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 「骨粗鬆症(osteoporosis、オステオポローシス)」は、骨量が減少し、骨の微細構造が劣化する全身性の骨の病気です。骨粗鬆症になると、骨の脆弱性が増し、骨折の危険性が増加します。背骨(脊椎)は「椎骨(ついこつ)」と呼ばれる骨が連結したものです。椎骨の円柱状の部分を「椎体(ついたい)」といいます。高齢者の女性が骨折で「寝たきり」になる大きな原因の1つがこの椎体の骨折です(寝たきりの原因の第3位)。椎体圧迫骨折は、椎体が潰れた状態で骨折するため、回復させることが難しいのです。



 オステオ(osteo-)は、ギリシア語で「骨」を意味します。ポローシス (-porosis)は、「空洞形成」を意味し、骨の中に空洞が形成される「骨内空洞形成症」、「骨多孔症」とでもいう意味になります。「粗鬆(そしょう)」は、「細やかでないこと。大雑把で荒いこと」を意味することから、この「骨多孔症」とでもいう状態は「骨粗鬆症」と一般的に呼ばれています。

 私たちの身体は、古い骨を壊しながら、新しい骨を作っており、骨量を一定に保っています。骨組織において古い骨を破壊(「骨吸収(bone resorption)」という)するのが「破骨細胞(osteoclast)」であり、新しい骨を形成(「骨形成(bone formation)」という)するのが「骨芽細胞(osteoblast)」です。骨粗鬆症は、何らかの原因で、骨形成の速度(bone formation rate)よりも骨吸収の速度(bone resorption rate)が速くなってしまっている状態をいいます。

 骨粗鬆症に対する現在の治療法のひとつに、アクトネル(ベネット、味の素が製造)やフォサマック(MSDが製造)などの「ビスフォスフォネート(ビスホスホネート、bisphosphonate、BP)製剤」の経口投与があります。この薬剤は、骨吸収の速度を下げるために使われる薬で、破骨細胞の活動を阻害し、古い骨の破壊を防ぎます。しかし、ビスフォスフォネート製剤は、破骨細胞の絶対数を大きく減らすことが確認されたのですが、破骨細胞はまた、骨を修復する細胞である骨芽細胞に働きかけて、その分化・機能(骨再生)を促す働きもあるのです。破骨細胞を減らしすぎると逆に骨が脆くなるということも起きてきます。

 大阪大学免疫学フロンティア研究センターの石井優教授らの研究グループは、破骨細胞には、骨の組織の表面に「蛭(ひる)」のように張り付き強い酸で骨を溶かすR型(resorptive)と、骨は壊さず表面をアメーバのように移動するだけのN型(non-resorptive)の状態があることを発見したといいます。破骨細胞は、R型になったり、N型になったり、形を変化させているのだそうです。石井教授らは、正常なマウスと骨粗鬆症のマウスで観察を行なったのですが、実際に骨を破壊するR型は、正常マウスでは破骨細胞全体の約4割だったのに対し、骨粗鬆症のマウスでは9割以上に増えていたといいます。

 「フェムト秒(femtosecond、fs)」(1000兆分の1(10-15)秒)という非常に短い間隔で光を点滅させる(「フェムト秒パルス(femtosecond pulse)」)と、少ない出力でもそのエネルギーをその「超」短時間に圧縮するので、凄まじいレーザ強度を得ることができます。

 光源に「フェムト秒パルスレーザ(femtosecond pulse laser)」を使用したレーザ顕微鏡を「多光子励起レーザ顕微鏡」と言います。レーザ強度の凄まじさで「多光子励起」が可能となり、従来のレーザ顕微鏡に比べて細胞深部の観察が可能となります。「励起(excitation)」とは、外部からエネルギーを与えられ、もとのエネルギーの低い安定した状態からエネルギーの高い状態へと移ることを言います。原子や分子などが外部から刺激されて、「興奮状態(excited state)」にあるわけです。

