代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

国交省タスクフォースの情報操作と震災評価の隠蔽事例(その1)

2011年12月26日 | 治水と緑のダム
 浅間山の火山岩層など八ッ場ダム周辺の地質に詳しい地質学者の竹本弘幸氏が拙ブログに書き込んで下さったコメントを紹介します。多くの方々に読んでいただきたいので新エントリーとしてアップいたします。

 1931年のM6.9の地震の際に八ッ場ダム建設予定地周辺で多くの山崩れが起きているという被害の事実が、国交省タスクフォースの検討では一切触れられていないそうです。ダム建設に都合の悪い情報は黙殺するという、原発周辺の断層の過小評価とも相通じる事例です。
 災害や事故防止の観点から本当に心配な事柄が異常なまでに過少評価される一方、ダム建設に必要な計算上の洪水流量(実績流量ではない)や首都圏の水需要など数字は驚くほど過大な数字に評価されるわけです。


****以下、竹本弘幸氏からいただいた資料***** 

2011-12-19 22:10:31

この情報は、ダムの建設予定地の周辺地質に詳しい中村庄八博士により、国土交通省へ資料として送付されたものです。

タスクフォースの【参考資料1】報告書p34(参考資料10)でも扱われています。

 1931年9月21日におきた西埼玉地震(M6.9)の被害情報です。p35には、日本の活断層の分布図が示され、八ッ場ダムの位置が記載されていますが、その時の長野原町の地震被害については一切触れられていません。

 国土交通省事務次官と幹部によるタスクフォースが3.11.を踏まえた検証報告書として大臣や有識者会議にあげながら、過去に学ぶべく地震被害の扱いでも、ダムの安全性評価を高めたいために、この地震による八ッ場ダム周辺の被害実態を掲載せずに、情報操作をしていた事例です。


昭和六年九月二十一日北関東地震報告書(群馬県前橋測候所)
p21.
昭和六年九月二十一日震災調査表
(被害報告のあった群馬県内市町村より抜粋)

この地震による最大被害地は高崎市ですが、震央から遠く離れた長野原町でも大きな被害が出ています。これは、3.11.の震災時に、首都圏から80kmも続く、深谷断層帯(関東平野北西縁断層帯)上とその北西延長部で4つの貯水池(北から鳴沢貯水池・牛秣(鮎川)貯水池・大谷貯水池・小宮池貯水池)が罹災していることとも関連する現象でしょう。

p28.
吾妻郡
坂上村
石垣の崩壊 4箇所
山崩     15箇所
長野原町
石垣の崩壊 50箇所
山崩     200箇所

p29の解説原文
吾妻郡長野原町に飛び離れて石垣の崩壊や山崩れの被害があったのは、同地方は吾妻川に添ふ
て断層線があり地盤の弱い為である。

・・・・・・・【中略】・・・・・・・・・

単に地震の震央に近かったと云うのみではなく、地質に関係する所が大である。




 上の報告文面を読んで最も気になった点は、震央から遠く離れた同じ吾妻郡内で、坂上村で山崩れ箇所が15箇所に対して長野原町が200箇所と、飛びぬけて被害箇所が多かった点です。

 長野原町において、地震による石垣の崩壊・山崩れは、吾妻郡内で最大の被害箇所数であることは、急峻な山が迫る吾妻渓谷を中心とした地域であることと、浅間山の山体崩壊で崩れ落ちてきた脆い応桑層の存在は、いうまでもありません。

 ダム建設予定地にとって、ダム運用を考える際に堆砂量が問題となりますので、この地震による山崩れ問題を公にすることは、建設条件として不利に働くから隠したのでしょう。

 その一方で、現在の国道・県道・鉄道が、一定の時間雨量に達すると通行止めになるのは、吾妻渓谷の両岸に40~100mの厚さで分布する山崩れの土石で固結度が低い応桑(岩屑なだれ)層からの落石と土砂崩れを心配しているからです。

 JR東日本は、応桑層の落石と土砂災害は十分に経験しているはずです。吾妻線を安全に運用する上で、用地確保問題以上に、トンネル中心の敷設としたのは、このためでしょう。

 しかし、トンネルを抜けた新駅建設地(上湯原地区)のすぐ背後には、落石が頻発するため、雑木林となっている斜面と金鶏山という落差300mの断崖があります。落石は、崖の高さの3倍、ここでは900mまで到達しますから、新駅建設地も落石が達する危険区域内となります。上湯原地区は、川原湯温泉街と地域再生の要であり、観光付帯施設の建設が予定された場所です。多くの観光客や駅の利用者にとって落石対策は必要不可欠なものですが、検討された形跡すらありません。

 こんないい加減な検証で、八ッ場ダム建設を押し進めて、政府の方針をひっくり返すことに躍起になってきた国土交通省の幹部官僚とそのOBや財団・御用学者、さらに、ダム建設を推進してきた与野党議員・1都5県の知事・自治体首長の良識を疑わざるをえません。

 最初に被害を受けてしまうのは、58年以上も翻弄された国民であり、川原湯温泉街で、悠久の歴史と豊な自然を最も愛して、大切にしてきた皆さんの支持者であることを忘れないでいただきたい(続く)。


***引用終わり*****  
 

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