二次元が好きだ!!

SSなどの二次創作作品の連載、気に入ったSSの紹介をします。
現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

弓塚さつきの奮闘記外伝 「奮闘記的アーネンエルベの一日 午前9:23」

2014-04-17 20:26:14 | 弓塚さつきの奮闘記〜月姫編

少女たちが道を歩いていた。
それだけならどこにでも見られる光景であったが、少女らは目立っていた。
といのも、3人の少女は未だ小学生高学年程度の歳相応の幼さを残していたが。

その内2人はこの国では珍しい銀色の髪を有する「ガイジンさん」の風貌であったためだ。
しかも3人揃って将来に期待が持てる容姿をしていたため、なおさら道行く人々に見られた。

「あーもう、喫茶店いこー喫茶店」

焦げ茶色色の肌をした少女、クロエ・フォン・アインツベルンが天を仰ぎつつぼやく。
そして、クロエの橙色の瞳が隣の銀髪少女に向けられる。

「そんなこと言ったてお金ないよ、クロエ」

視線を向けられた銀髪赤眼の少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが即座にその提案を却下する。
なぜなら、自分たちは未だ小学生であるため使えるお金など知れており、その事実を思い出したクロエが言葉を詰まらせた。
が、そんな2人のやり取りを見ていた黒髪の少女、美遊・エーデルフェルトがそのイリヤの言葉を否定した。

「大丈夫、ルヴィアさんからお小遣いは貰った」
「え、お金あるって……うそぉ!!」
「ちょ、ちょっとこれって!?」

美遊のい言葉に怪しんだが、視界に入ったそれを見て驚愕する。
そのお小遣いと称するものは財布にギッシリと詰まった福沢諭吉の群れであった。
小学生どころか大人にも手が届かなさそうな金額にイリヤとクロエ思わず唾を飲み込む。
そして、クロエは神妙な顔つきでイリヤに顔を向けると言った。

「持つべきは金持ちの友人だとは思わない、イリヤ?」
「自分も過去に似たような事を言ったけど最低だーーーー!!!」

『プリズマ☆イリヤ』ではすっかり突っ込み役が定着したイリヤが叫んだ。

「だから喫茶店に行っても問題ない」
「じゃ、みんなでケーキを食べましょ!決まりね!」
「待ちなさいよー!クロエ!」

美遊の手を握り嬉々とクロエが喫茶店へ走り、イリヤがその後を追いかける。

『おや……?』
「どうしたのルビー?」

『アーネンエルベ』という名前の喫茶店のドアを潜った後に。
どこぞの割烹着の少女と同じ声を持つ天然人工精霊にしてネタ製造機のルビーが疑問符を口にする。

『はーい、なんだか面白おかし……。
 いえいえ、少しだけネタの空気を感じただけですから、イリヤさんは気にしなくて大丈夫ですよ』

「それって私にとって凄く嫌な予感を意味するよねルビー!」

ルビーの発言にイリヤがまた巻きこれるーと嘆くが時既に遅し。
既にギャクもネタもあるんだよ、という言葉が思わず出てしまうアーネンエルベに入っていた。



※ ※ ※



「改めて結婚、そして懐妊おめでとうございます。両儀さん」
「悪魔なオレからも新たな命の誕生を祝福してやるぜ」
「あ、ああ。どうも……なんか、おまえ達に祝福されるなんて違和感を感じるな」

再度改めて言われる祝福の言葉に両儀式はぎこちなく受け取った。
片や同属嫌悪で一度殺しあった人物、片や退治すべき魔である悪魔であるからある意味仕方がない。

「しっかし、散々ドラマCDの『アーネンエルベの1日』で、
 「月姫はエロいっ(キリッ)」と言っておいてヤルことはヤッタ式だって十分にエロいじゃないか!」

「ぶぅ―――おまっ!」

アヴェンジャーの発言で式は口にしたお冷を噴出した。
前に自分が言ったことが今になって反って来たのだから仕方がない。

「ケケケケ、そういえばオレはカレンと教会で後ろからヤッタがやっぱオマエもそうなのか?」
「う、うるさいな!」

女性に向けて体位を聞くなどセクハラ全開の発言をアヴェンジャーはする。
これに何時もの式ならば養豚場の豚を見るような冷たい眼と共にで物理的に切り捨てていただろう。

が、覚えがあるせいで顔は赤くなり、動揺が止まらずたじたじになる。
この様子にニヤニヤと人が悪い笑みを浮かべた悪魔は更なる追撃をしようと試みたが。

「失礼じゃないか士郎君、いやこの場合アヴェンジャーか。そんな事を言うなんて」

さらに何か口にしようとした刹那。
しかし、遠野志貴がアヴェンジャーに制止を促す。
式が殺人貴といえどもその辺は常識人であることに感謝した。

「だいたい女の子、例えばアルクェイドだってエッチが好きだし、俺も大好きだ。
 すなわち、エッチが大好きなのは男女の区別はない。つまり、両儀さんは普通だ!」

「そこの絶倫眼鏡は喧嘩を売ってるんだな。
 そうだな?次に会った時はたっぷり買ってやるから覚えていろ」

式の殺意交じりの鋭いジト眼が主人公2人に向けられた。

「……はぁ。で、おまえ達はセイバーとアーパー吸血鬼を連れていないのか?」

これ以上この手の話を追求するとこちらがまた弄られる。
そのことを知っていた式は前回ここに来た際にいた主人公に伴うヒロイン2人について言及する。

「ええ、もう直ぐ来ると思いますけど。なにせ携帯電話とか持ってないし」
「こっちも以下同文。まぁそのうち腹ペコの騎士王サマは来るだろうから問題ないぜ」

のんびりと答える志貴に、やれやれと言いたげにアヴェンジャーは答えた。

「そういえば、おまえ達は携帯電話とか持っていなかったな」

今や日常生活に不可欠な文明の利器を持っていない事実に今更ながら式は気づいた。

「まあ『月姫』は『魔法使いの夜』より新しいけど、
『空の境界』と並んで年代が少し古いですから、琥珀さんが仕事で使っているのなんて黒くて頑丈な奴ですよ」

「メタいな、おい」

「こっちは辛うじて2000年代の一桁のせいか正義厨は持って無くもないが、
 普段持ち歩かない上にネットなんて繋がらない通話とメールだけで姉貴分からのもらい物だ」

日本のガラパゴス的技術、文化の象徴として日本の携帯電話がしばし指摘される。
今でこそスマートフォンに押されているが1996年に世界初の着メロを開始。
また、1999年に京セラは世界初のカメラ内蔵携帯を発売。
2001年にはインターネット回線と繋げるようになるなど技術的には最先端を走っていた。

「まあ、2014年秋に公開されるだろうFateで正義厨の服装も変わる様だし、その辺も変わるかもな」

「そういえばそうだったね、リメイクおめでとうアヴェンジャー君」

「ケケケ、今回はゼロでも好評だったufotableが担当だからDEENなようにはいかないぜ。
 この人気を背景に、このままホロウまでアニメ化すれば今までゲームでしか出番がなかったオレとしては満足だな」

「リメイクなんて相変わらずFateは型月のドル箱だな。
 ああでもDEENの事は言うな、当時はあれで面白かったのだから……」

元々ufotableはオリジナルアニメの作成より、
原作の再現度に高い評価を得ており『空の境界』そして『Fate/Zero』で高い評価を得ている。
一方DEENは全体的に可も無く不可もなくで、たびたびufotableと比較され、酷評されてしまっている。

「カッコイイポーズとかか?」
「あれは、うん。そうだな、うん……」

対バーサーカー戦で見せたアーチャーのカッコイイポーズ(棒)
を思い出した式は露骨に眼を逸らし沈黙した。

「しかし、いいねFateは派生作品もあって。
 こっちの『月姫』はリメイクしているらしいけど全然だよ」

「別にいいじゃないか、静かで。
 こっちは銀幕に出たりエクストラで出演したりで忙しかったからな。
 ま、『魔法使いの夜』もなんだかんだと言って出たわけだしそのうち出演する機会はあるさ」

「何この銀幕出演者の余裕はよお、おい?」

志貴のぼやきに式は経験者として助言する。
だがどう見ても出番がある恵まれた役者の類の発言でアヴェンジャーが突っ込む。

「で、そこの全身刺繍のウェイターは雑談ばかりでいつまで客をいつまで待たせるつもりだ?」

再度ジト眼でアヴェンジャーを見る式。
忘れてしまっていたが、この場ではアヴェンジャーは喫茶店「アーネンエルベ」の店員である。

すっかり客に奉仕する義務を忘れ、雑談に興じてしまったいたけど。
なお式の手には空になったお冷を持っており、どうやらお冷もほしいようだ。

「ぎゃはは、そうだったな。
 オレとしたことがすっかり忘れていたぜ、出来ちゃった婚のお・きゃ・く・さ・ま」

「知っているか?妊婦は感情が乱れ易ってことを。
 ――――――なあ、こいつを17分割にしてもいいか?」

「抑えて!両儀さん抑えて!芸風、これは彼の芸風だから!」

煽るスタイルのアヴェンジャーに苛立ちが抑えられない式は懐のナイフを手にする。
そして最後の良心として妊婦による殺人事件を止めるべく志貴が必死に思い留まるように説得する。