 ほとんどの生理活性物質は無色です。そのため、光学顕微鏡でただ観察してもその動きを知ることはできません。そこで、元々は無蛍光性であるが、生理活性物質と反応・結合することで初めて蛍光を発する分子、「蛍光プローブ(fluorescent probe)」を細胞内に存在させることで、生理活性物質の動きを蛍光の変化として、高感度かつリアルタイムに追うことを可能とする技術を「蛍光プローブ法(fluorescence probe technique)」と言います。

 遺伝子・タンパク質分子のレベルで生命現象を解明しようとするとき、蛍光プローブを利用すると、光学顕微鏡では観察できない分解能以下の大きさのものが、暗黒の背景に光る点として(かつ、動く点として)検出できるようになります。生命現象を「生きたまま観察」する技術に「ライブイメージング(live imaging)」があります。大阪大学免疫学フロンティア研究センターのグループは、「生体多光子顕微鏡(intravital multiphoton microscopy)」を用いて、マウスの骨組織において蛍光標識された(fluorescently labeled )成熟した破骨細胞の動きを可視化して観察したのです。

 ここから、今後の骨粗鬆症の治療薬は、破骨細胞の総数を減らすのではなく、R型を減らしてN型を増やす物質を発見することで開発できることになります。骨粗鬆症に苦しむ人たちは、全世界に多数います。この大きな市場を前にして、製薬会社は多額の研究費を投入して創薬に励むでしょう。骨粗鬆症治療の新薬はやがて登場することでしょう。

 多くの人をその痛みで苦しめる「関節リウマチ」では、炎症が起こった関節では、関節が腫れるだけではなく、骨が壊れていきますが、このときに骨を壊しているのも破骨細胞です。この骨の破壊というメカニズムに、炎症性のT細胞であるTh17という細胞が関わっていると考えられていましたが、Th17がN型の破骨細胞に接触すると、R型の破骨細胞にと変化してしまうようなのです。その結果、骨の破壊へと進んでいってしまうようなのです。いま、私の母は、この「関節リウマチ」に苦しんでいます。すみやかに新薬が開発されることを願ってやみません。

 「白血球(leukocyte、ロイコサイト)」の20%~40%ほどを構成する「リンパ球(lymphocyte、リンフォサイト)」には、生まれつき(natural)の細胞傷害性(killer)を持つ「NK細胞(natural killer cell)」、抗体を産生する「B細胞(B cell、Bリンパ球(Blymphocyte))」、「T細胞(T cell、Tリンパ球(T lymphocyte))」などの種類があります。T細胞には、B細胞に働きかけて形質細胞に分化させ、抗体産生をさせる「ヘルパーT細胞(T helper cell)」、他のT細胞の活性を抑制する「レギュラトリーT細胞(regulatory T cell、制御性T細胞)」、腫瘍細胞やウイルス感染細胞を傷害する「キラーT細胞(cytotoxic T cell、細胞障害性T細胞)」があります。

 「ヘルパーT細胞」には、細胞性免疫を媒介する「Th1細胞」、液性免疫を媒介する「Th2細胞」、自己免疫疾患に関わる「Th17細胞」などの種類があります。「自己免疫疾患(autoimmune disease)」とは、異物を認識し排除するための役割を持つ免疫系が暴走し、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで攻撃を加えてしまうことで発症する疾患です。

 「関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis)」は、自己の免疫が主に手足の関節を攻撃し、関節痛が生じたり、関節の変形が生じる炎症性自己免疫疾患です。関節を包んでいる「関節包」の構成要素のひとつである「滑膜」で炎症が起こるものです。関節の炎症と痛みが次第に全身に広がっていきます。日本の関節リウマチ患者は50万人から100万人と言われており、有病率は全人口の0.5%~1.0%になります。200人に1人から100人に1人は関節リウマチに苦しんでいることになります。

 関節を腫れたままの状態で放置しておくと、やがて関節が変形してしまうことになります。そのため、炎症を抑える薬物療法が重要になります。消炎鎮痛剤、抗リウマチ薬(例えば、滑膜組織の破壊に関係するコラゲナーゼ(コラーゲンを加水分解するタンパク分解酵素)の産出を抑制する「メトトレキサート」など)などが処方されています。

(参考) 「注目の新薬「テリボン」は骨粗鬆症の治療に劇的な効果を上げるか。

                 (この項 健人のパパ)

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