二次元が好きだ!!

SSなどの二次創作作品の連載、気に入ったSSの紹介をします。
現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

幕間の魔女「芋大尉の日常」

2021-07-17 22:38:41 | ヴァルハラの乙女

◇煙草の話

「こんな光景、他の隊員には見せられないな・・・」

三条の紫煙が揺らめく中、ワタシは発言した。

「そうよね、ウィッチの喫煙は黙認されている。
 と言っても、「黙認」であって「公認」ではないし、
 ルッキーニさんとか子供が真似しそうだし、皆の前で吸うのはちょっと、ね・・・」

紫煙の主、その一人目であるミーナが頷いた。
細長いシガレットホルダーで吸う姿は「女侯爵」の二つ名らしく、どこか貴族的な余裕と優雅を感じさせる。

軍隊と煙草は切っても切り離せない関係、
しかもこの時代は煙草は喉ごしが良いなんて言われていたから、
喫煙に抵抗感が薄いのを知っていたけど・・・しっかし、まさかミーナも煙草を吸うなんて・・・。

初めて知ったときは、本当に驚いた。
それこそ例えるならばクラスのお嬢様がNTRた挙句、
ガングロ化してチャラ男の象さん(意味深)なしだと以下略)な薄い本的展開に匹敵する衝撃だったな、うん。

まあ、ミーナは1日に葉巻を20本も吸うヘビースモーカーとして有名なガランド少将の副官を勤めていたし、
指揮官としてのし掛かる心理的重圧、有力者との会談やパーティーなどの付き合いで喫煙せざるを得ない機会が多いからなぁ・・・。

というか、この時代。
喫茶店には灰皿、マッチは必ず用意されているし、
映画館で映画を上映していても、飛行機の中、列車の中でも平気で煙草を吸っている。
おまけに、ポイ捨ても平気でやるし喫煙者にとっては天国のような時代だ。

「ミーナの言うとおりだ、子供は大人に憧れる。
 ルッキーニだけでなく、宮藤もリーネも真似するだろうな」

紫煙の主、その二人目である坂本少佐が呟いた。
口にしているには前世でも有名な銘柄「ラッキーストライク」だ。
なお、ミーナも少佐と同じ銘柄をシガレットホルダーの先端に挿して吸っている。

よもや坂本少佐まで煙草の味を知っているなんて、意外すぎるが、
煙草の覚醒と鎮静作用に頼らざるを得ない戦場にずっと身を置いてきたせいなのと、
少佐もミーナと同じく付き合いで煙草を吸う機会が多く、それで煙草の味を覚えたと聞いた。

・・・JG52にいた時を思い出すな。
ヨハンナ、ラル、クルピンスキー、3人とも腕前は確かだったけど、
所詮は新米少尉に過ぎず、真の将校として人を率いるにはあと数年の歳月が必要だっただろう。

だけど、ネウロイ戦争で経験を積んだ先輩ウィッチは消耗戦の果てに次々と倒れ伏せ、
気づけば、中尉に昇進してみんな中隊長として職務を任されるようになってしまったんだ。

なおワタシとヨハンナに至っては最後は3個中隊を束ねる飛行隊司令まで昇進してしまった。
平時ならば経験豊富な大尉、あるいは少佐が受け持つ役職にも関わらず新米中尉が、である。

あの当時、人は簡単に死んでいった。

1度の出撃で発生する未帰還率は3割。
出撃する度に誰かが戦死するか、戻ってきても誰かが重症を負って飛べなくなった。

12歳どころか、場合によっては10歳程度の少女がである!

ヨハンナは両足を切断するしかなかった部下から恨み言を吐かれて精神的にかなり追い詰められたし、
ラルは「自分が嫌われ役になれば良い」と開き直ってあの図々しい鉄仮面を被ったけど、ストレスで味覚がおかしくなった。

クルピンスキーは言動、女遊びな行動こそ変わってなかったけど、
部下を庇って撃墜される回数も増えて、誰かが戦死する度に密かに大泣きし、酔いつぶれていた。

そんな中、煙草は戦地では数少ない娯楽であり、
煙草の覚醒と鎮静作用は戦場で荒んだ精神を安定させるのに必要不可欠であった。
皆で集まって煙草を吹かしながら、喧嘩したり、議論したり、泣いたり、笑ったりしたんだ。

もう5年、あるいはたった5年前の話で、
まだ15歳どころか13歳の時だけど、何もかも懐かしい青春だった――――。

「少佐、宮藤については問題ないかと。
 何せ未だ中学校に在籍しているので一度煙草を吸えば一発で退学間違いなしですから」

「む、そう言えばそうだったな。
 すっかり銃後の常識を失念していたな、いかんな」

「本当ね・・・『普通の』女の子なら10代で煙草なんて吸わない、そんな常識を忘れてしまうわ・・・」

そう、『普通』ならそうだ。
『普通』の女の子なら煙草なんて吸わないし、頼らない。
軍隊と一般社会の常識の間には、大きな溝があり、長い軍隊生活がそれを忘れてしまう。

