凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

ボディスラム 2

2008年08月01日 | プロレス技あれこれ
 前回の続き。
 ボディスラムとは前回書いたように「抱え投げ」である。だが、「抱えて投げる」だけであれば、スープレックスだってバックドロップだって形状は抱えて投げる。なのでもう少し細かく「正面から、自分の片腕を相手の股間に差し入れて持ち上げ、もう片腕は肩口あたりを支え(つまり横四方)、そして相手を背中からマットに叩きつける技」と定義した。
 まあ持ち上げ方にはバリエーションがあってもいいだろう。女子は首をブレーンバスターのように抱えて持ち上げる。持ち上げ方は細かく考えなくてもいい。まずは、「背中からマットに叩きつける」というところが重要だろう。頭から落とせばパイルドライバー(ツームストン、もっと限定すれば天山式)や、或いはノーザンライトボム(これがボディスラムから発展した技であることは以前書いた)になってしまう。あくまで相手の背面をマットに落とす技である。
 もう一点、定義として付け加えるとすれば、自分の前に落とすという点だろうか。前方に投げる。例えばバックフリップや水車落しなどは、相手を背中から叩きつける技であるにせよ、自分の後方に投げる。典型的なのはブロックバスターで、この技は途中まではボディスラムであるが、抱えた後ブリッジして後方へ投げつける。ここにボディスラムとの分岐点がある。
 なんでこういうことをツラツラ考えているのかと言えば、ジャックハマーという技はボディスラムの亜種か、と考えてしまうからである。
 一般的には、ジャックハマーはブレーンバスターの派生技として捉えられている。ガブッて相手の身体を真っ逆様に持ち上げるまでは確かにブレーンバスターだ。だが、ブレーンバスターはもちろん「脳天砕き」でありそのまま後方に倒れこむようにして相手の頭部をマットに叩きつける。元祖のキラー・カール・コックスにせよディック・マードックにせよ、現在の垂直落下式と比べれば「尻もち式」ではあるけれども脳天砕きには違いは無い。また、ブレーンバスターと一般的に言われている技は「後方倒れこみ式」であり脳天砕きとは様相が異なり背中を叩きつける技になっているが、後方投げつけである限りボディスラムではありえない。
 だが、ジャックハマーは、ブレーンバスターの姿勢から前方に相手の背中をマットに叩き付けるのである。前方に、である。これは高角度ボディスラムなのではあるまいか。

 徐々に迷宮にはまって行くのが自分でも分かる。このジャックハマーと相似形の技に、ブルーザーブロディがやるブレーンバスターがある。これも、前方に自らの身体を浴びせるように相手の背中から叩き付ける。僕は全てボディスラムの亜種であると言ってもいいような気がするが、反論も多そうなのでこのへんで止める。
 さて、ブロディにはそれ以外に、特徴のあるボディスラムを放つ。ゴリラ・スラムと呼ばれたワンハンドボディスラムである。相手を抱え上げた段階で、肩口を支えていた腕を放し、股間に差し入れた右腕一本のパワーで相手を投げ捨てる。この技は、ブロディの身長でしかも高角度で投げ放つので効力があるが、片腕で投げることによってダメージが上がるか、と言われればちょっとわからない。受身も取りやすくやるのではないだろうか。ただ、見た目派手であり、ブロディのパワーを誇示するのには抜群である。好意的に見れば、片腕で投げられたという精神的ダメージを相手に与えることは出来るだろうか。
 ただ、結果論ではあるにせよ片腕のロックを外すことによって、相手を抱え支えるには自分の肩に相手が乗ることになり、ハイアングルによる落差は生じる。つまり、ボディスラムは出来るだけ高い位置からタメを作って投げ飛ばした方が効くわけである。
 ボディスラムで与えるダメージを上げる方法のひとつがこれである。もうひとつ「投げるスピード」があるが、投げる高さと角度によってもダメージが変わる。だから相手を出来るだけ高い位置から放り投げればいいわけだ。
 その「高い位置から投げる」やり方として、相手がコーナー最上段に上がったときの切替し技として、その高い位置からそのままエイヤと投げ飛ばしてしまう技が生まれた。これがデッドリー・ドライブである。ハイアングルボディスラムと言っていいだろう。これは確かに効くはずである。だが、この技の難点は相手がコーナーに上ってくれないと放てない。切替し技だからだ。