だが、式は本気らしく眼を青く光らせる。
重心も前のめりになり、次の瞬間には切りかかって来そうである。
ここは俺が全力で止める必要があるかもな、そう志貴が達観した刹那救いの主は外から来た。

「店員さーん、ケーキとかある?」

ドアの鈴を鳴らし、愛らしい少女の声が店内に響く。
流石に人前で流血沙汰はまずい事を自覚していた式はその声でナイフを仕舞う。
来客が幼い少女であることを確認したからなおさらである。

「……銀髪の少女か、いや2人揃って普通の人間じゃないと来たか。
 おまけに妙な存在が一緒にいるし、いよいよアーネンエルベが魔窟じみてきたな」

が、唯でさえ目立つ銀髪の妙に整った顔をした肌黒の少女。
同じく黒髪の少女の正体を一発で看破し、意味人外の類であることを察した式が眉を顰める。
ついでに、愉悦製造機の人工天然精霊の存在も式は看破した。

そして式の呟きは少女たちに聞こえたらしい。
現に黒髪の少女はびくり、と肩を震わせる。
黒い肌をした銀髪の少女は意味ありげに式に視線を寄越し言う。

「あら、悪魔に人の皮を被った殺人貴、それに空の入れ物。何だかここは妙に賑やかね」
「へぇ、歳の割には言うじゃないか――――コピーの割には」

嫌な緊張感が漂う。
俺は喫茶店でのんびりするはずだったが、どうしてこうなった?
志貴は嘆くが、再度救いの主は外からやって来た。

「待ちなさいよークロエ!ってお兄ちゃん!?じゃなくて誰なのよ!」

さらに遅れて店に入ってきた銀髪の少女、イリヤがアヴェンジャーを指差して叫ぶ。
騒がしい奴が来たな、と面倒臭そうに見る式に本格的に接客をしなければいけい事にやれやれとアヴェンジャーは頭を振る。

そして、志貴。
遠野志貴はまたカオスが深まることを予感した。





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弓塚さつきの奮闘記外伝 「奮闘記的アーネンエルベの一日 午前9:03」

2014-04-01 20:49:14 | 弓塚さつきの奮闘記〜月姫編

「いらっしゃいませー」
「おや、士郎君じゃないか?」

遠野志貴にとってすっかりアルクェイドとの待ち合わせ場所になった、
喫茶店「アーネンエルベ」のカウンターから出迎えたのは衛宮士郎であった。

彼とはここで色々縁があって知り合ったが、その時は同じ客としてである。
お互いデートプランが重なり、仲良く修羅場を見ることになったのも忘れられない……。

「しかし、士郎君がここでバイトしているなんてね」
「ええ、まあ。家は大飯ぐらいがたくさんいますから」

苦笑まじりの回答に遠野志貴は思わず金髪碧眼の騎士王の顔を思い浮かばさせた。
あそこまで清々しい食いしん坊キャラは彼女以外ありえない。

「ところで、今日は態々早朝から着ましたけどデートですか?」

「ああ、まあな。
 今日はここで一日アルクェイドとダラダラ過ごそうと思ってね、
 とりあえずモーニング、飲み物は紅茶をお願いできるかな、士郎君」

「任せてください、遠坂に散々鍛えられましたから」

「お、言ったな。期待しているよ」

自信満々に衛宮士郎は答えると厨房へ走っていった。

「しかし、士郎君。相変わらずエプロンが似合うなぁ……」

長袖のシャツに単色のエプロンを羽織っただけであったが、
琥珀さんの割烹着と同じく違和感を感じさせない姿とオーラを放っていた。
もしかすると正義の味方よりもよっぽど天職な気がするのは俺だけだろうか?
そう遠野志貴は思いをはせ、ゆっくりモーニングがくるのを待った。



※ ※ ※



「とりあえずモーニング、
 それにその他の準備はできている。
 けどなあ、カレン。おまえは知らないと思うけど、
 こういうのは調理免許とか資格が必要だったりするんだぞ」

厨房ではモーニング用のパンが焼きあがり、サラダの野菜にはたっぷりドレッシングがかけられ、
その他事前準備が必要なカレーやデミグラスハンバーガーの準備も店にあったレシピ通り完成していた。

食欲をそそる香りが充満し、文句の付けようもない状態であったが。
彼、衛宮士郎は大きな、それも巨悪な問題に対面していた。

「あら、人殺しの分際でよく吼えるわね駄犬。
 それとも何かしら?私が警察に突き出すよりも自首してハラキリする覚悟ができたと?」

背後からパイプオルガンのBGMでも流れてきそうな知人の銀髪シスター、
カレン・オルテンシアが淡々と衛宮士郎を犯罪者として処分しようとしていた。

「なんでさ!!!というか自首してなぜに切腹しなきゃいけないのさ!?
 というか、言ったよな。厨房に入ったら巻き込まれただけで俺は無実だと!!」

だが、カレンの黄金の瞳はまるで屠殺場の豚でも見るかのような、
実に冷ややかで、口元は曲がり、汗をかきながら必死に弁解する衛宮士郎を嘲笑していた。
どうして俺はいつもこんなのばっかりなんだ、と内心で嘆きつつ手は調理器具の片づけをしている所を見ると。
やはりこの少年の末は正義の味方ではなくブラウニーに相応しいかもしれない。

「衛宮士郎、残念です。
 私が目撃したのは自称正義の味方が哀れな一般市民をその手で殺人を犯す現場だけです。
 ああ、哀れな店長さんどうしましょう。店員として、この落とし前…どうしてくれましょうか?」

「待て待て待て!?!?
 なんか割烹着を改造した女の子から攻撃を受けたから防衛して。
 たまたまはじいた流れ弾が当たっただけで俺は何もしてないぞ、カレン!!!!」

カレンがポケットから携帯電話を取り出したことで動揺が深まる。
身振り手振りであれこれ言い訳を述べようとしている姿は隙だらけ、
そしてこれの瞬間こそが腹黒シスターにとってそれは待ちにまった機会であった。

「いまです、マジカルアンバー」
「はぁい、呼ばれてきちゃいましたー」
「げぇ!!割烹着の悪魔!!!」

ジャーン、ジャーンと銅鑼の音声と共に、
突然あらわれた元凶に驚きを隠さない衛宮士郎。

「イェイ、時代は今まさに魔法少女。
 リリカル☆マジカル、奇跡も魔法(物理)もあるんだよ!
 さすがウロブチッチー、まさに外道の必ず殺すと書いて必殺!!母の日スティンガー!!!」

マジカルアンバーは誰もついてゆけないノリで、
何処からか取り出したスティンガーを(そもそも収納する場所はどこだか?)
哀れな標的に定め、一切の躊躇もなく発射した。

「な、なんでさ――――!!!!」

お約束の言葉の後に厨房に響く轟音と煙。
普通ならば外の人間に気付かれて当たり前な程の影響を及ぼすであろうが。
ここは何が起こっても不思議でないアーネンエルベ、ゆえに外の人間には気づかれないほど防音設備が行き届いている厨房などあって不思議でない。
さらに言えば衝撃で用意してあった料理の数々が汚れたり散乱することもない、というご都合主義もまかり通っており、

「いててて、おいおい。
 いくらこのオレを起こすためとはいえ、少しやりすなんじゃないか?
 つーか、なんだ。なんでこのオレが今更この正義厨から現れることが出来るんだ?」

煙が晴れた先から現れたのは衛宮士郎ではなく全身に刺青を入れた少年。
より正確に記すと、彼の殻をかぶった悪魔、アヴェンジャーであった。
そして悪魔は砕けた口調でわざわざ自分を起こした理由をカレンに問うた。

「やはり駄犬は駄犬ね。
 ここがあらゆるご都合主義が蔓延し、
 奇跡がバーゲンセールされる場所であることを理解していないようね。
 貴方を呼び起こすことなど、ここではコーラを飲んだらゲップが出るくらい確実よ。
 それに私たちのエンターテイメントのために、この程度の労力を惜しむわけにはいかないわ」

「そうですよねー。わたしも秋葉様をからかう事に手は抜けませんし」

「エンターテイメントのためだけにオレを起こしたのかよ!!相変わらずアンタは無茶苦茶だな!!?」

愉悦に満ちた笑顔で即答したシスターとマジカルアンバーの言に突っ込みを入れるアヴェンジャー。
せめてもっともっともらしい理由で呼んでほしかったと悪魔は内心で落ち込んだ。

