二次元が好きだ!!

SSなどの二次創作作品の連載、気に入ったSSの紹介をします。
現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

第37話「魔女たちのテレビ放送」

2021-01-31 10:13:49 | ヴァルハラの乙女


夜間哨戒組が和気あいあいとサウナに入っている最中。
ミーティングルームではウイッチ達が集まってちょっとした騒ぎになっていた。

「おおー!テレビジョンが来るなんてなー!!
 生まれて初めて軍隊に来て良かった・・・なーんて、今思ったぜ!」

「テレビ、テレビー!」

設置が完了したテレビの前で踊ったり、
はしゃいだりしているシャーリーとルッキーニ。

「もう、騒がしいですわよ!
 まったく、子供じゃあるまいし・・・」

「でも、ペリーヌさん。
 あのレント中佐の『月下の撃墜』をすごく楽しみしていて・・・」

「な、なななななな、
 なんの事かしら、オホホホホーーーー!?」

ペリーヌが大人ぶるが、その実楽しみにしていた事実をリーネに暴露される。
特に今年7月にて成し遂げたヘルミーナ・ヨハンナ・ジークリンデ・レント中佐の戦果。
『月下の撃墜』シーンは各国で開始されたテレビ放送でも繰り返し流され、世界中で話題となっている。

「しかし、軍も太っ腹だな。
 テレビジョンなんてまだまだ高価だろーーーー予算は減らす癖に」

「ええ、そうね。
 この前予算を削ると言われた矢先。
 あっさりこうした物が渡されると・・・色々思うところがあるわ」
 
坂本少佐、ミーナが複雑な思いを抱きつつ届いたテレビを見る。
ほんの少し前、わざわざロンドンに呼び出されたと思えば予算削減を宣告されたので無邪気に喜べなかった。

「にひひ、トゥルーデなんて、
 『武器弾薬燃料の類は来るのが遅い癖に、
  これだから紅茶の葉っぱをキメたブリタニア人は・・・』とブチブチ言ってた、言ってた」

エーリカがバルクホルンの口調を真似しつつ上機嫌に言う。

「でもでも~私、知っているんだ。
 トゥルーデは自分がテレビに出ていて、
 し・か・も、みんなに見られることを恥ずかしがっているって事を」

そう、なんとバルクホルンは501部隊の隊員で初のテレビデビューを果たしたのだ。
ニュース映画やラジオに出演したことがあるとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい、とは本人の言である。

「ふふ、『前の戦時国債キャンペーンの白バニーといい、何で私なんだ?』と頭を抱えていたわね」

ミーナがころころ笑う。
バルクホルンは鍛えているせいで引き締まる所は引き締まっており、
胸もある方なので割とエロく、傷や筋肉もバニーな姿でも隠せている。

よって白バニーなバルクホルンはエロく、
戦時国債は順調に売れ、プロマイドの売り上げも大変よい状況である。
バルクホルン本人はそれを聞いて死んだ魚のような目をしていたが・・・。

「ところで、ミーナ。
 バルクホルンはどんな番組に出るんだ?」

「それがね、美緒。
 前と同じく戦時国債の広告なのだけど、
 途中で横やりが入ったせいで複数パターンで番組収録して、
 結局どれを放送するのかトゥルーデ自身も聞いてないそうよ」

「横やり?また何で・・・?」

坂本少佐が訝しむ。

「・・・ド・ゴール将軍が番組に自分の娘を出すように言いだのよ」
「あの将軍か・・・」

自由ガリア軍最高司令官。
シャルル・ド・ゴール将軍。

我が強く、厚かましいことこの上ない人物であるのは有名である。
そんなお上の政治的要求に巻き込まれたバルクホルンに坂本少佐は同情する。

「しかも事前に決められた役とか、台詞とか、
 服装とかに1つ1つ注文を収録当日、しかも将軍自らその場で言い出したのよ」

ミーナが呆れつつ事情を説明する。

「あー・・・うん、
 よく耐えたな、バルクホルン・・・」

坂本少佐が嘆息する。
自分だったら途中で激怒していたかもしれないと考える。
特に青春の全てをネウロイと戦っていたので感情を抑えられるかどうか自信がなかった。

「トゥルーデも始め収録を放り出そうと考えたみたいだけど、
 将軍の娘、アンヌのためなら・・・と思って頑張ったそうよ」

少し間を置いてからミーナが話を続ける。

「アンヌは私たちとそう変わらない歳だけど、
 難病を患っているせいで20歳まで生きれるかどうか、難しいみたいね」

「そんな事情があったのか・・・。
 では、ド・ゴール将軍は娘のために?」

「ええ、そうよ。
 せめて娘に良い思い出を残したい。
 アンヌは私たち「ストライクウィッチーズ」のファンだから」

「ファンなのか!」

坂本少佐が素直に驚く。

「・・・うん、だからトゥルーデは言っていた。
 ガリアの将軍ではなく父親の願いなら協力するのもありかな、と」

ミーナがテレビの電源を入れて、
ああでもない、こうでもないと騒いでいる隊員達を眺めつつ呟く。

「・・・バルクホルンは優しくて、頑張り屋さんだなミーナ」

バルクホルンの家族や親族の事情を知る坂本少佐が言う。

「当然よ、トゥルーデですもの。
 でも、あの子は内に溜め込む所があるから、守ってあげなきゃ」

ミーナと坂本少佐の視線がぶつかる。
その次に何をすべきか、何をしたいか?

「ああ、そうだな。
 守らなきゃな、私たちの家族を」

「うん」

言葉にせずともしたい事は分かっていた。
だからごく自然に互いの手を握り合い、互いの体温を確かめ合った。

「しかし、バルクホルンはどんな演出をするのだろうか?」

「聞いた感じ、
 本当に色々演じたみたいね。
 よくあるプロカンダニュース風とか他に・・・そういえば、一度だけ。
 脚本や将軍の注文ではなく、トゥルーデ自身が考えた演出をしたそうよ」

「バルクホルン自身が?」

今日はバルクホルンに驚かされるばかりだ、と思いつつ坂本少佐が問う。

「まあ、注文が多い将軍に頭が来たから勢いでやってみたそうだけど、
 かなり不真面目で意味不明、しかも後から思い出すと黒歴史確定、
 恥ずかしくて憤死しかねない代物でテレビ放映など絶対あり得ないだろう、
 絶対に絶対にあり得ない、こんな代物が放送されるなんてない・・・って言っていたわ」

バルクホルンが「やっちまった」「黒歴史確定」
「こんなの絶対おかしいよ」などなどブツブツ言っていたのをミーナは回想する。

「ははは、そう言うと気になってしまうな。
 おっ・・・どうやら、そのバルクホルンの放送が始まるぞ、ミーナ」

「あら、本当ね」

テレビを見れば「戦時国債は君を求めている!」というタイトルが出ていた。
他の隊員もバルクホルンが出てくる!と分かって食い張るようにテレビに注目する。

そしてーーーー。

『コンパクトフルオープン!鏡界回廊最大展開!
 Der Spiegelform wird fertig zum Transport――!
 はぁい、お待たせマイ・ロード!マイ・マスター、アンヌ!
 歌って踊れるウィッチにして魔法少女マジカル☆トゥルーデ、ここに参上!』

一同沈黙。

何か、あかいあくま。
いやいや、白黒テレビだから色などない。

兎に角、リリカルでマジカル。
またはカレイドなステッキ姿で可愛い服を着たカールスラント空軍大尉がいた。
可愛い少女がテレビに写っていた、というかゲルトルート・バルクホルンだった。

というか、大惨事だった。
黒歴史確定な大惨事であった。

「・・・・・・・・・えっと、誰?」

辛うじてミーナが思考停止状態から回復する。
部隊の隊長だけあって適応が早いが色々衝撃と刺激が強すぎるようで、
ミーナは身を乗り出してテレビに映っている長年の戦友をまじまじと見る。

『本当の名前はゲルトルート・バルクホルンだけど、
 クラスの・・・第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』のみんなには内緒だよ!』

「いや、バレバレだぞ・・・バルクホルン」

「ほ、本当にトゥルーデなのね・・・」

坂本少佐が真顔で突っ込みを入れ、
ミーナはバルクホルンに半休ではなく、
3日間ぐらい有給を取らせた方が良いのでは?と真剣に考える。

「あはははははは!!?
 何あれ?すっっっごく面白いし、
 トゥルーデってば結構ノリノリじゃん!!」

エーリカは長年の戦友が見せた滅多に見せない感情表現に喜び、心の底から祝福する。

「ぎゃはははははは!!?
 ひーひひひひひひひ、なんなんだよアレ?
 ヤバイ!お腹が、お腹が笑い過ぎて痛過ぎる、し、死ぬ―!!!」

シャーリーは笑い過ぎてソファーから転げ落ち、床でのたうち回っている。
なお似たような反応は『各国で』現在視聴中のバルクホルンの戦友たちもしていた。

そして蛇足であるが後日。
本国への帰国を拒否した代償、
さらにバルクホルンの「魔法少女には相方が必要、1人ぼっちはさみしいもんな」
という強い要請によりシャーリーもまた魔法少女デビューを果たすことになる・・・。

