二次元が好きだ!!

SSなどの二次創作作品の連載、気に入ったSSの紹介をします。
現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

第6話 回想と後悔

2013-04-26 22:17:16 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

「......あれ?」

眼がさめる。
ここはアルクェイドのマンションでもホテルでもなく、どうやら自分の部屋のようだ。
やや眩しさを覚え、外を見れば既に太陽が斜めに上り朝日の光が部屋を射していた。

しかし、まだ頭はぼんやりとしており。
昨日のことがよくよく思いだせない。

「おはようございます志貴さま。」
「うわぁ!!」

横から突然の乱入者。
声の主は誰かと思い振り返れば翡翠がいた。
何時もと変わらぬ表情で・・・いや表情が微妙に違う。
なんというか、やんちゃをしたことに対して責めるような眼をしており、ついでに不機嫌そうだ。

「なぁ、翡翠。もしかして俺なんか変な事をした?」

「それは志貴さま自身の身がご存じのはずです。
 特に秋葉さまがここ2日のことをお聞きしたいのでテコを使ってでも連れて来るように、との事です。」

......は、はははは。
しまった、そういえば2日も学校を休んであげく音信普通だった。
ただでさえ秋葉の奴は門限にうるさいにも関わらずこの始末とくれば。

「......もしかして、秋葉のやつ怒っている?」
「さあ、それはどうでしょうか。それは志貴さま自身が確かめてください。」

藁にも掴む思いで翡翠に秋葉の様子を尋ねたがその返事はいつも以上に素っ気なかった。

「た、頼む翡翠!!
 怒った秋葉を俺一人で対応することなんてできない。
 助けてくれ翡翠、この通り出来ることならなんでもするから!!」
 
朝っぱから手を合わせて拝むようにメイドに頼る主人がここにいた。
というか俺だった。

そして主人に頼られたメイドこと翡翠は俺が見た所、
なんでもする、という言葉に一瞬だけ瞳に光が灯り期待感を抱かせたが、

「――――――お断りします。」

翡翠は無表情でなおかつきっぱりと切り捨てた。

「それに志貴さま、失礼ながら申し上げますと、
 一度志貴さまは秋葉さまにとことん絞られるべきだと思います、私の分も含めて」

ジト眼で痛いところを突かれた。
どんな理由があれ彼女たちを心配させたのは紛れもない事実。
いい加減逃げずに潔く秋葉に怒られるとしよう。

「ああ、そうだな。わかったよ、
 今すぐ行くから秋葉にはできるだけ落ち着くよう言ってくれないか?」

「分りました秋葉さまに伝えます、では失礼いたします」

ペコリと一礼して翡翠は去って行った。
はぁ、せいぜい秋葉が冷静になるように祈るしかないか。

「・・・?」

ふと妙な臭いを感じたが、薬品の匂いが体から出ていた。
視線を下に向けて両腕に巻かれた包帯を見てようやく昨晩の出来事を思い出す。

「弓塚・・・。」

あの時―――――。




※※※




「ふふ、先輩。今なら見逃してもよくってよ。」

悠然と俺たちに向かって歩いてくる弓塚。
足を切られた先輩と俺たちを見下すように彼女は嗤っていた。
普段の冷静だがどこか抜けた雰囲気はなく、彼女からは禍々しさ感じさせなかった。

公園の広場の周囲は先ほど倒したネロの残骸、
さらに俺や先輩から出ている血の匂いが立ち混めている。

普通なら思わず吐き気をもようす光景だが、不思議と何も感じず。
俺自身が無意識に行ったあの殺人技巧といい、俺は異常な人間なのかもしれない。

だがそれ以上に異常なのは弓塚だ。
昔から女性的な趣味、行為を苦手としていたが今は違う。
血に染まった指を舐める仕草と言い、まるで男を誑かす毒婦のようだ。
そして彼女の瞳孔は猫のように縦に割れ、瞳を金色に輝かせており――――吸血鬼になってしまった事を証明していた。