「というわけで、貴方にはアーネンエルベの店員をしてもらいます」

「私からもお願いしますね、アヴェンジャーさん」

「おい、待て。待て待て待て。
 話の展開が見えないしそれならこの主夫に任せておけばいいだろうが」

そもそもそれなら衛宮士郎に任せておくべき、
とアヴェンジャーは2人に疑問を投げかけるが、

「言ったでしょ、エンターテイメントのためだと。
 ただの衛宮士郎が店員をしていても面白くないですし、
 貴方を皮切りに型月キャラは今日1日カオスと混乱、ご都合主義に色モノの安売りセールを始める予定ですから。
 そして彼らの弱みを握ることで私の冬木支配もまった一歩前進するでしょうし、私の趣味もまた…ふふふ、楽しみです」

「わたしも秋葉様の弱みや、
 皆さんをおちょくって楽しみたいですしね〜。
 あと、リアルタイム的に今日は4月1日。何でもありの日ですからはっちゃけちゃいますよ〜」

「…………うわぁ」

おっかしいなぁ。
ホロウではこれおど饒舌じゃなかったし、
もっと聖者のイメージが前面に打ち出されていたはずなのに。
などと、アヴェンジャーはすでに遥かかなとの思い出となってしまった、
在りし日のカレン・オルテンシアとのギャップに感傷に浸る。

「言っておきますが、拒否権はありませんよ」

守りたくなるような笑顔でカレンは命令を発する。
だが、その内容は脅迫の域に達する最低の言葉であったが。

「…それでもあえて一応聞くけど、もし拒絶したら?」
「その時は、フェイトゼロ以降増えた腐人方に貴方を主題とした薄くて高い本でホモォな本を…」
「貴方にしたがいます。マム!」

ペンと紙を手に不穏極まりない単語をスラスラとのたまうカレンに、
男としての尊厳を死守することを優先したアヴェンジャーは反抗を放棄した。
そう、誰にだって、色モノはあってもおかしくないが尊厳を捨てるレベルには彼といえども負けを認める他はないのだ。

「期待してますよ、アヴェンジャー」
「了解した、地獄に落ちろ」

計画通り、とばかりに満面の笑みを浮かべるカレン。
対して悪魔はこれから起こるであろう悲劇と喜劇に絶望に似た感情を抱いた。



※ ※ ※



「おっそいなぁ、士郎君」

15分ぐらいだろうか?
いくら待っても厨房から衛宮士郎は現れない。
遠野志貴は視線を厨房のドアから外し、ため息をつく。
そして、ふと気づく。

――――このパターン、見たことあるような?

「………たしかめるか?」

立ち上がり、厨房に足を向ける。
既にポケットのナイフは何時でも使えるようにしている。

場合によってはこの『眼』も使う必要があるかもしれない。
そう志貴は考え、さらに眼鏡も何時でも外せるように少しだけずらす。

ゆっくりと、慎重に。
そしてあらゆる事態に対応できるように覚悟を決めて厨房へ足を運んだが。

「マスター、今日は普通の珈琲。
 それとチーズケーキを……って、いない。それにそこのお前は――――」

ドアの鈴を鳴らして着物の女性が入店した。
志貴は何も知らない一般人が入店したと思い振り返り驚愕を覚えた。

肩あたりで切り揃えた黒い髪、中性的で眼や鼻などの顔のパーツが整いすぎた凛々しい顔立ち。
今時珍しい和服で完全に身を固めており、そこに革の赤いジャケットを羽織っていれば完璧であったが。

どうしたわけか、今日は羽織っていない。
志貴の記憶ではあの蒸し暑い夏、2度目のタタリでは彼女、両儀式はそのジャケットを羽織っていた。

同じ『眼』を持つ者同士自己嫌悪と同属嫌悪でお互い殺すつもりで戦ったが。
弓塚さつき、そして彼女の後を追ってきたらしい黒桐幹也と名乗る男性が必死にお互いの感情を冷ましたおかげで事なきを得た。
以来両儀式と出会っておらず、志貴にとってそれはもはや過去の記憶であったが、少なくても過去の記憶でも両儀式の腹部は膨らんでいなかった。

「え、えええっ!!こ、子供!?な、なんで!!?」

というか、まさか一度殺しあった女性が妊娠している姿に遠野志貴はただただ驚愕した。

「ん?ああ、これは……その。
 まぁ、そういうことだ…………」

志貴の驚きに両儀式は恥ずかしげに答えた。
誰とは口では言わないが、恐らく黒桐幹也であろうことは志貴も想像できた。

「えっと、その。おめでとうございます」
「お、おう。どうも」

志貴は曲りなりとも殺しあった人物と再開し内心混乱状態であった。
が、次に志貴の口から出た言葉はごく普通の祝いの言葉である。
正直な所、色々ありすぎて何を言えば分からなかったためである。

両儀式も自分と同属で嫌悪する相手と遭遇してどう反応すればいいか分からなかった。
前程殺す気もないこともあり、ゆえに、両儀式は志貴の祝辞をぎこちなく受け取った。

「あの……」
「……なんだ?」
「あ、な、何でもありません」
「そうか」
「………………」
「………………」

お互い会話の糸口が見つからずに微妙な空気が流れる。
そもそも、お互いは一度本気で殺しあった仲であり、これで会話をしろと言われて出来るほうがおかしい。
居心地の悪さを2人は覚え、どうしたものかと途方に暮れていた時にこの空気を破る乱入者が登場した。

「おいおい、あんまり騒がないでくれないか?
 早朝とはいえ、曲りなりとも商売をやっている身からすると堪らないからな」

「ああ、すまない士郎君……あれ?」

志貴が衛宮士郎に謝罪を述べるつもりで声の方角に顔を向けたが、一瞬戸惑う。
なぜなら声の人物は黒い肌、というよりも顔面全体に施された何らかの模様を描いた刺青姿という異様であった。
口調も違う、だがにも関わらず背丈や服装は直前まで会話をしていた衛宮士郎そのものであった。

が、同時に志貴は自分の体がまるでロアやネロと出会った時のような興奮を感じている事実に驚く。
しかも、気づいたら手はポケットにあるナイフを握っていた。

「……今度は悪魔か。あのアーパー吸血鬼といい、いつからアーネンエルベは魔窟になったんだ?」

両儀式が呆れと嫌悪を滲ませた言葉を呟く。
慌ててナイフから手を離した志貴は彼女の言葉に納得した。
目の前にいるのは自身に流れる血が拒む魔そのものであったからだ。

「おうおう、ここはそんな常識が通用する所じゃないからな」

両儀式の嫌そうな言葉に悪魔を嬉々と反応を示す。
そして衛宮士郎の身を借りて現界した悪魔はニヤリと、オリジナルなら絶対浮かべない笑みを浮かべた。




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第21話「可能性未来」(完結)

2014-02-02 12:44:05 | 弓塚さつきの奮闘記〜月姫編

また寒い季節がやってきた。
ここ十年の間に老朽化が進んだため放棄された廃ビル群の間に流れる風はとても冷たい。
この周囲にはせいぜい4、5階建て程度の細かなビルと朽ち果てたバラック仕込みの廃工場しかなく、
かろうじて近場にあるコンビニが文明の光と利便性を提供しているだけである。

近々再開発が進むらしいがここを根城にする自分にとってはいささか困る。
何せもはや人の身を逸脱し、あまつさえ外見が不老となればそんなに長く人の目がある場所ではいられない。
少し前まで友人の好意と外見にまだ誤魔化しが効いたため、人の世に紛れていたが吸血鬼化して十何年と過ぎると流石に怪しくなった。

周囲の人間が老いたり成長する中で、自分の女子高校生の外見と変わらぬ姿は目立つ。
何せあのシエル先輩も三十代に突入しそうで、必死に若作りをしているくらいなのだから。

前世ならそんな光景など想像したことがない。
なぜなら彼女らの物語はボクら観客側からすれば未完で終わってしまったようなものだから。
もっとも、こうしてリアルで彼女らと出会い共に人生を過ごすなど前世では妄想の類でしかなかった。

「約10年の月日か、」

多くの人と出会った、楽しいこともあれば悲しいこともあった。
想定外の事、予想通りの事、本当に色々あった。

多くの人は月日が過ぎるごとに、
あの10代の面白可笑しな騒がしい騒ぎは収まり、彼女彼らは思い思いの道へ進んだ。
某喫茶店ででの出会いや、マジカルなステッキが引き起こした平行世界絡みの騒動など、
歳を取るにつれて少なくなって来ている――――まるで夏休みや、幼年時代に終わりを迎えつつあるように。

