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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

地味だが上品、そして緑の織 国展2018

2018年05月21日 | 美術展など
今年も、六本木の国立新美術館で開催された国画会の92回国展をみにいった。まず一番みたい工芸の「織」の展示会場、3階に向かった。
今年の特徴のひとつは一見地味だが、よくみると上品な作品だった。
たとえば祝嶺恭子「礁」(以下、人名の下線は原則として国画会のサイトにリンクしていて、作者の2018年の出展作品もみられる)。地味だが、近くに寄ってよくみると花織のパターンもあり上品だ。

陽山めぐみ 手紡木綿絣「穀雨」
小島秀子「デルフィニウム」、デルフィニウムとは何か知らなかったので、ネット検索するとキンポウゲ科の花の種類で、近所の花壇でゼラニウムなどとともに咲いているのをみつけた。似たモチーフで、清水昌子「麦秋Ⅲ」は麦の穂のパターンだった。
紺地にネオンのような蛍光色の花織が編み込まれたルバース・ミヤヒラ吟子「花織モザイクⅡ」、和宇慶むつみ 首里花織着物「竹落葉」などがこの傾向の作品だ。

和宇慶むつみ 首里花織着物「竹落葉」
ヒッチナー千恵「夏の夜」、格子縞の布と2色のリングの布の2枚の布を重ねて影が映り込んでいるようにみえる。しかし布は一枚しかなく、この作品の前で会員の方たちが話しておられたのが聞こえたが、どのような織り方をしているのかよくわからないそうだ。不思議な魅力の作品だった。
作品そのものよりタイトルに注目したのが、浅倉広美 着物「クラムボン」だ。クラムボンは宮沢賢治の「やまなし」に「クラムボンはわらったよ。」「青くてね、光るんだよ。」などと登場する。紺地に水玉がフワフワ浮かんで、賢治の作品を表現している。

多和田淑子 ロートン織帯地「緑の調」
もうひとつの特徴は緑をベースにした作品が目立ったことだ。濃い緑、渋い緑、鮮やかな緑、深い緑などいろいろだが、「風薫る五月」という季節にちょうど合っていた。
加藤富喜「春、たねを蒔こう」、山下健「花織着物」、根津美和子「風ひかる」、澤村佳世「オクラレルカの頃」、池田リサ「板締絣着物」、村江菊絵「行く春」、池田尚子「五月の小径」、などたくさんあった。わたくしはシンプルで大胆なデザインの多和田淑子のロートン織帯地「緑の調」が好きだった。
このほか、わたくしが好きな作品をいくつか。黄緑、青、紫、オレンジなどぼんやりした縞模様の坂本ゆみ「春、はな、はる」、青から緑へ縦線のグラデーションになっている土居ももの「自然」、グレーの上品な縞の富田禎子「眠れるダウンタウン」、グレーの地に波紋が広がる杉浦晶子「たゆたふ」など。
今年はわたくしの一押しはないが、最後に会場をもう一周してみてやはり国展賞受賞の陽山めぐみ 手紡木綿絣「穀雨」は受賞が妥当なように思った。

●染では、やはり柚木沙弥郎「型染布」はアルファベットの15文字を並べたものだが力強かった。その他、くっきりした形と色の佐藤圭子「甘茶蔓」、緑のシンメトリーの岡本隆志 飾布「流水」、例年どおり可愛らしい熊谷もえぎ「花まつり」が好きな作品だった。

堀中由美子「釉彩蕎麦猪口揃」
●陶芸では、例年と同じく阿部眞士川野恭和などの白磁が好きなのだが、その他、堀中由美子パステル調の色の「釉彩蕎麦猪口揃」、新垣修「青釉壷」のサンゴ礁のような緑の色、ガラスの岡林タカオ「突起丸文硝子蓋物」のガラスの向こう側の突起が不思議な感じで印象に残った。また二俣勝之助「緑釉指描組平皿」は緑の皿が5枚セットになっているところがよかった。

昨年、会員、準会員、会友のシステムについて教えていただいたが、今年は新人賞、奨励賞についてお聞きした。国画賞はその年のナンバーワンということはわかる。しかし今年の新人賞で山川響子さん(会友)の作品があったが、この方は10年近く前から作品をみていた記憶がある。どういう趣旨の賞なのかスタッフの方に尋ねてみた。国画賞、新人賞はそれぞれ別に会員が投票するものの、国画賞は1点のみなので、ナンバー2のような位置づけなのだそうで複数受賞もあり今年は3人が受賞した。では奨励賞はどういうものかというと、これは工芸のなかの織、染、陶、木工・漆の4部門から毎年それぞれ1人、合計4人選ばれることになっているそうだ。
なお他の部門、たとえば絵画では損保ジャパン日本興亜美術財団賞、版画では平塚運一賞、前田賞など、彫刻には新海賞、千野賞など、写真では福原信三賞、ニコン賞など独自の賞がある。

