亭主の趣味
ビアホールで悪友どもが集まって、ある問題について論議しあっていた。
ある問題とは、「何をしているときが一番幸福か?」ということであった。
ある者は、「映画をみているとき」といい、
ある者は、「芝居小屋で女の手を握るとき」と、
それぞれに思い思いのことを言いだした。
気の弱いジャックは、自分の答える番になって、小さな声で、
「家内を抱いているとき」という答えをした。
そのジャックが家に帰って、今日の友達との話題を、細君にたずねられ、
話題だけは正直に打ちあけたが、さすがに「家内を抱いているとき」とは、
いいかねて、「馬にのっているとき」と、言ったと、ごまかしてしまった。
それを聞いたジャックの細君は、ニヤニヤしながら、ジャックの顔を見ていた。
と、いうのは、近ごろ、習いはじめた乗馬で、
彼がいかに醜態を演じているかを、彼女はよく知っていたからである。
数日後、例の悪友どもは、道で、ぐうぜんにもジャックの細君にあった。
「お宅のご主人は、大へんいいご趣味をお持ちですな」
と、人のわるいのが、彼女をつかまえて、ちょっとからかうつもりで言った。
他の連中も、このあいだのジャックの答えを思い出して、クスクス笑いだした。
ところが、細君は、もっともらしい顔つきで、
「そんなこと、ほんとにしていただいては困りますわ。ウチの人ったら、
それは見かけだおしなんですから・・・。
このあいだも、やっと乗ったのはいいんですが、
下から二、三回はねあげられると、マゴマゴして、
首にしがみつくやら、声をたてたりして大騒ぎ。
あげくのはては、お尻からすべりおちてしまう始末。
ホホホホ・・・ほんとに意気地なしなんですのよ」
さすがの悪友どもも、これにはアゼンとして息をのんだ。