「ふぅん?だんまりなんだぁ」

弓塚はニヤニヤと笑いつつ先輩を嘲る。
胸元にいる先輩は俺が知っている先輩とは違い弓塚を殺意と敵意を込めて睨んでいる。

「化け物、が」
「化け物?ふふ、滑稽ね!貴女がそれを言う資格があってエレイシア!!」
「っ、なぜそれを!!?」

エレイシア?先輩の苗字なのか?
それにしてはなぜあんなにも自分を責めるような顔をしているんだ。

「親を殺し、友達を殺し、街を死都に変えた揚句。
 死神に嫌われた貴女は結局ワタシと大差ないバケモノよ。ほうら、もう再生しているし。」

嘲笑うがごとく指をさす、先輩が化け物?
いったい全体どうなんだこの展開は、まったく分からない。
俺はなんと言えばいいかも分らずただじっと状況を見守っていたが。

「・・・・・・だまれ」

湧きあがる怒りの声。

「だまれと言ったはずだ吸血鬼!!!!」

刹那先輩は爆発した。
別に先輩がどこぞのポケットなモンスターのごとく自爆したのではなく、
以前アルクェイドが語っていた魔力が放出されたのだろう。

先輩を掴んでいた俺は思わず先輩を手放してしまう。
手を伸ばすが既に届かずそれより先に第三者が俺を掴んだ。

「志貴、逃げるわよ」

アルクェイドが焦り気味に言い、俺を――――まて。

「ちょっと待ってくれ、これって・・・」
「何よ、お姫様だっこってやつだけど今は関係ないでしょ」

アルクェイドは不思議そうに首をかしげるが、おんぶ、膝枕に並ぶ男子の一生の夢、お姫様抱っこ。
貧血で倒れて弓塚におんぶされて以来、女の子にされることはないと思っていたが心が折れてしまいそうだ。

いや、今はそれどころではない。

流星のごとく飛び出した先輩は弓塚と殺し合いを始めた。
金属音の反響と時折公園を照らす火花が何よりも雄弁に語っている。

「2人を止められないのか?」
「・・・・・・・・」

険しい顔つきで暫く間を開けてから重苦しく口を開く。

「・・・・正直今の私じゃあ厳しいわ
 それが例えシエルやさっちんと一人ずつ相手をするとしても」」

「なっ―――――。」

馬鹿な、今はたしかに今のアルクェイドは俺のせいで弱っている。
それでも最初にネロと戦っていた時には俺がいてよかったのかと疑うくらい圧倒的な強さを見せつけたが、
中学以来の付き合いがある弓塚、さらには何時も笑顔が絶えないシエル先輩はそれ以上の力を持っているというのか。