 しかし、相手がコーナーに上らずとも、自らが相手をリフトアップして、つまり相手を自らの頭より高く差し上げて投げれば同じことである。だが、こういうのは普通は無理だ。タッグマッチなどで、ヘビー級の選手がJr.ヘビーの軽い選手を目よりも高く持ち上げる、という場面はあるが、100kgを超えるヘビー級同士では不可能である。重量挙げではなく相手は生身の男なのであるから。
 だが、それをやるレスラーが現れた。怪力無比、と言っていい。誰が最初か、などということはわからないけれども、とにかく強烈に印象に残るのはロードウォリアーズである。
 このアニマルウォリアーとホークウォリアーのタッグチームは、とにかく規格外だった。試合をすれば秒殺。観客を満足させるためにはある程度の試合時間は必要とされるプロレス界で、相手の技をほとんど受けることなく一方的に攻めて勝ってしまう。こういうのは観客の満足度が下がるものなのだが、彼らはそれが受け入れられた。モヒカン&逆モヒカンの個性的な髪型に顔面ペインティング。筋肉の塊の暴走族としてあばれまわる。技よりもパワーで押し潰す試合スタイルであって、その見せ場のひとつが、相手レスラーをリフトアップしてのデッドリードライブ(リフトアップスラム)だった。投げることよりもリフトアップが見せ場であり、「ボディリフト」と呼ばれた。ハルクホーガンやキラーカーンをリフトアップしたのを見たこともある。なんという凄さか。
 NWA、AWA、WWF全てのタッグ王座を獲得する前代未聞の偉業を成し遂げ、一世を風靡したロードウォリアーズだったが、首回り72cmあると言われたホークの死去で終焉を迎える。心臓発作だったらしいが、ステロイドの影響とも言われる。享年はアンドレと同じ46歳。あんな身体を維持するのに相当の無理を身体に強いたのだろうと思う。
 その後、ボディリフトを見せる怪力レスラーは次々に現れてはいるが、彼らほどの衝撃をもう与えてはくれない。

 さて、ボディスラムで相手を投げる際に、そのまま自分の身体を預けて浴びせかける技がある。アバランシュホールドである。これは、ボディスラムとボディプレスの複合技と考えればいいのだろうか。
 これに近い技にオクラホマスタンピードがある。これは、アバランシュホールドがボディスラムの形状で相手を抱え上げる(自分の身体の前方で、相手をマットに平行の位置取り、つまり横向け、横四方)のに対し、オクラホマスタンピードは相手を縦に自分の肩に担ぎ上げる(エメラルドフロウジョンの体勢)。そうして担いで、多くはマットを対角線上に走って、自らの身体を浴びせかけるように叩き付ける。カウボーイ・ビル・ワットが元祖とされるが、これは未見。印象に残るのはディック・マードックである。またホーガンは、同形の技を「カリフォルニア・クラッシュ」と呼び初期のフィニッシュホールドにしていた。
 (追記:スティーブ・ウィリアムスのオクラホマスタンピードは、相手が縦方向(頭が下)になるものの、持ち手は横四方(つまりアバランシュホールド)のままだった。肩に担がず相手を縦にするのはウィリアムスの相手の体重を支える強烈な左腕力あればこそで、例外と言える)

 さらに、このアバランシュホールドをカウンターで放てばそれは「パワースラム」と呼ばれる。ロープの反動を利用しているので衝撃が強くなる。テッド・デビアスが印象に残る。デビアスのは「スクープ・サーモン」とも呼ばれた。また前述のウォリアーズもよく放っていた。佐々木健介も強烈な一発を放つ。先日は空中に飛び上がった丸藤をそのまま受け止めて放っていた。凄ぇ。
 このパワースラムは確かにボディスラムの派生技であると思うが、ひとつ問題があるのは、ロープに振って戻ってくるところを受け止め、その反動を利用して相手の進む方向に投げるという点にある。つまり「自分の前方に」投げるわけではない。捻りを加えて結果的には最初の立ち位置から考えて後方に投げることになるため、最初の定義から少し外れた感がどうしてもしてしまう。巧く投げればフロントスープレックスにも形状が似てくる。谷津嘉章の使うスープレックスは総称してワンダースープレックスと呼ばれるが、その多くはフロントスープレックスであったものの、このパワースラムも「ワンダースープレックス」とコールされていたような記憶がある。もちろん谷津の場合はカウンターで相手をボディスラムの形状で受け止めても、捻りを加えるというより反り投げの様相を呈していたからスープレックスでもいいとは思うが、明確な区別が付きにくい。そしてまた迷宮に入りそうな気配がしてくる。
 スープレックスであれば、足先の向きで判断が出来る。相手が突進してきた方向に足先の向きが残っていればそれは反り投げの部類だろう。また、最後に相手を叩き付けた方向に足先が向いていれば、それは浴びせ倒しでありボディスラムの派生技だろう。健介のはボディスラムだが、デビアスや谷津はどうだっただろうか。
 徐々に考えることが面倒臭くなってきた。現在多く見られるパワースラムの場合は、最初の立ち位置から後方に投げたとしても、自分の身体を捻ることによって浴びせ倒し足先も回転して相手に向かっているから「結果として前方に投げた」と認定してしまおうか。「スクープ・サーモン」はもしかしたら反り投げだったかもしれないがパワースラムはスープレックスとは一線を画しているようにも思える。VTR検証でもしないとわかんないや。

