二次元が好きだ!!

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現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

ヴァルハラの乙女 第12話「休暇」

2014-06-15 22:50:42 | ヴァルハラの乙女


コトコトと中火~弱火で鍋を煮込む。
時折蓋を開けて中を覗き、具合を確認するたびに空腹の腹を刺激するいい香りが漂う。

あまりに、食欲をそそる香りであったから、味見も兼ねて一口口に入れる。
そして、口内に広がるソーセージにジャガイモ、にんじん、タマネギ、レンズ豆が煮込まれて出来た香り高いスープの味。
ソーセージを噛むたびに肉汁が溢れ、にんじん、レンズ豆の固さが噛み応えを刺激し、わたしの食欲を満たして行った。

「ん、こんなものか」

アインポトフ。
ドイツ、いやカールスラントの代表的な家庭料理だ。
意味は「鍋の中に投げ込んだ」の意で、俗に「農夫のスープ」という呼び名もある。

料理法は極めて簡単。
豆や塩漬け肉、またはソーセージ、ベーコンなどを鍋に入れて煮込むだけだ。
さらに、固定ブイヨンや味付けにリーキ(西洋ネギ)を投入するなどして味をつけるが決まったレシピはない。
各家庭ごとに味付けは違っており、当然ながらわたしが何を入れたかは企業秘密である。

さて、スープができたら次はパンとサラダだな。
パンは宮藤とリネットに取りに行かせたから、そろそろ来てもいいだろう…っお、来たな。

「バルクホルンさーん、パンを貰って来ましたー」

両手に黒パンを抱えた宮藤とリネットが戻ってきた。
2人と一緒に、製パン室から出てきたばかりのパンの芳醇な匂いが鼻に届く。

うん、良い香りだ。
黒パンは癖があるというけど、わたしは大好きだ。

「ご苦労、2人とも。
 パンはそのままパン置きに置いてくれ。
 それと、サラダの製作だが2人に頼んでもいいか?
 わたしは何時も寝坊している連中を起こしに行ってくるから」

「はい、もちろん!」

「大丈夫です」

元気よく答える2人。
よしよし、朝から元気がいいのは良いことだ。
この100分の1でもいいから、毎朝寝坊しているエーリカは見習うべきである。

「ん、頼んだ」

そして、2人に残りの作業を託すと食堂を出た。
さて、今日はエーリカだけでなくシャーリーも起こさねば。
昨晩は夜遅くまでストライカーユニットを弄っていたから、起こさないと起きないしな。
まったく、ついつい起こしに行ってしまうけどわたしは2人のオカンか?…おっと、廊下の向こうから坂本少佐が来た。

「おはようございます、坂本少佐」
「おう、おはようバルクホルン!」

こちらから先に敬礼、と。
坂本少佐は海軍式の敬礼で返礼した。

しかし、朝から元気そうで何よりである。
顔が僅かに紅潮し、額に汗を流しているのを見ると。
今日も朝から修行といった所だろう、本当に元気だなーこの人は。
それに、僅かだが潮の香りが残っているから海の方で……というかこれは。

「少佐、もしかして泳いで来ましたか?」

「おおう、よく分かったな大尉!
 今日はいつもより早く起きたものだから久々に水泳で鍛錬してきた、基地一周だ!」

げ、元気だなーこの人は!
しかも、基地の周囲を泳いだとか何キロなんだ!?

「流石、海軍といった所ですね少佐。
 わたしやミーナ達は空軍ですから、少佐のようには行きませんよ」

「ははは、そう言われると照れるな。
 おや…ははぁ、今日はバルクホルン担当か。
 普段着飾らないバルクホルンだが、今日のエプロン姿はなかなか似合っているぞ」

一瞬何を口説いているんだ?
と疑問符が頭に浮かんだが慌てて胸元を見ると、エプロンを着けたままだった。

白の、これといった装飾もなく頑丈さだけが取り柄のエプロンだが。
これを普段着ている軍服の上に被せてあるため、軍服とのギャップが目立っていた。
今更だが何だか恥ずかしくなって来た…!

「はっはっは、恥ずかしがるとは大尉も可愛い所があるじゃないか」

坂本少佐が親愛表現としてこちらの肩を叩く。
そこに悪意はまったくなく、白い歯を見せ、実にイイ笑顔を浮かべている。

先程の言論といい、この爽やか体育会系のノリ。
表情も豪快な性格と合わさって、こちらの心を溶かすような晴れ晴れとした表情を出す。

……わたしはいいが、ミーナがこの少佐の表情を見たら惚れるだろうなー。
というか、朝から自然に口説く少佐は流石というべきか実に迷う。

「少佐、そろそろ朝食の用意ができますので、どうぞ食堂へ。
 わたしは、未だ寝ている2人を起こしに行って参りますので、先へ」

「おお、そうかバルクホルン。
 では私は食堂で皆を待つとしよう、また後で」

「はい、こちらこそ」

再度敬礼を交わす。
そして、坂本少佐は食堂へ向かった。
朝から水泳をしたにも関わらずその歩き方は軽く、ぶれすに芯が通ったものであった。
後ろから見ても背筋は曲がらず、竹のように真っ直ぐ、しっかりしたものだ。