「ガァーーー!!?」

肉が破壊される音が鈍く響くと同時に、
先ほどまで眼にも止まらぬ速さで死闘を演じていた先輩が眼前に転がる。

地面を転がり土埃塗れになった先輩は再度立ち上がろうとするが、
恐らく内臓がやられてしまったのだろうか、血を吐きだしのたうち回る。

「確かに先輩の体術は素晴らしいものだけど、
 【銃弾を視認して避ける】吸血鬼の力が十全に発揮された今じゃ黒鍵だけの装備では勝てないわ」

苦しむ先輩とは裏腹に弓塚は女王のごとく悠然と先輩に向かって歩む。

「やるとしたら、それこそ聖典クラスの武装を準備するのをおススメするわ。
 もっとも、ワタシは自衛を除いて積極的に先輩を傷つけるつもりはないけどね」

「ほざけ・・・!!」

一閃、鈍く銀色に輝く剣が投擲されたが横の払いで弾かれる。

「あふない、あふない。ほんと油断も隙もないわね」

いや、払ったのではなく掴んだようだ。
指の間には先輩が投擲した刀身が掴まれている。

「お返ししなくちゃ、えい」

そして、彼女は親しい友人と遊ぶベースボールのような感覚で剣を投げた。
対して先輩は避けることも叶わず――――直後、一輪の血の花が咲いた。

腹の半分が吹き飛び、内臓が湯気を立ててこぼれおち、
苦痛に耐える声と流れる血肉の音がBGMとして生々しく響く。

吐き気がする。
血の香りが嗅覚を刺激しているせいもあるが、
遠野志貴にとって日常の象徴であった彼女が魔に堕ちた光景が耐えられない。

「あれーもう壊れちゃったの?
 しょうがないなーしばらく寝ていてくださいね、先輩」

弓塚は先輩に近づくと大きく足を振りかぶり顎を打ち抜く。
顎を打ち抜かれた先輩は脳を揺さぶられたのか、倒れて動かなくなってしまった。

弓塚、おまえは―――――。

「あ~久しぶり志貴君、それに姫様も。」

今や完全に吸血鬼となった弓塚が、
興味の対象が動かなくなった先輩から俺達に移る。
黄金に輝く瞳が自分たちを獲物として見ている。

俺は気づいたら、ナイフを手にしていた。
ネロ・カオスとの戦いをえて碌に動かない身体にも関わらずだ。
自分でも意識できない程あまりにも自然な動作に驚きで心臓がとまりそうになった。

あの日、アルクェイドを殺したように。
俺はまた、殺したいのか、俺は弓塚を、コロシタイのか。

「気にしなくいいのよ、志貴。
 志貴が今の彼女を見て【そうしてしまいたい】と思うのは仕方がないことよ」

アルクェイドは呆然とする俺を言い聞かせるように強く抱きしめる。

「・・・まさかたった1日そこらで死徒になるなんて、
 古の死徒27祖並みの才能ね、それにそれは反転した人格かしら異邦人さん?
 初めて会ったときから一般人であることに変わりがない、
 けどどこか違う人のような違和感を感じていたけど今になってようやく分ったわ」

「あは、さすがアルクェイドさん!なんでも分かっちゃうんだね。」

片や子どもがはしゃぐように、片や冷たくあしらうように二人は対峙する。
俺は・・・ついに肉体の限界が精神の忍耐を超えてただぼんやりとすることしかできない。

くそっ、こんな時にこのポンコツな肉体が恨めしい。
意識が朦朧として来て頭が回らない。

「で、私たちを殺すのかしら?
 真祖を討ったという功績と志貴のような異能力者を取り込むのは新たな27祖の旗揚げとして悪くないものね。」

「とんでもない!ワタシもボクも基本殺人や弱い者いじめは嫌だから。あ、でも。」

でも、と間を開けてから続けた。

「ワタシは親であるあの蛇を殺すつもりなのだけど、協力しない?」

それは提案だった。
この吸血鬼騒動で協力してくれるのはありがたいが、
ついさっき先輩に重傷を負わせ、今や彼女自身が吸血鬼である。

ありがたさよりも疑問と疑惑の感情が先立つ。
それに、蛇と言う単語が気になってしかたがない。

ああ、耳が遠い。
視界はより暗く、頭脳は徐々に停止してゆく。
まるで深海へと落ちてゆくようだ。

頭で寝てはだめだと言い聞かせるが、限界を超えた肉体を制御できない。

「まぁ、そうだよね。普通は断るよね。
 でもワタシはいつでも歓迎している、そのことをよく覚えてくださいね。
 志貴も――――あれ?なんか意識が遠いっぽいけどじゃあね、志貴君。」

