大島恵真(おおしま・えま)の日記

児童文学作家・大島恵真の著作、近況を紹介します。
絵本作家・大島理惠の「いろえんぴつの鳥絵日記」もこちらです。

家族とは…

2020年07月03日 | 個人的なエッセイ
母とのことを小品にしてみようと思って書いてみたけど、そもそも母のことをなにも知らないので、うまくまとまらなかった。児童文学のサークルで合評にかけてもらったら、さまざまな意見をもらった。そうすると、やっぱり母のことをちゃんと書こうと思えてくるからふしぎだ。きっと誰にもわからない…などと、閉じこもっていたのだが、作品を提出した時点で人の目にさらすわけだから、やはりわかってもらいたいと思っているのだ。

母のことは本当に知らない。私の育児にかかわったのは、祖母と父だった。今は疎遠となった兄もお世話をしてくれたようだ。
母はいつも、仕事をしていた。それだけが、母なのだった。

実家の跡片付けをしていたら、父が亡くなるわずか前に、父名義の借金の連帯保証人に、母と私がなっていた書類が出てきた。思い出した。大学を出て、就職した年にそんなことがあったことを。
そのときの母の言葉も思い出される。「形だけだから」。本当に、母はひとりで、借金を返してくれた。それなのに、私は何も母に返してやれなかった。亡くなるときも、前日と朝、病院から電話があったのに、仕事の校了日で間に合わなかった。

母は私に何もしてくれなかったから、私も何もしなかった。ずっとそう思って意固地に生きてきた。大学も、自分で働いたお金で行った。でも、私立の美大だったから、奨学金だけではまにあわなくて、昼も夜もバイトで心身を疲弊させていたとき、母がお金を送ってくれた。自分だけで生きてきたつもりでも、そんなことがあった。

言い訳はもうしない。母にできなかったことは、できなかった事実として残っている。私は、母にしてやれなかったことを、夫にしてやればよい。ほかのだれかに返してやればよい。それが、母が残してくれた大きなものかもしれない。