「にゃはははははは!!
 『魔法少女マジカル☆トゥルーデ、ここに参上!』うひゃ、うひゃはははは!!?」

なお、お子様なルッキーニは大喜びで決めポーズを真似している。

「た、大尉の意外な側面が見れて、
 その、えっと、勉強になりますわ・・・ほほほ」

ペリーヌは何とか内心の動揺を収めようとするが、口元がヒクついている。
後でバルクホルン本人を目撃した時、耐えれれる保証はなさそうだ。

「すっごく、可愛いです!
 しかも迷いなく堂々と振る舞えるなんて・・・。
 バルクホルン大尉は凄いです!戦闘でもあんなに強いし、本当に凄いです!」

だた1人、リーネだけは瞳を輝かせてバルクホルンに憧憬の念を抱く。
バルクホルン本人からすれば狩人の悪夢に放棄したい程、黒歴史な代物であったとしても・・・。

『トゥルーデ、お願い助けて!!
 ネウロイが欧州を、いいえ人類を脅かしているの!』

車椅子に座った少女が懇願している。
見るからに病弱で、身体が丈夫とは言い難い。

「あの子が、将軍の?」
「そうよ」

坂本少佐の確認にミーナが頷く。

『まかせて!・・・って、アレ?
 マスター!まずはこの戦時国債を買わなきゃ!』

『戦時国債?
 それって、課金でしょ!?
 お金なんかでネウロイを倒せるの・・・?』

不安そうに述べるアンヌ。
だが、どことなく楽しそうである。

『そんなことないよ、マスター!
 戦時国債で課金すればより多くのウィッチの命が救える。
 戦時国債で課金すればより多くのウィッチはもっと強くなる。
 これぞすなわちーーーー『ウィッチ・イズ・パワーシステム』なのだわ!』

渾身のドヤ顔でバルクホルンが宣言した。

「ちょっっっっ、ゲル、ゲルトお前。
 うははははははははは、何だよそのネーミング!
 卑怯だろその顔!!?つーか、意味わかんねーーーーよっっっ!!?」

「ももも、もう限界ですわっっっっ!!!?
 ひゃ、ひゃはははは、あははははははははは!!」

これを見てシャーリーがさらに大笑いし、
ついに限界を迎えたペリーヌが周囲を憚らず笑いの声を上げる。

「・・・前から思っていたんだが、ミーナ。
 バルクホルンも私と同じように軍隊生活が長い割に、
 多才で器用な所があるが・・・たまに斜め上の方向に・・・その、逝く時があるよな?」

「え、ええ。その、
 否定、できないわね・・・うん。
 普段はあんなに真面目で良い子なんだけど・・・」

なお坂本少佐とミーナの反応は、
やりたい放題、あるいは好き勝手し放題なバルクホルン見て黄昏っていた。

『って、残念だけどそろそろ時間ね!
 次回の「魔法少女マジカル☆トゥルーデ」は、
「焼き尽くせネウロイ!バーニングドラック!
 死戦の太平洋。信者達よ見るがよい、あれがパナマの続編だ!」なのだわ!お楽しみに!』

途中で国債を説明するアニメーションを挟みつつ、
バルクホルン、否。魔法少女マジカル☆トゥルーデは番組の終了を伝えた。

が、その内容は脳死寸前もしくは火の無い灰か、
ロスリック周辺をさ迷う亡者なタイトルで知らない人が聞いても意味不明な代物である。

だが確実に言える事実はたった今、この番組が終わった事。
そして、これが広告として「全世界」に公開されたことである・・・。

「あはははははははは!!
 トゥルーデ、もしかしてこの調子で続けるつもり!?」

「ヤバイ、ツッコミが追い付かないっっ!!?
 ぶっ、くははははは、なんだよゲルトそれは、あはははは!!」

「大尉っ・・・おほほ、あははははははっ!!?」

「うひゃははははは!!」
 
「次も楽しみです!」

さらに確実に言えるのはバルクホルン本人が知らぬ間、
501部隊の全員に見られ、知られてしまったという事実。

こうした一連の事実を受け入れざるを得ない、
バルクホルンの精神衛生が不安であるが致し方無しである・・・。


そして数時間後。
バルクホルンは事実を知り、
絶叫と共に頭を抱えてのたうち回ったのをここに記す。



 

 

 

 

 

 

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第36話「魔女たちのガールズトーク」

2021-01-24 22:42:03 | ヴァルハラの乙女
「ところでさ、大尉はネウロイをその辺に生えていた木を抜いて倒したって、本当か?」

夕方、4人でサウナに入っている最中。
エイラが唐突に懐かしく、あまり良い思い出ではない自分の過去を訪ねた。
人に好んで話すような物でないので知る人は限られており、エイラが知っていたのは、

「事実だ・・・。
 エイラの姉か?それとも僚機の方か?」

正式名称、第502統合戦闘航空。
通称「ブレイブウィッチーズ」には昔を知る古い戦友が3人もいる。
さらにエイラの僚機を勤めていたニパ、実の姉であるアウロラが所属している。

大方、雑談の最中。
自分のそうした過去話が出てきたのだろう。

あの時は妹クリスは避難船ごと海の底へと沈み、
育ててくれたおじさんやおばんさんはカイザーベルクの要塞で玉砕。

しかも兄的存在だった人も生存しているかどうか不明。
所属していた部隊、第52戦闘航空団のウィッチは毎日の消耗で戦死したり、
生きていても過労でダウンしたり、一時的に負傷したり、さらに他への補充などで戦力が激減。

何せ『あの』クルピンスキーまで過労で倒れたし、
ワタシが指揮する中隊で下手な士官よりも権威と実力を有し、
生き残る技術を教えてくれたロスマン先生も体力がないせいで一時的にダウンと最悪極まる状況だった。

『ネウロイの数に限りはないが、
 まともに動けるのは貴官の中隊だけだ・・・』

だけど、それでもまだマシな方だった。
フーベルタ・フォン・ボニン少佐、いや中佐か?
彼女が嘆いたように他の中隊は壊滅状態で動けるのは自分だけ、だがネウロイは無限湧き。

そんな日が続いたから心の余裕がなくなって来た。
徐々に精神が可笑しくなって来た。

だから半分やけくそ、投げやり。
生きることに価値を見いだせていなかったから、
エーリカとマルセイユを庇ってネウロイに撃墜されたのは当然で、死にかけた。

「・・・マジ?」

「大マジなんだ・・・。
 ネウロイに撃墜されて不時着。
 なんとか生き延びたけど武器は故障、しかも重症。
 だけど周囲にネウロイがいたから、木を振り回して必死に追い払ったんだ」

「・・・大変だったんだな。
 でも、本当にねーちゃん以外で、
 その辺に生えている木でネウロイを倒すようなウイッチがこの世に居たナンテ・・・」

事実と知ってエイラが呆然とする。
あの時、結局死なずに、死にきれず生きていた。
生きていると分かった途端、死ぬのが恐ろしくなってしまった。

そして同時にワタシがすべき事と為すべき義務を見出した。
すなわち1944年まで生きてこの世界の主人公である宮藤芳佳を支援し、守る事。

もしも捨てる命ならば、今ではない。
もしも捨てるなら自分ではなく宮藤芳佳を守るために、そう決意したんだ。

確実に、ネウロイを倒してくれる。
この世界を変えてくれる主人公である宮藤芳佳のために・・・。

「あ、あのバルクホルンさん!
 木って、その辺の木でネウロイをですか!?」

宮藤が困惑交じりに質問する。
まあ、それがごくごく普通の反応である。
普通はそれをしようと考える人間は馬鹿と思われる定めである。
ワタシは【原作】でそれを成し遂げた人物を知っていたからやったし、出来た。

が、知らない人。
当時の仲間や戦友たちからすれば、
日々ネウロイに追い詰められている中で成し遂げた愉快で痛快な快挙。
しかも『陸戦が専門でない航空ウィッチが地上でエースを成し遂げた』事実。

