぶん献金し、ロビイストもたくさんいた。捕鯨業者の勢いは大変なものでした。－略－
私は『竜馬がゆく』を書いていて、捕鯨について知り、うれしかったのを覚えています。捕鯨のロビイストが大統領を動かし、ペリーを日本に派遣させたのですね。
アメリカ人の家庭の灯火を確保するため、クジラをとる。蒸気船だから石炭がいりますね。それほど積めません。
日本を開港させろということになった。－略－」
－－正岡子規怒る。
中江兆民が癌にかかり『一年有半」という本を出版。下「」引用。
「ところが、それを読んだ正岡子規が、病床で激怒したのです。
子規は三十半ばで、生きるのはもうわずかなんです。それは本人も知っている。地獄のような苦しみのなかにいながら、俳句、短歌の改革を進めている。生命は尽きようとしているが、それまで仕事をしなければいけないんだと思っている。－略－子規から見れば同じ四国人として生っちょろいと言いたかった。生っちょろいという批判こそが子規のリアリズムでした。
死に瀕した現実とはそんなものではないという、子規のぎりぎりの、悲痛なリアリズムがそこにあったのです。」
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