「それにです、」

紙巻煙草を吸っている2人と違い、
こちらはパイプだから炉に火を保たせるように、一度息を吹く。

「それに、喫煙習慣があっても進んであの3人に煙草を勧めるようなウィッチはこの部隊にいませんから」

エーリカに煙草を教えたチャラ女・・・。
もとい、クルピンスキーのように「楽しい軍隊生活」を先輩として教えるウィッチはいない。

本当、501にいるウィッチはミーナが言ってたように「良い子」ばかりである。
JGG52は確かに精鋭部隊だったけど「プライベートは深く関与しない」とラルが宣言したように、
私生活において非常に癖が・・・ぶっちゃけ、問題児なウィッチが大勢所属する愚連隊な所があったな、そうそう。

だけど塹壕貴族(自分がそのあだ名をつけた)もとい、
ボニン司令はそんな部隊について頭を痛めるどころか、むしろ楽しんでいた気がする。

「えっ?喫煙習慣って・・・私達以外にいるの?」

「うん、ミーナ。
 意外かもしれないけど、いるんだよ。
 正確には「昔は喫煙習慣があった」だけどエイラ、
 シャーリー、この2人、実は煙草を吸っていたんだ」

「シャーリーならまあ無くはないが、エイラが?以外だな・・・」

それについてはワタシも同意する。
黙っていれば清楚系な美女である上に、
リアル北欧系銀髪美少女なエイラが煙草を吸っていた。
なんて事実はショッキング極まる事実なのは間違いない。

「切っ掛けは原隊にいた時、
 先輩ウィッチから喫煙を勧められてからだそうですよ、少佐」

「あーーー・・・先輩から勧められ喫煙を始めたのか、よくある話だな」

「その辺の事情はどこも変わらないのね・・・」

坂本少佐とミーナが「あるある」と頷く。
「先輩から勧められて喫煙を始めた」なんて話は【前世】からよくある話だ。

だけどこれが、ケモノ耳と尻尾を生やし、空を飛んで戦う魔法少女でも、
こうした生臭い話が絡むなんて、少し面白く、笑ってしまいそうだ。
ただし、エイラの喫煙についてそうせざるを得ない事情もあった。

「スオムスは白夜の季節になればほぼ丸1日昼間の様に明るくなり、
 殆ど寝る暇も無く戦う羽目になりますから、眠気覚ましと疲労を誤魔化すのに煙草が必要だったそうです。
 501に来て暫くは隠れて喫煙していましたけど、今はサーニャに嫌われるのが嫌で辞めた、と本人が言ってました」

堂々と吸わずに隠れて吸っていたのも本人曰く、
「ウィッチ用の食堂や休憩所に灰皿がないので、部隊に定められた暗黙の規定を察したから」と言う辺り、
エイラは見てくれこそ二次元から飛び出たリアル美少女だけど気質は周囲の空気が読める下士官そのものだ。

傍から見ればボンヤリしているミステリアスな美少女だけど、
10歳の時からずっと戦ってきただけあって「軍隊」の気風、阿吽の呼吸を知り尽くしている。

・・・おっと。

「2人とも、どうぞ」

二服目の喫煙を始めようとする2人に対してジッポを点火する。
「あら、ありがとう」「すまないな」と感謝の言葉を受ける。

「ふぅーーーー・・・。
 成る程、エイラさんにそんな事情があったなんて」

「流石、バルクホルンだな。
 ミーナと私では知り得ぬ隊員ことを把握できるとは」

仲良く1つの火種を分かち合った2人から称賛される。
金ピカの将軍閣下よりもずっと、嬉しい称賛だ。

「何てことありませんよ、
 エイラと一緒にサウナに入って雑談する最中に知った話です」

だけど、ワタシは昔から素直に誉められた時の受け止め方が下手くそだ。
この称賛は本来あるべき「彼女」が受けるべきだと思っているからだ。
だから今日も後ろめたさ、照れ臭さを誤魔化すようにパイプを吹かした。

「シャーリーさんは?」

「シャーリーについては地方(一般社会)にいた時から吸っていたそうだ、ミーナ。
 理由は単純明確、大人から女性らしくしろだの、あーだ、こーだ、と言われて反骨精神を拗らせたからだ、と言っていたな」

この世界では歴史の節目節目にウィッチが活躍し、
「ライト姉妹」のように社会と人類の進歩を助けた経緯から「史実」より女性の地位は高い。
だけど、それでも男女の性差はあるし大人が求める「女性らしさ」は今も昔も変わっていない。

「シャーリーは機械弄りが得意で、
 自身もバイクのレースに出場できる程の腕前なので、
 絶賛も多かったですが「女性らしくない」と難癖も相応にあったんだ」

同性からも叩かれたと聞いている。
ハッキリ言って八つ当たり、それと嫉妬だろう。
何せ唯でさえウィッチ、というだけでも同性から嫉妬の対象となりうる。

しかしシャーリーからすれば努力して得た結果であり、
何も行動せず、アレコレ言う連中なんてふざけた話であり、
「女性らしさ」とやらを押し付ける大人と女性に対し怒りを覚えて当然だ。

