代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

八ッ場ダム問題大詰めの今知っておくべきこと

2011年12月06日 | 治水と緑のダム
 八ッ場ダム問題、明日12月7日にも建設GOサインが出るかも分からないという大詰めの段階になってきました。
 八ッ場ダム建設をめぐって最後にもう一度、皆様に知ってほしい諸問題をいくつかピックアップして紹介しておきます。

パブコメやらせ問題

 本日(12月6日)の東京新聞の一面トップ記事で、八ッ場ダム検証に関するパブコメで96%が同一文面のダム建設推進の意見であったこと、埼玉県の建設推進県議連が動員して提出された「やらせ」であるという事実が報道されました。下記記事参照。

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011120690071251.html

ダムによる地すべり誘発問題

 八ッ場ダム建設予定地は2万4000年前の浅間山の山体が半分吹き飛ぶような大噴火の際に発生した岩屑なだれの層が厚さ数十メートルの規模で降り積もっている場所です。2万4000年という地質学的にはほんの最近できたばかりの地層で、岩石としてちゃんと固まっていないもろい堆積物です。この場所にダムを造って水を貯めると地すべり災害を誘発する危険性が高いといわれています。
 この問題、マスコミ各紙はなかなか報道しておりませんでしたが、ここへ来ていくつか記事が出るようになってまいりました。
 
 11月27日には「東京新聞」のこちら特報部が詳細なレポートを出しました。下記サイトがその記事を転載しています。

http://yamba-net.org/modules/news/index.php?page=article&storyid=1454

 また、雑誌アエラの先週号(12月5日号、31-33頁)も、浅間山の岩屑なだれ層の危険性を指摘してきた私の大学の同僚の地質学者の竹本弘幸氏の説を大きく報道しています。アエラの記事中に出てきた竹本弘幸氏の発言を引用させていただきます。 

「八ッ場ダム湖が湛水したら、先に和歌山や奈良の熊野川流域でも見られたように、林地区(注:八ッ場ダム湖畔の地名)も方々で深層崩壊が始まり、移住者の代替宅地も既存のそれもダム湖に呑み込まれてしまう。一帯の地質から起こることがわかっている悲劇を、研究者として何としても食い止めたいのです」

 地すべりの危険性を指摘してきた地元の住民の豊田武夫さん(酪農業)の発言も、アエラの同記事から引用させていただきます。

「ここは地すべりが今のところ止まっていると思われる所でしょう。そこにダムの水を差したら、(滑るように)油を入れてやるようなもんじゃないですか」

ヒ素問題

 吾妻川の支流からはヒ素が高濃度で検出されます。12月1日に行われた「ダム検証のあり方を問う科学者の会」の公開シンポジウムで、民主党の八ッ場ダム分科会の村井宗明衆議院議員が八ッ場予定地上流の「ヒ素の濃度がほとんどの測定で基準値を上回った」ことが報告され、同議員は「これが党の議論で大きな問題となったのに、なぜかマスコミが報道してくれないんです」とこぼしておられました。
 村井議員の発言は下記サイトのトップにある「これでいいのか!ダム検証」のシンポジウムユーストリーム動画の34分50秒からです。

 http://www.yamba-net.org/

 国交省が開示した八ッ場ダム建設予定地の近くの貝瀬という場所のデータによれば、平成22年4月から本年10月までの19回の水質を分析したところ、15回は国の基準を上回るヒ素濃度が測定されたそうです。最大で基準値の4.2倍の濃度でした。(ヒ素濃度の国の基準は0.01mg/Lです)

 おそらく国交省は表に出したくなかった直近のデータで、民主党の八ッ場問題の分科会の議論の中で新しく開示されたものです。
 ヒ素のみならず八ッ場ダムの水質が飲用に全く適さないことは明らかであり、ダムが造られることになっても、将来大きな問題になることでしょう。

ダム検証における虚構の治水効果かさ上げ

 八ッ場ダムの治水効果が、今回の国交省・関東地整によるダム検証で2.6倍にかさ上げされたことは、流出高のデータから判断して原理的にあり得ず、明らかに虚偽であるという問題があります。お恥ずかしながら私が書いたものが下記「八ッ場ダムをストップさせる千葉の会」のサイトにありますので、よろしければご参照ください。

http://yanbachiba.blog102.fc2.com/blog-entry-197.html

政治とカネの問題

 最後に、これほど大きな問題を抱える八ッ場ダム建設がなぜ強行されるのかに関しては、政治とカネの問題を抜きに語れません。2010年2月24日の国土交通委員会における中島正純議員の質問が端的に明らかにしています。下記サイト参照。消されないうちにぜひご参照を。 

 
http://www.youtube.com/watch?v=MZTASnDQ5I8 

 