そんな中、ボクは変化しただろうか?
外見的な意味だけでなく周囲が『大人』になるのに対して自分だけが取り残されているような――――。

「――――っ…へっくし!」

鼻がつまりくしゃみをする。
ずるずると音を立てて鼻水が出る。
まったく、頑丈であるのはいいが吸血鬼化したこの身でも寒いものは寒い。

手早く上着からティッシュを取り出して鼻をかむ。
ティッシュから漏れ出す息は白く、手は寒さで赤く冷たい。

今すぐ今の我が家に帰りたいが、一応こんな辺鄙な場所でも人気はある上に、
ここ数年で急激に進んだ監視カメラの眼とその後の権力とコネを使った神秘の秘匿の労力を考えると吸血鬼パワーで一気に飛ぶわけにはいかない。
おまけに今時の裏世界の住民は携帯電子機器による、動画撮影にも警戒しなればいければならず、その点についてかの時計塔でも注意喚起しているくらいだ。

ゆえに、ただ黙って地道に歩くしかない。
黙々と雪こそ降ってはいないが冷えた空気が流れる、冷たく硬いアスファルトの道を踏みしめ歩く。

ふと、空を見上げる。
太陽は既に地平線へ沈んだため、空は濃紺からさらに黒に変わりつつある。
この寒い季節といい、あの日ボクの運命が変わった日とよく似ていた。

だからボクはふと、ロアと最後の会話を思い出した。



※  ※  ※



「ん……?」

目が覚める。
頭は未だぼんやりと動かないが、
視界情報から察するに知らない天井ではなく、どうやら夜空らしい。
しかし、鼻を刺激する花の香りが、ここが公園でないことを証明している。

上体を起き上がらせ、改めて周囲を見渡すと一面に白い花が咲いていた。
なだらかな丘に延々と月日に照らされた白い花が咲き誇り、夜風に揺られその香りと美しい姿を魅せていた。

ここは、どこか?
そんな疑問が一瞬浮かんだが、
夜空を照らすありえないほど大きな月と【原作】からすぐに答えが出た。

「そうだ、ここはかつて純粋であった私が姫に見惚れた場所。
 そして今この光景は、私の記憶を元に再現されたものに過ぎない」

振り返るとロアが立っていた。
だが、その姿は先ほどまでのと随分違う。
まるでカトリックの神父のごとく隙のない服装を着こなしている。
いや、首に掛けてある帯からキリスト教の司教や司祭が礼拝に使用するストラであるから本物の神父なのだろう。

そして、彼は眼鏡をかけ瞳には狂気はなく高い理性と知性を宿しており、
ボクは目の前の人物が「アカシャの蛇」の蛇と呼ばれる前のミハイル・ロア・バルダムヨォンであることを悟った。

「こうして、正面から話すのは初めてだな弓塚さつき。
 始めまして私の名はミハイル・ロア・バルダムヨォン、かつて永遠を求めた愚か者。
 適うことなら吸血鬼になる前に君に会いたかったと今はつくづく思うよ。」

「そりゃ、どうも……」

なんだかえらく丁寧な口調と態度のせいかこっちの調子が狂う。
しかし、こうしてお互いが出会ったということはここは、

「心象世界」

「そうだ、ここは心の世界。
 恐らく元々無理やり君の魂を乗っ取ろうとした影響だろう。だから、私たちはこうして話せる」

「だから、失敗して志貴に殺された」

「ああ、だから君たちに妨害され私は死んだ」

……あれ【君たちに妨害され】?
たしかに何が何だが詳しくは覚えていないが、
イメージ的には、我武者羅にこの男と肉体の主導権をめぐって争い、
何とか主導権を握るとすべてを志貴に託した所まで覚えているが、何か重要なことを忘れている気がする。

「……そうか、覚えていないのだな。
 いや、君がいう所の【原作】知識と同じく認識でないのか」

何か釈然としない。
だが、それよりもどうして【原作】知識という単語がこの男から出ている―――!?

「ああ、それは簡単だ。
 私が乗っ取る際、寄生された人間の記憶は一通り引き継がれる。
 君が言うロアは言うなれば私は四季でありロアでもあったのだ、だから弓塚さつきの記憶は一通り見せてもらった。
 ……まったく、永遠を求めてここまで来たが君のような例は正直驚いたよ、姫の言うとおり案外世界は広いもののようだ」

なんてことだ。
よりにもよってこの男に知られるとは。

「そんなに構えなくていい、
 どの道私はあの殺人貴に殺された消える身。
 ゆえに、今更君を殺したり我が物にしたりする気はない。
 それよりも 老婆心ながら今後の君について言いたいことがある」

思わず襲おうとしたボクを手で制止するようにサインすると、ロアは紳士的に話を進めた。

「改めて言おう、君の吸血鬼としての才能は特異だ。
 私に血を吸われ、グールやリビングデットを通り越していきなり吸血鬼へと変化。
 ある意味君の才能が開花したと言える、もはやこの現象は進化と表現してもいいものだ」

「まったく、嬉しくないね。
 シエル先輩には殺されかけるし」

「ああ、そうだな。
 才能の開花は必ずしも人を幸福にしない。
 見方を変えればむしろそれ以外の生き方を束縛しかねない」

ボクの愚痴に同意するロア。
先ほどまで殺しあったはずの相手だが、
可笑しなことにボクらは随分と親しく話せている。

「そして、例えいずれ出会うアトラス院のエルトナムの娘が、
 どれほど労力を割いてもせいぜい太陽の下を歩ける程度で、君は吸血鬼のままその人生を過ごすだろう」

………ああ、やっぱり。
薄々とだけど覚悟はしていた。
やはりシオンの知識を以ってしても人間に戻るのは無理か。

「君は良くも悪くも吸血鬼として才能がありすぎる。
 姫や殺人貴の元にいる限り今後更なる苦難に見舞われることは間違いない
 ただでさえ、姫は裏の世界では目立つ存在だ。そこにあのバロールの眼を持つ人間、
 空想具現化が使える君が加われば、魔は魔を引き付けるように裏世界の闘争に巻き込まれるのは確実だ」

そっか、ロアから見てもそうなのか。
アルクェイドさんや志貴の傍にいると巻き込まれることは確かなんだ。
元よりあの2人は平穏とは程遠い存在、むしろ原因の渦中になるか飛び込んでしまう性格だ。

だから、彼らの傍にいれば必然的に修羅の道へ自動的に歩んでしまう。
少し前まではそんな修羅の道を避けることばかり考えていたけど、今は違う。

吸血鬼になってしまった以上、
どんなに平穏な日常を過ごすことを努力しても、
遅かれ早かれ巻き込まれ、ビクビクと過ごす日々が来るだろう。

ならば答えは一つ。

「別に構わない、むしろあの2人と一緒に過ごす方がボクにとって重要だから」
「……そうか、君は逃げるという選択はしないのだな」

当たり前だ。
どうせビクビク過ごすならあの2人と一緒にいたほうがいい。

「ならば、これは餞別だ。受け取れ」

刹那、頭に膨大な知識が流れ込んできた。
錬金術、数紋秘、魔術、幾何学、神秘に関するあらゆる知識が続々と頭に刷り込まれる。
軽く頭痛がするが、これは……。

「シエル先輩と同じ」
「然り、あの娘も蘇った後は不死耐性だけでなく私の知識を継承した」

【原作】の設定を思い出す。
シエル先輩の経歴はかつてロアに乗っ取られ殺戮を演じるが、まだ殺人機械であったアルクェイドにより滅ぼされる。
だがシエル先輩の霊的ポテンシャルは世界が生かそうとする程に優れていたので後に蘇生を果たしてしまった。

同時に世界にとって矛盾した存在つまりシエル先輩に憑依したロアこそ死んだが、
ロアは次の宿主に転生し、シエル先輩はシエルでありながらロアでもある存在となった為、死ねない肉体になったのである。

天才魔術師だったロアの知識が丸ごとあるので魔術協会の最上位の魔術師、王冠(グランド)に匹敵する魔術知識を持つ。
しかし、ロアだった頃を思い出してしまうために魔術を使用は控えているが、任務遂行のためなら使う事も躊躇しない。

そんな設定であった、
そして今度はボクはその知識を継承することになる。

「今後世界が君の言うところの【鋼の大地】か、
 あるいは【Fate/Extra】に進むにしろこの知識は君のためになるだろう」

「……サービスと話が良すぎて逆に怖いな」

ボクが知るロアとはネタキャラで、
もっと粗暴な印象が強いせいで先ほどから主導権を握れず調子が狂いっぱなしだ。

「どの道私は消え、あの娘は魔術を使いたがらない。
 ならばまだ私の魔術を継承し継続して研究してくれる可能性がある君に、
 私の一生を求めて追求した神秘の奥義、その全てを君に継承させるだけだ」

「随分と期待してくれているようで、どうも」

少しばかりロアに対する見方が変わった。
やはり過去のロアはボクが知るロアとは随分と違うものらしい。
思うにロアは下手に知識があった上に、永遠という名に固守しすぎた。