そして反抗心を拗らせた10代の少女がやる事なんて――――まあ、喫煙一択であった。

「・・・シャーリーらしい、
 と言えばらしいが、意外と苦労しているんだな、シャーリーも」

ぽつり、と坂本少佐が呟いた。

「出る杭は打たれる、
 どこも事情は同じかもしれませんね。
 ですが、今はルッキーニの面倒を見たり、
 自由にストライカーユニットを改造できたりと、
 楽しい事、好きな事が山程あるから、喫煙する暇なんてないと笑ってました」

自分のやりたい事、好きな事を見つけ、
それに向かって努力を惜しまない――――。

本当に羨ましい。
【前世】も含めて自分のやりたい事、好きな事が分からず、
軍人になってネウロイを叩き落とす事でようやく承認欲求を満たせた自分とは大違いだ。

まあ、いい。
どうせ自分はいつか戦死する。
最近は平和になった後の世界の行く末を見てみたい欲求があるけど、その道のりは未だ遠い。

それよりも「ストライカーウィッチーズ」の主人公である宮藤芳佳を守り通す。
彼女さえ生きていれば、必ずネウロイを地上から殲滅してくれる、絶対にだ。
人類数十億の命運は彼女に掛かっていると言って良い、だから自分の命は捨てても元は十分取れる。

何も問題ない、そう何も。
それだけを生き甲斐に今日まで生きて来たのだから。

「トゥルーデ、少し顔が怖いわよ・・・?」
「ん・・・そうか、ミーナ?」

心配そうにミーナが自分を覗いている。
こんな時、どうすべきか分かっている。

「いや、隠さない方がいいか。
 シャーリーが羨ましいな、と思ったんだ、ミーナ。
 好きな事を見つけて、好きな事に邁進するシャーリーが。
 軍人になるしか道はなかったし、軍人であることにしか意義が見いだせない自分と違って」

【嘘は言っていないが、本当の事は言わず、道をずらす】これに限る。
こうして自分の気持ちを騙し、周りの人間を騙して来た、ずっとだ。

ミーナは優しい、ワタシが知る誰よりも優しく、強く、情を知る人物だ。
だから「宮藤芳佳を守り抜くために戦死しても問題ない」なんて事実を知って心配させたくない。

「幼い頃に親を亡くして、引き取られた遠縁の親戚は軍人貴族な家系だから、
 ウィッチとして軍人になるしかなかったし、将来の婚約まで周囲から言われていたから余計に、な」

気づいたら「ストライクウィッチーズ」のゲルトルート・バルクホルンに転生していた。
しかもクリスを除いて実の家族がトラックの事故で全滅していた、本当に訳が分からなかった。
おまけに引き取られた親戚が【あの】ゴトフリードなバルクホルンだったから当時気分はもう銀河猫状態だった。

そんなんだから、この世界は「ストライクウィッチーズ」ではなく、
バルクホルンをメインヒロインにしたや○夫スレか!?と昔は悩んでも仕方がない事を真剣に悩んだな。

「ごふぅ!!、げほ!げほげほ!!
 こ、婚約!?バ、ババババ・・・バルクホルン!それは本当か!!?」

坂本少佐が妙に狼狽している、解せぬ。
というか、ここまで慌てふためている姿なんて初めてかもしれない。

「けほ、けほ・・・あ、あのね、トゥルーデ。
 普通は驚くわよ、というより落ち着いている貴女の方が驚きよ」

ミーナまで言われてしまう、何故だ?

「『身寄りのないウィッチを養女として迎えて、一族の息子と結婚させる』なんてよくある話だろ、ミーナ?」

美少女で魔法が使えるウィッチには希少価値があり、社会的なステータスシンボルだ。
だから歴史上、身寄りのないウィッチを権力者が育てて一族に迎える、なんてことはよくあった。

ましてやユンカーだ。
華やかな宮殿文化で骨抜きにされた軟弱なガリア貴族と違って、
己の勇武、御恩と奉公が商売な武士の類だから強い血、太古の昔から戦場に立つウィッチの血統は絶対に必要だ。

「それに妾とか、家内労働者とかではなく周囲の扱いは正妻。
 しかも、士官学校に入れる程度に教育してくれたから、ワタシは運が良いよ」

本当に運が良かった。
いくらウィッチとして覚醒している。
と言ってもウィッチとして正しく力を制御する訓練が必要だった。

加えて社会常識、それに言語もしばらく怪しい状態だったから、
もう一度学びなおす必要があり、それら全てを丁寧に教えてくれた人たちに巡り合えたのは運が良かった。

しっかし、よもや自分が「あの」ゴトフリードのお嫁さん候補とは・・・。
おじさんは軍人貴族家系だからと言って、ワタシまで無理に軍人になる必要はないし、
ましてや「息子の結婚相手」なんて考えていなくて単に「可愛い娘が増えて嬉しい」というスタンスだったけど、