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 関税と補助金のどちらが合理... | トップ | 国交省タスクフォースによる... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
国交省タスクホース報告書を読んで (竹本弘幸)
2011-12-09 09:53:31
3.11.震災を踏まえた今後の治水システムに関連する知見・情報の整理 
国土交通省 タスクホース 12月8日 公表

資料1 に対するコメント

■欠落したもう一つの視点■
利根川上流域(首都圏の水源域)の高濃度放射性物質による森林・汚染水対策
■資料1と参考資料1の比較■
参考資料1で意見を述べた専門家の方のコメントを読めば、文献検証すら十分に行われてい
るとは思えません

第2章 3.11震災から得られる教訓の整理
第3章 具体的事象ごとの知見・情報の整理
1. 文献の調査
(総論コメント)
何れの文献調査も、過去に八ッ場ダムをつくるためにそろえたものがほとんどで、地震、噴火、土砂災害履歴の検討結果内容が、全て八場ダムが有効に働くような所見ばかりが並んでいます。
一般論で見ても、3.11以降について踏まえたはずにも係わらず、なんら新知見の発表や報告の検討を伴わないものが使われています。過去の資料で都合の悪い部分は、河川局治山課などの作成した内部検討資料で、八ッ場ダムにより、リスクを否定するかのような記述まで見られますので、まともな文献整理報告書とは思えません。災害事象は複合しますから、単独ごとでダムの防災対策が許容範囲などという議論そのものに無理があります。

過去の地震による被災状況

群馬県内での大規模な地震被害、地震性の崩壊被害についても検証されているとは思えません。例えば、歴史地震の履歴は扱っていても、3.11.の際に、榛名山麓で起きた3つの貯水池の被害があったことの報告を知りながら何ら解析していないこと、地震性の斜面崩壊履歴などの影響評価には触れられていません。例えば、群馬県史や群馬県埋蔵文化財調査事業団による発掘調査報告などには数多くの記述があります。少なくとも最低1~2万年単位で過去の履歴を調べておくべきです。
さらに、3.11と共通する視点として、平安時代の弘仁・延暦・貞観期には大規模な地震災害と火山災害が繰り返されたことが関東エリアで論じられていますが、ここでは全く反映していません。
あたかも地震災害が少ないことを言いたいがためにか、p17.の図4 群馬県内の最近の浅い場所で発生した地震活動が掲示されています。わずか10年間のデータを示し、八ッ場ダムを赤で記入している時点で、これからも少ないとでもいいたいのでしょうか。始終圧力エネルギーが解放されている部分とそうでない部分で比較した場合、どちらが危険でしょうか?
震災では、いわき市北西の過去の古い断層(活断層ではないと認定されていた地質境界断層)が活発に活動をはじめたことも知られています。
八ッ場ダム堤のすぐ下流には、大きな地質断層がありますが、これも動かないと考えているのでしょうか。
北埼玉地震の際に、長野原町の各所で石垣が崩れたという所見があるにも係わらず排除していることも疑問です。

C 大規模噴火に関する知見・情報整理
草津白根山の活動に関連して、ヒ素を蓄積した品木ダムの扱いが全く触れられていない点も不可解である。罹災すれば、高濃度ヒ素を蓄積した汚泥が土砂流として吾妻川に到達すれば、下流都県へ治水・利水・砂防面などへの影響は甚大でしょう。

砂防機能としての八ッ場ダム議論も不可解
八ッ場地区(吾妻渓谷)は、狭窄した河川地形であり、泥流が発生した場合でも、天然の砂防ダム機能を持っています。その一方で、適度に流路が確保されているため、流下する土砂もコントロールされており、そのことが流域全体の被害軽減に役立っていると見るべきでしょう。ダムのために長野原町民が罹災することはけして許されることではありません。
今回の報告では、水需要予測が過大であることを念頭に、あたかも治水・利水用ダムを砂防機能も有するダムであることをここで強調することにも違和感を覚えます。何十年もかけ、惰性で進めた諫早湾干拓事業と全く同じ構図です。

