ひらつか日記

1999年に漫画家おかざき真里ホームページの連載コーナーとしてスタートした身辺雑記×音楽紹介日記です。

同じ誕生日の有名人

2001年01月28日 | クラシック
34歳の誕生日

rubinstein.gif

土曜は大雪。日曜は穏かに晴れたが、窓から見える隣家の屋根にはしっかりと雪がのこっていて、反射光が眩しい。このところ、毎週末、雪が降る。玄関先の雪を掻いていたら、隣の爺様も作業中で、いやあ大変ですねえとお互い手を休めず少し話す。わたしの子供の頃なんてのはね、冬はこうだったですよ、夜のうちに坂に水撒いておいてね、ええ、雪を凍らすんです、で、板っきれを尻にしいてね、ざーっとすべってはお袋に怒られたもんです。この爺様はたぶん古希をこえているが、隣家にはまだ母君がご健在。計算でいくと白寿に限りなく近いはずだが、耳が遠い以外は痞蒻としていて、もしかするとこの爺様より元気かもしれない。さて、わたしは本日、三十四になった。なっていきなり子供じみた話で恐縮だが、自分と同じ誕生日の有名人って誰がいるんだろう、ということを調べてみたことはないだろうか(笑)。自意識過剰なガキだったわたし、小学生の時にあたった資料には「三浦友和」とあった。ガキはバカだから、さぞかし不満気なツラをしたのに違いない。数年後あたった別の資料には「ロマン・ロラン」とあって、今度はちょっとあまりに渋すぎる名前にどう判じたら良いものか、だったらロマン・ロランを読めばよさそうなもんだが、そんな根性もないバカなガキはそのまま放置。それからさすがにそういうこと調べることもなく大人になって、それで数年前、本をパラパラめくっていたら、偶然、1月28日生の文字が目にはいって久しぶりにドキっとした。まだ子供じみてるなあ、おれは、と思いながら、その頁にあったピアニストの名前を見て、へえ、この人が、とくすぐったくなって、相変わらず自意識過剰なバカが治ってないことが判明した。Highlights from the Rubinstein Collection / Artur Rubinstein 。アルトゥール・ルービンシュタイン。1887年1月28日、ポーランド生まれ。ピアノの貴公子、と呼ばれた20世紀の大ピアニスト。



米RCAにCD94枚組のボックスセットがあって、わたしが聴いたのは分売されているごくごく一部、とても彼についてここで講釈たれる資格なんか無いが、何というか、この人のピアノ、とても大らかな暖かい音がする。どんな曲をひいても、真正面から堂々とした解釈でいく。洒落たセンスで弾きくずすか、天才の閃きで思いもよらぬ角度から光をあてるか、情念の迸りで曲を駆け抜けるか、技術の卓抜で完璧に鳴らして驚倒させるか、強引な解釈で曲を捻じ伏せるか、いわゆる歴史に名を残すピアニストには、何らかの強烈なクセがあるものなんだが、この人のピアノにはそれが無い。無いと普通はツマンナイ演奏になるはずなんだが、それがどういうわけか、素晴らしいのである。真正面から、何の衒いもなく堂々と弾いて、それで凡庸に落ちないのだから、これはもう巨匠芸。わたしが最初に聴いたのは、還暦すぎてのショパン。ショパンというと、どうしてもお嬢様ピアノのお稽古曲、もしくは小林麻美(若い人は知らないよね…笑)、という偏見があって聴かず嫌いしてたんだが、この人の演奏を聞いて、何て良い曲なんだろう、と思った。還暦すぎて、といって晩年の演奏かというとそうでもなく、90歳くらいまで現役、もはや視力がほとんどないのにブラームスの協奏曲をバリバリと弾いたCDも残されていて仰天する。三十四のわたしは、遠く九十に思いを馳せてみようとしたが、雪掻きにくたびれて少し居眠りをしてしまった。