「ペヨトル興亡史(今野 裕一 著/冬弓舎)」を読む。「ペヨトル工房」という出版社を知っている、というとだいたい歳がわかる。30代中盤から40代の前半、つまりは80年代に大学時代を送った世代。「夜想」「銀星倶楽部」「WAVE」「EOS」「ur」…という雑誌名を並べただけで、わかる人にはわかるが、わかんない人には全くわかんない。おかざきの日記(2001年4月2日)を見るに、おかざき真里の本棚にもこれらの本が並んでいたことにまず間違いはない。わたしの本棚にもいまだにあるが(笑)。ものすごく乱暴にまとめると、80年代に先頭きって走ってたヒップなアングラ・サブカル出版社、ということになる。わたしの大学(文学部)時代の知人も就職しました。どんな本出してたかは、こちら、オンライン書店bk1の特設コーナーを。いやあ、こうしてみるとわたしなんかはひたすらに懐かしいが、あらためて新しい読者に薦めるようなものは正直いってそれほど多くないか(銀星倶楽部11号「テクノポップ」特集 は好きな人には大推薦)。今回の「興亡史」は、主宰者の今野氏が、ペヨトル工房を解散するにあたっての諸々を書き付けた本。これまで出してきた「奇書」の数々を懐かしむことではなくて、むしろ現在の「出版」をめぐる状況についての論考に比重が置かれていて、そこが最も興味深い。懐かしがるだけならただの80年代懐古本だが、そうではなくて、「出版」の今を語る現在の読み物になっているところがおもしろいのである。「出版」の今はあまり明るくない。というか暗い。コトは単純ではないが、誤解を恐れず単純に言えば、80年代までの「メジャー×マイナー」対向図式が崩壊、「超メジャーとそれ以外」になってごく少数の超メジャーだけが残る、という構図。音楽でいえば、500万枚以上か5000枚以下か、の択一ということになる。制作側の怠慢・流通の怠慢・買い手の怠慢が輻輳化、そこに市場競争原理を無制限に適用すれば、そりゃそうなるだろう。さて、みんなどうするんだろう、おれはもう知らないよ、と「ペヨトル興亡史」は問題をそのままボロっと投げ出してくる、そんな本になっている。今日の一枚は、こちら、 Because of You / Jos Van Beest Trio を。大阪に「澤野工房」というレーベルがあって、実はとある個人がひとりで立ち上げたもの。自分が本当に気に入った欧州ジャズの廃盤を手間ひまかけて復刻する、という地道な活動(権利関係の交渉からはじまって、CDをケースにいれたり包装したり、レコードショップに営業をかけたり…)が、いつしかジャズファンの熱烈な支持を集め、ショップによっては局地的に大手レーベルの盤を抜く売上をみせているという、なんともユニークな存在。口コミやネットを通じて評判が拡がって、従来のジャズファン以外の層にも少しづつ波及しているようで、ちょっとしたムーヴメントと言えるような動きになっている。わたしもこの盤を試しに買って、埋もれてしまった宝を掘り起こしてくるその慧眼にすっかり魅せられた。澤野さんの活動に痺れて、大企業を辞して澤野工房の営業マンに転身された方も出たときく。制作側・流通・買い手の熱意の幸福な一致、おそらく「超メジャー以外」が成立するとすれば、大変難しいがこれ以外の条件ではやはりありえないだろう。
「ペヨトル興亡史(今野 裕一 著/冬弓舎)」を読む。「ペヨトル工房」という出版社を知っている、というとだいたい歳がわかる。30代中盤から40代の前半、つまりは80年代に大学時代を送った世代。「夜想」「銀星倶楽部」「WAVE」「EOS」「ur」…という雑誌名を並べただけで、わかる人にはわかるが、わかんない人には全くわかんない。おかざきの日記(2001年4月2日)を見るに、おかざき真里の本棚にもこれらの本が並んでいたことにまず間違いはない。わたしの本棚にもいまだにあるが(笑)。ものすごく乱暴にまとめると、80年代に先頭きって走ってたヒップなアングラ・サブカル出版社、ということになる。わたしの大学(文学部)時代の知人も就職しました。どんな本出してたかは、こちら、オンライン書店bk1の特設コーナーを。いやあ、こうしてみるとわたしなんかはひたすらに懐かしいが、あらためて新しい読者に薦めるようなものは正直いってそれほど多くないか(銀星倶楽部11号「テクノポップ」特集 は好きな人には大推薦)。今回の「興亡史」は、主宰者の今野氏が、ペヨトル工房を解散するにあたっての諸々を書き付けた本。これまで出してきた「奇書」の数々を懐かしむことではなくて、むしろ現在の「出版」をめぐる状況についての論考に比重が置かれていて、そこが最も興味深い。懐かしがるだけならただの80年代懐古本だが、そうではなくて、「出版」の今を語る現在の読み物になっているところがおもしろいのである。「出版」の今はあまり明るくない。というか暗い。コトは単純ではないが、誤解を恐れず単純に言えば、80年代までの「メジャー×マイナー」対向図式が崩壊、「超メジャーとそれ以外」になってごく少数の超メジャーだけが残る、という構図。音楽でいえば、500万枚以上か5000枚以下か、の択一ということになる。制作側の怠慢・流通の怠慢・買い手の怠慢が輻輳化、そこに市場競争原理を無制限に適用すれば、そりゃそうなるだろう。さて、みんなどうするんだろう、おれはもう知らないよ、と「ペヨトル興亡史」は問題をそのままボロっと投げ出してくる、そんな本になっている。今日の一枚は、こちら、 Because of You / Jos Van Beest Trio を。大阪に「澤野工房」というレーベルがあって、実はとある個人がひとりで立ち上げたもの。自分が本当に気に入った欧州ジャズの廃盤を手間ひまかけて復刻する、という地道な活動(権利関係の交渉からはじまって、CDをケースにいれたり包装したり、レコードショップに営業をかけたり…)が、いつしかジャズファンの熱烈な支持を集め、ショップによっては局地的に大手レーベルの盤を抜く売上をみせているという、なんともユニークな存在。口コミやネットを通じて評判が拡がって、従来のジャズファン以外の層にも少しづつ波及しているようで、ちょっとしたムーヴメントと言えるような動きになっている。わたしもこの盤を試しに買って、埋もれてしまった宝を掘り起こしてくるその慧眼にすっかり魅せられた。澤野さんの活動に痺れて、大企業を辞して澤野工房の営業マンに転身された方も出たときく。制作側・流通・買い手の熱意の幸福な一致、おそらく「超メジャー以外」が成立するとすれば、大変難しいがこれ以外の条件ではやはりありえないだろう。