周囲の人間は尚武と勇武の一族としてウィッチになった以上、軍人になるのが当然。
そして、自分をサーベルタイガーと一緒に引き取られた某魔王の義姉のように見ていたし、そう扱おうとしていた。

昔はそう囃し立てる周囲の人間に色々思う所があったけど、
ネウロイ戦争で大半は戦死してしまったから、今は少し寂しい気持ちが勝る。

「トゥルーデ、貴女・・・・・・」
「バルクホルン・・・・・・」

等と少し回想してたけど、
何故か2人揃って泣きそうな顔でこっちを見ていた――――理由が分からない。



◇服の話

「しっかし、ゲルト。
 お前マジで自然に着こなせているな、扶桑の服」

しげしげと、ワタシを観察していたシャーリーが呟いた。

「宮藤からも言われたが、そう見えるのか?」

今の自分は少佐の銃剣道に付き合っていたので胴着と袴姿であるが、
以前からどういう訳か、異口同音に扶桑の装束が似合っていると言われている。

「見えるさ、ゲルト。
『服を着るだけ』なら誰だってできるけど、
『服に合わせた細かい仕草』なんて簡単じゃないぞ。
 おまけに慣れない服にも関わらずリラックスしているし、私には無理だぜ」

「・・・仕草、か」

まさか仕草とは、ね。
【前世】から転生してから少しの間は男女の違い、
肉体の大きさが違うから体の動かし方すら違和感を覚えて大変だった。

「ゲルトは大抵の事なら何だって出来るから、マジで尊敬するぜ」

「何でもは知らないさ。
 知っていることしかできないだけだよ、シャーリー」

誉めるシャーリーに対して、
リベリオン人のようにヤレヤレと大袈裟なポーズをした。


◇髪の話

「トゥルーデ、少し伸びたよね」

エーリカの部屋で片づけを終えた後。
2人でベットに寝転がり、それぞれ好きな事をしていた最中にエーリカが言いだした。

「言われて見れば伸びたな、髪が」

Ta152のマニュアルから目を離し、
腰まで、とは行かないが相応に延びた髪を摘まむ。
色々あって切るのを後回しにしていたけど、流石に切った方がよいだろう。

長い髪は暑いし、何よりも手入れが面倒くさい。
女性の髪は繊細だから【前世】のように頭をガシガシ洗って終了!とはいかない。

しかも乾かすのにも手間隙と労力を要求されている。
まったくもって面倒なのだ、長いとアレもコレもやらなきゃならない。

「んん、でもいっそこのまま伸ばしたら?
 トゥルーデの髪質って、少佐に似て湿度を帯びているから長髪も似合うと思うけど」

エーリカがワタシの髪を撫でつつ呟いた。

「長髪は手入れが面倒だぞ、エーリカ。
 しかも、この基地は常に潮風に晒されているから、余計に手間が掛かる。
 化粧なんてしたことがない少佐でも、髪については毎日手入れを欠かせていないんだ」

坂本少佐、といえば【原作】のズレた性格と行動から、
女性らしい身だしなみについて関心がないと思っていたけど、
髪の手入れはその仕草に色気すら覚える程丁寧にしていたから、初見は心臓が止まるかと思った。

「それに髪を伸ばすなら、エーリカが伸ばせばいいじゃないか。
 エーリカの金髪は秋の麦穂、金糸みたいに繊細で綺麗だから伸ばして損はない」

転生して初めて知ったが欧米人、
中でもドイツ人と言えば金髪!のイメージが強いけど、意外とそうではない。
大半は自分のような栗毛か、金髪であっても別の色が乗算された色合いをした人が多い。
真面目な話、エーリカのような綺麗な金髪とは銀髪と同じくらい結構レアな色なのだ。

「えぇー、ヤダし。
 私の髪質は乾燥気味だから、今でも手入れが面倒なんだよねー。
 あっ、これから毎朝トゥルーデが手入れしてくれるなら、伸ばしてもいいかも」

「自分で手入れしろ」

エーリカの髪を櫛で梳かしながら答える。
吾ながら酷い矛盾である。

この子ははものぐさで、残念な言動と態度をしているが、
良いとこで育ったせいか自分で髪を手入れする時はちゃんと丁寧にする方である。

そういえばマルセイユも見かけに反して、髪の手入れは本当に丁寧だった。

性格、態度は生意気なクソガキそのもので、
煙草を一丁前に吹かそうとしてヤニクラで倒れたり、
深夜まで大騒ぎした挙げ句、飲み過ぎによる体調不良で出撃できなかったりと、兎に角問題児だった。