転生を繰り返してゆけば、
遠野四季に寄生したロアのように転生先の人格に大いに影響される。
ロアという人格は変容し、寄生先の人格との境界が曖昧になる。
それではロアという人格は消耗し、何れなくなってしまう。

もしかするとロアは理性では承知していたが、
アルクェイドに見惚れて以来、それすら承知で転生を繰り返したのだろう。

「――――あ」

ふと、ロアが口を開け惚けた声を漏らす。
眼を見開き、硬直しているロアに不審に思ったボクは彼の視線の先を振り返った。

視線の先にはアルクェイドさんがいた。
しかし、ボクが知るアーパー吸血鬼な彼女ではなく、
真祖の姫にして真祖の最悪の処刑人であるアルクェイド・ブリュンスタッドであった。

表情こそ無表情であったが、
天上から照らす月の光で混じりけのない金髪が黄金色にぼんやりと輝く。
人の形をしていながらその造形が出来過ぎているせいで却って、この世ならざる者の空気を出している。
その彼女が粛々と歩き、長いドレスが風に揺られる姿にボクはその美しさに一瞬息が止まった。

「ああ、そうか」

ロアがポツリと呟く。
そして、驚いたことにあのロアの瞳に涙が溜まっていた。

「本当は根源探究のためではない、
 私はこうしてただ姫を見ていていたかっただけなのだ。
 にも関わらず――――私は何のために永遠を目指したかもを忘れてしまった」

今のロアは死徒27祖でも三咲町を騒がせた吸血鬼でもなく、
涙を零し、ただただ自らの過ちと後悔を嘆くミハイル・ロア・バルダムヨォンであった。
永遠の時を過ごし、目的と手段を見失った事に死んだ今ようやく知った哀れな男がそこにいた。

「………………」

そして、ボクはロアを笑うことも哀れむこともできなかった。
吸血鬼になった今、永遠の時を過ごした末の末路が目の前にいる以上他人事ではないからだ。

いつか、この世界の両親、志貴やシエル先輩の事を忘れてしまった時。
果たしてボクはどうなっているのだろうか、ボクの未来の可能性について考えさせる。

そう、いつかボクも皆との出会いを忘れ、
ただ殺戮を楽しむ吸血鬼に堕ちる日が来るのかもしれない。
そんな嫌な未来の可能性に逃避するため、何気なく天上を見上げボクは気づく。

「空が……っ!」

故障し砂嵐状態のテレビ画面のようにボロボロと空が欠けてゆく。
空だけではない、地面の花や草、見える全ての空間が消滅しつつあった。

「時間が来たようだ」

ロアに振り返れば体全体が半透明で向こうの風景が見えるほど、
存在がすっかり薄くなってしまい、とうとう別れの時間が来た事実を悟った。

「お別れだ、弓塚さつき。
 私が言っても君は喜ばないだろうが、君と姫の人生に幸福あれ」

「ロア……!」

その時は何て言えばいいのか思いつかなかった。
ただロアの名を口にして手を伸ばしたがそこで意識が消え、
ボクは志貴やアルクェイドさん、シエル先輩が待っている現実世界へ帰還した。



※  ※  ※



そんな風に回想しつつ黙々と歩き続け我が家にたどり着いた。
古びたマンションの階段を上がり、ドアに手をかけるが誰もいない部屋から人の気配を感じた。
だが気配から毎度屋敷から抜け出す不法侵入者であることはわかっていたのでそのままドアを開ける。

「遅い、待ちくたびれた」

待っている間に読んでいた漫画から眼を離し、少女が顔を上げる。
そのさい、少女の金糸のような、長く美しい髪が少しの間だけ宙を舞う。

見た目は10〜13といった所だろうか。
女という言葉はまだ似合わずやっと少女になった幼い肉体と顔をしている。
しかし、黄金の瞳には見た目には似合わない高い知性と理性を宿しており、それが当たり前であると思わせた。

今時見かけない古典的な白いブラウス、
首元を黒いリボンでピッチリと締め、露出度が低い黒のロングスカート。
靴はブーツとそんな隙のない姿と少女の完璧な造形と合わさってまるで西洋人形のような出で立ちである。

そのせいか古ぼけた事務所を改装した部屋と全然合っておらず少女は異彩を放っていた。
おまけに、不法侵入した挙句真っ先に言い放った言葉が待っていたと言わんばかりの物であった。

「そりゃどうも。で、それより見たところまた無断で屋敷から抜け出したのか?
 あれほど勝手に屋敷から抜け出し、翡翠さんを困らせるなとボクは言ったはずだけど、お嬢様?」

「む、確かに用事から無断で抜けたのは事実だが、
 別に重要なものではないし、何よりも暗示で誤魔化しているから問題ない」

「なおさら悪いわ!!」

口調と気品こそ教育の賜物か素晴らしいお嬢様で在らされるが、
このアーパーと自由人気質は間違いなく両親の、それも両方から受け継いでいる。

「しかたがないだろ、
 屋敷では琥珀の部屋に行かなければテレビもゲームもない。
 漫画もさつきの所に行かなければ読めないし、何よりも小遣いが少ない…………」

先程までの尊大な態度とは打って変わって、
遠くを見るように眼を細め呟き、落ち込む姿に妙に哀愁を誘う。

小遣いは日500円(昼食代扱い)
アルバイトは当然禁止で門限は夕方まで、
夜10時を過ぎれば屋敷内を動き回るのすら禁止。
おまけに居間にテレビはなく在るのは新聞だけでテレビやゲームなどの娯楽品も禁止。
遇に待遇改善デモを琥珀さんと一緒に行っているようだが、勝ったためしがないとか何とか。

――――嗚呼、親子二代で鬼妹に絞られるとは。

「あーオホン、話を戻そうアルク。
 ボクの所に来たのはただ漫画やゲームをしに来ただけではないんじゃないか?」

この娘がここに来たということは、
ボクにとって親戚の子供が遊びに来ただけでなく仕事の依頼が来たという事である。
吸血鬼になって以来、遠野の屋敷に世話になり、メルブラなど神秘絡みの事件を解決してゆく内に、
今では怪異や神秘絡みの事案を遠野家が依頼する形で調査、解決する三咲町を守る正義の味方といった所だ。

某喫茶店やカレイドステッキには梃子摺ったが、大抵は自分が強力な吸血鬼なため穏便に済んでいる。
ただ昔、秋葉さんに頼まれたとはいえ、若さと勢いで志貴を追って欧州までブイブイ言ったせいでたまに厄介な事案もあるけど……。

「ああ、これだ」

彼女がファイルを差し出し、すぐに受け取り概要に眼を通す。
簡単な仕事を期待していたがどうやら今日はそうでないらしく実に面倒なものと来た。
だから読み終えた後、ボクは思わず口にした。

「魔術師か、」


やっかいだな。
しかも知り合いであるしこの人は――――。



※  ※  ※



ボクは支度を済ませると直ぐに行動に移った。
間もなく日付が変わろうとしている時間にも関わらず人は多い。
世間は世界規模の不況に悩まされているが、繁華街を歩く人々に笑顔が絶えない。

「あれだ!次はあれを!」
「……買い食いに来たわけじゃなないんだぞ」

で、この金髪お嬢様はあっちこっちで買い食いし、口に突っ込んだ食べ物で頬を膨らませていた。
一度彼女を屋敷に戻そうと思ったが本人が駄々を捏ねて結局ついて来たがご覧の有様だ。
おまけに彼女の見た目的に金髪美少女なせいかかなり目出っており、周囲からの好奇と関心の視線が痛い。

なお、代金はボク持ちである。
既に夏目漱石さんが数枚財布から消えている。
別にそのくらい奢れるだけの収入は得ているからかまわない。
ただ、彼女がはしゃぐ姿を見ていると、どうしても今は眠っている彼女を思い出す。

「―――――」

彼女だけでない、
多くの人間と出会い過ごした短くも濃厚な青春の日々。
そして、二度と戻ってこないあの日々が思い起こされる。

「はぁ……」

いけない、どうも歳を取ると過去の事ばかり考えてしまう。
肉体こそボクは成長し老化しないが、精神は確実に老化してゆく。
そして永い年月の果てに精神が老化して磨耗した果てには――――やめよう、考えるのは。

ただ今の仕事に集中しよう。

「本業に戻るぞ。こっちだ、アルク」

今度はシュークリームをほお張っていた彼女を引っ張り、路地裏へ入る。
繁華街の喧騒と眩しいばかりの光はなく、そこは本当に静かであった。
天にそびえるビルの両側の僅かな隙間とたまに出現する広い空間を次々と超えてゆく。

上を見上げても星空は見えず、碌な明かりもなく、地面と流れる冷たい風は体の芯まで届く。
進めど進めどビルしか見えずさながらドイツの黒い森、シュヴァルツヴァルトのようだ。

