凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

酒場の話題について

2008年09月17日 | 酒についての話
 「酒の最高の肴は、楽しい会話である」
 これは確かに至言であると思う。しかしながら、これはなかなか難しいものだとも思う。世の中には酒の邪魔をする会話が山ほどある、と言っては「お前何サマだ」と批判を浴びるかもしれないが、実際に酔うに酔えない状況を作り出す場面を嫌になるほど経験してきている。
 酒って何のために呑むのだろう、という自問はこれまでもずいぶん繰り返してきている。僕は「酒は食べ物に奉仕すべき」とかいろいろ理屈を言ってきているが、結局のところ「味わいかつ酔う」ために呑むのだろうと思っている。酒を味わいそして酔っ払うのが好きなのだ。
 ではそうするための状況作りが必要となってくる。どんな場面で呑んでも酒は美味いさ、と言う方もあるだろうが、僕はまだまだ修行が足らないのでそういう境地には達していない。例えば、呑むことが仕事になり結果を求められるようになったら、とてもおちおち酔っ払ってはいられないだろうと想像する。ビール製造会社の新作研究所などでテイスティングを生業としてらっしゃる方が居る。僕がもしもその立場であるならば、仕事(酒を呑む仕事)が終わった後、さんざん呑んでいるにも関わらず一杯やりたくなるに違いない。
 結局、酒とは開放感がないと美味くないものだろうと思う。酒を呑むから開放感が生じるのか、開放感を持ちつつ酒を呑むから美味いのか、それははっきりと分からないが表裏一体のものだと僕は感じる。仕事で酒を呑むと実に美味くない。接待という仕事が苦痛なのは、いろいろ要因はあるけれども「殺して呑む」ことが前提になっているからだと考えている。

 酒は状況であり、酒は開放感である。いくら上質の酒を呑んだとしても、そのときの状況が酒に相応しくなければ、その酒の価値を十分に享受することが出来ない。
 その状況というものは、複数で呑んでいる場合は、その時の会話によって成り立つ。場所の設定や時間帯もあるかもしれないがそれはあまり大きな要因ではない。下らない話で占められている時は最高の雰囲気を持つ立派な酒場で呑んでいてもまずい酒はまずいし、バラックで呑んでいても楽しい雰囲気なら美味い酒は美味い。
 だから、酒場の会話というものは難しい。酒に相応しい状況、雰囲気は人それぞれでまちまちであるため、一方が楽しいと思っていてももう片方は満足しているとは言えない場合がある。酒場の話題のニーズというものは個々で本当に違う。
 
 酒の席で仕事の話をするな、とはよく聞く話である。僕ももちろんそれには基本的に同意している。しかしながら、例えば職場の同僚と呑む場合は、仕事関係の話にならざるを得ない部分があるのはもう致し方ないかとも思ってしまう。共通の話題がそこにしか存在しない場合があるからである。
 この酒場での仕事の話、愚痴や上司の悪口であればまだ良心的ではないかとも思ったりする。僕は、酒をストレス解消の道具に使うのは好きではないし酒に申し訳ないとも思っているが、まあ酒にすがりたいこともあるだろう。日頃口に出せない鬱憤を酒の力を借りて晴らすのも、酒の持つ優しさのおかげかとも思う。個人的には愚痴や悪口などあまり聞きたくない話題だが、付き合いであるからしょうがない。なお、僕は酒場の話題で自分から仕事に限らず愚痴や悪口を言うことは無い。愚痴を言うときにはそのときの不快な思いを反芻することになるからだ。酒を呑む時には楽しい気分で居たいので、嫌な思いを繰り返すような話は避けるのが得策だと考えている。そんな話は忘れたいのだ。なので自制する。
 しかし人が言う分にはまだ許そうかとも思う。そのくらいの度量はこの歳なので出来てきている。しかしながら、その話が愚痴に留まらず、酒場で仕事が始まるかのような話を持ち出す御仁も居る。これだけは勘弁願いたいものである。
 どうしたら成績が上がるか、どうしたら取引先を陥落させられるのか、どうしたら効率のいい営業が出来るか、等々。そんなのは会議室でやってくれ。酔っていいアイディアなど浮かぶはずがないのだ。無駄であるし不快である。同僚や若い人がそんな話を始めたら僕は制するかもしくは席を立つが、これが上役である場合は全くのところ困る。今すぐ電話して先方に交渉しアポをとれ、などと言い出す。阿呆か。そんなのは酒を呑む前に言え。挙句の果てに説教を始める。お前の頭の中は仕事しか無いのか。可哀相な人であるとの判断も出来るが、酒場には邪魔な人種である。こういう人には、正しい酒の運用方法ではないのは承知しているがガンガン呑ませてツブしてしまう。ようやく静かになったか。ああまたあたら美味い酒なのにもったいない使用法に用いてしまった。こちらまで自己嫌悪になる。こんなヤツと二度と呑むか。

