代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

水道民営化の利益相反パラダイス

2018年12月04日 | 政治経済(日本)
 水道法改正案が、十分な審議もされぬまま強行採決される見通しである。
 先週、水道民営化問題でコメントを求められテレ朝の羽鳥慎一のモーニングショーに呼んでいただいた。その後、フジテレビの日曜のプライムニュース(12月2日放映)からもコメントを求められた。
 質問の中で、浜松市の水道民営化の中間報告書の妥当性について聞かれた。
 数字の妥当性の以前の根本的な問題として、報告書の作成過程で民間企業から出向して内閣府で水道民営化の旗を振っていた福田さんが、自分の出身企業に報告書の作成を受注させていたという利益相反問題を指摘した。
 どうやら「タブー」に触れてしまったようで、それ以上取材されず、その問題も一切テレビでは報道されなかった。

 大変に遺憾なので、以下、フジテレビとのやりとりを紹介させていただく。

 しかしながら、そのフジテレビで水道の官民連携推進派のコメンテーターとして出ていた吉村さんが、運営権を独占企業に丸投げすれば、競争もなく価格を低下させるインセンティブははたらかず、現在の水道法改正案は欠陥が多く、現行法のままで十分であると結論されていた。その点は評価させていただきます。

 しかしながら、推進派が見ても欠陥だらけで正当化し得ない水道法改正案が、数の力で強行採決され、しかも日頃威勢よく国を守ると言っている保守政党が、命の水を外資に売っぱらうことに賛成するとは、この国の「保守」っていったい何なのだろう?
 

******

>・浜松市のコンセッション方式導入についてはどう思われますか?
その中でもP17の
『運営委託方式導入により、値上げ幅46%を7ポイント程度下げる効果と試算された』というところについて
どう思われるのか聞かせていただきたいと思います。

浜松市水道事業へのコンセッション導入可能性調査に関する中間報告
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/suidow-s/documents/chuukanhoukoku_r.pdf


 浜松の事例については、私は不案内なので何とも言えません。
 ただ、ご案内の「中間報告」にかんしては、信頼を根本的に損ねる重大な利益相反行為が指摘され、東京新聞等で報道されています。並んでいる数字そのものが全く信用できないのです。
 添付の東京新聞の記事「水道民営化結論ありき? 収益に群がる外資・政府中枢」をご参照ください。この報告書に対する疑義は、以下のようなものです。
 中間報告書を取りまとめたのは「新日本監査法人」という会社です。浜松市をパイロットケースとして水道民営化を進めようとしたのが、当時内閣府の補佐官であった福田隆之氏であり、その福田氏は当の新日本監査法人から内閣府に出向していた方だったそうです。政策の実施担当者が、自分の出身企業に報告書の作成を受注させているわけで、結論先にありき、政権を取り巻く人々が、不当な手段で利益を得ようとする、利益相反のズブズブの関係ということになります。(森友や加計の問題と同様な構図と思います)

 添付した東京新聞の記事には、以下のようにもあります。浜松市の下水処理場の運営権を受注したヴェオリア社は、9割公金支出による設備改修工事を、自社の子会社に受注させたそうです。本来は、競争入札にすべき案件ですが、ヴェオリアが独占的な運営権を取得しているため、随意契約で子会社に受注させているというのです。これでは、公営で実施するよりも割高になるのは当然です。
 運営権が民間会社に独占されれば、競争入札もされなくなります。自治体が運営権をもって、競争入札にかけて民間に受注させるよりも、割高になってしまうのです。

 浜松市にかんしては、私は不案内なので、これ以上のことは言えません。この記事の中に、浜松市で民営化に反対して活動している市民団体の方や浜松市議の方などが紹介されていますので、彼らに取材していただきたく存じます。


『東京新聞』2018年11月20日朝刊

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なりふりかまわぬ公共性抹殺放棄症候群と公共性なき公益の支配。 ( 睡り葦 )
2018-12-09 16:58:22
 日本国有鉄道の分割&株式会社化のような国有・公有の社会的共通資本のまるごと営利資本化のことを、民有化と言わずに民営化といいくるめてきたことから、公共事業の運営を営利企業に低廉に売却委託する「利権供与」をわざわざコンセッションと呼び、それは民営化ではないと言いはっているのが滑稽です。
 はて、市場原理の営利万能信仰ではなかったのかと、欺瞞的ご都合主義にあきれてしまいます。