D 大規模な土砂移動に関する知見・情報の整理 p28.
「貯水池周辺の地すべり調査と対策に関する技術指針(案) 同解説」平成21年7月
現物を見ていないので議論できませんが、地すべり地形ではないという結論から推定すると八ッ場ダム工事事務所で公表しているQAの公式見解と同じものと考えられます(もし異なるのであれば、偽りの公式見解を国が公表していたことになります)。
この公式見解には、わずか5ページ弱の文中に20箇所以上の誤謬や事実と異なる偽りが述べられており、到底、議論に耐えうるものではありません。
私が吾妻渓谷で地すべりや深層崩壊を起こしている原因と判断している堆積物は、浅間黒斑火山の山体崩壊でもたらされた土石とその直前に降下堆積した軽石層や土壌層・流下生成物です。文献検証でも上湯原地区の巨大地すべり現象も同じです。
そもそも、応桑層とその上に蓄積していた崖錐性土石(層厚10数m)が、応桑層の地すべりに
伴って山津波となって上湯原地区全域を襲ったという調査結果の認識すらありません。
公式見解とされた地質断面図や群馬県の地質断面図でも、時間を置いて応桑層が動いたことを示す証拠まで記載されていますので、ここであげられた「技術指針案 同解説 平成21年7月」という文献は、しっかりとした現地調査結果が反映したものとはいえません。また、短期間に堆積した「崖錐」堆積物の発生要因、発生時期の特定(火山灰や年代測定調査に基づく検討)すら出来ない人物が調査した結果だと断言できます。川原湯温泉再生の要である新駅建設地、道路や観光付帯施設の建設を考えている場所であるにもかかわらず、まともな検証と安全対策すら行われていないことも問題でしょう。この地区特有の大規模落石、土石流発生時期の特定もしておらず、防災意識の欠落もはなはだしいと言わざるをえません。
参考資料2のp14に示された「過去に学ぶ」姿勢が、八ッ場ダム問題の検証で実施された形跡はない。2度のパブリックコメントや公聴会提出の意見書の検証、検討すらされていないことからもわかります。第四紀地質(火山活動や地形)の専門家の関与は乏しいか、関与者の認識に多くの誤謬があるとしか考えられません。

参考資料2のp15 「複合災害への備え」
地震・火山噴火・地すべりや深層崩壊・土石流災害・落石災害という複合災害という視点で、八ッ場ダムの検証は十分に行われたとは言いがたい。

参考資料2のp19「専門家」の対応
有識者会議の座長や参加者の姿勢そのものが「専門家」としての態度とは思えない対応となっている。

p20には評価できるコメントあり。
御用学者が多すぎたのではないか。ベストな人からの意見を汲み上げようとする努力を怠ってきたのではないか。
文科省・気象庁・経産省・国交省(砂防部・国土地理院)など、火山部門だけでも分散しすぎている。
あらゆる部門で同じことが起きている。1つの河川に多数の省庁が関与し、重複業務で国費を浪費したうえに、連携すら乏しいので、社会資本整備に著しい支障をきたしている。

参考資料3 p21 「地震について」
総延長80kmの関東平野北西縁断層の活動周期を1.3~3万年前としている認識と評価は、最新の研究情報を集めきれていない物と思います。

参考資料3 p25 「ダムの機能」
湛水に伴う応桑層による深層崩壊と地すべりの認識があれば、このような議論そのものは出てこないでしょう。八ッ場地区にはダムをつくらなくても砂防機能を所持しています。
地すべりや崩壊でダムに多量の土砂が蓄積することは、地元住民が罹災することに加えて、浅間山が噴火した場合、下流都県への大規模土石流・洪水災害を引き起こす可能性が高いと思います。


(過去の被害実態)
①2.4万年前以降、崩壊土砂(応桑層:OkDA)で埋まった吾妻川が谷を刻む過程で、河岸や崖の先端部で谷頭状に崩れるブロック崩壊を繰り返していたこと(現在も大雨の際、鉄道・道路が応桑層の崩壊という危険性が高いため通行止めにしている)

②約1.36万年前の浅間火山の第一軽石流が吾妻川を流れ下った際に、渓谷全体が天然土砂ダムとなり、応桑層(OkDA)と接する地山(谷壁斜面・支流斜面)で地下水位が上昇、天然ダムの満水状態が解放された直後に、吾妻川両岸に残っていた応桑層(OkDA)が各地で大規模に崩落を起こしたこと(やんば館裏の60-80m規模の崩壊も)

③ 上湯原では、巨大地すべりが動きだし、背後に蓄積された厚さ15mの崖錐性土砂が、山津波となって一気に上湯原地区全体を襲ったこと

④この時の地すべり土塊により、吾妻川の河道が北へ押しやられ、引き続く土砂崩れで現在の位置に変わったたこと

⑤上湯原では、これ以降も歴史時代から昭和時代まで金鶏山麓からたびたび土石流災害をこうむるだけでなく、落差300m余りある断崖からの落石が繰り返されていること(高さ:300mx3=900mが落石の到達距離:上湯原地区全域をカバーします)
新駅と観光施設利用者の安全対策は十分にとられていない

⑥不動大橋の立馬(だつめ)側、「やんば館」裏の谷を埋めていた厚さ60mを超える応桑層が大規模に深層崩壊したこと

■結論■
★ダムをつくらないことが最大・最良の防災対策です★
竹本先生 (関)
2011-12-10 23:35:21
 詳細な反論ありがとうございました。先生のコメントをそのまま新エントリーとしてアップさせていただきました。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

治水と緑のダム」カテゴリの最新記事