これに無理を押し通して救援に来た仲間は最初呆れたけど、
誇らしく、素晴らしい武勇だと絶賛、歓喜して士気が爆上げしたな・・・。

『扶桑語でも言おう。 
 事実だ、まちがない事実だ。
 私はかつてその辺の生えていた木を引き抜いてネウロイを殴打したり、投石で倒した事がある』

「え、えええ・・・」

わざわざ日本語。
ではなく扶桑語で言ってあげると宮藤は絶句する。
ブリタニア語、英語で聞き間違えたのわけでない事が判明したからだろう。

「もしかして投石でもネウロイを・・・?」
『ダー、そのとおりダ。サーニャ』

宮藤に説明するに際して、
投石するモーションを見せてたので疑問を抱いたサーニャの質問に答える。
昔、士官学校でオラーシャ語を学んでいたので今度は片言なオラーシャ語で回答する。

「・・・・・・すごい」

聞いたサーニャは、
と言えば眼を見開いて口をぽかんと開けて驚愕した。

「まあ、そういうわけだ。
 ところで502部隊からの手紙には他に何て書いてあったんだ、エイラ?」

話題を提供したエイラに視線を戻すと、
エイラは何故かびっくりした顔で固まっていた。

「エイラ・・・?」

「あ、うん。
 い、いやあ・・・大尉ってまず宮藤とは扶桑語。
 その次はサーニャとオラーシャ語で話をしていたから驚いてサ・・・。
 大尉は頭良いんだなって・・・あ、も、もしかしてスオムス語とかも話せるのか!大尉は!!」

固まっていると思いきや、
突然必死な態度でエイラが距離を詰めてきた。
近くで見ると・・・うん、やっぱ美人さんでこれからが・・・げほげほ。

「あー、エイラ。
 流石にスオムス語はまったく無理だ。
 精々、パスカ(畜生)、トゥータ(撃て)、
 ニュット・オスミ(命中)ぐらいしか知らないな」

前世で某ガールズなアレとか、
源文なアレとかで得た偏った知識を元にそう伝える。

「いや、それだけでも十分すごいよ、大尉!」

聞いた何故かエイラは上機嫌で喜んだ。

「そうか?」

「そうダヨ!
 スオムス語なんてブリタニアでは誰も知らないから、
 久々に故郷の言葉が聞けて・・・知っている人がいてくれて嬉しんダヨ・・・」
 
「エイラ・・・」

涙は出してはいない。
しかし、望郷の念を胸に抱いているのは見れば分かった。
思えばしっかりしているように見えてこの子は未だ15歳の子供。
そんな子供がたった1人、異国の空で外国人と共に命のやり取りをしているのだ。

「・・・なんだったら、
 時間があればワタシにスオムス語を教えてくれないか?
 今後の作戦の展開具合によっては必要に迫られるかも、だからな」

だから思わずそんな言葉を口にした。

「・・・大尉って、人良すぎダロ?」

聞いたエイラが嬉し気に、興味し気に、
そして笑いを噛みしめながらこちらを見る。

「まあ・・・結構そうかもしれない。
 『いくら戦友と言ってもあの人類悪、グンドュラに甘すぎる』
 とミーナからは割と何度も言われている・・・いや、毎回だな、うん」

古い戦友、グンドュラ・ラル。
出会いは軍の書類を改ざん、横流しの手伝いと最悪な物だったが、
それがまさか『いらん子中隊』に携わる出来事であったから当時は驚いたな・・・。

「ふふふ・・・毎回ですか?」

「毎回だよ、こう頭に角を立ててな、
 頬もミーナの赤い髪と同じくらい赤くして、
 『トゥルーデはエーリカに対してもそうだけど、甘すぎなのよ!』って」

サーニャの質問に対して、
自分の髪を掴んで角の形に見立て、
さらに口調もミーナを真似てそれっぽく言ってみる。

「ぶふぅっ!!?」
「ぷ、くくくく・・・あはははは!!?」
「ふふふふふ・・・」

この仕草を見た宮藤、エイラ、サーニャの順で全員が噴き出した。
どうやら、なかなか良かったようだが・・・次もやってみるか。

「『おはよう!宮藤。
  さあ、1に鍛錬、2に鍛錬、3、4以下略だ!』」

片目を瞑り、
髪の毛を掴んでポニーテールの形を作る。
表情も出来る限りドヤ顔、そして声も力一杯、迷いない口調で話す。

「こ、今度は坂本少佐っっ・・・!!?
 ふ、ふぁははははーーーーっ大尉、物真似上手すぎダロ!?」

「ひーひっひひひひ・・・。
 お、お腹が痛い、痛いです・・・バルクホルンさん」

「あ、あはははははは!!?」

坂本少佐の物真似を見て、
とうとう3人揃って大爆笑する。

エイラは耐えきれない、とばかりにサウナの壁を叩き、
宮藤は腹を抱えて絶えず笑っているし、サーニャまで大声で笑っている。

「く、くくく、あははは・・・」

いや、ワタシもか。
頬が緩んで口から笑い声が出ている。
思えば、素直にこうして笑ったのは久々な気がする。

「ひーひっひひっ・・・。
 バルクホルンさん、楽しいですね!
 ずっと、ずっと、こんな日がずっと続けばいいのに」

宮藤が何気ない一言を口にする。

「・・・ああ、そうだな」

内心を隠して当たり障りのない言葉を綴る。

君を、宮藤芳佳を守るために今日まで生きてきた。
君なら、必ずこの世界を変えてくれる。
だからいつ日か、わが身を犠牲にしても君を必ず守る。

最近はこの世界の行く末を見たい。
もっと生きてみたい、もっとエーリカや皆と共にありたい。

という願いはあるけどーーーー必ず、君を守る。

その変わらぬ内心を隠しつつ微笑んだ。





 

 

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幕間の魔女「勇敢な魔女たち語りけり」

2021-01-16 17:13:38 | ヴァルハラの乙女
1944年8月某日 サンクトペテルブルク 第502基地 司令官室


「やれやれ、どうして書類仕事ばかりなんだ?
 こうも座っているばかりでは腰だけでなく指も痛んでしまうな・・・」

机の上に溜まった書類の山と格闘しているグンドュラ・ラル少佐が独り言を言う。
明らかに統合戦闘航空団の長として処理すべき量を超越しており、酷使した指のマッサージをする。

「出世したからでしょ?
 だから僕は万年中尉で在ることを選んだんだよねー」

「へー大変だな、隊長職って」

「頑張ってねー隊長」

今日は何故か司令官室でたむろしている502部隊の問題児3人。
ヴァルトルート・クルピンスキー中尉、管野直枝少尉、ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン曹長。

以上3名が怪我を抱えている上司の独り言を切っ掛けに上司に対して休憩を促した上で、
お茶や珈琲の給仕を申し出るような気遣いなどせずあれこれ勝手な事を言っていた。

「・・・貴女たちねえ」

傍にいたエディータ・ロスマン曹長は問題児たちの言動に思わず頭を抱える。
誰もが勇猛果敢なウィッチで在ることは知っているが行動や言動がアレな傾向。
すなわち、世渡りに必要な礼儀作法について壊滅的であることをロスマンは再確認する。

「それは第501向けの機材。
 バルクホルン大尉のユニットをこっそり横取りした隊長の自業自得では?
 ノイエ・カールスラントの技術省、航空省、それと参謀本部から抗議が来ましたね。
 最新鋭の機材がよりにもよって『ブレイク』ウィッチーズが受領しているとは何事か、と」
 
アレクサンドラ・イワーノヴナ・ポクルイーシキン大尉がラル少佐へ粘りつくような視線を向ける。

この隊長がどこで学んだかは知らないが、
隙あらばあの手この手で違う部隊の補給物資を盗む技術は正しく達人、と言ってもよい。

ポクルイーシキン大尉、
もといサーシャはその事についてはむしろ責めない。
補給がなかなか来ない以上、戦場で生き残るためにはやむ得ないと考えている。

しかし今回は違った。
何時ものようにミーナから第501部隊向けの補給物資を盗んだは良いが、
盗んだ代物が未だ試験段階の実質バルクホルン大尉個人向けのユニットだったせいで誤魔化せず関係各所に露見。

結果、色々大変な事になり、
山のような始末書の提出と関係各所への詫び状やら何やらの提出が求められて今に至る。

それにしてもブレイブウィッチーズ、すなわち「勇敢な魔女たち」ではなく、
『ブレイク』ウィッチーズ、「壊し屋な魔女たち」と言われる辺りがこの部隊の評価を示している・・・。