しばらく入り組んだ路地を歩き、やがてその先に目的の人物がいた。
向こうからすると自分たちは後ろからやって来た上に寒い時期であるため上着を羽織っているため、
男女の区別は光の角度によって赤髪にも見えなくもない長い髪だけでしか判断できない。
そして、妙に頑丈そうな皮のケースを脇に置いている。

「こんばんわ、いい夜ね。
 でもわたしの後ろにいるとビームと一緒に蹴り飛ばすわよ」

「ゴルゴですか貴女は、
 いや強ち間違ってはいないけど。
 はい、こちらこそこんばんわ、お久しぶりです――――蒼崎青子さん」

そう、今回の対象は魔術師であることに違いないが正確には魔法使い。
志貴にとって生きるための人生の切欠を作った恩人そして世界で数人しかいない魔法使いの1人、

蒼崎青子が今回の対象であった。

「で、管理者である遠野家に未通達で貴女はどうしてここに来たのか教えて貰えますか?」

冬木が遠坂家の管理下にあるならば三咲町は遠野家の管理下にある。
通常裏の住民が三咲町に訪問、あるいは活動するさいには遠野家に許可を得なければいけない。
そしてボクは無許可で入り込むモグリの連中を〆て追い出すことが主たる仕事となっている。

「あ、いやー忘れてた……てへペろ」

あ、今少し殺意が沸いた。

「冗談よ冗談。
 にしても貴女随分と仕事熱心なのね、
 わざわざ直接顔を見せるなんて、でも安心しなさい、
 わたしはただ高校のころの知り合いに会うだけだから」

高校のころの知り合いねぇ……久遠寺さんと静希さんのことだろう。
久遠寺さんなんて出会った瞬間、志貴やアルクェイドさんを巻き込んで殺し愛に突入したし、
静希さんは静希さんで無駄のない動きでボクの心臓を潰し、生死を彷徨う羽目になったのは……色々思い出したくない記憶だ。

今でも久遠寺さんは「実験材料となって」と迫るし、
静希さんは戦闘訓練でこっちが吸血鬼なせいか、人畜無害な顔をしてるのにまったく手加減ないし……。

「こら、そこ!なに遠くを見ているのよ。
 それよりわたしは久々にあの2人に会うのだけど、あの2人に何か変わった所があった?」

「ええ、まあ相変わらずというべきか、
 久遠寺さんは琥珀さんとタッグを組んで怪しげな薬を作るし、
 静希さんはあっちへフラフラこっちへフラフラしていますよ、ただ――――」

ボクと違ってあの2人もまた歳をとった。
今でこそまだ若いがその次の10年後はどうなっているか考えたくない。
彼らもまたいつかは寿命に勝てずに亡くなる定めなのだろう。

「……まあ、人間だから仕方ないわよね
 それが自然の摂理、わたし達のような人間こそ異常なのだから」

眼を細めどこか達観するように魔法使いは呟いた。
その態度にボクはふと気づく、彼女の姿が始めて会った時からさほど変わっていない事実に。

「青子さん、もしかして貴女も――――」

「知りたい?フフン?
 でも教えない、乙女は秘密があるのよ」

ボクの疑問に対しこれ以上ないドヤ顔で、
この魔法使いは自らを乙女と言い切ったシリアスが台無しな上に――――乙女はないわー。

そう思った瞬間、顔の真横にビームが走った。


衝撃で髪の毛が何本か飛び、頬に一条の傷跡が薄っすらできてしまう。
その後、後ろに響いた破壊音でやっと何が起こったのか理解した。

「今、何て思ったかしら?」

にっこり、と向日葵のような笑顔を浮かべる魔法使い。
あ、アハハハー、いやー冗談ですよ、さっきのは冗談ですよ。
今日も蒼崎青子様は若くて凛々しく実に美しい、いや本当ですよー。

「今回は許してあげる、けど次はないけどね。
 ――――まあ、次といっても次は何年後になるかはわからないけど」

そうだ、この風来坊な魔法使いと出会えたのは奇跡のようなものだ。
前回出会ったのは欧州での騒動前後、それも10年以上前の過去である。
次に魔法使いと出会ったそのとき、彼女を知る人間は果たして生きているのだろうか?

「じゃあ、わたしはこれで。
 と、言いたいところだけでそこのお嬢さんの名前をまだ聞いていないわ」

アルクの事を聞かれ、ボクは首を横に向ける。
彼女は一歩前に出て魔法使いと向き合うと綺麗にお辞儀をして言った。

「はじめまして、私は姫月アルク、
 父がよく貴女の事を話していました――――先生」

先生、その単語にどこか懐かしそうに顔を緩め、
驚き、同時に全てを悟った表情で魔法使いは彼女を見つめた。

「そっか、やっぱりそうなんだ。奇跡って以外とあるものなのね」

何時も見せるおちゃらけた笑顔ではなく、
慈悲深く、その奇跡を心底祝う笑顔を魔法使いは浮かべる。

「じゃあね、次はいつになるか分からないけど貴女の人生に幸あらんことを」
「こちらこそ、貴女とまた会える日々をお待ちしています」

お互い軽く別れの会釈をすると、
図ったかのように体の向きを変えてそれぞれの道を歩んだ。

実にあっけない別れだ。
けど、それもまた悪くない。
別れもあれば出会いもあるし再会もある。
まだまだ、ボク達が演じる物語は終わっていないのだから。

「さて、次はたい焼きを頼む」
「金髪だからって、食いしん坊キャラでも目指しているのか?」

彼女と再び手を繋ぎ繁華街へと向かう。
お互い吸血鬼の類だが伝わる確かな体温の温かみ。

ボクはこの世界で転生者という異邦人であった。
そのせいで定められた未来を変え、この世界に影響を与え続けた。
けど、今はこの世界に住む一住民として暮らし【原作】にない未知の未来を歩んでいる。

【月姫】から10年以上過ぎた。
ボクはどこから来たのだろうか?どこに向かうだろうか?
その答えは出ないが、確かに言える事実は未来の可能性は無限だ。

行き着く先は見えないけど、
未来はきっと可能性に満ちている。



おわり










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第21話「可能性未来」

2014-02-01 23:37:06 | 弓塚さつきの奮闘記〜月姫編

衝撃で髪の毛が何本か飛び、頬に一条の傷跡が薄っすらできてしまう。
その後、後ろに響いた破壊音でやっと何が起こったのか理解した。

「今、何て思ったかしら?」

にっこり、と向日葵のような笑顔を浮かべる魔法使い。
あ、アハハハー、いやー冗談ですよ、さっきのは冗談ですよ。
今日も蒼崎青子様は若くて凛々しく実に美しい、いや本当ですよー。

「今回は許してあげる、けど次はないけどね。
 ――――まあ、次といっても次は何年後になるかはわからないけど」

そうだ、この風来坊な魔法使いと出会えたのは奇跡のようなものだ。
前回出会ったのは欧州での騒動前後、それも10年以上前の過去である。
次に魔法使いと出会ったそのとき、彼女を知る人間は果たして生きているのだろうか?

「じゃあ、わたしはこれで。
 と、言いたいところだけでそこのお嬢さんの名前をまだ聞いていないわ」

アルクの事を聞かれ、ボクは首を横に向ける。
彼女は一歩前に出て魔法使いと向き合うと綺麗にお辞儀をして言った。

「はじめまして、私は姫月アルク、
 父がよく貴女の事を話していました――――先生」

先生、その単語にどこか懐かしそうに顔を緩め、
驚き、同時に全てを悟った表情で魔法使いは彼女を見つめた。

「そっか、やっぱりそうなんだ。奇跡って以外とあるものなのね」

何時も見せるおちゃらけた笑顔ではなく、
慈悲深く、その奇跡を心底祝う笑顔を魔法使いは浮かべる。

「じゃあね、次はいつになるか分からないけど貴女の人生に幸あらんことを」
「こちらこそ、貴女とまた会える日々をお待ちしています」

お互い軽く別れの会釈をすると、
図ったかのように体の向きを変えてそれぞれの道を歩んだ。

実にあっけない別れだ。
けど、それもまた悪くない。
別れもあれば出会いもあるし再会もある。
まだまだ、ボク達が演じる物語は終わっていないのだから。

「さて、次はたい焼きを頼む」
「金髪だからって、食いしん坊キャラでも目指しているのか?」

彼女と再び手を繋ぎ繁華街へと向かう。
お互い吸血鬼の類だが伝わる確かな体温の温かみ。

ボクはこの世界で転生者という異邦人であった。
そのせいで定められた未来を変え、この世界に影響を与え続けた。
けど、今はこの世界に住む一住民として暮らし【原作】にない未知の未来を歩んでいる。

