ひらつか日記

1999年に漫画家おかざき真里ホームページの連載コーナーとしてスタートした身辺雑記×音楽紹介日記です。

パソコン30周年

2009年09月27日 | ロック・ポップス(国内)
イエロー・マジック・オーケストラ(US版)

日本で最初に「パーソナルコンピュータ」を謳ったのは、NECのPC-8001。1979年9月28日発売なので、明日でちょうど30周年ということになる。但し当時は「マイコン」(micro computerと、my computerをかけたもの)という呼称が一般的で、「パソコン」という語が世に普及したのは実際はもっと後になってから。岐阜の田舎の中学生だったわたしはこの頃に、YMOに出会って、音楽に開眼している(冒頭のジャケットは1979年に日米で発売されたファーストアルバム)。ひとつ上の世代がモーリスのギターに憧れたように(出演するとモーリスのギターが貰えるテレビ番組「TVジョッキー」の“奇人変人”が大変な人気だった)、YMOエイジの子供たちはシンセサイザーとコンピューターに憧れたのだった。とはいえ、どちらもまだまだ高価な代物で、両方を買ってYMOがやってたような自動演奏システムを組むなんて夢のまた夢。今では、数万円のパソコンにDAWソフトをいれれば誰でもカンタンにYMO以上の環境を手に入れることができる…というか、DAWは今やプアマンズ・インストゥルメンツと言ったほうがいいかもしれない、いやはや隔世の感があります。以前の日記(2008.8.25)に書いたように、わたしが最初に触れたコンピューターは近所のお兄ちゃんがもってたポケットコンピューター。それと、高校で入部した「数学研究部」(後に部長…苦笑)の部室にあったレジのお化けのようなFORTRAN機。どちらもディスプレイは数字1行だけ。ちゃんとしたディスプレイがついたコンピューターに触れたのは、ウチの隣に住んでた不良のアニキの部屋だった。ある日、オレの部屋へこい、と呼び出しを受けて、おそるおそる行ってみると、そこに近所の電気屋で買ったと思しきナショナルのマイコン(JR-200)が置いてあった。「マイコン買うとインベーダーゲームが家でできるっていうから買ったんだけどよぉ…」とアニキ。インベーダーゲーム目当てにいちいちカツアゲするのも面倒だ…ということだったんだろう。しかし当時のマイコンを知る人ならわかるだろうが、プログラムは自分で書くしかなかったんである。ちなみにファミコンはまだなかった。つまり、彼の言葉を翻訳すると「お前、マイコンに詳しいらしいじゃねえか、これでインベーダーつくってくんねえか」ということだ。タバコの匂い、壁には松田聖子のポスター…そんな部屋に連日通って、プログラムを書く日々が始まった。その頃にプログラムを書いた経験のある人ならわかるだろうが、インベーダーゲームってのは駆け出しのプログラマーには難度が高い。とてもじゃないが処女作では無理だ。アニキに事情を説明して「パックマンもどき」で勘弁してもらうことにしたのだが、パックマンもどきもそうカンタンにはいかない。どうにかカタチになったところで、アニキがプレイ。ナムコの原作とは比較にならない低クオリティの画面にやや不機嫌。こちらはいつエラーが出て止まるかわからないので後ろで冷や汗。パックマンがドットを全部食べた…が、ステージのクリア判定ロジックがおかしいせいで次の面にいかない…モンスターにやられてゲームオーバー。「なんでクリアじゃねえんだよ、全部食ったじゃねえか」とキーをぶっ叩くアニキ、縮み上がるわたし…と、まあ、話は尽きないのでこの辺にしておくが、わたしが今日あるのは、この不良のアニキのおかげといっていい。黎明期にWEBの仕事に携わる機会(博報堂が1995年に実験的につくった組織「博報堂電脳体」に参画)に恵まれたのも、あの修羅場で身につけたプログラムの知識があったからだ(笑)。その後、アニキはマイコンにいつの間にか飽きて、その機械はわたしが拝借したままになった。たぶんまだ実家にあるんじゃないかな…もう捨てられたか。わたしとコンピューターの出会い、かっこよく語れば「YMO~シンセサイザー~自動演奏」という線だが、もうひとつ「不良~インベーダーゲーム~カツアゲ」との輻輳がそこにはあった、という一席。




10周年

2009年09月25日 | ロック・ポップス(欧米)
シークレット ライヴ・イン・NY (DTS5.1ch) [DVD]

この日記を書き始めたのが1999年9月。今月でちょうど10年ということになる。途中何度も中断、ひどい時には1年以上放ってあったりしたので、10年続いている…というと語弊があるか。それでも370くらいの記事があって、均せば10日に1度は書いてきた勘定だ。人に読んでもらうに値するような文章を書けてる自信は全くないけれど、それでも多くの方が見に来てくださっていることにあらためて感謝。最近は、Twitterに短信を書く、という習慣ができたせいか、こうして文字数の制限のない日記を書くのが億劫になってきた(Twitterの短信はこちらに随時蓄積されていく仕組みにしてある)。これはあまり良いことだとは思っていない。Twitter自体はおもしろい仕組みだけれど、まとまった思考を盛るに適した器ではないからだ。140文字という制限に思考を盛ろうとすると必然的にアフォリズムという形式に近くなる。アフォリズムというのは平たく言うと、結論だけをポンと投げ出すやり方である。未熟な書き手は自らが思考停止(紋切り型、一般論、あるいは単なる感情的断罪…)をおこしているのに気付きにくい。また、未熟な読み手をこれまた無自覚な思考停止(感心、平伏、丸呑み…)に追いやってしまう。思考の表現としては、書き手にも読み手にも大変に難しい形式なのである。断るまでもなく、わたしはアフォリズムの名手ではないので、Twitterをブログの上位互換として使える自信はない。結論に至らぬあれこれをモヤモヤと書きつけていく場として、ブログは依然として意義があると思う。さきほど短信ばかり書いてることを良いことだとは思っていない、というのはその意味においてである。Twitterのおもしろさは、「思考」の往来、というよりは「プレゼンス」の響き交わし、というようなことなんじゃないかな。あ、いるんだな、という感じ…ブログよりも、ノンバーバルな感覚におもしろさの重心があるように思う(ハイパーリンクでどこかを指差す、というタイプのものはその限りではないが)。何を書いてるのかよくわからなくなってきたが、要はこれからもブログはポツリポツリと続けていくのでよろしくお願いします、ということが言いたかった。Two Against Nature / Steely Dan。今日の推薦盤は、スティーリー・ダンのライブを収録したDVD。演奏は文句なく素晴らしいが、曲の合間に盛り上がりにワザと水を挿すようにインサートされるお遊び映像の多いこと多いこと。ヒネクレてる…。中でもインタビュー映像の、「今までに出した中で一番気に入っている作品は?」と問われて、「カインド・オブ・ブルーだね」と応えるくだりが何ともこの人たちらしい(カインド・オブ・ブルーはマイルス・デイヴィスの代表作です、念のため)。短く切り刻まれるインタビューというものの困難を暴いてみせるアイロニーなんだろうけど、インタビューされるのが実は大好きというナルシズムの反転表現でもある、という大人の屈折(笑)。演奏がブログとすれば、この応答がTwitter。とまあそんな構えでいこうと思います。


(関連記事)
●カインド・オブ・ブルー(2000.06.19
●スティーリー・ダン(2003.03.28