「・・・流石に試験段階の最新鋭の機材を横取りすると事が大きくなりすぎるし、
 関係各所から責め立てられるし、恨まれてしまうな・・・うん、いい勉強になったな」

媚びない、退かない、省みない。
そんな単語を地で行く発言をラル少佐は口にする。

「自重してくださいね、色々大変だったんですから・・・」

「努力しよう。
 歌手を目指していたから声は美しいが『山賊航空団』
『盗賊航空団』などなどミーナの想像力豊かな語彙表現は聞き飽きたからな」

サーシャが懇願するがラル少佐に反省の色は見られない。
しかし、それにしても物は言い様と言うが家族当然な親友の機材を盗まれ、
怒り狂ったミーナの罵倒を「想像力豊かな語彙表現」などと言ってのける辺り神経が図太い。

とはいえ、補給が常に厳しいオラーシャの戦線。
カールスラント風に表現すると東部戦線では誰それの補給をガメるガメられるなど日常茶飯事であった。

「だが、Ta152の履き心地は最高だっただろ?」

表情を変えずにラル少佐が共犯者達へ問う。
ゲルトルート・バルクホルンという異世界TS転生者が意識、
無意識にこのストライクウィッチーズの世界へ干渉を続けた結果誕生した、

【史実】において究極レシプロ戦闘機と言われた存在ーーーーTa152の感想について部下たちに求めた。

「・・・まあ、そうですけど」

ラル少佐の問いかけに消極的だが賛同を示すサーシャ。

「あの加速力と操作の良さはいいよねー、直ちゃん」

以前一度人様のユニットを壊した前科者だが、
今回は奇跡的に壊さなかったクルピンスキーが称賛する。

「オレは扶桑のユニットの方が好みだけど、悪くなかったな」

「旋回性能も意外と悪くなかったし」と頷く管野。

「カールスラント製のは相変わらず、すごいよね!」
「あのタンク博士が設計しただけあって、なかなか良いユニットでしたね」

すっかりTa152に魅了されたニパとロスマンが絶賛する。

そう、第501部隊へ返却する前に新しい玩具。
もとい噂に聞くTa152を試着して使い回していたブレイブウィッチーズであった。
やはりミーナが罵倒したように山賊、あるいは盗賊航空団と改名すべきであるかもしれない・・・。

「しっかし、バルクホルン大尉って奴は羨ましいなー。
 あんな最新型のユニットを貰えるなんて・・・ウチの部隊とはえらい違いだ、上官が駄目なのか?」

「その部隊の上官が目の前にいるにも関わらずにか、いい度胸だな」

管野の呟きにラル少佐が突っ込みを入れる。
通常なら上官侮辱罪で拘置所行き確定であるが、
荒くれ者がいる第502部隊は上官を上官と思わぬ気風がすっかり根付いていた。

しかし、それでも精鋭部隊として一致団結してネウロイと戦える辺りが、
第501部隊のミーナとはやり方は違うがグンドュラ・ラル少佐の指揮運営能力の高さが伺える。

「バルクホルンはヤクザ者な僕らと違って、昔から真面目な方だからねー」

「はぁ!?お前と一緒にするな!!
 俺は何時だってネウロイに対して真剣勝負で挑んでいるぞ!!」

「そうだよ!伯爵と一緒にしないでほしいな!」

偽伯爵、もといクルピンスキーの言葉に壊し屋ウイッチ2名が反発する。

なお外野から見れば五十歩百歩。
すなわち3人とも果敢精神は良いが、
普段の行動に問題がありすぎるヤクザ者に違いや差異などない。

「ん?昔からって、事は・・・。
 もしかしてバルクホルン大尉の事を知っているのか?」

「知っているも何も、私たちと同じJG52。
 第52戦闘航空団に所属していたから知っているわよ」

菅野の気づきにロスマンが答える。
室内全員分のお茶を用意したようでお盆を手にしている。

「そうそう、懐かしいねー。
 出会って間もなくのバルクホルンは僕と同じ第6中隊所属だけど、
 内気せいかよく仲が良かった第2中隊のヨハンナと一緒にいたなぁ。
 あ、先生先生ー、僕は出来れば先生自身のミルクを飲みたい・・・うぁ!?」

クルピンスキーが口にした冗談への返答には脳天へ振り下ろされた灰皿であった。

「ちっ、外したか・・・」

灰皿を振り下ろしたロスマンが舌打ちする。
割と本気であったのが目つきを見れば明らかであった。

「・・・オホン、話を戻そうか。
 ともかく昔はそんな内気なバルクホルンは筋肉馬鹿な今と違い可愛かった、うん。
 カールスラントの北部カイザーベルク出身なせいか僕と違って肌が意外と白かったし。
 し・か・も肌の感触とか敏感で結構可愛い声を出してさ・・・あれは良かった、実に良かった。
 でも、僕が攻略しようにも本人のガードが固かったのと、ヨハンナがあれこれ邪魔をしたなぁ。
 だからお酒を飲ませて酔わせ・・・すみません、先生。謝るから灰皿を投げるような仕草は辞めてください」

再度話が脱線しそうになるが、
偽伯爵一番の弱点であるロスマンが無言で灰皿を投げる仕草を始めた事で本筋に戻る。

「内気ぃ?偶に出てくるニュース映画とかでは自信満々。
 というか、声とか結構伯爵より貴族らしくハッキリと話しているけどなぁ・・・?
 しかも相当な撃墜数を稼いでいるんだろ、隣に座っている伯爵のホラ話じゃないのか?」

「カンノの言うとおりかも、
 ワタシと違って視線とかしっかり前を向いていたし。
 どうせ偽伯爵閣下がしている何時もの大ぼらでしょ、分かるし」

「昔からそんな事をしてたんですか?
 ・・・はぁ、バルクホルン大尉も災難ですね、こんなのに絡まれて」

菅野と二パ、さらにサーシャが容赦ない判断を下す。
クルピンスキーへの扱いと信頼の無さが実によく分かる。

「『今日の』クルピンスキーが言っている事は事実よ。
 非常に、ええ、非常に忌々しいことに事実なのよね、事実。
 それとヨハンナ・・・ヨハンナ・ヴィーゼ大尉とはお揃いの軍服を仕立てる程度に仲が良かったわ。
 今でもお互い離れていても、その時の軍服とデザインを変えていないし、連絡を取り合っているそうよ」
 
ロスマンが『今日の』と一言追加することで普段はウソつきであることを一層強調する。
しかし、それ以外の話においてはどこか優しさと過去への懐かしさを帯びていた。

「へぇー、なんかいいな、それ」

ヨハンナの話を聞いた管野は素直に感心する。
常に一匹狼を貫いてきた自分とはまるで逆だが、
そうしたあり方については文学少女として何か思うところがあったのだろう。

「羨ましい?羨ましいでしょ?
 だから僕のおっぱいを揉んで元気出そうね、直ちゃん」

「なんでそんな発想が生まれるんだよ!!
 馬鹿かテメー!!いい加減にしないと殴るぞこの野郎!!」 

クルピンスキーの下ネタトークに菅野が激高する。

「え、だって。
 何時もは直ちゃんが揉まれる方だし、
 偶には揉まれる側になろうかな、って思っただけのに・・・」

「殺すぞ」

菅野がドスを利かせた低い声でクルピンスキーを睨む。
年も背もこの部屋にいるウィッチの中でも一番低いが湧き出る殺気は本物である。
大の大人でもこの殺意に当てられれば怯むことは間違いないが、クルピンスキーの様子は相変わらずである。

流石オラーシャ戦線を生き抜いたエースと称賛すべきなのだろうが、
人間としてはいい加減な極みでありながらも、空戦技術は部隊でもトップクラスな辺り世の中の理不尽である。

「相変わらず騒がしいな、お前たちは・・・。
 このままだとクルピンスキーが延々と話を脱線しかねないので、代わりに私が話そう。
 ゲルトルート・バルクホルンは強い、というよりも非常にタフで辛抱強いウィッチというべきだろうな」

「強いんじゃなくて、タフ?
 ワタシみたいに回復系の固有魔法があるの?」

二パが首を傾げる。

「そういう意味ではない。
 例えるならば同じランナーでも、
 お前たちが100メートル走の短距離ランナーに対して、
 バルクホルンは42キロの長距離を延々と走るランナーなんだ」

ラル少佐が断言する。
しかしバルクホルンを知らない聞き手達は頭上に「?」を浮かべている。
これを見てロスマンが「コホン」と咳をしてから補足する。

「純粋な空戦技術ではフラウ・・・。
 ハルトマンに劣り、射撃センスはマルセイユに劣る。
 だから出撃して一度に得られる戦果も2人よりも劣る。
 けど、2人よりも体が丈夫だから継戦能力が高く、連続出撃に耐えられる。
 そして目先の戦果や仲間の派手な功績に焦らず、
 毎日地道に少しづつ撃墜数を増やしてゆく我慢強さがあったわ」