【月姫】から10年以上過ぎた。
ボクはどこから来たのだろうか?どこに向かうだろうか?
その答えは出ないが、確かに言える事実は未来の可能性は無限だ。

行き着く先は見えないけど、
未来はきっと可能性に満ちている。

そうボクは思う。








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第21話「未来可能性」

2014-01-31 23:24:32 | 弓塚さつきの奮闘記〜月姫編

「で、管理者である遠野家に未通達で貴女はどうしてここに来たのか教えて貰えますか?」

冬木が遠坂家の管理下にあるならば三咲町は遠野家の管理下にある。
通常裏の住民が三咲町に訪問、あるいは活動するさいには遠野家に許可を得なければいけない。
そしてボクは無許可で入り込むモグリの連中を〆て追い出すことが主たる仕事となっている。

「あ、いやー忘れてた……てへペろ」

あ、今少し殺意が沸いた。

「冗談よ冗談。
 にしても貴女随分と仕事熱心なのね、
 わざわざ直接顔を見せるなんて、でも安心しなさい、
 わたしはただ高校のころの知り合いに会うだけだから」

高校のころの知り合いねぇ……久遠寺さんと静希さんのことだろう。
久遠寺さんなんて出会った瞬間、志貴やアルクェイドさんを巻き込んで殺し愛に突入したし、
静希さんは静希さんで無駄のない動きでボクの心臓を潰し、生死を彷徨う羽目になったのは……色々思い出したくない記憶だ。

今でも久遠寺さんは「実験材料となって」と迫るし、
静希さんは戦闘訓練でこっちが吸血鬼なせいか、人畜無害な顔をしてるのにまったく手加減ないし……。

「こら、そこ!なに遠くを見ているのよ。
 それよりわたしは久々にあの2人に会うのだけど、あの2人に何か変わった所があった?」

「ええ、まあ相変わらずというべきか、
 久遠寺さんは琥珀さんとタッグを組んで怪しげな薬を作るし、
 静希さんはあっちへフラフラこっちへフラフラしていますよ、ただ――――」

ボクと違ってあの2人もまた歳をとった。
今でこそまだ若いがその次の10年後はどうなっているか考えたくない。
彼らもまたいつかは寿命に勝てずに亡くなる定めなのだろう。

「……まあ、人間だから仕方ないわよね
 それが自然の摂理、わたし達のような人間こそ異常なのだから」

眼を細めどこか達観するように魔法使いは呟いた。
その態度にボクはふと気づく、彼女の姿が始めて会った時からさほど変わっていない事実に。

「青子さん、もしかして貴女も――――」

「知りたい?フフン?
 でも教えない、乙女は秘密があるのよ」

ボクの疑問に対しこれ以上ないドヤ顔で、
この魔法使いは自らを乙女と言い切ったシリアスが台無しな上に――――乙女はないわー。

そう思った瞬間、顔の真横にビームが走った。





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第21話「可能性未来」

2014-01-28 21:47:00 | 弓塚さつきの奮闘記〜月姫編

やっかいだな。
しかも知り合いであるしこの人は――――。



※  ※  ※



ボクは支度を済ませると直ぐに行動に移った。
間もなく日付が変わろうとしている時間にも関わらず人は多い。
世間は世界規模の不況に悩まされているが、繁華街を歩く人々に笑顔が絶えない。

「あれだ!次はあれを!」
「……買い食いに来たわけじゃなないんだぞ」

で、この金髪お嬢様はあっちこっちで買い食いし、口に突っ込んだ食べ物で頬を膨らませていた。
一度彼女を屋敷に戻そうと思ったが本人が駄々を捏ねて結局ついて来たがご覧の有様だ。
おまけに彼女の見た目的に金髪美少女なせいかかなり目出っており、周囲からの好奇と関心の視線が痛い。

なお、代金はボク持ちである。
既に夏目漱石さんが数枚財布から消えている。
別にそのくらい奢れるだけの収入は得ているからかまわない。
ただ、彼女がはしゃぐ姿を見ていると、どうしても今は眠っている彼女を思い出す。

「―――――」

彼女だけでない、
多くの人間と出会い過ごした短くも濃厚な青春の日々。
そして、二度と戻ってこないあの日々が思い起こされる。

「はぁ……」

いけない、どうも歳を取ると過去の事ばかり考えてしまう。
肉体こそボクは成長し老化しないが、精神は確実に老化してゆく。
そして永い年月の果てに精神が老化して磨耗した果てには――――やめよう、考えるのは。

ただ今の仕事に集中しよう。

「本業に戻るぞ。こっちだ、アルク」

今度はシュークリームをほお張っていた彼女を引っ張り、路地裏へ入る。
繁華街の喧騒と眩しいばかりの光はなく、そこは本当に静かであった。
天にそびえるビルの両側の僅かな隙間とたまに出現する広い空間を次々と超えてゆく。

上を見上げても星空は見えず、碌な明かりもなく、地面と流れる冷たい風は体の芯まで届く。
進めど進めどビルしか見えずさながらドイツの黒い森、シュヴァルツヴァルトのようだ。

しばらく入り組んだ路地を歩き、やがてその先に目的の人物がいた。
向こうからすると自分たちは後ろからやって来た上に寒い時期であるため上着を羽織っているため、
男女の区別は光の角度によって赤髪にも見えなくもない長い髪だけでしか判断できない。
そして、妙に頑丈そうな皮のケースを脇に置いている。

「こんばんわ、いい夜ね。
 でもわたしの後ろにいるとビームと一緒に蹴り飛ばすわよ」

「ゴルゴですか貴女は、
 いや強ち間違ってはいないけど。
 はい、こちらこそこんばんわ、お久しぶりです――――蒼崎青子さん」

そう、今回の対象は魔術師であることに違いないが正確には魔法使い。
志貴にとって生きるための人生の切欠を作った恩人そして世界で数人しかいない魔法使いの1人、

蒼崎青子が今回の対象であった。



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第21話「可能性未来」

2014-01-27 21:41:16 | 弓塚さつきの奮闘記〜月姫編
※  ※  ※



そんな風に回想しつつ黙々と歩き続け我が家にたどり着いた。
古びたマンションの階段を上がり、ドアに手をかけるが誰もいない部屋から人の気配を感じた。
だが気配から毎度屋敷から抜け出す不法侵入者であることはわかっていたのでそのままドアを開ける。

「遅い、待ちくたびれた」

待っている間に読んでいた漫画から眼を離し、少女が顔を上げる。
そのさい、少女の金糸のような、長く美しい髪が少しの間だけ宙を舞う。

見た目は10〜13といった所だろうか。
女という言葉はまだ似合わずやっと少女になった幼い肉体と顔をしている。
しかし、黄金の瞳には見た目には似合わない高い知性と理性を宿しており、それが当たり前であると思わせた。

今時見かけない古典的な白いブラウス、
首元を黒いリボンでピッチリと締め、露出度が低い黒のロングスカート。
靴はブーツとそんな隙のない姿と少女の完璧な造形と合わさってまるで西洋人形のような出で立ちである。

そのせいか古ぼけた事務所を改装した部屋と全然合っておらず少女は異彩を放っていた。
おまけに、不法侵入した挙句真っ先に言い放った言葉が待っていたと言わんばかりの物であった。

「そりゃどうも。で、それより見たところまた無断で屋敷から抜け出したのか?
 あれほど勝手に屋敷から抜け出し、翡翠さんを困らせるなとボクは言ったはずだけど、お嬢様?」

「む、確かに用事から無断で抜けたのは事実だが、
 別に重要なものではないし、何よりも暗示で誤魔化しているから問題ない」

「なおさら悪いわ!!」

口調と気品こそ教育の賜物か素晴らしいお嬢様で在らされるが、
このアーパーと自由人気質は間違いなく両親の、それも両方から受け継いでいる。

「しかたがないだろ、
 屋敷では琥珀の部屋に行かなければテレビもゲームもない。
 漫画もさつきの所に行かなければ読めないし、何よりも小遣いが少ない…………」

先程までの尊大な態度とは打って変わって、
遠くを見るように眼を細め呟き、落ち込む姿に妙に哀愁を誘う。

小遣いは日500円(昼食代扱い)
アルバイトは当然禁止で門限は夕方まで、
夜10時を過ぎれば屋敷内を動き回るのすら禁止。
おまけに居間にテレビはなく在るのは新聞だけでテレビやゲームなどの娯楽品も禁止。
遇に待遇改善デモを琥珀さんと一緒に行っているようだが、勝ったためしがないとか何とか。

――――嗚呼、親子二代で鬼妹に絞られるとは。

「あーオホン、話を戻そうアルク。
 ボクの所に来たのはただ漫画やゲームをしに来ただけではないんじゃないか?」

この娘がここに来たということは、
ボクにとって親戚の子供が遊びに来ただけでなく仕事の依頼が来たという事である。
吸血鬼になって以来、遠野の屋敷に世話になり、メルブラなど神秘絡みの事件を解決してゆく内に、
今では怪異や神秘絡みの事案を遠野家が依頼する形で調査、解決する三咲町を守る正義の味方といった所だ。

