ひらつか日記

1999年に漫画家おかざき真里ホームページの連載コーナーとしてスタートした身辺雑記×音楽紹介日記です。

アイスティー

2001年07月30日 | ロック・ポップス(国内)
おかざき真里「アイスティー」の原作

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7月、酷暑が続いた東京だったが、この土日は台風の影響で北の大気が吹き込んで、いくぶん涼しい日となった。蝉の鳴き声も穏やかで、地上全体が一息ついたよう。ふと、何とはなしに懐かしい気分になる。昔の夏ってこのくらいの暑さだったんじゃないか。川で泳いで西瓜食って昼寝して、夕刻にひぐらしの声をきいてた夏休み。いかにもノスタルジック、紋切り型そのままの夏の描写だけれども、ぼくは中学生の頃までほんとにこんな生活をしてたんである。山の田舎の中学生。そんな頃をちょっと思い出したこの土日の涼しさだった。 A LONG VACATION / 大滝詠一 。 このところ、この盤がヘヴィ・ローテーション。ちょうどぼくが中学生だった頃にヒットしたアルバム。これはヒットから20周年の記念盤で、大滝詠一本人がリマスターを行ったもの。当時は、ラジオから流れてくるこういう音楽に、全く興味がわかなかった。というか、川で泳いでる田舎の中学生の生活には「薄く切ったオレンジをアイスティーに浮かべて…」(カナリア諸島にて)というようなワールドとの接点がまるでなかったんである。しかしこの盤のジャケットは鮮烈な印象を当時のぼくの記憶に残していて、それは、中学一年の時の担任の教師に関係している。一時間ほど離れた市街から、山の中のぼくの中学校に白いハッチバック車で通ってきていた東京の音楽大学を卒業したばかりの若い女性教師。あまり美人ではなかったけれど、とても元気で愛嬌のある人だった。どういう機会だったか忘れたが、ある夏休みの一日、友達数人とその一時間ほど離れた市街へ遊びに出て、道中誰かが思いついたのだろう、その先生の自宅に押しかけたことがあった。音楽というものを聴き始めたばかりで、生意気盛りでひたすら観念的だったぼくの脇には、街のレコード屋で買ったばかりの坂本龍一「千のナイフ 」。へえ、こういう音楽聴くのね、生意気ぃ、先生も聴いてみたいな、かけてみていい?。坂本龍一の観念的な音楽が部屋に流れている間、なぜだか無性に気恥ずかしくて、落ち着かない気分で部屋のあちこちをキョロキョロしたが、そのときピアノにたてかけてあったこのレコードのジャケが目に入って、何かしら自分のまだよく知らない世界のものに触れたような感じにうたれた。うまくいえないが、ああ、これは大人のレコードなんだ、というような。青臭いなあ(笑)、書いてて気恥ずかしい。彼女のそのときの年齢もとうに越した34歳のぼくは、CDになってすっかり小さくなってしまったこの盤のジャケを見ながら、松本隆の歌詞を小声でこっそり歌ってみる。

推薦ブログ:郵便学者・内藤陽介のブログ




怒りという感情の微妙な色合い

2001年07月25日 | ジャズ
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「平塚さんって怒ることあるんですか」とよく訊かれる。こういうのは好意的なニュアンスでの質問だから、意訳すれば、温厚そうに見えますね、ということになるんだろうけど、いや実際、そんなに人物であるはずがなく、要は怒りを表明する体力がないので飲みこんで有耶無耶に誤魔化してなんとなく遣り過している、といったあたりが裏舞台、要するに単なる意気地無しというやつ、冒頭のように訊ねられると何だか申し訳無いような気になる。そんな意気地無しが、今日は珍しく二度も怒った。一緒にいたTinpo君(おかざき旦那)も、「攻めの平塚さんって初めて見ました」と言うから、他から見てもちょっとした異変に見えたようで、いや、何より他でもない本人がおやおやと驚いた、そんな一日だったんである。といって別に何か深刻な事態が起こったわけじゃない。単に仕事上のやりとりの中で、ちょっとそれはないんじゃないの、とやりあっただけ。何だろう、あんまり暑いせいで感情を締めるネジがゆるんだか…。“攻めの平塚”ねえ(笑)。 Ask the Ages / Sonny Sharrock 。このソニー・シャーロックというギタリスト、あんまり有名ではないが、そのサウンドは一回聴いたら忘れられない個性的なもの。ギリギリと歯軋りするような、何というか全身の怒りをもって出音を歪ませたような、ノイジーな轟音ギター。60年代のジャズシーンに突如登場してきた時には結構な驚きをもって迎えられたんじゃないだろうか。といっても、いまどきの耳からすれば過激さの点では十人並み、轟音刺激を求めて聴くと肩透かしを食うかもしれない。彼のギターは、轟音の表面的な過激さではなくて、その底に流れる微妙なニュアンス、それを聴かなくてはならない。一言でいえば、ブルース、ということになるだろうか。アヴァンギャルドではなくて、ブルース。この盤は、彼が53歳で急逝する直前、1991年発表の最終作。歯軋りのような歪んだ音響の底に流れる泣き笑いのような色合いに、怒りという感情の決して平坦で一面的ではないことをあらためて教えられる。