「目先の戦果や功績に焦って、
 ユニットを毎回毎回破壊している誰それとは大違いですね!」

ロスマンの回想に対してサーシャが大声でバルクホルンを称賛する。
特に競い会うように機材を破壊するこの部隊の問題児3人を睨みつつ。

「うん、確かにそうだったね、
 今のバルクホルンは知らないけど、あの頃はそうだった。
 北アフリカでマルセイユが成し遂げた1日に17機撃墜といった派手さはなかったけど、
 1機、2機と毎日継続して少しずつ確実にスコアを稼いでいたよね・・・」

サーシャに睨まれ、
気まずそうに顔をそらしつつも過去を回想するクルピンスキー。
塵も積もればなんとやらで、バルクホルンの撃墜スコアは今や上から数えた方が早い。

「そうした慌てず、焦らず、戦うスタイルだから生き残れたかもね。
 あの当時・・・僕よりもずっと上手で、ずっと経験があったウィッチは山ほどいた。
 けどあの戦いの最中、技量や経験、そして才能なんて関係なかった。
 どんなに優れた戦果や功績を挙げても、肉体や精神が駄目になったウィッチから真っ先に死んでいった」

そしてかつての戦友を契機に、
脳裏の奥底に眠っていた悪夢のような記憶が蘇り、
クルピンスキーは1939年のカールスラント本土での戦いを言葉にして吐き出す。

「一度の出撃で未帰還率3割。
 なんてこともあったな、出撃3回で未帰還率9割だ」

「み、未帰還率3割だなんて・・・。
 そんな事、スオムスでなってたらウィッチが全滅しちゃうよ!?」

ラル少佐が口にした内容に二パが悲鳴を挙げる。
小国スオムスではただでさえ人口が少なく、
ウィッチはさらに貴重で少なく、ましてや空を飛べるウィッチはもっと少ない。

「国を失うような戦いとは、そういう物よ・・・。
 第51戦闘航空団なんて3週間で部隊の半分はいなくなっていたわ」

「まじかよ・・・」

「それは・・・」

暗い表情を浮かべたロスマンの語り口に菅野とサーシャが言葉を失う。
現在戦っているオラーシャ戦線も激戦であるが、それに劣らぬ激しい戦いであったのを知る。

「だからバルクホルンは目先の戦果よりも、生きて長期的に戦い続ける手段を模索していた。
 中隊長として部下を指揮するようになった時は、私と共に部下を如何にして生還させるかを議論したな。
 そしてハルトマンとマルセイユが来た以降は2人の援護と2人が生き残る方に重点を置いていたーーーー死なせないために」

「ええ、そうね。
 だからあの2人を守ってネウロイに撃墜され、
 体のあちこちに傷が出来てしまって・・・」

「自分は体が丈夫、
 と言っても無茶して皆を心配させたよね。
 特に妹さんを亡くしてからは一時期酷かった・・・」

ラル少佐、ロスマン、クルピンスキーの順でバルクホルンについて回想する。
外野を放置して語り合う様子に事情を知らないオラーシャ人、スオムス人、扶桑人は困惑と共に見守っている。

彼女らの肉体は1944年にあるが意識と精神は3人が共有する記憶、
あのカールスラント本土防衛戦、あるいは決戦の世界へと飛んでいたのだろう・・・。

「あ、あのさー。
 さっき「ハルトマン」と「マルセイユ」の
 名前が出てたけど・・・もしかして『あの』2人?」

カールスラントのエースウィッチ達がら出る重苦しい空気。
これを振り払うかのように、ニパがおずおずとながらも質問する。
予想が正しければ人類最強のウィッチが2人同時にバルクホルンの元に居たことになる。

「そうよ、貴女が言う『あの』2人で間違いないわ」

「やっぱり!あのエースが2人一緒いたなんて!
 あのエース達を指揮していたバルクホルン大尉って凄いなぁ!」

「・・・驚きました、
 同じ52戦闘航空団にいたのは知ってましたけど、まさか同じ中隊に所属していたなんて」

「撃墜数を気にしない俺でも知っている、スゲー奴じゃねーか!」

ロスマンの回答に対してニパとサーシャ、さらに管野が驚く。
彼女らからすれば世界的エースが供に肩を並べていた事実に興奮しているのだろう。
この若手ウィッチ達の素直な反応に昔を知るカールスラント人達は苦笑する。

「いやいや、あの当時2人はまだまだ新人。
 バルクホルンは自分より遥かに才能があると断言してたけど、
 まさかまさか、あそこまで大成するなんて僕は思わなかったよ」

苦笑と供にそう語るクルピンスキー。

「フラウ・・・。
 エーリカ・ハルトマンの初陣なんて・・・ふふふ。
 私をネウロイと勘違いして逃げ回った挙げ句、燃料切れで墜落したわね、ふふ」

長機としてエーリカの面倒を見てきたロスマンが懐かしそうに語る。

「マルセイユに至っては軍規と階級を気にしない性格がじゃじゃ馬なクソガキ。
 しかも自分よりも遥かに才能があるせいで、バルクホルンはかなり苦労していたな」

バルクホルンから指揮官としてのコツを何度も相談を受けたラル少佐が言う。

「い、意外ですね。
 あのエース達がそうだったなんて・・・」

「先生をネウロイと勘違いして逃げたなんて・・・」

昔を知る仲間から暴露された人類最強と言われるエースの真実。
その思いもよらぬ姿についてサーシャとニパが
驚いたり、驚愕する。

まさか新人時代の自分達と同じか、それ以上の失点をしていたとは思いもよらなかったのだろう。

「・・・バルクホルンって奴はオレとは全然違うタイプのウィッチだな」

黙って話を聞いていた管野がボソッと呟く。

「失望した、直ちゃん?
 ハルトマンとマルセイユの真実の姿、それとバルクホルンに?」

クルピンスキーが試すように、
挑発するように管野に質問を投げる。

「馬鹿言うなよ。
 全然そんなことはない。
 それで今日まで生き残って世界でもトップクラスなんだろ? 
 オレの知らない世の中の広さって奴を感じたし、なによりもーーーー」

間を置いて管野は言葉を発する。

「お前の戦友。
 バルクホルンはスゲー頑張っている奴だな。
 会えるんだったら一度会ってみたいと思ったぜ!」

「ーーーーーーーーー」

真剣に、迷いもなく、嘘偽りない告白。
我が強く、戦い方は狂犬のような猛々しさを発揮する。
そんな極東からやって来たウィッチの絶賛にクルピンスキーは言葉を失う。

「・・・うん、そうだね。
 会えるんだったら僕も、もう一度会いたいな・・・」

様々な感情が内心で混ざっているのを隠しつつクルピンスキーが思った事を口にする。

「会えた時、直ちゃんの事バルクホルンに紹介するね」

「おう、その時は頼むぜ!
 だが変な事言うんじゃねーぞ!」

菅野の太陽のような笑顔。
人種は違えど、クルピンスキーはその笑顔に見覚えがあった。

「うん、まかされた。
 その時はちゃんと直ちゃんを紹介するよ」

嬉しい時、悲しい時、つらい時。
その時間を共有したかつての戦友達の面影をクルピンスキーは思い出し、少しだけ笑った。



 

 

 

 

 

 

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第35話「魔女たちの無線交信」

2021-01-11 19:21:05 | ヴァルハラの乙女

ーーーーーー1944年8月某日 501基地 管制塔


『まてまて~~ちょこまかと、待てよナ~!』
『待てって言われても待ちません~~!!』

夜間哨戒任務に従事しているエイラと宮藤の声が無線から聞こえる。
どう聞いても任務に従事していると言うよりもじゃれ合っている声である。

『まったく、子供だなぁ・・・』

哨戒任務の責任者であるバルクホルンは、
2人が明らかに遊んでいるいるにも関わらずこれを止めず見守っていた。
宮藤が人生で初めて経験する夜間飛行を良い思い出にしたい、という配慮が働いていたのだろう。

特に自身がかつて必要に迫られて慣れない夜間戦闘を経験し、残酷極まる都市空襲を目撃したがゆえに。

「宮藤さん、楽しんでいるみたいね」

ミーナがバルクホルンとの無線の交信を始める。

『ん?ミーナか。
 こんな時間までお疲れ様だな。
 宮藤もだがエイラも楽しんでいるみたいで見ていて飽きないな』

「確かに、エイラさんが胸の事以外であれ程はしゃいでいるなんて初めて聞くわ・・・」

『・・・・・・言われてみればそうだな』

ミーナのぼやきにバルクホルンが同意する。
問題児のルッキーニと共にエイラが隊員の胸を揉むことに情熱を注いでいるのは周知の事実であった。

『でも、ワタシは嬉しいな。
 エイラもああして楽しんでいるのは』

「そうね、無線越しだけど、
 こちらにも楽しさは十分伝わるわ」

スオムスが誇るスーパーエースだが口数少なく、ミステリアスな容姿。
一体何を考えているのかよく分からないエイラが年相応の遊びに夢中になっている。
これに戦争の地獄と生死を経験した2人の心に温かい何かが宿り、優しくエイラを見守っていた。