何時も少佐、もといもっさんとは顔を合わせているけど、
こうして、じっくり見ると姿勢一つにしろ様になっているな。

わたしも、軍隊で散々歩き方やら叩き込まれたから姿勢は良い方だがやはり少佐の方がカッコイイ。
うーむ、やはり武術、あるいはスマートかつ、紳士教育を信条とする海軍教育のお陰か?

書類仕事、それに御偉いさんとの付き合いはもののふを自称するように苦手だけど。
一見豪快に見えつつも、パーティーとかの集まりでは紳士的な気遣いと振る舞いができる。

話す言葉は海軍と英国で実地教育された英国英語。
容姿は欧州では珍しい黒髪黒瞳で、かつ白人のとはまた違った白い肌に整った顔。

それで、豪快な戦士のような性格。
同時にただの脳筋ではなく、紳士的な態度と気遣い。
厳しいが仲間想いで、部下のためにその労力を惜しまない。

……あ、あれ。
冷静に考えれば何この超イケメンは?
考えてみれば見るほど、少佐にもてる要素しか見つからない。
ミーナが少佐を気にするのも無理もないな、これだから扶桑の魔女は……。

いや、まて。
我らがバルクホルンお姉ちゃんもイケメンだ。
何せ、妹の治療費のために給料を全て注ぎこんで…………あ。

「ああ、そうだな。あの子は、もう」

今はわたしがバルクホルンだ。
【原作】に存在するゲルトルート・バルクホルンは存在しない。
そして、バルクホルンを語るには妹のクリスティーネの存在が欠かせない。 

けど、今は彼女はない。
文字通り、この世には既に存在していない。

クリスティアーネ・バルクホルン。

わたしのこの世界の数少ない肉親は、
客船『ヴィルヘルム・グストロフ』と共にバルト海の海底に今は眠っていた。



※  ※  ※



「ねえ、知っている?芳佳ちゃん?」
 カウハバ基地で迷子になった子供のために出動したんだって」

リネットが朝食のサラダの野菜を切りつつ宮藤に話をふる。
話題は今朝の新聞で確認したニュースで、迷子になった子どもをウィッチが出動したというものだ。

「へぇーそんな活動もするんだ。すごいねー」

リネットの話しを聞き芳佳は軍隊組織という型にはめられているウィッチが、そうした活動に従事していることに素直に驚いた。

「うん、たった1人のためにね」

リネットの言葉にどんな想いが籠っていたのだろう。
それは恐らくそれを実行した人物達に対する英雄視だろう、
たった1人のために動いたという事実は、未だ軍人という型にはまり切っていないリネットに幻想を抱かせた。

「でも、そうやって1人1人助けられないと、みんなを助けるなんて無理だもんね」

芳佳も同意を表明する。
こちらもまた理想論と、言う以外ないものであった。

けど、しかたがない。
何せ、彼女はほんの少し前はただの女学生だったからだ。

「おはよう、宮藤!リーネ!」
「あ、おはようございます!坂本さん」
「おはようございます、坂本少佐」

坂本少佐が食堂に現れると、元気よく朝の挨拶を交わす。

「2人とも準備ご苦労。
 ふむ、今日はスープにパンか、いい匂いだ。
 しかし慣れたとはいえ、偶にはお米が食べたいものだな……」

食堂に漂う朝食の香りに思わず坂本少佐の腹の虫がなる。
しかし、扶桑人としてはご飯に味噌汁を基本とした朝食がほしいところである。

「あ、大丈夫です。
 坂本さん、バルクホルンさんが言うには、
 扶桑からの補給品のお米がもう直ぐ来る、と言っていましたよ」

「おお、そうか!楽しみだな!」

しかし、それがもう直ぐ適うことを知り坂本少佐の頬を緩ませた。
そしてふと、重要な業務を思い出し、思考を切り替え口を開いた。

「話しは変わるが、宮藤。
 そろそろ、休暇を取ってみないか?」

「え、休暇ですか?」

「ああ、休暇だ」

真面目な顔で休むことを推奨され、
頭上に???マークをつけた芳佳が首を傾げる。
そんな様子を見た坂本少佐が苦笑すると、説明を続けた。

「軍隊では士気を保つために一定期間勤めたら、
 1日か半日休暇を与えるように規定されているんだ。
 丁度、宮藤は規定を満たしたから気分転換も兼ねてロンドンに行ってみないか?」