 共通の趣味を持つ人と呑むのは楽しいものである。僕には身近に70年代フォークソングの話をする友人が一人いるが、実に話していて楽しい。また、鉄道マニアでガンダムヲタクの知り合いが居るが、これもまた楽しい。
 別に共通の趣味でなくてもいい。知り合いに釣りの大家が居るが、僕は全く釣りに関しては不調法であるものの、太公望の話は面白い。その人の友人で登山家の人と同席したことがあるが、これもまた楽しい。こういう人たちには蓄積があるので、次から次へと話題を提供してくれる。
 むしろ、共通の趣味など持っていない方がいいのかもしれない。貴方と話が合うと思うから、と言われ格闘技好きの人たちの集まりに同席したことがあるが、僕は格闘技を観るのは好きだが根本はプロレスファンである。どうしても噛み合わない。噛み合わなければ黙って聞いていればいいだけの話だが、プロレスよりK-1を上位に置きたがるその人は、僕に対しプロレスなどというショーより真剣勝負の総合格闘技を重視した方が絶対に面白いと説く。面倒くさいな。悪酔いしてしまうではないか。
 趣味は深まれば深まるほど狭量化してくるものなのかもしれない。この歳まで続いている趣味ならなおさらである。自省を含めて考えるのだが、趣味であっても長く続くとそれについて考える時間も長いし深みも増す。専門性も強くなる。そうなると、例えばその中で自分が出した結論などについては執着心も生じる。
 聞いたことのある話だが、釣りマニアが居合わせた酒の席で、生餌と疑似餌についてどちらがいいかの大論争になってしまった話があると言う。普段はそんな話で揉め事など考えられないのだろうが、酒が入るとその「自分の信ずるものへの執着心」が狭量な部分を先鋭化してしまうのだろうか。
 僕は歴史ヲタクなので日本史の話が出ると楽しいはずなのだが、例えば「信長は日本最大の偉人だ。秀吉なんてタダ横から出てきただけの小心者で器じゃないヤツだ」なんて言葉を聞くと、お前秀吉の何を知ってるんだと言いかけてしまう(もちろん僕も信長や秀吉の何を知っているわけでもない。ただ酒が入るとそんなふうに思っちゃったりするのだ)。これで、坂本龍馬なんて薩摩に踊らされただけ、なんて話題がもしも出たら目を吊り上げて反論してしまうだろう。幸いにしてそういう場面に出くわしたことがないので事無きを得ているが、危ない。例えば邪馬台国論争だって喧嘩に発展するかもしれない。酒は、普段ならば押し殺してしまう部分を顕在化させてしまう作用がある。あんまり深い話はご法度にしたほうが安全だ。
 その最たるご法度話題が政治と宗教なのだろうか。「自分の信ずるものへの執着心」が最も如実に現れる話題である。酒の席で折伏されてはたまらない。
 
 結局、つまらないけれども酒場の話題は「あたりさわりのない話」に終始するのが最も問題を生じさせないのだろう。

  イッキ呑みしか出来ない彼氏 酔ったら車か女の話です

 松山隆宏さんの「はっきり言って僕はあんたが大っ嫌いです」という歌の一節だが、若い頃はこういう酒呑みが僕も嫌いだった。しかし、こういう話をしている限りは喧嘩も意見対立もない。もう好きな女性のタイプであるとかで盛り上がる年齢でもなく、イッキ呑みをしていたらひっくり返ってしまうが、酒場の話題が論争になるよりはいい。
 最近は、話題として子供自慢の話が増えた。僕も親バカの年齢なのだが、子供が居ないのでそんな話には加われない(加わらない)。でもまあ平和である。
 だが、そうして達観するのもいいがどうも酒が美味くない。むしろ一人で呑んでいる方がストレスがたまらないような気さえする。「酒の最高の肴は、楽しい会話である」はずなのだが、徐々に面倒になってくる。
 太田和彦氏は、酒場の話題の極意は「明るい方向に導く」ことであり、そのためには会話を「その通り」「そうだそうだ」と肯定の返事をして話を順接に繋げることである、とする。愉快に呑むのは楽しいに決まっているし、そのためには話の中に対立軸を作ってはならないのだ、と。それは確かに一理ある。だが、歳をとってしまったなとも思うのだ。こういう手法に一理あると思う自分に。
 もっと上手でお洒落な会話が出来ないものかと思う。先達の書いた書籍などを読んでいると、酒場の会話でのお手本が沢山出てくる。吉田健一氏の洒脱さ。丸谷才一氏の薀蓄。吉行淳之介氏の粋と含羞。こういう人たちは達人であって一朝一夕に真似など出来るわけがないのだが、こんなふうな酒呑みになりたいものだと思う。
 そもそも、なんでこんなに酒場の話題が難しい、などと考えるようになってしまったのだろうか。そうだ。昔は酒場の話題が難しい、なんて考えたこともなかった。安い居酒屋で、友人の下宿で、公園の一隅で、時間が経つのも忘れてひたすら喋り、呑んだ。
 その頃と比べて今の僕には何が足りないのか。若さだ、と言ってしまっては虚しすぎる。しがらみが多くなりすぎちゃったのか。しかし、酒席というものはそういうものを本来取っ払ってもいい場所であるはずなのだが。
 そうして堂々巡りに陥る。