『ところで、ミーナ。
 ワタシとエーリカで休みを貰えないか、半日でもいいから』

「構わないけど、珍しいわね?
 貴女の方から休みが欲しい、って言うなんて・・・?」

仕事熱心なバルクホルンの申し出にミーナが疑問を抱く。
ネウロイと戦う事だけが仕事でない事をよくよく理解しており、
必要な事務手続き、資材の調達、根回し、その他諸々の雑用を熱心に行い、
結果、ワーカーホリック気味なバルクホルンからまさかの休暇の申請である。

『最近ちゃんとエーリカの相手をしてやれてない気がしてな・・・』

「あらあら」

申し訳なさそうに言葉を綴るバルクホルン。
ミーナはこれに新人教育や任務で忙しいから仕方がない、等と言った慰めの言葉を言わなかった。
そんな言葉をバルクホルンは求めていないのは付き合いが長いミーナには理解できていた。

『エーリカは何ともないように振る舞っているけど、
 寂しがっているかもしれないし、その、なんだ、少しは遊んでやらないと』

モゴモゴと言いづらそうに言葉を綴る。

「ふふ・・・」

社交的で仲間思いであり「ロスマン先生は合法ロリ先生でエロい」
など馬鹿な事を口走る程度に馬鹿騒ぎをするが根っこの部分は意外と内気。

真面目で力持ちであるが、
心優しくも実は恥ずかしがり屋で素直でない性格。
長い付き合いであるが変わらぬ友人のあり方にミーナの口許が綻ぶ。

「あら、実はトゥルーデの方が寂しいのじゃないの?
 貴女の方からフラウ、エーリカに寂しいから付き合ってくれ、と言うとあの子は喜ぶわよ」

『・・・否定はしないが、
 そう言うとエーリカが調子に乗るし、何よりも面と向かって言うのが恥ずかしい』

つい茶々を入れるミーナ。
バルクホルンはこれに否定せず積極的な賛同もしなかったが図星のようである。

「貴女はいつもそうね、
 でもトゥルーデの美点よ、
 素直じゃなくても皆のために一生懸命な所」

『ヨハンナだけでなく、
 ミーナからもそう誉められると嬉しいな』

志願したのは良いが右も左もよく分からない軍隊生活。
しかも異世界TS転生者で今以上に抱いていた【本物の】ゲルトルート・バルクホルンとは違うというコンプレックス。

そんな中で出会い、ミーナやエーリカと出会う前の軍隊生活で出来た最初の友人。
ヨハンナ・ヴィーゼの名前をバルクホルンは口にした。

「私はヨハンナ以上に何度もトゥルーデの事をそう誉めているけど?」

『何度も叱責されるのは嫌だが、
 誉められることは何度聞いても飽きないだけだよ、ミーナ』

古い友人と比較されてミーナは少し意地悪な問いかけを投げる。
が、バルクホルンは上手な切り返しを披露した。

『それより話は休みの方に戻るが、
 噂の大陸反抗作戦が発動されるとすれば8月後半から9月。
 時期的にもう間もなくだから・・・今の内に一緒にいてやらないと』

その言葉はミーナやバルクホルン自身ではなく、
ドーバー海峡の向こうにある欧州大陸、そして遥かなる祖国へと視線と共に向けられていた。

「・・・休みなさい、許可します。
 それと今後ローテを組んで他の隊員達にも順次休ませます」

9月以降欧州の天候は曇りや雪ばかりとなり、
上陸作戦における航空支援が不可能ではないが厳しい情勢となる。
しかも海が一気に冬模様、冬の荒れた海へとなってしまい上陸どころでなくなる。

月日は現在8月。
6月が先送りされた以上、今年最後の機会は9月と誰もが肌で感じていた。

そして一度作戦が発動すれば休む暇などなく、
必ず誰かが死ぬことををミーナはよく知り、経験してきた。

『休みのローテが組めるほど隊員が増えたのか・・・。
 以前は戦力も不足気味、あっても隊員同士の信頼と信用が不安定でおちおち休めなかったけど』

「そう考えると随分人が増えたわね」

少し暗い感情に囚われそうになったミーナ。
狙ったのかどうかは分からないがバルクホルンが次の話題へ移行させた。

『最近シャーリーが問題児のルッキーニの面倒を見てくれているお陰でルッキーニはかなり落ち着いて来てる。
 加えてシャーリー自身も部隊の纏め役である少佐、ワタシの次に指揮官そして将校としての自覚が出来つつある。
 ペリーヌは空回りする点がまだあるが、空戦技術に通常のデスクワーク系の仕事もキチンと出来るようになったな』

「それにリーネさんと宮藤さんが戦力としてかなり使えるようになったのは大きいわね」

501部隊の幹部3人に加え、
スオムスのエースであるエイラ。
口数が少ないが仕事を確実にこなすサーニャ。
人類トップクラスのエースに成長しつつあるエーリカ。

など戦力として安定している合計6人を除く他5人の成長ぶりについて想いを馳せる。

「・・・ようやく、ストライクウィッチーズらしくなって気がするわね」

『ああ、ようやくだな。
 長かったな、本当に・・・』

統合戦闘航空団の設立を思い付いたのは1941年。
様々な手続きや根回しを経過し正式に設立されたのは1942年。

1941年から数えれば3年の歳月がすでに経過していた。

発案者であるミーナと手助けしたバルクホルンが流れた月日の重みに対して感傷に浸る。
特にバルクホルンはようやく【原作】開始までたどり着けた事実に対してミーナ以上に感傷に浸っていた。

『そういえばミーナ、エーリカを見なかったか?
 離陸する前、格納庫にいたのは気配で分かっていたけど姿が見えなかったんだ』

「・・・いいえ、見なかったわ」

バルクホルンの質問に間を置いてミーナは答えた。

『そうか、だとしていると寝ているのか?
 ズボラな本人の性格という点もあるがエーリカは身体が小さいから疲れやすいし、
 小さいせいでスタミナと体力、精神力を消耗した後の回復速度が遅いからな・・・』

筋肉馬鹿でスタミナ馬鹿なワタシと違って、と言葉を綴る。

「心配してるのね、エーリカの事」

エーリカの事を予想以上によく見ていたバルクホルンに対して、
ミーナは微笑ましさと同時に嬉しさを覚えつつ、言葉をさらに綴る。

「ああ、エーリカ・ハルトマンは、
 ワタシの僚機で戦友でなによりもーーーー共に飛び続けたい友達だから」

バルクホルンの声は軍の大尉や、
最近スコアを伸ばしつつある撃墜王でもなかった。


ーーーーそこにいたのは友達の身を案じて、照れ臭そうに笑う一人の少女であった。


『・・・って、ミーナ!
 今の言うなよ!エーリカには言うなよ!
 エーリカが聞いたら絶対に調子にのる!間違いなく!!』

普段言わない本心を自ら暴露したのに気づいたバルクホルンが早口で捲し立てる。

「はいはい、言いませんよ。
 でもさっきも言ったけど、エーリカに直接言ってあげた方がいいわよ」

『・・・分かるけど、それでも恥ずかしいんだ』

無線越しの音声でも顔を背けているのをミーナは見ずとも把握できた。

「楽しいわね・・・」

ミーナがバルクホルンに聞こえないようにそっと呟く。
昼間よりもずっと濃密かつ充実した楽しい会話の時間。
もっともっとバルクホルンと話をしたい誘惑にミーナは惑わされる。

「こちらはそろそろ消灯時間ね。
 私の方は先に寝るから、お休みなさい、トゥルーデ」

『ん、良い夜をミーナ』

しかし、楽しい時間ほど直ぐに過ぎ去ってしまう物であった。
消灯時間を理由にミーナがバルクホルンに別れを告げると無線の交信を終了させた。

「・・・さて、エーリカ。
 貴女、トゥルーデの事は何でも知っている。
 って、言っていたけどトゥルーデも貴女の事を知っているみたいよ」

「えへへへ・・・なんか嬉しいな」

ミーナが振り返った先にはバルクホルンが何度も直接言うのが恥ずかしい、
と言っていた当の本人、エーリカ・ハルトマンがいた。

「貴女がここにいたのはトゥルーデには内緒よ、いいね?」
「うんうん、分かっている。分かっているって」

口元に指を立てて静かに、のジェスチャーをするミーナ。
エーリカは上機嫌で頷く。

「少し前まで思い詰めていたけど、最近トゥルーデはシャーリーと仲が良いし、
 さっきもしてたけど宮藤がトゥルーデをいい意味で引っ掻き回しているから安心だよ」
 
「ええ、みたいね」

ミーナとエーリカは離陸前の格納庫で宮藤とバルクホルンが交わした会話について既に知っていた。
聞いた時は呆れると同時に、思わず腹を抱えて笑ってしまったのもつい先ほどだ。