だけど、髪の手入れ。
その時だけは普段の唯我独尊な振る舞いは消え失せ、1人静かにゆっくりと手入れをしていた。

何せあの見た目で、あの長い髪だ。
それを静かに手入れしている姿は美しく、本当に綺麗だった――――。

「・・・今、ハンナの事、考えてたでしょ?」

過去の思い出に浸っていたらエーリカが鋭い一撃を放った。
背中しか見えないが「面白くない」という態度を全身から発している・・・なんでさ、というか。

「・・・何故、分かったんだ?」
「トゥルーデの雰囲気から『ハンナは可愛くて格好よかったなー』って感じだったし、分かるし」

顔を見ずに雰囲気だけで分かるなんてエスパーか!?
あ、そう言えば魔女か・・・。

「私、トゥルーデの事なら何でも知っているもんね~」

そう言うと、エーリカは鼻歌を歌い出した。

「かなわないなぁ・・・」

小さくても誰よりも聡い友人にワタシはお手上げするほかなかった。


 

 

 

 

 

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第41話「魔女たちの夜戦 下」

2021-07-03 20:07:50 | ヴァルハラの乙女

 「あれ、・・・?」

宮藤の意識が覚醒する。
しかし、前後の記憶がはっきりしない。
どうやら柔らかい何かに抱かれているようで、無意識に顔を埋め、再度眠りに入ろうとしたが、

「・・・気づいたかっ!宮藤、宮藤!!」

「あれ、あれ・・・?
 バルク、ホルン、さん?」

扶桑語で話しかけられ、宮藤の意識が完全に覚醒した。

「ね、ネウロイ!ネウロイは!?
 それに、私、確かサーニャちゃんを庇って撃墜されて・・・」

そして全てを思い出す。
夜間哨戒の最中に受けたネウロイの攻撃。
シールドの展開が間に合わず、視界の隅まで光線の光で満たされたところまで全てを思い出した。

「ワタシが拾ったんだ。
 宮藤のストライカーユニットは全損、今は素足で武器も紛失。
 ワタシ自身も救助を優先したからMG42を2丁放棄・・・始末書ものだな。
 ああ、それとネウロイなら背後でストーキングしている、しかも現在進行形でな」

バルクホルンの語りを聞いた宮藤が首だけ動かして背後を確認する。
僅かに月明かりで照らされる灰色の雲の中、見えるものなどない、そのはずだ。

だが、見えた。
巨大な黒い輪郭が赤い灯火を照らしつつ追従していた。
時おり、黒板を引っ掻いたような不愉快極まる音が響いている。

ネウロイに追跡されている。
宮藤が理解した時、感情が激しく揺れ動きそうになったが、

「安心しろ。
 ワタシが何が何でも守って見せるし、
 怖いなら抱きつくんだ、それなら少しは気が紛れる」

どことなく、男性的な響きを含んだ声で優しくバルクホルンが語りかけた。

「あ、はい・・・じゃあ、遠慮なく」

言われておずおずと、腰に手を回して抱きしめ、顔をバルクホルンの双丘の狭間に埋める。
弾力と張り、それと吸いこんだ甘い香りと体温が心地よい。

「気持ちいいし、何だかほっとする・・・」

宮藤は思った事をつい口走った。

「・・・そうか、まあできれば、
 あまり動かないでいてくれないか?くすぐったくなるから」

どこか陽気に語る言葉と余裕のある口ぶりに宮藤は落ち着きを取り戻すと共に、

(なんだか詩人が雲を眺めて詩の文句をねっているみたい・・・)

そう内心で思い、バルクホルンさんは私と違って本当の兵隊さん、軍人さんなんだ。
と、宮藤は改めて尊敬をする。

「あのネウロイは賢い。
 こちらが雲の中から急いで出ようとすると上から覆い被さるような機動をして来たんだ。
 どうやら『ウィッチは視界不良な雲の中での戦闘は苦手』というのを理解しているようだ。
 だから今は距離を保ち、時計回りでゆっくりと旋回しつつ上昇しているところなんだ・・・」

ネウロイに気づいた素振りは見えていない。
賢い、と言ってもワタシはもっと賢いようだ、とバルクホルンが笑いつつ言った。

(本当に、バルクホルンさんは凄い人なんだ)

宮藤が尊敬の念を更に深め、顔を見上げるが・・・。

「え・・・?」
「・・・ん、宮藤?どうした」

声は何時もと変わらない。
綺麗で流暢な扶桑語で宮藤に語りかけている。
優しくも、どことなく男性的な響きを含んだ声でバルクホルンが語っている。

だが気配はまったく違っていた。
殺気や剣気といった分かりやすい気配ではない。
顔にこれといった喜怒哀楽の感情表現が現れておらず、普通の表情のままだ。

しかし、眼だけは違う。
言語化できないある種、狂信、狂気が宿っていた。
瞳は宮藤を見ていながら、宮藤でない『誰か』を見出していた。

そこにいたのは「バルクホルンさん」ではなく、
小さい時、母親から寝物語で聞いた人の形をしていながら、人でない『化け物』のようだった。

「なんでも、ないです・・・」

誤魔化すようにバルクホルンの胸に顔を沈める。
「色よし、張りよし、バルクホルン」とエイラが評したように、
張りがある胸の感触は楽しく、嬉しいはずだが、今はそうした気分になれなかった。