 水道を特定企業の営利事業にすることが自分たちにメリットをもたらす、と受けとめる住民はまさか存在しないのではないでしょうか。
 水利水道といった生命維持に不可欠な日常的な生活資源を特定の営利企業への利権供与の対象としないよう、草の根町内会レヴェルから市の行政当局と市議会に対して働きかける必要があると思います。

 日本の公共建設事業の談合体制に対する米国軍産関連建設企業による米国政府を介した批判によっておこなわれた国土交通省による一連の入札制度の改革が地方自治体の公共的責任意識と能力とを破壊しました。
 発注者である自治体が計画し設計して工事を監理する公共建設事業から全国規模の大手ゼネコンによる建設成果物を商品として購入するということになり、自治体の主体的責任による建設生産が、ゼネコン商品の消費に変化しました。これによって災害時における緊急出動と復旧工事の先頭に立つ、地場中小建設業者の壊滅状況がもたらされたわけです。

 このような、中央と地方行政における公共性の抹殺放棄症候群が、水道民営化問題においてグローバル水メジャー企業に対する利権供与、実質的に国民大衆の生命の払い下げというかたちで現れるようになったことは衝撃的です。
 公権と企業利権シンジケートのアライアンスが行政であることは自明であるにせよ、国民住民の生命にかかわるところで公共責任という仮面を脱ぎ捨てるというのは、まるで古代奴隷制国家の腐敗劣化した姿そのものです。
 かくして公共という言葉は消え、自公が政治屋として請け負う利権が公益という名で取って替わり、国民主権を否定する改憲のキィワードになっています。

 本記事と同じ12月05日付けの内田聖子氏による記事(ハーバー・ビジネス・オンライン)から受け売りで、福田隆之氏についての興味深い内容を補足するのをお許しください。

 福田氏は、野村総合研究所で国初のPFI案件を手掛け、PFI・民営化アドバイザリー業務、民間企業のPFI事業の参入支援を行ったあと、2012年3月から、新日本有限責任監査法人のインフラPPP支援室長として仙台空港をはじめとするコンセッション関連アドバイザリー業務を統括。竹中平蔵の強い推挙により2016年1月、管官房長官によって若冠36歳で内閣府の官房長官補佐官への抜擢を受けました。
 ただし、2018年11月2日の日刊ゲンダイ記事によれば、管官房長官の威光を振り回して権勢を振るう強引なやり方から「黒い補佐官」と呼ばれ、2016年のフランス現地調査において水メジャー・ヴェオリア社から過剰な接待を受けたことをはじめとする告発を含む匿名文書が出回った時点で突然退任に至ったとのことです。

 内閣府のPPP/PFI推進室の「PFI推進委員会」という会議体の委員・専門委員に、福田氏が所属していた新日本有限責任監査法人の黒石匡昭氏が含まれており、新日本有限責任監査法人が属するロンドンのアーンスト・アンド・ヤング・グループは世界四大会計事務所の一つでイギリスの水道民営事業で会計監査を行った経験を持ち、グローバル企業のためのロビー活動を進めるコンサル企業として著名であるとのことです。

 草の根町内会は、グローバル・シンジケートのエリートたち、紳士の仮面をかぶった悪魔の掲げる公益と対峙することになるわけです。ドラマではなく現実において。
状況下、急ぎ言葉の訂正をいたします。 ( 睡り葦 )
2018-12-16 18:49:48

 先の投稿において「紳士の仮面をかぶった悪魔の掲げる公益」としておりましたことをお詫びします。寡聞にして適切な言葉が見あたりませんので「紳士」を削除して「仮面をかぶった悪魔の掲げる公益」に訂正をお願いいたします。

 水道PFI利権にかかわるお歴々が、ノブレス・オブリージェを標榜する名望家としてのジェントリー的紳士にはとうてい思えないということだけではなく、11月29日の参院厚生労働委員会における福島みずほ議員の質問によれば、水メジャー・ヴォエリア社から内閣府PPP/PFI推進室に派遣されているヴォエリア・ジャパン社員がおり、同社営業本部・PPP推進部でPPPと官民連携の提携業務を担当していた社員であるとのことでしたが、見ますと、このI.M.さんという方はオジサンではないらしいということでして。