「本当に、よかった。
 トゥルーデには長生きしてほしいから・・・」

エーリカが雲ばかりの夜空を見上げる。
物理的には何も見えないが、心は雲の向こうにいるバルクホルンを見ていた。

「貴女もそうよ、エーリカ」

「うん、分かっている。
 でもミーナだって同じだよ?
 ーーーーだから3人で一緒に長生きしようね」

エーリカの青くて綺麗な瞳。
汚れを知らない純粋な瞳がミーナを貫く。
長生きする、たったそれだけでも戦争では如何に難しいかをミーナは知っている。
何も悪さをせず、運命の悪戯であっという間に命を落とす事をミーナはよく知っている。

だからミーナは、

「・・・ありがとう、エーリカ」 
「へへ、どういたしまして」

大切な戦友が口にした願いへの返答として、感謝と共にミーナは抱きしめた。
身体は小さいが、聡く、熱い心を胸に抱く大切な友人、エーリカ・ハルトマンを力強く抱きしめる。

「ねえ、エーリカ。
 今晩私の部屋に来ない?」

抱きしめたまま、ミーナがエーリカを自室へと誘う。
エーリカとはさらに語り合わねば眠れそうになかったからだ。

「え?でも坂本少佐が来るんでしょ?」

話していないにも関わらずエーリカはミーナの予定を把握していた。
この子には隠し事なんて無理かもね・・・とミーナは心の中で自嘲する。

「問題ないわ、むしろ美緒ならエーリカと話せることを喜ぶわ。
 ・・・それに実はロンドンの司令部に行った時、扶桑の遣欧艦隊からお菓子を頂いたのよ。
 一緒に食べましょ、以前トゥルーデが手に入れて一緒に食べた間宮の羊羹・・・エーリカも好きでしょ?」

「マミヤの羊羹!?うん、食べる!」

「マミヤの羊羮」と聞いてエーリカがはしゃぐ。
元々は欧州に展開する扶桑のウィッチのために「間宮」は菓子を提供していたが、
今ではリベリオン、カールスラント、ブリタニア等各国のウィッチ達にも名が知られる有名な存在で、
『あの』間宮の羊羹だけでなく、抹茶アイスに最中、などなどエキゾチックな東洋のお菓子に皆夢中となっている。

「今夜は楽しみだね!」
「ええ、楽しみね」

ミーナとエーリカが手を繋いで管制塔を後にする。
同じ国でも出身地が違い、生活様式が違い、年も僅かに違う2人の組み合わせ。

ネウロイとの戦争が無ければ出会わなかった2人、
否バルクホルンも加えれば3人が出会うことなどなかっただろう。

しかし3人は出会い、異国で苦楽をずっと共に過ごしてきた。
平和な時代なら出会うはずのなかった3人の間には、今や固い絆と友情で強く結ばれていたーーーー。




 

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第34話「芋大尉の夜間哨戒」

2021-01-07 22:19:47 | ヴァルハラの乙女
「天気は曇り、
 予想通り悪いな・・・むぐ」

「ほふ・・・ん、そうだな。
 初めて夜を飛ぶ宮藤には荷が重いかもだぜ、ゲルト」

たっぷりケチャップとマスタードを効かせたホットドックを噛る。
シャーリーがワタシ達のために作ってくれた夜食を食べつつ、飛行計画について語っている。

「で、味はどうだいゲルト?」

「なかなか美味しいな。
 特にコーラと一緒に飲んで食べると更にいい」

如何にもアメリカ・・・ではなく、リべリオン!
な豪快かつ分かりやすく味付けてあるが、なかなか美味である。

しかも美味な上に懐かしい味がする。
醤油や味噌ではない味とコカ・コーラに懐かしさを感じるのは何故だろうか?

「そう言ってくれると嬉しいなぁ!
 機会があれば今度は肉汁たっぷりなハンバーガーを作るぜ!」

「ーーーーハンバーガー、か」
 
ハンバーガー。
この単語で前世の記憶が甦る
そう、これはフライなチキンや某道化師といったファーストフードの味だ。

「それは、それは楽しみだな、どんな味か」
「任せておきな!」

いつかまた、あの懐かしい味を食べられる日が来るだろうか?
いや、必ずその日まで生きてワタシの知らない「ストライクウィッチーズ」の未来を見てみたい、な。

「ゲッホ、ゲホ・・・。
 な、なんですの、この黒い炭酸水は・・・?」

「えー、結構おいしいにの?
 ペリーヌ、好き嫌いしているから胸もペッタンコーかもー」

「な、なんですって~~~!?」

なお、夜間哨戒組以外の一部隊員。
管制塔にいるミーナと気配は感じるが姿が見えないエーリカ以外の全員が格納庫に集い、

シャーリーが作ったホットドッグを各自の流儀で堪能している。
例えばペリーヌはコーラという野蛮なリべリオン的飲料に慣れてないようでルッキーニにからかわれていた。

で、だ。

「あ、あの。芳佳ちゃん。
 なんでずっと私の方を見てる・・・?
 そんなに見つめられると恥ずかしいよぉ・・・」

宮藤がリーネのホットドックを食べている仕草を熱心に観察していた。
まあ、何時もの宮藤なのだがら仕方がないといえば仕方がない。

「私の視線なんて気にしないで、リーネちゃん。
 私、ありのままのリーネちゃんを見ていたいだけだから!
 だからもっと脇をギュッとして、もっと胸を強調しながら食べて!」


「・・・・・・え、えぇ」

その視線が何処に向かっているのか、何を想像し妄想しているのか、
見られているリーネ自身理解できているようで、力説する宮藤にリーネが引いている。

「・・・本当にブレないよな、宮藤の奴」
「・・・そうだな」

宮藤の正直すぎる態度に、流石のシャーリーも呆れていた。
というか宮藤、昼間に「気まずい」と言った癖にまるで反省していないなあ!?
逆に自重しなくなってないか!?ワタシでも引くぞ!これは!!?

「流石に注意した方が良くないか?
 あれじゃあ、やり過ぎだしリーネが可哀想だろう」

真剣な表情でシャーリーがワタシに対して言う。
以前のように「プレッシャーに負けて部隊を去る予定の半人前」とは見ておらず、
リーネをエースウィッチと共に肩を並べるに相応しい仲間として認め、心配している。

「問題ない、もうすぐ少佐が宮藤の弛んだ頭を絞め直しに来る」

対淫獣最終兵器である坂本少佐の名を挙げる。
戦機に長ける少佐だから、即座に反応して制裁を下すはずだ。

「ほう、宮藤。
 どうやら未だ寝惚けているようだな・・・」

言っている傍から坂本少佐が宮藤の背後に立つ。
宮藤が何をしていたかも既にお見通しで言い逃れはできない。

「いえ、いえいえいえ!
 そんな事ないですよ坂本さん!?」

顔を青くして必死に否定する淫獣宮藤。

「問答無用ー!!
 その根性を修正してやる!腕立て50回始めー!!」

「ひぇええええ!!?」

が、そんな言い訳が通用するはずがなく、
少佐の罵声と淫獣の悲鳴が同時に木霊した。

「流石少佐だ」
「だろ」

シャーリーの感心に対してウィンクする。

「しっかし、本当に暗いな。
 せめて月明かりがあればよかったけど宮藤の奴、大丈夫か?」

再度宮藤の身を案じるシャーリー。
確かに格納庫より外は完全に真っ暗である。
ワタシが知る21世紀の世界と違い電気という文明の灯火は弱く、近場にある街の明かりすら見えない。

「大丈夫だ、今回は軽く飛ぶだけ。
 雲さえ抜けてしまえば月明かりと雲海の景色を楽しめるさ」

軽口を呟きつつ、
安全確認と離陸の準備に入る。

「それに離陸時には手を繋いで飛ぶつもりだからな、問題ない」

ヨシっ!と指さし確認しつつさらに言葉を続けた。

「・・・やっぱり優しいな、お前」

何かを悟ったような、
或いは何か尊くて眩しい物を見たような、
何時もとは違う表情をシャーリーは浮かべている。
らしくないな、そんな辛気臭い顔なんてシャーリーに似合わないのに。