最後にそう聞こえ意識が――――――。





※※※





「くそったれ」

――――何もできなかった。

後悔の念がただ心を掻きまわす。
弓塚に何もしてやれなかった自分がどうしようもなく腹立たしい。

「俺は・・・。」

いったい何が出来るのだろうかと自問する。

「・・・・・・わからない」

だが、まだ朝は早い。
夜までに考えよう、俺がすべきことを。



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第5話 遭遇と再会

2013-04-07 23:04:48 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

「まさか、な・・・。」

点を突かれたネロ・カオスがどこか悟ったように呟く。

「おまえが私の死か・・・。」

吸血鬼は灰となり夜空へ塵となり散っていった。
その男にとって最初にして最後に体感する絶対的な死にも関わらず、ネロの表情は穏やかであった。

そしてこれはこの狂った日常に終止符とまではいかないが、
ようやく終わった、という満足感と虚脱感が肉体と精神を襲い身体から力が抜けてゆく。

「つか・・・れたな。」

地べたにであることも気にせず仰向けに倒れる。
外気の冷たさもあるが、あちこち貫通した傷が体内の熱を奪い指先から冷え、寒くて、眠い。

今寝たらいつ起きれるか分らないが本当に今すぐ寝てしまい―――――。

「えい!」
「ぶふぉ!?」

などと思っていた所、
遠慮とか配慮といった単語が辞書にない馬鹿女に傷口を無造作に手を差し込まれた。
そして、睡魔は脳髄から痺れるような痛みで一瞬で弾けた。

「この馬鹿女!なにしやがる!!」
「あーもう、その傷じゃ治療しても助からないから私が治しておいたわ。」

それから怒鳴ることないじゃないの、としおらしく言う。
うぐ、そう言われるとアルクウェイドは正しい。
まったくそうなら先に言って欲しい・・・いや、まて。

「どうやって治療したんだ、まさかガムテープじゃないよな?」

まさか俺にバラバラにされたさいに『うまく繋がらない』
という理由でガムテープでバラバラになった肉体を繋げたような女だ、ありうる。

「ちがうわよ!ネロの残骸を利用して治療したのよ。
 ネロの肉体は方向性のない命の種だから寄生させる形で志貴の欠けた肉体を修復したのよ」

なるほど、ネロ・カオスの死骸を利用したのか。
これなら傷口を触ってみると血糊こそあれども傷口が綺麗にふさがっているのも納得・・・。

「おい、待てそこの馬鹿女。副作用とかないよな?
 貧血で貧弱な身で身体が健常になるのならいいけど、まさか吸血鬼にならないよな?」
 
「なるわけないでしょ、
 ネロの残骸を志貴の肉体に合わせただけよ。
 それより、志貴。何時まで寝ているつもり?さっさと起きなさい」

なら安心だ。
いくら貧弱なこの肉体でも人間を辞めるつもりは今のところない。

そして、いい加減肉体も精神ももう限界だ。
アルクェイドが揺さぶるが再度襲ってきた睡魔の方が優勢で、
瞼は重く、意識が希薄になりつつある。

ああ、それにしても。
弓塚を今日は探せなかったな――――。

意識を手放し本当に寝てしまう刹那。
濃厚な殺意と人ならず者の気配を感じると同時に肉を砕く生々しい音が公園に響いた。

「なぉ!!?」

意識は一瞬で冴え、
本能的に横に転がると先ほどまで寝ていた場所に何かが降って来た。
降って来たそれは慣性を殺せずそのまま俺に派手に衝突し一緒に転がる。
そしてだいたい10メートルぐらい一緒にそれと転がり、停止した。

俺は体中を砂ぼこりに塗れながら衝撃を緩和するため、
反射的に抱きしめて一緒に転がったそれの正体を見て、心臓が掴まれたような衝撃を受けた。

「先輩・・・」

丁度自分の胸元からシエル先輩の表情が伺える。
いつも笑みを絶やさない彼女の顔は苦痛に苦しみ、蒼白であった。
それだけでなく身体から大量の血が吹き出ているようで、生温かい血液が制服をさらに穢してゆく。

何故先輩がこんな目に遭わなければいけないのか。
どうして先輩がここにいるのか。

目の前から与えられた衝撃で思考の回線がパンクし、何も考えられなくなる。

「嘘・・・」

そんなふうに呆然としていたら、
アルクェイドの言葉に釣られて彼女の顔を見上げる。

彼女もまた衝撃を受けた驚きと、
理解できず、信じたくないような顔を以て呆然と僅かな明かりの先を見つめていた。

「あれは・・・・。」

ネロ・カオスとの戦闘で周囲の公園の明かりは破壊され、
辛うじて残っているものも明かりは不安定に灯される程度であったが、
明かりに照らされた人物は自分が良く知り、探していた人物であった。