 だが、さらに分類と定義付けに面倒な技が最近登場している。中邑真輔の「リバース・パワースラム」である。
 これは、相手の背中側からボディスラムの形状で持ち上げ、相手の腹側からマットに叩き付ける。つまり、表裏が逆なのである。なんとも不思議な技である。持ち上げる際に相手の股間を掴むような形になるのでどうも気色悪いことと、カウンターで使用するわけじゃないのでリバース・アバランシュホールドと呼ぶべきじゃないのか、などいろいろ注文はあるが、実に危険な感じはする。受身も取りにくいのではないか。腹部、胸部だけでなく顔面強打の可能性もある。
 しかしこれは、ボディスラム(と言うかアバランシュホールド)から派生していることは間違いないけれども、やっぱり系統は別だなあ。ダメージを受ける箇所が異なる。方向性としては、バイソン・テニエルなどと近いような気がする。フェイスバスターともまた違うのだが、ややこしい。
 最も単純な投げ技であるボディスラムも、細かく考えるとつい袋小路に入ってしまう。技の定義や分類は難しい。

 

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5 コメント

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分類するのはホント難しいですねぇ (rollingman)
2008-08-07 19:42:53
なるほどボディスラムからの派生はたくさんあるんですね。
個人的にボディスラムのイメージは、ベテラン選手がデビュー間もない選手を投げつけてリングの厳しさを教える技みたいな印象です。(笑)

アバランシュホールドとオクラホマスタンピートを混同してました。違いに納得しました。
それにしても、オクラホマスタンピートを説明するのに「エメラルドフロウジョンの体勢」というのは、ますます説明がいるんじゃないか?と一瞬思ったんですが、
そう説明されて、すぐに絵が出てしまった私でした。(笑)そういえばスティーブ・ウィリアムス以来、オクラホマ・スタンピートを見てない気がします。
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>rollingmanさん (凛太郎)
2008-08-07 23:18:22
どうもいつもお世話になってます。
確かに理屈で考えていくとだんだん迷宮に入っていきそうで疲れるのですが、「エメラルドフロウジョンの体勢」とはヒドいなぁ(笑)。無茶苦茶なことを書いていますね(汗)。訂正したいです。もうこのへん徐々に書くのが面倒になっている証明ですね。お恥ずかしい。

実際は、オクラホマスタンピードのことをアバランシュホールドとも言っていますね。厳密に分けるよりも体重を乗せて叩き付ける技の総称がアバランシュホールドであって、その中で「エメラルドの体勢(笑)」で投げるものを特に「オクラホマスタンピード」と言う、としたほうが正しいのかもしれません。僕もよくわかんないです(笑)。
そういえば、スティーブ・ウィリアムス以来あの技をあまり見ませんね。ウィリアムスもガンになっちゃって引退したとばかり思っていたのですが、またリングに上がっているとか。無理しないで欲しいと思いますよ。

