郎女迷々日録 幕末東西

薩摩、長州、幕府、新撰組などなど。仏英を主に幕末の欧州にも話は及びます。たまには観劇、映画、読書、旅行の感想も。

彼らのいない靖国でも

2005年12月02日 | 土方歳三

幕府歩兵隊―幕末を駆けぬけた兵士集団 (中公新書)
野口 武彦
中央公論新社



やっとこれが届きまして、読みました。
野口先生、失礼しました。昨日私が書いた伝習隊とシャスポーのことなど、こちらの方で書いておられましたね。
いえ、当然、ですよね。先日書きましたが、以前にも、『王道と革命の間~日本思想と孟子問題~』と『江戸の兵学思想』で、私が幕末によせていた問題意識に、答えてくださったお方です。
近代軍隊のなんたるかを考えることなく明治維新は語れない、というところへ行き着くのは、必然です。そして、今回もまた、きっちりと資料を読み込んだ上で、私が通説に対して、「ちょっと待って」と思い続けてきたあれこれを、きっちり指摘してくださっていました。脱帽です。
そうなんです。おっしゃる通りです。鳥羽伏見の戦いは、幕府軍の火器が劣っていたから負けたわけではありませんよね。
そして、幕府の軍隊の洋式化が、かならずしも遅れていたわけではないんですよね。取り組みは、長州なぞより、むしろ早かったんです。
野口先生の幕府歩兵隊の綿密な描写の中で、唯一私に補えるものがあるとすれば、禁門の変、蛤御門の戦いにも、幕府歩兵隊は、一橋慶喜の手勢として参加しているはずだ、ということです。
なにで見たかといえば、薩摩藩の資料集です。
禁門の変における薩摩藩は、幕府、会津に見方して、長州を迎え撃っています。とはいうものの、すでに西郷隆盛が復帰していますし、幕府に対する態度は、是々非々とでもいうのでしょうか、敵対する可能性も視野に入っています。それで、味方であるはずの幕府軍や会津軍などの観察報告を、藩庁にあげているんですね。
薩摩藩は、幕府軍の洋式化がどこまで進んでいるか、という点を非常に気にしていたようなんですが、報告は「格好だけで戦いぶりはたいしたことはない」です。
そうなんです。野口先生も、水戸天狗鎮圧に出動した幕府歩兵隊の服装が、半洋式化していたことを述べておられますが、この時点で、幕府歩兵隊が一番洋式化していたんです。
にもかかわらず、なぜ、幕府歩兵隊が活躍できなかったか。いえ、野口先生は、「幕府歩兵隊は皮肉なことに脱走隊となってから生き生きと活躍した」と指摘しておられまして、おっしゃる通りです。
結局幕府は、近代軍隊を有効に使いこなしうる政体変革を、なしえなかったのです。幕府が倒れ、脱走軍となって、無能な上層部から解放された歩兵隊、伝習隊は、古屋佐久左衛門、大鳥圭介、土方歳三といった叩き上げの指揮官に率いられ、ようやく本領を発揮できたのです。
最後の結びの一章で、野口先生は、こうおっしゃいます。

明治の帝国陸軍は幕府歩兵隊ばかりか、けっきょくは長州奇兵隊も薩摩小銃隊もないがしろにする発想で建軍された。徴兵制は、階級分化した農村社会を背景に職業軍人と兵役で駆り出される消耗品的な兵卒の群を作り出した。何か貴重な職人芸のようなものが見捨てられたのである。幕末に生まれた軍隊は、円満には近代軍隊と接続されなかった。

これを読んだときには、思わず涙が出そうになりました。
先生、よくぞおっしゃってくださいました。
昔、桐野について調べていたころ、明治の建軍について、あんまりにも短絡に「徴兵制を否定するのは士族主義で旧弊」とばかりいわれることに、私は大きな疑問を抱いていたんですね。
ただ、あのー、先生、たしかに靖国には、土方も桐野も祀られてはおりませんが、私は、靖国を否定する気には、なれませんです、はい。
徴兵制にも、そして靖国にも、近代国家の秩序構築において、必然性があったわけですし、結果、靖国には、明治以降の庶民の情もからんでいます。
といいますか、長州奇兵隊も薩摩小銃隊も、革命軍だったわけでして、新しい秩序が構築されるにあたっては、犠牲となるしかなかったのではないでしょうか。また脱走幕府歩兵隊は、秩序の外にあったからこそ、自由だったのでしょう。近代軍隊に、変革期の軍隊が持っていたものを求めるのは、無い物ねだりであるように思うのです。
感情の上からは、明治陸軍の建軍者たちを、けっして好きにはなれませんけれども。

最後に、鳥羽伏見の章で述べておられた次のお言葉には、楽しく笑わせていただきました。

永井尚志という武士は、三島由紀夫の曾祖父にあたるので何となく言いにくいのだが、有能な外交官だったせいか責任転嫁の名人であった。

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