おかざき真里「アイスティー」の原作
7月、酷暑が続いた東京だったが、この土日は台風の影響で北の大気が吹き込んで、いくぶん涼しい日となった。蝉の鳴き声も穏やかで、地上全体が一息ついたよう。ふと、何とはなしに懐かしい気分になる。昔の夏ってこのくらいの暑さだったんじゃないか。川で泳いで西瓜食って昼寝して、夕刻にひぐらしの声をきいてた夏休み。いかにもノスタルジック、紋切り型そのままの夏の描写だけれども、ぼくは中学生の頃までほんとにこんな生活をしてたんである。山の田舎の中学生。そんな頃をちょっと思い出したこの土日の涼しさだった。 A LONG VACATION / 大滝詠一 。 このところ、この盤がヘヴィ・ローテーション。ちょうどぼくが中学生だった頃にヒットしたアルバム。これはヒットから20周年の記念盤で、大滝詠一本人がリマスターを行ったもの。当時は、ラジオから流れてくるこういう音楽に、全く興味がわかなかった。というか、川で泳いでる田舎の中学生の生活には「薄く切ったオレンジをアイスティーに浮かべて…」(カナリア諸島にて)というようなワールドとの接点がまるでなかったんである。しかしこの盤のジャケットは鮮烈な印象を当時のぼくの記憶に残していて、それは、中学一年の時の担任の教師に関係している。一時間ほど離れた市街から、山の中のぼくの中学校に白いハッチバック車で通ってきていた東京の音楽大学を卒業したばかりの若い女性教師。あまり美人ではなかったけれど、とても元気で愛嬌のある人だった。どういう機会だったか忘れたが、ある夏休みの一日、友達数人とその一時間ほど離れた市街へ遊びに出て、道中誰かが思いついたのだろう、その先生の自宅に押しかけたことがあった。音楽というものを聴き始めたばかりで、生意気盛りでひたすら観念的だったぼくの脇には、街のレコード屋で買ったばかりの坂本龍一「千のナイフ 」。へえ、こういう音楽聴くのね、生意気ぃ、先生も聴いてみたいな、かけてみていい?。坂本龍一の観念的な音楽が部屋に流れている間、なぜだか無性に気恥ずかしくて、落ち着かない気分で部屋のあちこちをキョロキョロしたが、そのときピアノにたてかけてあったこのレコードのジャケが目に入って、何かしら自分のまだよく知らない世界のものに触れたような感じにうたれた。うまくいえないが、ああ、これは大人のレコードなんだ、というような。青臭いなあ(笑)、書いてて気恥ずかしい。彼女のそのときの年齢もとうに越した34歳のぼくは、CDになってすっかり小さくなってしまったこの盤のジャケを見ながら、松本隆の歌詞を小声でこっそり歌ってみる。
7月、酷暑が続いた東京だったが、この土日は台風の影響で北の大気が吹き込んで、いくぶん涼しい日となった。蝉の鳴き声も穏やかで、地上全体が一息ついたよう。ふと、何とはなしに懐かしい気分になる。昔の夏ってこのくらいの暑さだったんじゃないか。川で泳いで西瓜食って昼寝して、夕刻にひぐらしの声をきいてた夏休み。いかにもノスタルジック、紋切り型そのままの夏の描写だけれども、ぼくは中学生の頃までほんとにこんな生活をしてたんである。山の田舎の中学生。そんな頃をちょっと思い出したこの土日の涼しさだった。 A LONG VACATION / 大滝詠一 。 このところ、この盤がヘヴィ・ローテーション。ちょうどぼくが中学生だった頃にヒットしたアルバム。これはヒットから20周年の記念盤で、大滝詠一本人がリマスターを行ったもの。当時は、ラジオから流れてくるこういう音楽に、全く興味がわかなかった。というか、川で泳いでる田舎の中学生の生活には「薄く切ったオレンジをアイスティーに浮かべて…」(カナリア諸島にて)というようなワールドとの接点がまるでなかったんである。しかしこの盤のジャケットは鮮烈な印象を当時のぼくの記憶に残していて、それは、中学一年の時の担任の教師に関係している。一時間ほど離れた市街から、山の中のぼくの中学校に白いハッチバック車で通ってきていた東京の音楽大学を卒業したばかりの若い女性教師。あまり美人ではなかったけれど、とても元気で愛嬌のある人だった。どういう機会だったか忘れたが、ある夏休みの一日、友達数人とその一時間ほど離れた市街へ遊びに出て、道中誰かが思いついたのだろう、その先生の自宅に押しかけたことがあった。音楽というものを聴き始めたばかりで、生意気盛りでひたすら観念的だったぼくの脇には、街のレコード屋で買ったばかりの坂本龍一「千のナイフ 」。へえ、こういう音楽聴くのね、生意気ぃ、先生も聴いてみたいな、かけてみていい?。坂本龍一の観念的な音楽が部屋に流れている間、なぜだか無性に気恥ずかしくて、落ち着かない気分で部屋のあちこちをキョロキョロしたが、そのときピアノにたてかけてあったこのレコードのジャケが目に入って、何かしら自分のまだよく知らない世界のものに触れたような感じにうたれた。うまくいえないが、ああ、これは大人のレコードなんだ、というような。青臭いなあ(笑)、書いてて気恥ずかしい。彼女のそのときの年齢もとうに越した34歳のぼくは、CDになってすっかり小さくなってしまったこの盤のジャケを見ながら、松本隆の歌詞を小声でこっそり歌ってみる。
推薦ブログ:郵便学者・内藤陽介のブログ