 さらに、12月11日の日刊ゲンダイ・ネット記事で、くだんの水メジャーの日本法人であるヴォエリア・ジャパン社の社長は野田由美子というお名前であることを知りました。野田氏は2007年6月から2009年9月まで横浜市の副市長であり当時、内閣府の「民間資金等活用事業推進委員会総合部会」の委員であったとのことです。

 はて、どのようなキャリアかと、ふと思い見てみましたところ、その筋によくありそうなファイナンス系のミニ立志伝で、かつアベ・クローニー資本主義との親和性一体性をよく示していてウンザリいたしました。日本経済新聞および神奈川新聞の記事をソースにピックアップして報告いたします。

 1982年東京大学文学部卒業、バンクオブアメリカ東京支店勤務後、25歳で決意してハーバード大学に留学してMBAを取得、帰国後日本長期信用銀行本店プロジェクト・ファイナンス部に入り、ロンドン勤務中にイギリス・オリジンのPFIを知る。1998年長銀破綻後、PFIコンサルティングが売りものの会計監査法人プライスウォーターハウスクーパースに転じ、PFIの日本展開に大活躍。

 2007年有識者委員をつとめていた出身地横浜の中田宏市長によって副市長に任用され2009年の横浜開港150周年開国博を担当、横浜の方は、巨大な機械仕掛け蜘蛛だけが売りで張りぼて展示ばかりの「超絶つまらない」博覧会としてよくご記憶であろうと思いますが、ずさんな計画とその計画からかけはなれたイベント内容によって計画有料入場者5百万人の25%に満たない惨状で大赤字となり、野田氏が副会長であった主催者横浜開港150周年協会が運営を委託した博報堂JVに対して概算契約金の減額を求めて調停申し立てをするなど6件の訴訟を含めた泥沼状態のなかで開国博に関する追及必至の市議会特別決算委員会の前日に、すでに開国博開会中の任期中途で逃げるように市長を辞任していた中田宏氏を追って辞職。

 その後、プライスウォーターハウスクーパースに戻り、アジアのインフラ事業を統括、2016年に、長年付き合いのあるヴェオリア・ジャパンの前社長から後任にと打診され半年考えた末に、ヴォアリア社のヴィジョンに以前から共感していたことから決意し、社員4000人超の大組織を率いる。

 ・・・とのことです。みごとなものだと思いました。

                  ☆☆☆

 社会的共通資本としての水道の企業営利事業化ということから、ついつい資本について考えます。
 生産側、サプライサイドについては、物的資本つまり生産手段の所有とその運用、そして果実の取得が問題になるわけですが、ここで所有と果実取得がセットなのか、運用と果実取得がセットなのか、他方で、消費者大衆サイドの便益はいかに、ということを。

 飛躍してしまいますが、ロシア革命のあとの経済建設に苦しんだレーニンのあとを襲ったスターリンが、狡猾なことにロシア一国で完結成立しうる方策として、農業を含む生産手段の収奪国有化と戦時型統制経済による労働奴隷制を強行したことから、社会主義とは生産手段の国有化および生産と消費にわたる集権計画経済である、という認識が確立してしまいました。
 ゆえに、忌むべき社会主義ではなく資本主義でなければならない、永遠にと。しかし、スターリンがおこなったことは、生産資本の急激な増殖のための労働大衆からの搾取であったわけで、その限りで資本主義とおなじだったと思えます。

 社会的共通「資本」という呼称は「資本の所有と運用による果実」という資本主義の基本的パラダイムを前提としているゆえであろうと思いますが、水道のことを考えながら混乱してしまいました。
 ロシアと中国を含む現在の資本主義社会のパラダイムは所有主つまり株主主権であり、投資された資本の所有と運用の果実はすべて所有主株主に帰属し、運用受託者としての企業経営者は資本所有者である株主の利益に第一義的に奉仕するといういわば金融資本主義になっています。
 すると、ヴォアリア社は、自社の株主の利得果実のために社会的共通資本である水道を運用し、資本としての水道の所有は地方自治体に属するという構図は一体何なのなだろうか。と、アタマが混乱しています。
 社会主義を名のった資本主義を強行したスターリンに対する周回遅れのアイロニーなのでしょうか。

 あるいは、選択権を持たない消費者大衆を一方的に食いものにするということで、サプライサイドとデマンドサイドにわたる超スターリニズムなのかと、新自由主義における寡占資本の支配の威力に驚くばかりでは意気地がないと気を取りなおしつつ、立ちすくんでいます。

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