不条理み○きー

当面、きまぐれ一言法師です

「Re: 会いたい・・・」

2005年01月08日 23時59分15秒 | Story
~ PM04:15 羽音 ~
 ロッカーに飛び込んで、制服を脱ぎながら携帯で時間を確かめる。
 大丈夫、まだ余裕。
 家によって、化粧を直せる。
 服のボタンを留め、ちょっと髪を直したら、彼にメール。

『今から出るよ。
 待っていて。』

 そして、駐車場に走る。


~ PM04:18 KURO ~
 また、馬鹿がえらそうな事を言っている。
 ああ、無駄な会議だ。
 ため息をついた時、携帯が震える。
 羽音だ。
 そっと、机の下で携帯を開く。

『今から出るよ。
 待っていて。』

 時計に表示される時間と、残る資料の量を見比べる。
 くそっ。終わりそうにないなぁ。
 小さく舌打ちをして、誰にもきづられぬ様、返事を返す。

『気をつけて。
 待ってる。』

 だが、馬鹿の説明がまだ終わりそうもない。
 俺は、馬鹿を睨み返す。

~ PM04:23 羽音 ~
 何時もより混んでいる道。
 気持ちが焦る。
 不意にメール着信のメロディが鳴る。
 KUROちゃんの好きな曲。
 ちょっとだけ、周囲を気にしつつ、渋滞の中、携帯を開く。

『気をつけて。
 待ってる。』

 そうね。
 こんな所で焦ってもしょうがない。
 多分、渋滞は、この先の大通りまで。
 それを抜ければ、家までは直ぐ。
 時間もまだ、大丈夫。
 少し動いて、止まった隙にメールを返す。

『ありがと。
 KUROちゃんは、平気?』

 渋滞の列が、また少し前に動く。
 信号も見えてくる。
 あと、もう少し。

~ PM04:52 KURO ~
 馬鹿の顔がどす黒く歪む。
 しかたねえよ。
 お前が悪い。
 俺を買ってくれている上司が、フォローを入れてくれる。
 ラッキー。
 今日は終わりそうだ。
 早く終わってくれよぉ。
 さっき、確かに携帯が震えたが、この雰囲気では開けない。
 ごめん、羽音。
 きっと行くから、もう少し待て。

~PM05:11 羽音 ~
 家について、化粧を直した。
 KUROちゃんからは、返事が来ない。
 また、きっと会議。
 イッタイ何の会議なんだろう。
 あたしには、わからない。

 でも、あたしは信じている。
 KUROちゃんは、きっと来る。
 おっと、急がなきゃ。
 本当に遅れてしまう。

~ PM05:18 KURO ~
 奴が俺に吐き捨てるように言う。
 「自分の立場をわきまえろ!」
 知った事か。
 奴の後ろで、俺をフォローしてくれた上司が、ウインクしている。
 俺は、ちょっと頭を下げて、振り向きながら携帯を開く。

『ありがと。
 KUROちゃんは、平気?』

 俺は、自分の席に走って戻りながら、返事を打つ。

『会議、終わった。
 もう、でかけるよ。』

 クローゼットによってコートを持ち出すと、そのまま席に着く。
 会議中に溜まった数10件のメールには目もくれず、PCの電源を落とす。
 終了だ!
 俺は、心の中で宣言する。

~ PM05:32 羽音 ~
 さっきの渋滞を見たのでちょっと迷ったけれど、車で出て良かった。
 空港方面は空いているみたい。
 メールのメロディがなる。
 あ、KUROちゃん、会議終わったかな?
 それとも・・・?
 ああん、運転中は携帯が開けないよぉ。
 こういうときに限って、交差点は青が続く。
 
 不意に、フロントガラスに何かが落ちる。
 雪?
 そっか、確かに天気予報で夜半には雪になるって、言っていた。
 まだ、降り始め。
 飛行機は大丈夫だよね??
 次の交差点が見えてくる。
 信号は・・・?青だ。

~ PM05:41 KURO ~
 羽音からの返事が来ない。
 という事は、きっと運転中だ。
 空港に向かっているんだろう。きっとね。

 そう思いながら、俺は駅の階段を駆け上がる。
「まもなく、○○方面行き電車が参ります。」
 やばい、これに乗らなければ、乗継が危ない。
 
 改札が見えてくると同時に、電車が駅に滑り込む音も聞こえてくる。
 ああ、待ってくれ。
 羽音の飛行機を迎えられないじゃないか。

~ PM05:45 羽音 ~
 空港の駐車場に滑り込む。
 思ったより余裕がない。
 空港までの時間を勘違いしていた。2回目なのに。
 とりあえず、携帯を開く。

『会議、終わった。
 もう、でかけるよ。』

 よかった。KUROちゃんも、間に合いそうだ。
 でも。
 ああ、メールの返事を書く暇がないなぁ。

 慌てて、車を降りてロックする。
 大丈夫、飛行機には間に合う。
 でも、念のため。
 懸命に走る。

 航空会社のサービスカウンターが見えて来た。
 えっ?誰もいない?!
 そんな!だって時間はまだ?!

