ひらつか日記

1999年に漫画家おかざき真里ホームページの連載コーナーとしてスタートした身辺雑記×音楽紹介日記です。

ヘソ曲げてるわけじゃないが

2002年06月14日 | ロック・ポップス(欧米)
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W杯、日本の決勝トーナメント進出が決まる。おそらく日本中のオフィスがそうだったように、うちもご多分にもれず会議室でプロジェクタを壁面にあててのテレビ観戦となった。みんながほとんど会議室に入ってしまうと、席に残ってる人はごく僅か。わたしは、急ぎの仕事があったのでデスクで作業、その間、会議室からは間歇泉のように歓声が聞こえてきてどうも落ち着かない。なんか席に残ってると、こりゃ相当なヘソマガリに見えるなあ…昔風に言えばかなりの非国民感(笑)…しかしそう考えるのもまた自意識過剰つうやつだわねえ(笑)と内心苦笑。ある得意先に17時30分の召集をかけられていたので、試合の結果を待たずに席をたって外へ。そういえば、先日、「ぼくたちの好きな戦争」(小林信彦・新潮文庫)を読んだ。小林信彦が週刊文春で連載してるコラムで時折取り上げる、対米戦争下の日本の話はとても興味深い。この本は、彼が対米戦争の時代を扱った小説だというので、ずっと気になっていた本。小説として面白いかどうかはさておき、対米戦争下の日本人の生活意識の描き方、これは見事だと思った。もう一冊、これも戦争関係だが、「笹まくら」(丸谷才一・新潮文庫)。こちらも、対米戦争下の日本人の生活意識がよく描けていると思う。どちらも歴史の知識からは見えてこない、その時代の空気が感触できる。前者はマルクス兄弟に憧れる元芸人の皇軍兵、後者は徴兵忌避者の視線から。いやまあ、別にW杯の熱狂に対して、自意識過剰にヘソ曲げてるわけじゃないが(笑)、世の中が何か一色に盛り上がってる時こそ、こういうの、読みどきじゃないだろうか…と思って勝手に推しておく。そういえば、ナンシー関が11日夜に急死。現代日本で「批評」を成立させることのできた数少ない知性のひとりだった。単なる偶然とはいえ、この時期にねぇ…。 After The Gold Rush / Neil Young 。 いや、それにしても相変わらず大変に忙しい。ヘソ曲げるもなにも、いやほんと、サッカー観てるヒマがないんである。会議室の喧騒を耳にいれないために、そして背筋をちょっと伸ばすために、ヘッドホンで、この人の孤高の…というか我が道を行くんだという毅然とした声の力をかりてみた。


サッカー一人合点

2002年06月04日 | クラシック
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サッカーのワールドカップが始まって、あちらこちらでサッカーの話題がでる。意外な人が、サッカーのことに詳しくて驚かされる。お祭りムードにつられてちょっとスポーツニュースをのぞいてる…というだけのわたしなんかは、うっかり下手なこといえないので、そうした話の輪の中ではひたすら黙ってるか、わかった風をして適当に頷いておくことにしているんだが、しかしそんなわたしにも、ワールドカップのいくつかの試合が、今まで漫然と見ていたJリーグの水準と大きく異なっていることは、明らかにわかる。これは別モンだなぁ…と、わたしのような節穴が口開いて見てるんだから、サッカー観戦の巧者であれば、これはもうたまらない毎日だろう。うまく書けないが、サッカーというのは、とっても欧州っぽいスポーツだということがわかった。わかったというか、一人合点した(笑)。すぐれたチームから感じられる、個人技の冴えと、全体の調和が、なんともいえない不思議なバランスでもって並立しているその力学の感じ。個人技だけでもなく、全体の調和だけでもない。個人が自分の思うように動いて、それが全体としてひとつの調和をうんでいる感じ。うまくいえないが、ぼくにとって、この感じはとっても欧州っぽいのである。 Schubert: "Trout" Quintet D.667 / Vera Beths, Anner Bylsma, Marji Danilow, Jurgen Kussmaul, Jos Van Immerseel 。 欧州のクラシック音楽というのは、おそらくそういう力学構造の上でこそ理想的な演奏再現がなされる性格のものではないかと思う。ここにあげたシューベルトのピアノ五重奏曲の演奏を聴くとそんな感じがよくわかる。例えば第四楽章は、烏龍茶のCMでもおなじみの「鱒」。CMでは有名な主旋律に中国語の詞をつけて歌っていて、清らかな唱歌調、アジアの響きが墨絵のように美しかったが、この盤に聴かれるのは、全くそれとは異なる欧州の響き。五人の奏者が繰り出す冴えた個人技、自分の思うように動いているようで、そこにたち現れる全体の不思議な調和の感覚…、アジアが墨絵なら、こちらは建築物のような立体感、空間構造の美しさとでも言おうか。なるほど、欧州クラシック…という音楽はこういう力学上に成立した芸術なのだな、これは別モンだなぁ…ということが(たぶん節穴にも)判然とするはず。墨絵と建築のどちらの美が勝るか、ということを書いたのではないから念のため。日本人は、日本人のサッカーをやるより他にないではないか。がんばれ、日の丸サッカー。