こんな夢を

2001年07月09日 | クラシック
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早朝の新幹線で東京へ戻ってきてあわただしく打合せ、その後、オフィスのレイアウト変更ということで、わっせわっせと荷物を箱詰めしたりしていたら、咳が出てきてどうにも熱っぽい。熱を測って数字を見たらもうだめだ、38.5度を越して、金曜の夜、そのまま床に臥して、土日を寝て過ごす破目になった。考えてみれば、大阪から戻る早朝の新幹線、時間帯からして東京へ移動するビジネスマンでびっちり満員、全員スーツで固めているからJRも当然冷房はギンギンにサービス、そこに半袖Tシャツのいい加減がまるまる3時間も眠りこけたんだから、これは風邪をひかないほうがおかしい。しかし暑い中に、病で床に臥しているのはツライ。暑中の臥床、というと、わたしは久生十蘭という作家の「骨仏」という小説(社会思想社の現代教養文庫「昆虫図」に収録)を思い出す。文庫にして数頁の掌編だが、何ともいえない奇妙な味がして忘れられない。俄然その本を読みたくなるが、探す気力が出てこず諦める。日中、明るい中で熱に浮かされてうとうとするが、要領を得ない夢など見てたびたび目を覚ましてしまう。そういえば、おかざき真里の日記で「平塚ちゃんは音楽の夢を見たりするのかしら」とあったが、とてもとても(笑)。わたしの音楽なんて、素人の横好きですからね、おかざきがきれいな映像で夢を見たり、枡野歌人が言葉で夢を見る、というような次元にはほど遠く。 Wagner: Parsifal / Georg Solti, Vienna Philharmonic Orchestra 。 でも可能ならばこんな音楽がゆったりと干満する夢を見てみたい。ワーグナーのオペラ、いや、オペラと呼ぶなと作曲者は言ったらしい、「舞台神聖祝典劇」と呼ばなくてはいけないのだ。この「パルジファル」という不可思議な音楽劇、を読んでも何が面白いのだかわたしには未だにわからないが、音楽の、あらゆるものを包み込んでしまうような魁偉なスケール感には意味もわからず圧倒される。聴いてると、拍子の感覚がどんどん麻痺していって、終いには霧散してしまうのがわかる。ゆったりとした大河の流れがCDにして4枚(笑)、一応オペラなので歌も入るが、ひたすら大した起伏もなく延々と。ああ気持ちいい…。


黒光りする音

2001年07月06日 | ロック・ポップス(欧米)
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おかざきの7/5の掲示板の「ところで最近気になっている音楽」について、忘れないうちに書いておこうっと。サイバーギガの方はCMおぼえてないのでわかりません。わかったらまた書きますね。ヴォルビックの方は、「シャウト」だね。ティアーズ・フォー・フィアーズ。懐かしいなあ。80年代って、デジタル録音技術のおかげでレコードの音が格段にクリアになったんだけど、その中でも抜群に音がよかったのが、このバンド。ピーター・ガブリエルの「So」(1999/10/15の日記参照)と双璧だったんじゃないかしら。それに何より曲がポップでセンスがよくて、わたしは大好きだった。今、若い人が買うならベスト盤、 Tears Roll Down: Greatest Hits 82-92 / Tears For Fears がいいんじゃないかな。90年代からこちら、クリアなデジタルの音を、わざとノイズで「汚す」プロダクションが流行っていて、そういうサウンドに耳が慣れているせいもあるけれど、今聴いても、これはびっくりするくらい良い音で鳴っている。音が黒光りしてる感じ。この方向って、まだまだ可能性あると思うんだけどな、どうして誰もやらないんだろ。まあ、そういううるさいマニア視点は別として、とにかく曲がいい。未聴のヤング(笑)はぜひ。損はさせない。


またしても大阪にやられる

2001年07月04日 | ブラック
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昨晩から出張で大阪に。Tinpoくん(おかざきの旦那)の得意先への初プレゼン、記念すべき初陣を浪速の地で飾る、という企画をたててみたんである。奴さん、さぞかし緊張してるだろうなと思いきや、直前、少しの空き時間に机に突っ伏して堂々の居眠り。我が初陣の頃と比してみれば、大したもんです、その舞台度胸。いや、ほんとに誉めてんのよ(笑)。肝心の本番、横でハラハラしてるわたしを尻目に、なかなかやるじゃん、よしよし、まずは上出来、よくできました。得意先に喜んでいただいて、その後のディスカッションも盛り上がったね。盛り上がりすぎて、新幹線の終電は新大阪を発ってしまって、あらま、今日は東京へ帰られず。仕方ない、今夜は大阪に泊まって、明日の早朝の新幹線で東京に戻るとしましょう。営業さんを加えた3人でごはんを食べて、ホテルのバーへ。とりあえずの慰労会ということになった。バーに入ったら、黒人のおじさんミュージシャンがピアノをひきながら歌を聴かせていて、そう書くと、ちょっとした雰囲気を想像してしまうが、何かおかしい、そんなこというと怒られちゃうかもしれないが、やっぱり大阪、生活の油脂成分含有度が東とは違う。単にピアノをポロンポロン弾く、というのでは終っていなかった。ジャンジャカドカスカと、ドラムサウンドまで入った安っぽいデジタル・シークエンスの伴奏音、ピアノの上にのせたシンセサイザーを弾けば出力過剰の金ピカ・エレピ・サウンド。ものすごく豪華、というかうるさいんですけど(笑)。いつしか韓国のタクシーで聴いた、ポンチャックに通じるテンションの高さが高級ホテルの夜の光景を、東京のそれとは異質のものに曲げていた。席に座ったときには、この盤、 What's Going On / Marvin Gaye のタイトル曲がはじまっていて、いや、いい曲なんだけど、この何ともいえないデジタル・チープな感じが、ものすごくポンチャック・ミックスで、ちょっとどうしたものかなあ(笑)。カップルが一組、立ち上がって踊ってるし…。この価格帯のバーで、この座りの悪さ(笑)。昨年の日記(2000/8/4)に続き、またしてもわたしは大阪の夏に気合負けしてしまったのであった…。まだまだ修行が足らんな。何はともあれ、Tinpoくん、おつかれさまでした。