 しかし酒場の会話は気を遣うものばかりではない。楽しい会話だってまだいくらでも出来るはずだ。実際、楽しかった酒席も多い。
 最近記憶に残る話題。
 ・吟醸酒を燗するといかに美味いか
 ・あの4の字固めで何故藤波は猪木の足を折れなかったのか
 ・なんでグレープは解散しちゃったのか
 ・ガラスの仮面の結末はどうなるのだろうか
 ・義経ではなく桃太郎がジンギスカンになったのではないか
 ・明智光秀は桃太郎の子孫なのではないか
 等々。阿呆な話題を真面目に考える至福というものがある。次期総裁選の話などよりよっぽど楽しい。

 いろいろな考え方もあると思う。ただやはり「酒席に必要なものは開放感」であるという考えは僕は揺るがない。そして、会議室でやるべき議論や対立軸が生じるような話題は「酒品が無い」とも僕は考えている。酒が泣くような話題は出来ればごめんこうむりたい。酒をもっと生かしてやれよ。元来美味いものであり楽しく酔っ払いたいではないか。

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4 コメント

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酒席の話題 (jasmintea)
2008-09-18 12:49:03
これはなかなか大変ですよね。
接客や自分より上の立場の方との飲み会はさりげない話題を見つけるのに苦労します。
それでもいろいろな話を伺えて楽しいんですけどやっぱり家にたどり着くとどっと疲れが出たりして。
それに比べて気心が知れた友人とのお酒は本当に楽しいです。
先般話していたのが「王家の紋章」の結末。終わりはあるのだろうか?などと言いながらも楽しかったです。

楽しい話題とおいしいお酒に酔いたいものです。
返信する
>jasminteaさん (凛太郎)
2008-09-19 23:31:34
我が家で所持している未完の小説は栗本薫のグイン・サーガ。これはもう100巻を超えてもう単一作家のものとしては世界最長の小説であるようです。いつ終わるのか。漫画で所持している未完のものは、有閑倶楽部とガラスの仮面と王紋です。全くのところ困ったもんです。有閑倶楽部はさておき、その他はいずれも「この先がどうなるのか」が気になる物語ばかりであるからです。王紋も、もう連載30年ですよね。その間僕たちは子供から大人になり、恋をし、所帯も持ち、ブログも始め…。キャロルなんて最初はお姉さんだったのに今では娘でもいい年頃です。メンフィスだってねぇ(笑)。サザエさんじゃないんですから、いいかげんにきちんと結末を示してもらわないと。
と、これは言うまい言うまいと思っていたのですが我慢出来ん。雨乃という人にはキャロルが投影されてるんでしょ? (笑)

こういう話をしながら呑んでいると実に楽しいのですが。
返信する
話題なら (アラレ)
2008-10-08 00:16:04
想像してたんですよ…ずっと。

もし凛太郎さんと飲むならどんな話になるんだろうって。

朝まで飲んでも時間が足りない気がしますよ(笑)

翌日にはお互いに内容なんて忘れちゃってて。

ただ…笑いすぎた腹筋の痛さとほっぺたのひきつりと二日酔いが残り、あ~楽しかったっていう記憶しかなかったりして…。

・何故、男子は誕生日が来るとバカボンのパパを基準にするのか?
♪41歳の春だから~

・日本酒と焼酎には塩辛がベストな理由

・何故…最近ビールは残るのか

・♪スカイ・ハイを聞くと飛び跳ねたくなるのは私だけ?

・♪燃えよドラゴンを聞くと条件反射で拍手をしてしまう。
・キャンディキャンディのアンソニーとテリーの魅力について

・バロムワンの変身って覚えてる?

・おでんを持ってるのはハタ坊じゃないよね?

・源氏物語で一番幸せな人は誰か?

ね?この調子じゃ朝まで続きそうでしょ?(笑)
返信する
>アラレさん (凛太郎)
2008-10-11 20:29:41
レス遅れました(汗)

ネタ尽きませんね。全く。しがらみの無い人と呑むのがやっぱり一番いいのです。時間が経つのを忘れるような酒席はなかなか今では難しい。オフ会くらいしかもう存在し得ないのかなぁ(オフ会出ないくせに^^;)
まあね、若くないのだとも思います。なんせバカボンのパパよりも既に年上(汗)。信じがたいことなのですが、あの人は白髪もなく髪もたっぷりあるからねぇ。
以前スカイハイを聴くとフライングクロスチョップを放とうとするのが癖でしたが、今や足元がふらついてどうにもなりませんや。
ところで、なんでおでんを持っているのがチビ太でなくハタ坊って勘違いが蔓延しているのでしょうか? やっぱりドリアン助川がいかんのでしょうな。
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