それよりも、命の恩人に対して恐怖を抱いてしまった事、
一瞬でも『化け物』なんて言葉を連想してしまった自分に対して自己嫌悪に陥った。

「・・・そうか?まあ、それよりも。そろそろ頃合いか・・」

バルクホルンが上を見上げる。
つられて宮藤も顔を上げるが相変わらず視界は悪い。
時おり見える月以外は何も見えない。

「頃合いって、何ですか?」

質問を口にする。

「簡単な話だよ、宮藤。
 サーニャとエイラが脱出の援護をそろそろしてくるはずだ。
 何せ、サーニャからすれば雲による視界の障壁なんて関係ない。
 しかも側には未来予知の固有魔法を有するエイラもいる。
 だから2人なら、我々が視界不良な雲の中にいても誤射を気にせず、脱出の援護射撃することができる」

「あっ・・・!!」

言われてみれば筋道が通った理屈である。
ネウロイに追われていることで頭が一杯だった宮藤には思いつかない発想である。

「ネウロイが複雑な機動をしていたら難しかったかもしれない。
 しかし、今はワタシ達を追跡して単調な旋回機動を続けている。
 ああ見えて実戦経験が豊富な2人は必ずこの機会を逃さな――――来たな」

突然数条のミサイルが話に割り込んで来た。
正面上方から降ってきたミサイルは追跡していたネウロイに向かって直進する。

ネウロイは慌てて急旋回して回避を試みるが、
かえって「的の方から近づく」ような結果となってしまい全弾直撃してしまう。

「動くぞ、しっかり掴まっているんだ。
 何せこのTa152は零戦よりずっと速いんだ」

そう言いつつバルクホルンが宮藤をしっかり抱きしめる。
別名、究極のレシプロストライカーとも言われているTa152は固有魔法を使用しなければ、
という条件付きならばスピード自慢のシャーリーすらも上回る速度と加速性能を誇る優れたストライカーユニットであった。

最大速度は時速760キロ。
対して宮藤が使用している零式艦上戦闘脚二二型甲は時速540キロ、実に200キロも差がある。

戦局を覆すと噂されているジェットストライカーユニットは、
魔道エンジンの耐久性と信頼性でTa152のユモ213魔道エンジンに劣っており、
対抗馬となりうるノースリベリオンXP51Gは試作以前に1944年の時点では未だ影も形もない青写真に過ぎず、
マフィアのラッキー・ルチアーノがジーナ・プレディを拉致監禁し、軍に採用を推薦するよう脅迫している最中であった。

つまり1944年の時点においてTa152に匹敵するストライカーユニットはどこにもなかった。

「わぁ!?」

上昇、そして急加速。
零戦では絶対に体験できない速度の世界に宮藤が動転する。

機械駆動式過給機にたっぷり酸素を吸い込ませ、パワー・ブーストを全力全開で始動。
排気ノズルからからは炎が噴き出し、光跡が雲海から駆け上がる流星のごとく尾を引く。

ウィッチが逃げたのに気付いたネウロイがビームを放つが、
狙いすましたかのようにフリーガーハマーの斉射を追加で受けてしまう。
直撃と同時にネウロイが吠える声が轟く、それはもはやむき出しの暴力的な音声だった。

そのネウロイの声を無視する形で、宮藤を抱えたバルクホルンが上へ、上へと昇り続ける。
徐々に雲が薄くなり、月明かりが強くなる中、とうとう雲の中から飛び出した。

『大尉が出た!
 しかも、宮藤も無事だ!やったなサーニャ!』

『うん!』

バルクホルンが雲から抜け出したのを確認したエイラとサーニャが歓喜の声を挙げる。
一定以上ネウロイにダメージを与えたお陰か、無線が回復している。

だが、安堵する余韻はなかった。
バルクホルンの後を追いかけるように、ネウロイもまた雲海から飛び出してきた。

「お前はこっち来んナ!!」

撃ち尽くしたフリーガーハマーからMG42に持ち替えたエイラが罵倒と共に鉛玉の嵐を降らせる。
しかし、ネウロイは正面から銃撃を浴びせられてもひるまず、突撃を続けている。

「サーニャ!」
「エイラ!」

サーニャがエイラの腕を掴んで回避行動をする。
直後、2人がいた空域に光線が通り過ぎ、雲が蒸発する。
何をすべきか、何をなすべきか、言わなくても2人の間では全て理解できていた。

「くっそ、あのネウロイ。
 散々サーニャのフリーガーハマーの斉射を受けて、まだ動けるのカヨ・・・」

未だ撃墜に至らぬネウロイを目視したエイラが愚痴を零す。
これまでの経験からすれば、既に撃墜できる程度に打撃を与えているはずである。

「そうでもないぞ、エイラ。
 あのネウロイ、かなり損傷を受けている。
 現に先ほどまであった無線妨害が止んでいる」

「お、大尉っ・・・!?
 っう、うん、無事でよかったナ!」

「何、2人のお陰さ」

エイラ達と合流したバルクホルンが語りかける。
改めて無事を確認できたエイラが喜ぶが、見たこともない威圧感を纏ったバルクホルンに戸惑う。

「さて、サーニャ、フリーガーハマーは弾切れで間違いないな?
 間違いなければ、済まないが宮藤を代わりに預かってくれないか?
 見ての通り、ストライカーユニットがない上に武器も落してしまったんだ」