「ふふ、先輩。今なら見逃してもよくってよ。」

瞳を金色に輝かせ、血が付着した指をなめる仕草は艶美で。
自らの勝利を確信し、高らかに歌うように述べる姿はまさに噂の吸血鬼としての印象を与えていた。

でもそれ以上に俺はあの顔に見覚えがある。。
忘れはしない、中学からの付き合いがあるあの顔を。

「弓、塚」








ふらふらと朦朧する意識のまま三咲自然公園内を歩く。

人が密集する地域を通過するので危険極まりない行為だが、
こうでもしないと一人路地裏にいると時折意識が遠くなり、自分が人間である意識が希薄になってしまうからだ。

あれからまた一晩、また暗示で輸血パックを手にいれ血を飲みほした。
最初は初めて飲んだビールのように不味くて仕方がなかったが二度目は嫌な事に味がよく分かった。

例えば、脂肪分が多い者や塩分の濃度、鉄分の配分等など。
ますます人というカテゴリーから離れつつあることに絶望しつつも
これもすべては生きるためと言い聞かせて正気を保とうとする。

だが、血を補充したが補充すればするほど体が量と生の血をよこせと騒ぐ。
今晩は7時くらいに一度血を飲んだにも関わらず、体が血を要求する。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・。」

当然輸血パックだけでは足りず、禁断症状の様に手が震える。
ドス黒い『何か』が体から出ようとし、本能が危険を知らせる。

けっして出してはいけない、と。

夜12時を回る暗闇の中、嫌なくらいに視力と聴覚が研ぎ澄まされる。
遠くから爆音や獣の叫び声、肉をすり潰す音がよく聞こえた。

ああ、これはもしかすると教授と志貴の戦闘なのかもしれない。
だとすると真祖の姫だけでなく先輩もここに――――。

「!!」

五感が危機を告げ、咄嗟に横に跳ぶ。
直後感じたヒュウっと風切り音。

「っ・・・!!?」

横一文字に斬られた頬から血が出る。
頭が一気に冷め、思考がクリアになる。
こんなことをするのはあの人しかいない。

「こんばんは、弓塚さん。」

法衣を纏ったシエル先輩が暗闇から姿を表す。
学校と同じような笑顔をしているが眼は鋭くこちらを見据える。
その手に持つのは代行者たちが使用する黒鍵が指の合間に挟まっていた。

「まさか貴女が死徒になるとは思いませんでした。」
「せ・・・」

先輩、そうこちらが口を開く前に、一切の前触れもなくシエル先輩。
いや、代行者シエルの姿は掻き消えていた。

一体どこに、と思う暇もなく。
ボクの腹部に衝撃が走った。

「!!?」

次に認識できたのは身体をのけぞらせて宙に舞っている状態。
打撃の衝撃で胃の中身を吐きだしそうになったが、それより先に回転する視線の一瞬にシエル先輩が黒鍵を構えているのを捉えた。

恐らく、さっきの攻撃が避けられたから、
回避できない空中に浮かせて串刺しにする算段なのだろう。
くそ、これじゃあ、いいマトじゃないか!?

「こ、のぉ・・・」

空中でありながら強引に身体を捻る。
人間の時のならばこんな芸当は到底できないだろうが、
吸血鬼の強化された身体は驚くほどスムーズに動き、強化された視力が黒鍵の投擲軌道を確かに捉え。

一本、二本とかわしてゆく。
かわしきれなかった黒鍵は剣の腹を叩き、
それでもなお直撃するものは急所以外の場所に当たるようにして、着地。

次の行動に移るべく身体を動かすが、さらに黒鍵が数本迫る。
着地したばかりで重心はブレブレでうまく避けきれない。

「い!?」

何本かは辛うじて避けるが、1本だけ足に深く掠る。
激しい痛みと力が抜けるような脱力感、キリスト教徒でもないのにこの威力、まずい。

しかも再び先輩は近接戦に持ち込むべく地を駆けている。
冗談じゃない、真正面からこの人とやりあう気はない。

ここは逃げるしか――――。

「逃がすと思いますか?」

先輩の声が聞こえた直後、

「ふん!」
「がっ!!」

あえなく顎を打ち抜かれ脳が揺さぶられた。
そのままさらに公園の広場に転がるように突き飛ばされゴロゴロと転がる。

起きようとするが足が言うことを聞かずそのまま――――。

「!!――――うぁあああああああ。」

胸、肩、腹、足に計6本の剣が刺さり標本のようになった。
痛い、いたい、イタイ!!