~ PM05:52 KURO ~
 電車に飛び乗ってはいいが、まだ息が切れている。
 運動不足だな。
 でも、安心はしていられない。
 次の私鉄への乗り換えも、距離があるのに時間がない。
 しかも、今の位置からでは、なおさら遠い。
 
 結構、混んでいるから位置を変えるのも難しいようだ。
 ああ、また、走るなぁ。
 ちょっと、苦笑い。

 それにしても、羽音からの返事が来ない。
 そろそろ、「今、空港」という返事が来るはずなのだが。
 何かあったのだろうか?

~ PM06:00 羽音 ~
 ギリギリ!
 あたしは、携帯の電源を切った。
 もう、後は・・・。

~ PM06:05 KURO ~
 乗り換えもギリギリセーフだ。
 後は、この電車の終点が空港。
 開いている席に座っていこう。

 ちょっと気になり、メールの確認をしてみるが、羽音からのメールはない。
 もう、乗っている頃だ。
 間に合わなかったのならば、それなりに連絡が有ると思う。
 間に合ったんだよね?羽音?

~ PM06:52 KURO ~
 思わず、うたた寝してしまった。
 慌てて携帯を確認する。
 羽音のメールは、ない。
 というか、既に空港近くで地下に入ってしまったので携帯は「圏外」になっている。
 大丈夫。
 羽音は、きっと何時もの便に乗っている。
 アナウンスが流れる。
「終点。空港です。お忘れ物の無い様に・・・。」
 俺は、席から立ち上がる。

 やがて、ホームに滑り込む車両。
 ドアが開く。
 それが開ききるのももどかしく、俺は車両から飛び出す。
 改札を抜ける。
 階段を駆け上がる。
 空港の内部が見えてくる。
 エレベータに駆け寄る。
 ラッキー。
 扉が直ぐに開く。
 展望階は?6階だ。
 ゆっくりとエレベータが上昇する。
 大丈夫、あと、10分ある。 
 到着。
 急いでエレベータから降りる。
 展望台の場所を確認する。
 小走りに6階のフロアを駆け抜ける。
 展望台への階段。
 これも、駆け上がる。
 そして、到着6分前。
 展望台である。

 夜の空港は、光に包まれている。
 空港自身のビルや滑走路、誘導灯の明かり。
 それから、空港の向こうに広がる大都市の明かり。
 こうして、展望台から眺めると、光の洪水の中にいるようだ。

 ふと空を見上げる。
 ちょっと薄く曇っているのか、星は見えない。
 変りに、幾つもの光点が空港の周りを巡回している。
 まるで、昔見た「未知との遭遇」の一シーンのようだ。
 その光の点が、順々に空港に舞い降りてくると飛行機に変る。

 不意に、少し他と違う輝点に気づく。
 きっとあれが、羽音の飛行機だ。
 時計を見る。
 たぶん。まちがいない。
 その輝点は大きく旋回すると、滑走路へ進入を開始する。
 だんだんと低くなる輝点。
 やがて、その点も飛行機に変る。
 航空会社、機種。間違いない。
 轟音を立てて、羽音の飛行機が、今着地する。
 ようこそ、羽音。
 俺は、そっと手を振る。
 そして、羽音を迎えに到着口に向かう。

~ PM07:05 羽音 ~
 着いた。
 私は、携帯の電源を再び入れる。
 着いた。
 着いたよね?KUROちゃん?

~ PM07:11 KURO ~
 空港の掲示板で、到着便の確認をする。
 間違いない。
 さっきの飛行機だ。
 
 到着口から、手荷物のない人がもう出てきている。
 俺は、じっと出てくる人を眺めている。
 じっと、羽音を待っている。
 羽音の想いを感じている。
 やがて、人並みが途切れる。

 そして・・・。

 俺は、そっと携帯を開き、メールを打つ。

『着いた。
 受け取ったよ。
 羽音の想い。』

~ PM07:16 羽音 ~
 携帯のメールが届く。
 そっと車の中で携帯を開く。 

『着いた。
 受け取ったよ。
 羽音の想い。』

 良かった。あたしは、ちょっと微笑み、返事を返す。

『よかった。
 遅れそうだった。
 でも、無事に想いを乗せられたよ。』

~ PM07:17 KURO ~

『よかった。
 遅れそうだった。
 でも、無事に想いを乗せられたよ。』

 俺は、ちょっと苦笑する。
 やっぱり遅れそうだったんだ。
 この前も言ったのにね。

 そう、これは、羽音と二人のゲーム。
 二人は、3ヶ月前に、どこかのチャットで知り合った。
 俺は、羽音のメールしか知らない。

 でも、間違いなく、俺たちは愛し合っている。
 顔も声も知らないけれど、俺たちは愛し合っている。
 メールだけのやり取りで、何故そんな事が言える?と問い詰められても。
 ただ、俺は「事実だ」というしかない。

