願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ
西行『山家集』
私が西行とこの歌の存在を知ったのは、父が教えてくれたからだ。
「花の頃じゃなくて、ワシは年の初めがいいなぁ」と。
何度も父の口から発せられたこの歌は、いつの間にか自然に覚えていた。
魚の話をする機会に恵まれたとき、頂いた時間分を語るだけの情報を持っていたとしても、それにまつわる何か興味深いネタはないかと調べることにしている。
先日も調べていたところ、西行の歌に出会った。
立てそむるあみとる浦の初竿は つみのなかにもすぐれたるらむ
西行『山家集』
これは、アミをとっている風景を児島で見て詠んだものだ。
岡山の地で西行は、児島の他に真鍋・渋川・牛窓でも海辺に暮らす人々と営みのことを詠んでいる。
「人は、いのちをいただきながら生きている」
そのことに深く思いを巡らせた僧侶である西行の胸中は、いかばかりだったのだろう。
今日もあらゆるいのちにありがとう。
※ 写真は『現代語訳 日本の古典9 西行・山家集』井上靖(学研)より。