「え、あ、はい・・・分かりました」

口調こそ丁寧で柔らかい物腰だが、
眼だけはギラギラと歪な輝きを見せるバルクホルンにサーニャは胸騒ぎを感じる。

「では、頼む。
 宮藤を守るんだ、サーニャ」

バルクホルンが腋に抱えていた宮藤を差し出す。
サーニャとの会話で普段と変わらぬ態度と表情、理性を保っている。

「はい、・・・」

いや、保っているからこそ、
狂信と理性が同居しているバルクホルンに対しサーニャは動揺し、
自分よりもずっと強いウィッチが見せた心の闇を深く追求しなかった。

「あ、あの。
 バルクホルンさん、私、ずっと足を引っ張って・・・」

「心配するな、宮藤。
 年下を守るのは年長者の役割であり、
 宮藤芳佳を何が何でも守り抜くのがワタシの役割だからな」

サーニャの腕の中で小さくなっている宮藤が謝罪を口にするが、バルクホルンが安心させるように励ます。
だが、少し考えれば「何が何でも守り抜く」とまで言い切る態度に違和感を覚えたはずだ。
何故ならバルクホルンの言葉に含まれた想いは、重過ぎるほど想いが込められていたからだ。

もっとも、この事実について誰も気づいていなかったが・・・。

「さて、始めるとするか・・・エイラは援護を頼む」

「・・・んなっ!?
 大尉も武器なんて護身用の拳銃しかないんじゃな!!」

返答を待たずにバルクホルンがネウロイに突撃を開始してエイラが慌てる。
宮藤の救出を優先したため、機関銃を破棄したバルクホルンに残された武器は豆鉄砲な拳銃だけ。
それにも関わらずネウロイに突撃したバルクホルンに対しエイラが慌てている。

同じようにネウロイも慌てているのか、
即座に始めたエイラの牽制射撃もあって対応が遅い。
光線を放つ暇もなく、バルクホルンの拳が届く距離まで肉薄されてしまう。

「狩りの時間だ」

バルクホルンがある種暗示、
それと験担ぎの意味を込めて呟くと、
左手に手にした予備の銃身を渾身の力を込めてネウロイに突き刺した。

「■■■■――――!!!??」

ネウロイの悲鳴と轟音が鳴り響く。
バルクホルンの固有魔法は怪力系、
ゆえに突き刺す、というより殴り刺すような重い一撃が突き刺さる。
衝撃で全身に割れ目、裂け目が生え、破片が周囲に飛び散る。