 羽音は、地方都市に住んでいて、俺はこの人の密集したウザイ場所にいる。
 本当は、直ぐにでも会いに行きたいのだけれど、「現実」が、二人をそれぞれの場所に縛り付けている。

 なので。
 月に一度、羽音は、羽音の街を飛び立つ飛行機に、俺への想いを乗せる。
 俺は、月に一度、この空港に来て、羽音の想いを受け取る。
 ただ、それだけのゲーム。

 そして、俺はメールを打つ。
 ゲームの終了を知らせるために。

『もう、おうち?』

~ PM07:28 羽音 ~
 ネットで恋愛なんて、ありえないと思っていた。
 メールで恋を語るなんて、絵空事と思っていた。
 でも、現実は違った。
 あたしは、KUROちゃんにゾッコンだ。

 でも、理想と現実が違うのは、それだけではなかった。
 あたしとKUROちゃんの間には、1000キロの距離がある。
 お互いに仕事もある。
 1000キロの距離と仕事を乗り越えて、ほいほいと会いにいけるほど、現実は甘くない。
 だから。
 KUROちゃんに会いたい気持ちが強くならないために、電話番号は聞かない。
 KIROちゃんに嫌われるかも、という想いがあるから、写メールは送らない。
 そして、それはKUROちゃんも同じ。

 そして、今日もゲームの終了を告げるメールが来る。 

『もう、おうち?』

 あたしは、返事を返す。

『まだ、空港。
 これから、帰るよ。』

 返事が直ぐに来た。

『寒くなりそうだ。
 暖かくしてね。』

『ありがと。KUROちゃんもね。
 こっちは、さっき、雪がちらついていたよ。
 また、後でメールするね。』

 あたしは、メールをそう締めくくると、車のエンジンをかけた。
 駐車場から出ると、来る時にちょっとぱらついた雪が、だんだんと本降りになりそうだった。

~ PM07:35 KURO ~

『ありがと。KUROちゃんもね。
 こっちは、さっき、雪がちらついていたよ。
 また、後でメールするね。』

 その返事を見て、俺は、ちょっと笑って携帯を閉じた。
 そのまま、空港の外に出てみる。
 空港は、まだ光に包まれている。
 上を見ると、着陸待ちの飛行機が、まだ何機も飛んでいた。

 不意に、何か白い物が俺の鼻先に落ちてきた。
「・・・雪か?」
 どうやら、飛行機は羽音の想いだけでなく、雪までもこちらにつれてきたようだ。
 俺は、もう一度振り返り、誰もいなくなった到着口を見た。

 羽音。
 いつの日か、お前はそこから、本当に現れるのだろうか?

 【TB】 羽音祭 砂蜥蜴と空鴉
     風邪男の襲来 ♪お玉つれづれ♪
      ★大人になった羽音という発想にインスパイアされました。ありがとう。

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6 コメント

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会えないけど、会いたい気持ち (お玉)
2005-01-09 23:08:46
大人になって、恋をしている羽音ちゃんの気持ち

「ああっ、わかる」と、ところどころ

うなずきながら読みました。

お相手のKUROさんに、会いたいのに、会うのをためらっている気持ち・・・わかるなあ。



お玉からも、このお話に似合うっぽい

トラックバックを送ります。
ありがとうございます! (ぷよぱぱ)
2005-01-09 23:42:00
★お玉さん

 女性にそう言って貰えると、凄く嬉しいです。(^-^)

 実際、最後まで迷ったのですよ。

 二人を出会わせるかどうか。

 しかも、素敵な玉虎まで頂き、感謝感激です。
さすが! (もけ)
2005-01-10 14:06:55
いい世界ですねぇ。

リアルだぁ(笑)。

ドキドキしました。

ありがとうございます!
ありがとうございます! (ぷよぱぱ)
2005-01-10 23:43:12
★もけさん

 リアルと言ってもらえて、うれしいです。^^

 でも、この作品って、皆さんの作品から、いろいろと影響されているので、合作みたいな感じもしているんですよ。

 ある意味で、小ずるいかもです。
さて、どっち? (テド)
2005-01-10 23:49:03
ぷよぱぱさん。おめでとうございます(笑)



どちらの挿絵でもいいので、

だいたいのイメージとかあったら、言っていただくと

うれしいですよ。



ここでもいいし、gooメールのほうでもいいので、

イメージラフスケッチなんかあったらもっと

うれしいなあ(笑)

お返事待ってます。

tedted_mk@goo.jp
審査委員長様^^ (ぷよぱぱ)
2005-01-11 00:06:07
★テドさん

 では、謹んで「ねがいごと」の挿絵をお願いします。

 こちらの話は、それぞれ読んだ方のイメージで楽しんでもらったほうがよいかと。

 gooメールにて詳細お送りします。

 審査委員長、お疲れ様でした。

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