某喫茶店やカレイドステッキには梃子摺ったが、大抵は自分が強力な吸血鬼なため穏便に済んでいる。
ただ昔、秋葉さんに頼まれたとはいえ、若さと勢いで志貴を追って欧州までブイブイ言ったせいでたまに厄介な事案もあるけど……。

「ああ、これだ」

彼女がファイルを差し出し、すぐに受け取り概要に眼を通す。
簡単な仕事を期待していたがどうやら今日はそうでないらしく実に面倒なものと来た。
だから読み終えた後、ボクは思わず口にした。

「魔術師か、」


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第21話「可能性未来」

2014-01-25 22:54:31 | 弓塚さつきの奮闘記〜月姫編

視線の先にはアルクェイドさんがいた。
しかし、ボクが知るアーパー吸血鬼な彼女ではなく、
真祖の姫にして真祖の最悪の処刑人であるアルクェイド・ブリュンスタッドであった。

表情こそ無表情であったが、
天上から照らす月の光で混じりけのない金髪が黄金色にぼんやりと輝く。
人の形をしていながらその造形が出来過ぎているせいで却って、この世ならざる者の空気を出している。
その彼女が粛々と歩き、長いドレスが風に揺られる姿にボクはその美しさに一瞬息が止まった。

「ああ、そうか」

ロアがポツリと呟く。
そして、驚いたことにあのロアの瞳に涙が溜まっていた。

「本当は根源探究のためではない、
 私はこうしてただ姫を見ていていたかっただけなのだ。
 にも関わらず――――私は何のために永遠を目指したかもを忘れてしまった」

今のロアは死徒27祖でも三咲町を騒がせた吸血鬼でもなく、
涙を零し、ただただ自らの過ちと後悔を嘆くミハイル・ロア・バルダムヨォンであった。
永遠の時を過ごし、目的と手段を見失った事に死んだ今ようやく知った哀れな男がそこにいた。

「………………」

そして、ボクはロアを笑うことも哀れむこともできなかった。
吸血鬼になった今、永遠の時を過ごした末の末路が目の前にいる以上他人事ではないからだ。

いつか、この世界の両親、志貴やシエル先輩の事を忘れてしまった時。
果たしてボクはどうなっているのだろうか、ボクの未来の可能性について考えさせる。

そう、いつかボクも皆との出会いを忘れ、
ただ殺戮を楽しむ吸血鬼に堕ちる日が来るのかもしれない。
そんな嫌な未来の可能性に逃避するため、何気なく天上を見上げボクは気づく。

「空が……っ!」

故障し砂嵐状態のテレビ画面のようにボロボロと空が欠けてゆく。
空だけではない、地面の花や草、見える全ての空間が消滅しつつあった。

「時間が来たようだ」

ロアに振り返れば体全体が半透明で向こうの風景が見えるほど、
存在がすっかり薄くなってしまい、とうとう別れの時間が来た事実を悟った。

「お別れだ、弓塚さつき。
 私が言っても君は喜ばないだろうが、君と姫の人生に幸福あれ」

「ロア……!」

その時は何て言えばいいのか思いつかなかった。
ただロアの名を口にして手を伸ばしたがそこで意識が消え、
ボクは志貴やアルクェイドさん、シエル先輩が待っている現実世界へ帰還した。





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第21話「可能性未来」

2014-01-24 23:48:21 | 弓塚さつきの奮闘記〜月姫編

「ならば、これは餞別だ。受け取れ」

刹那、頭に膨大な知識が流れ込んできた。
錬金術、数紋秘、魔術、幾何学、神秘に関するあらゆる知識が続々と頭に刷り込まれる。
軽く頭痛がするが、これは……。

「シエル先輩と同じ」
「然り、あの娘も蘇った後は不死耐性だけでなく私の知識を継承した」

【原作】の設定を思い出す。
シエル先輩の経歴はかつてロアに乗っ取られ殺戮を演じるが、まだ殺人機械であったアルクェイドにより滅ぼされる。
だがシエル先輩の霊的ポテンシャルは世界が生かそうとする程に優れていたので後に蘇生を果たしてしまった。

同時に世界にとって矛盾した存在つまりシエル先輩に憑依したロアこそ死んだが、
ロアは次の宿主に転生し、シエル先輩はシエルでありながらロアでもある存在となった為、死ねない肉体になったのである。

天才魔術師だったロアの知識が丸ごとあるので魔術協会の最上位の魔術師、王冠(グランド)に匹敵する魔術知識を持つ。
しかし、ロアだった頃を思い出してしまうために魔術を使用は控えているが、任務遂行のためなら使う事も躊躇しない。

そんな設定であった、
そして今度はボクはその知識を継承することになる。

「今後世界が君の言うところの【鋼の大地】か、
 あるいは【Fate/Extra】に進むにしろこの知識は君のためになるだろう」

「……サービスと話が良すぎて逆に怖いな」

ボクが知るロアとはネタキャラで、
もっと粗暴な印象が強いせいで先ほどから主導権を握れず調子が狂いっぱなしだ。

「どの道私は消え、あの娘は魔術を使いたがらない。
 ならばまだ私の魔術を継承し継続して研究してくれる可能性がある君に、
 私の一生を求めて追求した神秘の奥義、その全てを君に継承させるだけだ」

「随分と期待してくれているようで、どうも」

少しばかりロアに対する見方が変わった。
やはり過去のロアはボクが知るロアとは随分と違うものらしい。
思うにロアは下手に知識があった上に、永遠という名に固守しすぎた。

転生を繰り返してゆけば、
遠野四季に寄生したロアのように転生先の人格に大いに影響される。
ロアという人格は変容し、寄生先の人格との境界が曖昧になる。
それではロアという人格は消耗し、何れなくなってしまう。

もしかするとロアは理性では承知していたが、
アルクェイドに見惚れて以来、それすら承知で転生を繰り返したのだろう。

「――――あ」

ふと、ロアが口を開け惚けた声を漏らす。
眼を見開き、硬直しているロアに不審に思ったボクは彼の視線の先を振り返った。





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第21話「可能性未来」

2014-01-22 22:24:12 | 弓塚さつきの奮闘記〜月姫編

なんてことだ。
よりにもよってこの男に知られるとは。

「そんなに構えなくていい、
 どの道私はあの殺人貴に殺された消える身。
 ゆえに、今更君を殺したり我が物にしたりする気はない。
 それよりも 老婆心ながら今後の君について言いたいことがある」

思わず襲おうとしたボクを手で制止するようにサインすると、ロアは紳士的に話を進めた。

「改めて言おう、君の吸血鬼としての才能は特異だ。
 私に血を吸われ、グールやリビングデットを通り越していきなり吸血鬼へと変化。
 ある意味君の才能が開花したと言える、もはやこの現象は進化と表現してもいいものだ」

「まったく、嬉しくないね。
 シエル先輩には殺されかけるし」

「ああ、そうだな。
 才能の開花は必ずしも人を幸福にしない。
 見方を変えればむしろそれ以外の生き方を束縛しかねない」

ボクの愚痴に同意するロア。
先ほどまで殺しあったはずの相手だが、
可笑しなことにボクらは随分と親しく話せている。

「そして、例えいずれ出会うアトラス院のエルトナムの娘が、
 どれほど労力を割いてもせいぜい太陽の下を歩ける程度で、君は吸血鬼のままその人生を過ごすだろう」

………ああ、やっぱり。
薄々とだけど覚悟はしていた。
やはりシオンの知識を以ってしても人間に戻るのは無理か。

「君は良くも悪くも吸血鬼として才能がありすぎる。
 姫や殺人貴の元にいる限り今後更なる苦難に見舞われることは間違いない
 ただでさえ、姫は裏の世界では目立つ存在だ。そこにあのバロールの眼を持つ人間、
 空想具現化が使える君が加われば、魔は魔を引き付けるように裏世界の闘争に巻き込まれるのは確実だ」

そっか、ロアから見てもそうなのか。
アルクェイドさんや志貴の傍にいると巻き込まれることは確かなんだ。
元よりあの2人は平穏とは程遠い存在、むしろ原因の渦中になるか飛び込んでしまう性格だ。

だから、彼らの傍にいれば必然的に修羅の道へ自動的に歩んでしまう。
少し前まではそんな修羅の道を避けることばかり考えていたけど、今は違う。

吸血鬼になってしまった以上、
どんなに平穏な日常を過ごすことを努力しても、
遅かれ早かれ巻き込まれ、ビクビクと過ごす日々が来るだろう。

ならば答えは一つ。

「別に構わない、むしろあの2人と一緒に過ごす方がボクにとって重要だから」

「……そうか、君は逃げるという選択はしないのだな」

当たり前だ。
どうせビクビク過ごすならあの2人と一緒にいたほうがいい。











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