郎女迷々日録 幕末東西

薩摩、長州、幕府、新撰組などなど。仏英を主に幕末の欧州にも話は及びます。たまには観劇、映画、読書、旅行の感想も。

土方歳三と伝習隊

2005年11月30日 | 土方歳三
野口武彦著『新撰組の遠景』(集英社発行)

野口武彦氏の著書を、次々に読んでいるところです。
昨年でしたか、NHKの大河で新撰組をやったせいか、新撰組関係の著書が多数出ていたようです。この本もその関係で出版社が企画したらしく、野口武彦氏の幕末ものでは、最新の単行本です。
新撰組関係の著書は、以前に読みすぎて食傷気味だったのですが、さすがに目配りが聞いて、おもしろく読めました。

新撰組といえば、やはり土方歳三です。なぜ土方かといえば、やはりあの写真でしょうね。それともちろん、司馬遼太郎氏の『燃えよ剣』。
あの写真については、草野紳一氏が、ほとんどそれだけを素材にして、『歳三の写真』という著作を残しておられるほどです。以下は、その著作をご自分で解説なさって、述べられた言葉です。

私は、男の顔っぷりには興味がある。しかし男の容貌そのものには気をほとんどひかれるということはないのだが、写真ながら、私は土方歳三に惚れてしまっていた。
彼の風貌に、私は「近代性」の匂いとやらを感じとったのかもしれぬ。薩長系には、むしむしたハイカラは多いが、旧幕系の人間には、近代性がある。
近代性を感覚的に身につけながらも、彼等が滅びいく幕府についたところに、日本の近代の運命がある。そのことは、もともと武士ではなかった新撰組の土方歳三にも言えるだろう。

いえね、函館戦争に参加した旧幕軍には、榎本武揚をはじめ海外留学組もかなりいますし、洋装の写真は多く残っているのですが、土方の写真がいちばん、しっくりと洋服を着こなしているように見えるんですよね。たしかに、容貌がいいから、なんでしょうけれども、それだけではないような、草野氏ならずとも、「近代性」といってしまいたくなるような、そんな感じがありませんか?
野口武彦氏は土方を、いわばすぐれた現場指揮官、と位置づけ、鳥羽伏見という短期間の敗戦経験で近代戦の指揮を身につけたのは、天性のものとしかいいようがない、としているのですが、実際、その通りですね。
近代軍隊の機能性は、近代性をもっとも濃縮した形で表象していますし、その軍隊の指揮官は、もっともスタイリッシュに機能性をまとうべき存在です。着こなしもまた、天性のものなのでしょう。

ちょっと残念だったのは、野口氏が、あまり土方と伝習隊の関係に踏み込んでおられなかったことです。土方が鳥羽伏見以降、剣を捨てたことは強調しておられますが、新撰組とは不可分であったように書かれています。たしかに、土方は新撰組を捨てたわけではないのですが、片方で、伝習隊との関係を育んでいたわけです。ろくに資料がないことなので、野口氏が触れておられないのは、もっともではあるのですけれども。

一つだけ、傍証があります。
釣洋一著『新撰組再掘記』に載っているのですが、岡崎市の法蔵寺に、近藤勇の首塚だとされる石碑があります。

http://www13.plala.or.jp/shisekihoumon/okazaki.htm

釣氏によれば、この石碑の土台には、土方歳三以下10名の名前が刻まれ、その10名、当初は新撰組隊士の偽名であろう、といわれていたそうなのですが、うち数名は、鳥羽伏見以来、土方歳三と行動を共にした伝習隊員の本名であったことが、わかったということなのです。しかも、建立年は慶応三年と刻まれてていて、近藤勇の死より前のことです。
結局、真相はわからないのですが、釣氏は小論の最後を、「この墓は伝習隊の墓ではないかという疑念を抱き始めているのだが」と結んでおられます。

流山で近藤勇が囚われた後、土方は単身で江戸へ帰って近藤の救援を試み、大鳥圭介率いる脱走伝習歩兵隊に合流します。新撰組の大多数は、先に、会津へ向かわせているのです。それまでに、土方が伝習隊となんらかの関係を持っていなかったとするならば、これは、あまりに唐突ではないでしょうか。
鳥羽伏見の戦いにおける伝習歩兵隊の動向については、ほとんど資料が残されていないらしいのですが、少なくとも一隊が、伏見から千両松の戦いにおいて、土方率いる新撰組や会津軍と、行動をともにしていたことは確かです。
伝習の期間も短く、実戦経験のない幕府の若手士官たちが、突然、戦場に立たされたとき、修羅場に慣れ、天性の指揮の才能を備えた新撰組副長を、頼りにしたと推測するのは、自然なことではないでしょうか。
おそらく、岡崎法蔵寺の石碑は、伏見で戦死した伝習隊の隊長のものであり、隊長の戦死後、伝習隊は土方の指揮下に入って生死をともにしたのでしょう。
だとするならば、江戸へ帰った後も伝習隊士官たちと土方の間には、連絡があったわけですし、土方の突然の洋装も頷けるのです。

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