Çay(チャイ)
まるで女性の身体つきを表現しているかのような、腰のくびれた透明の紅茶グラス。小ぶりのソーサーに乗せられた、手のひらにすっぽりと納まる小さなグラスの中では、赤褐色の美しい液体が湯気を立てている。
曇った冬空の下、チャイジ(紅茶売り)の売り歩く紅茶グラスのぶつかり合う音が辺りに響く。バザールの喧騒を巧みに縫いながら、持ち手つきのお盆を片手に足早に歩くチャイジの姿は、トルコの街並みにすっぽり溶け込んでいる。
ある時は、瑪瑙色のチャイを片手にモスクを眺め、またある時は、お洒落なチャイハネに腰を下ろし、トルコ名物のアップルティーのグラスを啜る。甘い液体が喉を心地よく伝っていく。
この国を初めて訪れるよりも前、トルコと言えば、あのどろどろの粉が下に溜まったコーヒーばかりを思い浮かべていた。いまや、「トルココーヒー」という言葉が一般に通っているからだ。そんなわけで、現地では紅茶の方が圧倒的に嗜好されている事実に出逢った時、ほんの少し驚いたのを覚えている。
トルコに紅茶が伝わったのは、珈琲がこの国に入ったのとほぼ時を同じくしている。16世紀のオスマン朝の時代だ。実は、このことも私にとってはいささか意外な事実であった。お隣の国イランで初めて紅茶が飲まれたのは17世紀のこと。一方、珈琲が飲まれ始めたのははトルコと同じく16世紀。イランへは、アゼルバイジャン系王朝の時代、民族の流入と共にオスマン朝から珈琲が伝来している。
しかし、(勝手な思い込みなのかもしれないが)現在の両国の紅茶の作法を見ていて、紅茶に関してはイランからトルコへ入ったというのが自然な流れのような気がしていた。
年代的に見れば、紅茶の流入はトルコへの方がいくらか早そうだが、両国の紅茶の作法における共通点、つまりロシアのサモワールを使って紅茶を入れる(つまり熱したお湯の湯気で紅茶を蒸してから飲む)のが一般的であることを考えると、ロシアから西洋の新しい嗜好品として、両国にほぼ同時期に入ったと考えるのが自然なのかもしれない。(ご存知の方は教えてください)
話は変わるが、おもしろいのは茶の飲み方がシルクロードの西と東では違っていること。アジアの地を多く旅した方は気付かれたかと思うが、西へ行くほど茶に入れる砂糖の量が増えるようだ。もちろん、中国や我が国で嗜好されるのは発酵茶よりも緑茶の方が多いが、「西の国」では、その緑茶にさえもたっぷりの紅茶を入れて口に運ぶ。
その違いは、茶葉の原産地中国において、元来茶は嗜好品というよりは薬用とされていたこと、その一方、西方ではお茶は当初から嗜好品だったことに由来するのかもしれない。トルコをはじめ、現在砂糖たっぷりのお茶を飲む国において、茶の文化は砂糖の供給の歴史と深く結びついている。これらの国で、お茶の嗜好品化の過程を、砂糖の普及という事実抜きには語れない。
以前、イスタンブル在住のyokocanさんから頂いたコメントに書き込まれていたのだが、トルコ東部においてはイランと同じように、砂糖の塊を口に含んで、それを紅茶で少しずつ溶かしながら飲んでいくそうだ。こんなわけで、トルコの東とイランの茶の作法における共通点にも興味を覚えた。
機会あらば、トルコにおける茶の生産地である黒海沿岸を含め、嗜好品としての「茶」の拡がりを追って、トルコの西から東へ駆け巡りたいものだ。(m)
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しかし、それにしても「茶」というものは、文化を比べる・知る上でとても興味深いものですよね。
イギリスはまさに紅茶文化の最高峰だな~と思いました。あくまでも紅茶を美味しく淹れることが主体であって・・・。やはり嗜好品だけあって、上流階級の礼儀作法などとも密接に関係していたのでしょうね。
お茶の歴史(珈琲もそうですが)をはじめ、嗜好品を巡るあれこれは、本当に興味深いですね!
お茶の効用は維持しつつ(?)、お弁当のお供に緑茶のペットボトルなんて、日本人も外国から見たら面白い連中かもしれませんね
ああ、確かに!ペットボトルでお茶を飲むっていうのも奇妙な話・・・。今は各国でお茶のペットボトルが存在しますが、もちろん発祥の地は日本なのでしょう。何でも便利に、本来ゆったりしたくつろぎのためのものや、療養のためのものまでコンビにエントに作り変えてしまう日本人の脅迫観念(笑)!
便利なのがうける国民なのでしょう>日本人
日本人は便利さに弱い、
私も海外に暮らして自分がそうであることが
よ~くわかりました(笑)
イランは選挙戦の影響でネット上のアクセス制限をしているようです。
たまに「砂糖に」紅茶をいれたのもおいしいと思います。特に暑い国では!
歯が溶けなければねえ(笑)