代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

パリ協定とWTO協定どちらを取るのか?

2021年01月24日 | 自由貿易批判
 フランスのマクロン大統領が「ブラジルの森林破壊を防ぐ」ことを名目として、1億ユーロを投じて、大豆の増産と国産化に乗り出すという考えを表明したそうである。(以下の全農HPを参照)
https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2021/01/210119-48915.php

 マクロン政権は、「大豆の作付面積を今後3年間で40%増加させ、2030年までに2倍の200万ha(フランスの全農地の8%に相当)に拡大することをめざす」とのことである。大豆はこれまで3分の2を輸入に頼っていたそうだが、これを実施すれば国産化を実現できるだろう。
 注目すべきは、マクロン大統領が、大豆の輸入先がブラジルであることから「フランスはブラジルの森林破壊に一部責任がある」との認識を示し、国産化の理由としている点だ。
 マクロン大統領のこの発言には拍手を送りたい。アマゾンの森林破壊の二大原因は、一つは牛肉生産のための放牧地の拡大、もう一つは大豆農園拡大のための野焼きである。 

 仮にマクロン大統領が、ブラジルからの大豆の輸入制限という手段をとっても大豆の国産化を図った場合、ブラジルは「WTO協定違反」として、WTOに提訴することになるだろう。WTOのこれまでの判例から判断すれば、ブラジルが勝ち、フランスは負けるはずである(幸い、トランプ政権の妨害のおかげで、WTOの上級パネルは現在機能していないが・・・・)。

 今世紀後半に炭素排出を実質ゼロにするというパリ協定を満たすためには、アマゾンをこれ以上破壊してはならない。ここで問題なのは、パリ協定とWTO協定のどちらが大事なのか、という点である。私たちはパリ協定を優先すべきであり、森林を農地転用して生産された作物や牛肉などを、もはやこれ以上輸入してはならないのだ。
 ちなみに、アマゾンの森林破壊による二酸化炭素排出は、地球全体の年間排出量の6~7%を占めると思われる。

 国連の貿易統計で、フランスがどの程度、ブラジルから大豆を輸入しているのか調べると、直近の2019年の統計で16万トンであった。ちなみに、同じ年、日本はブラジルから55万トンの大豆を輸入している。フランス人が、ブラジルからの大豆輸入を憂慮するのであれば、日本人はその3倍、心を痛めねばならないことになる。菅首相も、マクロン大統領に倣って、何らかのアクションを起こして欲しいものである。

 ちなみに、世界最大の大豆輸入国である中国は、5700万トンもの大豆をブラジルから輸入している。日本のさらに100倍。驚愕の数字だ。ブラジルの全大豆輸出の約70%が中国向けだ。中国はWTOに加盟して、大豆輸入を自由化する以前は、大豆はほぼ100%国産だった。中国がWTOに入って貿易を自由化しなかったら、アマゾンもあれほどまでに破壊されていないのは間違いないのだ。習近平も「生態文明」の建設を目指すとか言うのであれば、ブラジルからの大豆輸入を制限して国産化を目指すべきであろう。

 ちなみに、FAOの統計からブラジルの大豆生産量のグラフを作成すると以下の図のようになる。WTOが発足したのが1995年。この年が明確に変曲点となり、悲劇の始まりとなっていることが分かるであろう。

 
出所)FAO STATより筆者作図。

 私は、1990年代前半、このような自明な事態の発生を恐れ、学生の分際で真剣にWTO協定に反対したものであった。当時の日本のは、マスコミも学者も自由貿易万歳の市場原理主義者が跋扈し、WTOが地球環境に与える悪影響を憂慮する声など皆無といってよい状況であった。彼らは真に罪深い。


 
 
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1 コメント

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Unknown (12434)
2021-01-27 09:05:04
バイデン氏、「バイ・アメリカン」拡大 大統領令に署名
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN25CZG0V20C21A1000000
日本経済新聞

バイデン政権「内向き」継承
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68545720W1A120C2FF8000
日本経済新聞

米大統領報道官、TPP「不完全」 早期復帰に慎重
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2309L0T20C21A1000000
日本経済新聞

こういうニュースを見ると、トランプ前大統領の存在はバイデン政権を改善させる中和剤になっているなとつくづく思います。
おそらくですが、フランスのマクロン大統領が大豆の自給率を増やそうとする理由はアマゾンの森林破壊に歯止めをかけるだけでなく、自国の農業関係者を守るためでもあると思います。そうすればルペン支持者の不満を和らげることもできるからです。

仏大統領選テレビ討論会、マクロン・ルペン両氏が保護主義で応酬
https://jp.reuters.com/article/france-election-idJPKBN17630G
ロイター

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