「ここまですね。」

コツリ、コツリとブーツを鳴らしながら傍による。
ボクはというとぐったりと倒れ意識が遠のき、指一つも動かせない。
突き刺さった黒鍵が体を蝕み、その痛さのあまり気絶することも許されない。

「さて、弓塚さん。何か遺言はありますか?」

こちらに抵抗する力はないと見たのか目と鼻の先まで来た。

「ボクは・・・死にたくない・・・血だって輸血パックで我慢しているのに!!」
「ええ、そのようですね。暗示をかけていたようですし。」

暗示をかけていたようですし、
つまりこの人からすれば全てお見通しだったというわけか。

ああ、くそ。
視界がぼやけて来た、意識が遠のく――――。

「ですが、吸血鬼という存在自体が罪なのです。」


受け入れなさい


「あなたは間違いなく被害者でしょう。が、次はあなたが加害者になるのです。」

今何か妙な声が聞こえた気がした。 
ああ、幻聴まで聞こえるとなるともう駄目なのかもしれない。

じゃあ死にたいの? 

・・・誰だ?
今のは幻聴なんかじゃない。
明らかに第三者が問いかけて来た。

答えて

死にたくないに決まっている。
二度目の人生でも、いやだからこそ最後まで生きたい。


けど、君は誰だ?


「おっと、話すぎましたね。灰は灰に塵は塵に・・・・。」

ワタシはボク、ボクはワタシ。
ワタシは貴方の陰、いるはずだった魂の欠片。
貴方が死にたくないというならば力を貸しましょう。


それは一体―――――。


「さようなら、弓塚さん」

ゆっくりと剣が振り下ろされた刹那。
腕を貫通し地面まで突き刺さった黒鍵の痛みを無視して、
右腕を無理やり横一文字に斬るように振り、真空の刃を走らせた。

「え」

気が抜けた驚愕の音声。
が、流石というべきか身体の方は反射的に後ろへと跳躍したが、
真空の刃それよりも早くシエル先輩の片足を切断させた。

「ぐ、ぐぅううううぅうう!!?これは一体・・・?」

舞い上がる鮮血。
片足をなくしたシエル先輩は地面に転がり、苦悶と驚愕の表情を浮かべつつこちらを凝視する。
イメージでは両足ごと切断させるつもりだったけどうまくいったね。
でも、いいや。さっさと邪魔な黒鍵を壊しましょうか。

「そんな・・・・。」

黒鍵を先ほどの刃で左腕、胸、腹、足に突き刺さったのを破壊する。
力が抜けた身体に力を入れて立ち上がり、失った分のエネルギーを補給すべく、
眼前に転がっているフライドチキンこと先輩の片足をを拾い上げ噛みついた。

「ぷはぁ」

魔術師の血を飲むのは初めてだが、身体の内から力が沸く。
それだけでない、今まで我慢していた輸血パックが安酒ならこちらは高級ワインのごとく味もいい。

おっと忘れていた、


こんばんはワタシ、そしておやすみなさい、ボク。


「反転、それに先ほどのはまるで・・・。」

代行者は地べたに張り付き絶句と呆然が混ざった顔をしている。
うん、おかえしに苛めたくなっちゃいそうなくらいに。

「シエル先輩どうしましか?痛いのかしら?」

だから先輩を蹴り上げた。
サッカーボールをけるように思いっきり蹴り上げた。

肉を砕き、骨を潰す感触。
素晴らしい、嗜虐心と吸血鬼としての征服欲を満たされる。

一方、先輩はというと放物線状に飛んでゆき、地面に激突した。
少しばかり反撃を期待していたのだが期待外れ・・・。

ん・・・あれは?
ああ、志貴君と姫様か。
こっちを見ているけどそんなのは気にならない。
それより今は先輩をどうするか専念しよう。

「ふふ、先輩。今なら見逃してもよくってよ。」

指に着いた血を嘗めながら自然と口がにやりと嗤った。

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