若手はボディスラムで投げたおされて受身を体得するんですね。命脈が途絶えることはない技だと思います。でもこの技で凄みを見せてくれるレスラーが現れて欲しいなぁ…。
返信する
Unknown (バディーロジャース)
2008-08-31 22:40:40
久しぶりでこのサイトを覗いたら、こんなに長くボディスラムについて書いているので驚きました。すごい筆力、薀蓄。
 私は古いプロレスをユーチューブで探しては見ています。その中でボディスラムを使うのは、アリババとジム・ロンドスです。アリババの試合は1939年11月となっていますが、ロンドスは不明です。しかし、恐らくそんなに変わらない時期だと思います。
 当時は非常に新しい技だったと思います。前にルイスとシカットとの試合を紹介しましたが、その試合は1935年頃だったと思います。二人は、ボディスラムなど使いません。
 レスリングはまず対峙して首の取り合い、そこからアームロックに行ったりして、寝技に持ち込み、足でヘッドシザーズをしたり、腕の逆を決めたりしながら、相手の両肩をマットにつける競技だったのだと思います。そのためのテクニックが幾つもあって、いろんな風に足を絡めたり、腕を取ったりしている写真入り解説書をルイスは書いています。
 そんなねちっこいレスリングに対してボディスラムは新しい技としてあったのだと思います。
 1939年というとテーズが初めてチャンピオンになった年ですか。きっとテーズはねちっこいレスリングをしていたのでしょう。アームロックばかり狙っていたかもしれない。
 しかし、アリババはスタンディングレスリングで殴り合いからボディスラムです。それこそ抱え投げと言う言葉がピッタリのように、ひょいと抱えるとズデンと叩きつけるのです。新しい技だから、相手も受身がまだ下手です。たいして高く抱え上げられるわけでもないが、連発でノックアウトです。ホールする前に半分気絶、担架で退場してます。
 その強烈な破壊力に観客は驚いている感じです。
 もう一つはジムロンドスの飛行機投げです。ロンドスという人は小さいですから、普通相手の方が上背、体重とも上です。その相手を担ぎ上げて叩きつけるので人気があったのかと想像します。
 彼はスリーパーのような技で相手のスタミナを奪ってから相手をベアハッグのようにして肩に乗せます。ちょうど俵かセメント袋を担いだように。そして自分が2、3回転してから手の位置をチョット変えて肩の上の相手をくるりと回転させマットに叩きつけるのです。これが有名な飛行機投げです。だから後年テーズが使うような独楽のようにクルクル回る飛行機投げとは違います。あれは、かなりロンドスのを改良したものです。
 で、ロンドスは相手を叩きつけるというかドッサとマットに落とすとそのまま覆いかぶさってフォールです。よくいえば最後はアバランシュホールドみたいになるのです。
 ロンドスは体が小さいから相手の重さに耐えかねてそのまま相手に乗っかっちゃった、という感じなのですが。
 まあ、こんな風にして、締め上げたり、逆を決めたりするばかりでなく、叩きつけるという新しい技がプロレスに加味され、さらにショーアップして50年代には、だれもが使う“豪快な”技になったのだと思います。
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>バディさん (凛太郎)
2008-08-31 22:41:17
いつもありがとうございます。無駄に長いだけで内容の薄い記事ですみません。自分の知っている範囲だけで書いているので薀蓄も何もあったものではありません(汗)。
それよりバディさんのお話はいつもながらものすごく資料性が高い! 本当はこういう話を書きたいのですが僕ではダメですね。もっと古い時代のプロレスを発掘しなくては。
バディさんが書かれる薀蓄溢れる記事を本当に拝読してみたいです。

このお話からわかることは、ボディスラムは比較的若い技であるということですね。なるほど。見かけ単純な技ですから、僕などは前世紀からあるのかと思い込んでしまいちゃんと考えることを怠っていました。
アリババというレスラーは、僕が小学校の頃に新日に来たハンガリーの人しか記憶にありません。この人は若くて1939年に試合をするはずがありませんから…ああすみません。調べてみます。ジム・ロンドスは存じ上げていますが、もちろん試合をちゃんと観たことはありません。Youtubeで探してみようと思います。ジムロンドスの飛行機投げを是非見てみたい。

とにかく勉強になりました。本当にありがとうございました。
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ボディスラムの起源は何なのだろう (RIOTアザラシ)
2020-03-08 11:50:08
ファイヤーマンズキャリーからの飛行機投げに対して、プロレスの基本技でありながらボディスラムは難易度が高い技だと思います。
肩に担ぎあげる飛行機投げに対してボディスラムは真正面から全身の力を使い抱え投げます。
最初にボディスラムで投げたレスラーは自分の筋力と、それを最大限に利用できるテクニックを見せつけたかったのかなと思います


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