1階と2階の絵画部にて

茂木桂子「Roter」(左)と岩間喜代美「通り過ぎる風景」
茂木桂子「Roter」 今年も、CH47のような前後に大きいローターを付けた軍用大型輸送ヘリの作品だった。   
たまたま隣は岩間喜代美「通り過ぎる風景」。パンダが寝ころぶ平和な野原に、上から戦闘機(爆撃機かも)が一直線に飛んでくる。小さく戦車もみえる。その後ろには鷹か鷲のような猛禽類が戦闘機を追尾するように飛ぶ。手前を通過する電車の座席にはスマホを操作する女性が座っている。女性は一心にスマホの画面をみていて何も気づいていないが、次の瞬間には地獄絵が展開されそうだ。あるいはこの電車は難を逃れ、何もなかったかのように通りすぎるだけかもしれない。まるで2015年9月とか2018年の現在を活写しているような絵画だった。

福島和子「fishing-B」(左)と梅田勝彦「花雲
国画賞の梅田勝彦「花雲」、新人賞の福島和子「fishing-B」。顔の大きな女性のアニメ風の絵で 似たような作風に見えた。これらも、見ようによっては、不気味な絵である。
いつものスタイルの作家、たとえば瀬川明甫堤建二上條喜美子の作品をみるとほっとする。
わたくしの趣味なのだろうが、群像に注目した。たとえば同じ顔、服と髪型が少し違う女性30人が並ぶ稲垣考二「続・雛壇」、多くの客のなかになぜか象や裸の男女が何人かいる佐々木豊「船上のパーティ」、渦潮の絵の上下に修学旅行なのだろうか、80人ほどの高校生の顔写真が並ぶ椎名久夫「刻の流れ」、子ども6人、老人9人が並ぶ瀬川明甫「時のかたち」などだ。

1階の彫刻部にて

神山豊「Megaptera」 
神山豊(海洋彫刻家)、2年前は人魚、3年前は鯨で毎年、木で海の生物をつくる作家だが今年は「Megaptera」(ザトウクジラ)だった。ハンドルと歯車があり、いかにも面白そうだが、「係の人がいるときだけ動かせる」とあった。1度目はだれもいなかったので、おそらく1日に何度か動かすのではないかと考えた。2回目に行ったときもやはりだれもいなかったので受付の方に聞いた。すると動かしてくれたうえ、作家の神山さんがすぐ近くのshonandaiギャラリーで個展をやっていると教えてくださった。それで帰りに立ち寄ってみた。来客中でお話はできなかったが、こういう出会いもあることがわかった。
坂本雅子「いきものがかり」は、会場が少し薄暗いせいもあり、本当にウサギを抱えた少女が少し向こうに立っているようにみえた。

国画会とは無関係だが、たまたま2階で「こいのぼりなう!」という須藤玲子のテキスタイル作品が特別企画として展示されていた。(正式名称 こいのぼりなう! 須藤玲子×アドリアン・ガルデール×齋藤精一によるインスタレーション
300匹のこいのぼりが天井高8m、2000平方mの展示室を1周して泳いでいる。床に寝心地のよさそうな布の椅子が並んでおり、老若男女が寝転がって眺めている、なかには昼寝している人もいるようだ。
300種類の布を1点ずつ、染めてつくったものだそうだ、
寝ころぶと密やかな音が聞こえてくる。風鈴が6種類、インドネシアの森の音、大覚寺の虫や鳥の声など、このサウンドはSoftpadというグループの作品だ。
椅子も作品のうちかとスタッフの人に聞くと、これは無印良品で購入したものだそうだ。ただ置き場所はおそらく指定があったのだと思う。なおコイの骨になっている4本のプラスチック・リングもやはり購入したものとのことだった。
わたしは参加しなかったが体験コーナーがあり、準備された色とりどり、さまざまなデザインの四角いペーパーを使って、自分のこいのぼりをつくるイベントを開催していた。

☆国展では、女子美術大学や沖縄県立芸術大学出身の工芸作家をしばしばみかける。東京芸大にも工芸科があることを知り、1月末に上野で卒展をみにいった。しかし国画会とはかなり傾向が異なり、メインは金工(鋳造および鍛造)、次は漆芸、ガラス、陶器などで、テキスタイルの作品は少なかった。自分の専攻は2年になるときに決めるそうだ。
デザイン科の作品で、染っぽいものがあった。作者に聞くと、布を買いデザインしてインクジェットでプリントしたそうだ
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