「大した理由なんてない。
 ウィッチとして正規の教育を受けず、
 つい最近まで友達と学校に通っていたような子だ。
 ワタシみたいに志願して、頭の先からつま先まで戦争と破壊で一杯なのとは違う」

目を瞑れば思い出したくない光景と思い出が時々出てくる。

海行かば水漬く屍。
山行かば草生す屍。
街行かば燃ゆる屍。

そんな修羅の世界をワタシは知っている。

「飲み込みは速いし、
 努力家なのはよく知ってるが、
 近代国家の兵士、軍人として宮藤の才能は落第点だ」
 
だからこそ。
ずっと、ずっと待っていた。
この世界を救ってくれる主人公の到来をずっと耐えて待っていた。

けど、実際に会い。
宮藤芳佳という人間を知るにつれて分かって来た物がある。

「しかし才能はある、ウィッチとしては間違いなく。
 あり過ぎてウィッチとしてネウロイと戦う修羅の道。
 以外の選択肢を周囲が許さないほどの才能を秘めている。
 あの子----宮藤芳佳は父親の愛に飢えているただの女の子にすぎないのに・・・」

【原作】では主人公の演出としてその並外れた力を描写されていた。
さらにはあのおっぱい星人ネタを視聴し、読んで、見て、聞いた誰もが笑った。

だけど、根っこの部分。
ウィッチとして戦うことを決断したのは、
「行方不明となっている父親の意思を継ぐため」という事実について忘れがちだ。

ワタシはその事実をあの子と一緒に訓練し、
空を飛び、共に食事をする中で何度も突き付けられた。

父親の意思を継ぐーーーーという形で、
父親の愛情を確認しようとしている、ただの幼い女の子である事実を。

「ミーナ隊長にハルトマン中尉といい、
 カールスラント人はお人好しでよく見てるな、みんなを・・・」

聞いていたシャーリーが優しい音色を含ませた声を出す。
瞳にあの元気溌剌さはなく、代わりに慈愛と共に潤ませいる。

いや、まてまて。
ワタシはそんな大層な人間じゃないぞ、シャーリー。

それにだ、

「何を言っている?
 そういうシャーリーこそ普段からルッキーニの面倒を見ている上に、
 さっきから、宮藤~、宮藤は大丈夫か~と心配してばかりじゃないか?」

こちらの言葉に虚を突かれたのか、
シャーリーは目をパチパチと瞬く。

「ふっ、そうかな?」

そして顔を背けて疑問を呟く。
大方、恥ずかしいのだろう。
分かりやすい奴だな。

「そうだよ、シャーリー。
 それにエーリカもそうだが、
 シャーリーは笑っていた方が嬉しいな」

「そうかい、照れるな」と呟きシャーリーは笑った。
さて、もう少し話をしていいけど宮藤達の準備も終わったようだし、行くか。

「そろそろ、行ってくる」
「おう、行ってこい」

シャーリーと交わす言葉はこれだけで十分だ。
ストライカーユニットを起動させ所定の位置まで滑走路上をゆっくりと移動する。

「宮藤、ほら。
 手を握れば怖くなんてない」

「バルクホルンさん・・・」


予想通り夜の空に震えていた宮藤の手を握る。
夜の飛行を本気で怖がっているのは、手に伝わる震えから分かる。

「・・・こっちの手も握ってみる?」
「え・・・いいの!サーニャちゃん!」

『あの』サーニャからの意外な申し出。
これに宮藤だけでなく格納庫にいた他の隊員もどよめく。
かくいうワタシも正直かなり驚きである。

「サーニャちゃん、ありがとう!」

笑顔を浮かべた宮藤がサーニャの手を握った。
これで宮藤の左右はサーニャとワタシではさまれる格好になったが、

「・・・お、面白くないゾ!!
 私だけ除け者じゃないかよ、ずるいぞ!」

結果、エイラが除け者になるような形になる。

「だったら、エイラの方からサーニャの手を握ればいいじゃないか?
 ・・・それとも恥ずかしいから命令して欲しいのか、ユーティライネン少尉?」

憤慨するエイラに対して冗談半分。
あるいはからかい半分で言ってみる。
さて、どんな反応が来るか楽しみだなーーーー。

「え、いや。でも、その、
 私はしたいし、命令でも全然大丈夫だけど、
 サーニャが嫌がるかもだし、あっと、えっと・・・その」

なんかモジモジとするスオムスの妖精がそこにいた。
恥ずかしいのか耳まで赤くしている可愛いJCがそこにいた。

・・・何だこの可愛い美少女は(驚愕)!!
くそ、見てくれは部隊でもトップクラスなせいでエイラが美少女に見えるぞ!?
というかエイラ、お前・・・本当っっっっっに、ヘタレだな!!?

「すまない、サーニャ。
 見ての通りエイラがアレだから、
 そっちから手を握ってもらえないだろうか?
 面倒なら拒否しても、放置してもどっちでも構わないが」

「バルクホルン大尉。
 大丈夫です、エイラがヘタっ・・・。
 不器用なのは分かっているから、問題ありません」
 
「・・・そうか」

サーニャに耳打ちしたが、
よもやサーニャの口から「ヘタレ」と言いかけたような気がするが多分気のせいだ。
この子に限って恋と戦争に手段を択ばぬブリテンの精神を引き継ぐ黒リーネのような進化なんて来るはずない、多分。

「エイラ・・・握るね」
「ひゃ、ひゃい!!」

握る、というより触れた途端にこの反応である。

「・・・エイラ、嫌だった?」
「あ・・・違う、そうじゃなくて・・・」

そろり、とサーニャが手を離す。
エイラはこの世の終わりかのごとく、悲壮な表情をしている。

「・・・そう、だったら今度はちゃんと握るね」
「ふぉおううう!?」

今度はサーニャがしっかりとエイラの手を握る。
握られた側は幸福とか夢が実現したのか実に幸せそうである。
なお、表情と音声はMADの素材にされそうな愉快極まった代物であるが。

「バルクホルンさん、バルクホルンさん。
 ーーーーエイラさんって、頭大丈夫ですか?」

今まで見たことがないエイラの百面相を目撃した宮藤が、
真剣かつ大真面目に、今日のお前が言うなぶっちぎり№1な台詞をこっそり呟いた。

「・・・人様にそんな事を言っては駄目だろ。
 それと鏡を見ろ、鏡を見た上で自分の胸に手を当てて考えてみるんだ、宮藤」

「胸に・・・」

「ワタシの方じゃないっ!!」

「でも、自分の胸なんて触っても見ても面白くありません!!」

「・・・分かった、もういい。
 分かったから一旦胸の話は忘れろ・・・」

視線をワタシの胸に全集中させている淫獣がいた。
この胸に対する情熱は何なんだ、この子は・・・意味が分からないよ。
離陸する前になんだか疲れて来たな・・・。
 
「・・・エイラさん。
 まさか貴女がそんな面白い方だとは思いませんでしたわ、おほほほほ」

「エイラさんって、
 そういう人だったんですね・・・。
 何だかとっても親近感が湧きました!」
 
「エイラのヘッタレ―♪」

「へー、エイラ。
 お前結構初心なんだなー」

「わっははははは!
 そんなヘタレでは駄目だぞエイラ!!」

なお外野といえばペリーヌ、リーネ、ルッキーニ、シャーリー、
そして坂本少佐の順で一斉にヘタレだのやいのやいのと言いだしている。

「う、う、ううう、
 うるさいゾーーー!!そこっ!!?
 ほら、行くぞ!こんな所でグダグダしてないでさっさと離陸するゾ!!」

「エイラの言うとおりだ。
 これ以上ここにいると疲れが溜まりそうだ」

エイラの言葉に全力で同意しつつ、
ストライカーユニットを起動させ、離陸のために加速させる。
エイラとサーニャはワタシが加速を始めた時点で魔導エンジンを起動させ、同じように加速を始める。

空も海も滑走路も全て真っ暗で何も見えないが、やる事はいつもと同じで騒ぐこともない。

「ちょ、ちょ心の準備が・・・は、初めてなのに・・・。
 わぁあああああ、エイラさんとバルクホルンさんのエッチーーーー!!」

「何でダヨっ!!?」

「誤解を招くような発言はやめろ!?」

もっとも1人の例外を除き、という但し書きがあった。
覚悟が決まっていない宮藤が非常に誤解を招くであろう叫び声を挙げている。

兎も角、色々締まらないまま夜の空へと飛び立った。

コメント
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