しかし、それでもネウロイは未だ其処にあった。
破壊された部位の修復もできぬほど弱っていたが、
大型ネウロイだけあって、耐久力は兎に角しぶとかった。

「意外と固いな・・・まあ、いい。ゲルトルートの狩りを知るがよい」

バルクホルンが拳を振り上げ、
まるで杭打ちハンマーのような勢いで突き刺した銃身を殴った。

再度、響き渡る轟音。
ネウロイの体内に銃身が突っ込んで征く。
体内を破壊しつつ、奥の奥まで突き進む。
やがて最深部に鎮座していたコアをも破壊した。

「ネウロイの反応・・・っ消滅しました!」
「・・・素手で殴ってネウロイを仕留めるナンテ、マジで姉ちゃんみたいダナ・・・」


魔導針でネウロイが爆裂四散したのを確認したサーニャが叫び、
対して目視で確認したエイラが故郷の言葉で破天荒な身内を回想する。

「バルクホルンさん!
 バルクホルンさんは大丈夫なの!サーニャちゃん!!」

サーニャの腕の中にいる宮藤が大声で騒ぐ。
数分前に生死の境目を経験したせいで、不安定な感情を処理しきれていなかった。

「大丈夫だよ、芳佳ちゃん」

サーニャが宮藤を胸に抱き締め、
慈母のごとく心優しい笑みを浮かべる。

「バルクホルン大尉は大丈夫だから、ほら」

視線の先には五体満足、変わらぬ姿のバルクホルンがおり、

「皆、待たせたな――――ただいま」

エイラ、サーニャ、宮藤の3人に対して軽く敬礼した。



◇   ◇   ◇



「おい?・・・大尉、怪我してるじゃないか!」

勝利の余韻に浸っている最中。宮藤、サーニャ、エイラの3人の中で、
実戦経験が豊富なエイラが真っ先にバルクホルンの怪我に気づいた。

「ん、ああ。
 ネウロイを殴った時、
 飛び散った破片が切ったみたいだな」

指摘されたバルクホルンは額から血が流れていたが、何ともないように答える。

「痛く、ないのですか?」

サーニャが心底心配そうに言う。

「正直に告白すると少し痛い、
 でもまあ、墜落して骨折したり、
 焼けた銃身で無理矢理止血した時と比べればずっと痛くないな・・・うふ」

散歩でもいくような口ぶりでバルクホルンが語る。
が、語られる内容は重く、醸し出す気配は異様であった。

「・・・バルクホルンさん!
 少し、私の方に来てくれませんか?」

血に酔った獣のような気配を及びたバルクホルンに対し、宮藤が唐突に叫んだ。

「・・・構わないが?」

バルクホルンが首を傾げる。
だが、特に断る理由もないでサーニャにお姫様抱っこされている宮藤の傍に寄り――――。

「バルクホルンさん・・・えいっ」

顔を掴まれ、額の切り傷を舐められた。

「芳佳ちゃん!?」
「ふぉお、宮藤。オマエ大胆だな!」

その場に居合わせたサーニャ、エイラが驚きの反応を示す。

「・・・!!!???!!!」

バルクホルンは宮藤に何をされているのか理解するのに時間がかかった。
しかし「傷を舐められている」のを理解した時、驚愕と羞恥心が混ざった悲鳴の声を漏らし、

「いや、何故ここで傷を舐める。
 という選択肢を選ぶんだ、宮藤!
 ごく普通に治癒魔法を掛けてしまえばいいだけじゃないか!」

常識的な突っ込みを入れた。

「だって、さっきまでのバルクホルンさんを治療するなら、これが一番だと思ったんです」

「な、はあああ、いや、どういう理屈だ?
 待て、だが、、まあ・・・そう、かもな」

自信満々に言う宮藤に対してバルクホルンが赤面する。
自分でも先ほどまで冷静、とは言いがたい状態であったのを自覚していたので、反論する言葉が思い付かなかった。

「えへへ、それにバルクホルンさんみたいな優しい人なら、
 女の子同士でもちっともイヤな気持ちにはならないですよ」

「え、ちょ、まっ!?」

聞きようによっては非常に危ない内容に、バルクホルンは動揺する。
獣のような殺意や威圧感がなくなり「戻って来た」

「モテモテだなー大尉、ひゅーひゅー!」
「ワタシをそんな目で見んなぁ!!」

「普段」のバルクホルンに戻ったのを確認したエイラが早速からかう。
弄られた側の人間は大声でわめく以外で対抗手段がなかった。

「芳佳ちゃんはとっても優しいのね」
「えへへ、それほどでも」

宮藤、バルクホルンのやり取りを見届けていたサーニャが口を開く。
ほめられた宮藤は、高ぶった気持ちの後押しを受けてネウロイのせいで言えなかったことを、ようやく口にした。

「あのね、今日は、実は今日は私の誕生日なんだ!」
「!・・・そう、なの、」

神の悪戯、としか言い様のない偶然にサーニャは大きく目を見開く。

「んふふふ、サーニャと同じだな」
「え・・・え、ええ?」

「知っている」エイラはニヤニヤと笑みを浮かべる。
何を指摘しているのか話題の渦中にある宮藤は即座に気づいた。

「え、嘘!私、サーニャちゃんと誕生日が同じなの!
 す、すっごいよ!誕生日が同じ人なんて初めて、本当に凄い奇跡だよ!」

誕生日が同じことを知った宮藤が興奮してはしゃぐ。

「・・・2人とも、誕生日おめでとう」
「はい、ありがとうございます!バルクホルンさん!」
「Спасибо、バルクホルン大尉・・・」

実はあと1人、同じ誕生日なウィッチがいるのを知るバルクホルンが祝福する。

歳を重ねる事を素直に喜べる、
ウィッチとして未だ若いがゆえに享受できる恩恵。
対して自分は今年で18歳、ウィッチとして「あと2年」しか戦えず、
最早年を重ねることが時限爆弾のように感じつつあったので――――嫉妬の感情が芽生えたが完璧に隠し、祝う。

「おい、この音楽っ・・・!!」
「嘘、またサーニャちゃんの歌、もしかしてまたネウロイ!!?」

インカムからまたもやサーニャの「歌」のメロディーが聞こえてくる。
エイラと宮藤は狼狽するが
「覚えていた」サーニャは違った。

「お父様の・・・ピアノ、」

金属を擦り付け、無理やり奏でていたネウロイの音律とはまったく違う。
上品な、そして優しさを秘めたピアノの音色は間違いなく人が奏でる音楽だった。

「どうやら、サーニャの誕生日を祝ってくれる人は我々だけでないらしい・・・よかったな」

「知っていた」バルクホルンはサーニャと違って実の親兄弟姉妹、
育ててくれた義兄の両親、義姉、その悉くを亡くしたが故に黒い感情が渦巻くが、理性で抑える。

そして、皆が普段から目にして求めている役者。
「ゲルトルート・バルクホルン大尉」として
二回目となる祝福の言葉を捧げた。





 

 

 

 

 



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