「ロンドン……」

芳佳は坂本少佐の提案に戸惑った。
なぜなら、これまで501の基地でひたすら訓練漬けの日々であったからだ。
非番の日もあったが、基地の中で過ごすか、付近の村や街に買出しに出かける程度であった。

「やったね、芳佳ちゃん休暇だよ!
 私の家はロンドンだから一緒にロンドンに行こうよ!」

あまり休むことを考えていなかった芳佳はどうしたものか、
と頭を傾げたが、リネットが食いつき一緒に遊びに行くことを提案した。
しかし、坂本少佐は申し訳なさそうな表情を浮かべると、リネットに言った。

「リネット、その提案は悪くないが、
 残念ながらリネットの休暇は前に一度取ったから少し先の話しだ。
 交代制の都合上、同じに日に休暇が取れるのは宮藤とバルクホルンだけなんだ、すまないな」

そんなー、とリネットが落ち込む。
芳佳も残念に思ったが、坂本少佐が話した内容に疑問を覚え、口を開く。

「だとすると坂本さん、
 私はバルクホルンさんと一緒にロンドンに?」

「ああ、そうなるな。なんだ、宮藤?
 バルクホルンにも訓練で扱かれているから苦手意識でもあるのか?」

からかい混じりに坂本少佐が芳佳に尋ねる。

「いえ、ただ……」

芳佳のバルクホルンに対する第一印象は『厳しい鬼教官』か『典型的カールスラント人』であった。
原隊から厄介払い的に派遣された隊員がおり、隊長のミーナ中佐自身が任務さえ務めていれば自由な雰囲気を認めているため、軍組織の割には自由気ままな雰囲気が流れている。

そんな中、自分をここに連れてきた坂本少佐と並んでバルクホルンは真面目な軍人をしている。
カールスラント人らしく生真面目で、厳しいが、同時に優しさと気配りを兼ね備えていた。

自分やリネットを気にかけているのは分かる。
にしてもしかし、時折自分に対する態度はまるで、

「ただ、バルクホルンさんは時々私のことをまるで、妹のように接するので少し気になったんです」

「……っ、そうか。はっはっは、宮藤を妹扱いとはバルクホルンも隅に置けないなぁ!」

芳佳の話しを聞き、
はっはっは、と大笑する坂本少佐。
だが、一瞬だけ息を詰まらせたのを芳佳は見逃さなかった。

「あの、坂本さん!」
「…宮藤、これはバルクホルンの問題だ」

芳佳が食いつくが相手は完全なる拒絶、交渉の余地なかった。

威圧感。
『坂本さん』でなく『扶桑皇国海軍坂本美緒少佐』という階級の軍人としての空気。
至近距離でそれを受けた宮藤は、無意識に足を一歩後ろにずらしてしまう。
喉から音声はでず、ただ意味不明の音しか小さく発するほかないほどに。

「宮藤は優しい奴だな、そう他人を思いやる気持ちは本当に宮藤らしい」

「はい…ありがとうございます」

声こそ優しいが威圧感はまだある。
受け手は自然と頭は下がり、視線が下へ行く。
なんだか学校の校長先生に叱られた時のと似ているな、と諭される宮藤は感じた。

「だがな、
 この問題は他人がいくら言おうとも解決できないんだ。
 宮藤、覚えておけ、ネウロイとの戦争で肉親をなくした人がいる事実を」

一拍。

「無論バルクホルンは私達501の仲間だ、できることはする。
 だが宮藤、お前のことだからお節介を焼くつもりだろうが、
 バルクホルンに対しては今はしばらくそっとしておいてやれないか?」

「坂本さん……」

坂本少佐の言葉にどんな想いがこもっていたか宮藤には理解できた。
顔を上げて見えた坂本少佐の瞳は決意と覚悟に満ちており、自分の出番でないと悟った。

「ま、要する今までどおり接してくれと言いたい訳だ、宮藤。
 だが、そうして他人を思いやる気持ち…バルクホルンを気にしてくれてありがとう」

そう言い、坂本少佐は芳佳の頭を撫でた。
まるで、子ども扱い、というより子ども扱いそのもので、
芳佳は自分は人として、ウィッチとしてまだまだ未熟であることを知った。

昔、父親に頭を撫でられた時の事を思い出しつつ、
芳佳は坂本少佐の言葉にどこか納得できず、もやもやとした気持ちを抱く。

(――――ああ、そういえばリーネちゃんの事は、
 こうして友達になったから、色々知れたけどバルクホルンさんの事は全然知らない)

考えてみれば自分はあまりバルクホルンの事を知らないにも関わらず、首を突っ込もうとしていた。
人の事を知らずに、人の心に踏み込むなど、あってはならないことだ。

だから、その休暇にバルクホルンさんと一杯お話ししよう。
そう、芳佳は思った。





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