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リチャード・L・ブッシュマン

ブッシュマン(Richard Lyman Bushman)は、コロンビア大学歴史学名誉教授で現在クレアモント大学院大学宗教学部モルモン学の客員教授である。81歳。彼は学問の世界で高く評価され、同時に教会幹部を始めLDS教会内でも厚い信頼を勝ち得ている学者である。かつてセミナリー教師、監督、ステーク会長などを歴任している。

ブッシュマンの、信仰の立場から著された名著「転がる粗石、ジョセフ・スミス」(Joseph Smith: Rough Stone Rolling, 全561ページ)を大体読み終えたので、ここに同書の評価と彼の立ち位置・スタイルについてまとめてみたい。

先ず、最近目にした研究者による評価を紹介して始めたい。モルモン思想家について取り組んでいるスチュワート・パーカー(博士号取得後の特別研究員)が「モルモン歴史ジャーナル」2012年夏号に載せた記事によると、リチャード・ブッシュマンの手法は「理解主義に基づく解釈(あるいはアプローチ)」であるという。英語では、The Hermeneutics(解釈学) of Generosity(寛容) である。これはパーカーが名付けたもので、思想家の型として人文学・社会科学で支配的な懐疑主義ではなく、歴史上登場する人物の意識を理解しようとする立場を指している。厳密な研究の手法を取ることに変わりはないが、当該人物の動機と行動の理解に努める。また、考えられる理由を探索し、それらに基づいて現象を説明しようとする。

以下、私のメモに入る。第一に、ブッシュマンは「新しいモルモン歴史観」による研究を進める中心人物の一人であって、20世紀後半以来公開されだした教会関連の第一次資料を駆使する歴史家である。従来反モルモンがもっぱら利用してきた資料も吟味の上参照・使用し、教会文書庫「ジョセフ・スミス関連文書[Collection]1805-1844」、ボーゲルが編集した「初期モルモン文書」5巻(1996-2003年)、ディーン・C・ジェシー編の「ジョセフ・スミス文書」2巻(1989-1992年)、「ジョセフ・スミス個人文書」(2002年)など、膨大な資料に依拠し、最新の入手し得る情報に基づいて記述している。内容は仔細におよび、信頼できるものとなっている。いろいろな事を知った上でモルモン史を紡ぎだしている。

第二に、上に記したように、知的な面で勇気ある分析・提示をしているが、基本的にジョセフ・スミスなどモルモン史に登場する人物を記述するに当たって、彼らを尊重し暖かい視線で描く姿勢が感じられる。堅実で適切な記述であると感じた。私はその光る観察に教化され手引きされる思いで読んだ。例えば、ミズーリ州における教徒は、地元側や反モルからいろいろ言われてもやはり被害者であった、と理解することができた。

暖かい視線が一貫しているとしても、正直な記述もまた数多くみられる。JSが宝探しの活動から離れ宗教的使命に目覚めていくくだりなど。また、モルモン書の翻訳の際、金版が棚に置かれたままでも行なわれたこと、カウドリが破門され離反していくように見られているが、実は多妻の件で被害者であったと言えること、ミズーリでは軋轢、争乱の最中モルモン側にも火を放ったり、略奪したりしたこと、など。相手側に立てばどう見られていたかという視点もカートランド、ミズーリの場合で彼らがなぜ脅威を感じて敵意を持つに至ったかが記述される。不利な事柄もしばしば出てきて、lds側にも人間的な面からまずいことがあったことが報告されている。

書名の「転がる粗石」はジョセフ・スミスが自身について、バーモントの丘から切り出された、ありふれた教育のない粗い石にすぎない、と言った言葉からきている。この石は、しかし、ある学者によれば「自分が受ける霊感を信じ、啓示によって、尋常でないことを成し遂げることができた」のであった。

私はこの本を読んでいて、これまで聞いてきた物語より、教会にとって芳しくないことも含めて仔細に伝えてくれていて、信頼感を覚えた。ブッシュマンのこの本は、外部から邪険な指摘を受けても、動じないですむように免疫の働きをすると言われることがある。この本は今後教会の中で最も重要な書籍の一つとして知られることであろう。

Richard Lyman Bushman, “Joseph Smith: Rough Stone Rolling. A Cultural biography of Mormonism’s Founder.” Alfred A. Knopf, 2005.

本ブログ参考記事
2010/07/10 「アブラハム書」と時代背景・・ブッシュマンの記述2008/12/20 「ジョセフ・スミス -- 預言者の素性」(英文)を読んで
2005/12/23 「発展的生成の道をたどった見神録」

コメント ( 5 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
毒をもって・・・ ()
2012-10-02 11:12:54
>ブッシュマンのこの本は、外部から邪険な指摘を受けても、動じないですむように免疫の働きをすると言われることがある。

ワクチン・・・?


「真理の探求」はしても「真実の探求」を避けて通るのが、大方のモルモンですね。

そもそもの信仰が、真実に由来して無いので、不都合な真実を突きつけられても、何も感じない。

ブッシュマン氏のワクチンが無くても、すでに免疫は持ってるんですよね。

毒を薬だと思ってずっと飲んできたんですから。
 
 
 
効力あるワクチン (nj)
2012-10-02 17:49:14
最後の行の逆説的皮肉を除けば、それほど異議を感じることなく読めました。宗教は科学でないわけですから。

大方の末日聖徒がすでに免疫を持っているのであれば、よかったと思います。・・この書は私にとって効力あるワクチンで重宝しています。
 
 
 
成熟してきた (オムナイ)
2012-10-05 19:39:02
書籍の感想感謝です。
とても興味深いですね。

公式ホームページでも紹介されていた方ですね。

http://www.ldschurch.jp/index.php/newsmedia/news/world-church-news/680-2010-11-22-07-13-21

懐疑論者や合理主義者は,示現を単に心理的あるいは文化的なものとしてとらえようとしてとブッシュマンは語る。つまり彼らは空想家たちに対して,「誤ってはいたものの心から信じた人々」という思いやりのある評価をしているというのだ。

しかしジョセフ・スミスの金版を受け入れるかどうかは全く次元の違う問題である。

「金版は,非現実的なものや心理的なものではなく,形のあるものです」とブッシュマンは言う。「金版は,超自然現象が自然界に入り込んできたことを断言しています。超自然現象を信じなければ,金版はあり得ないのです。」

しかしそのことが,この金版が史学的に難問であるゆえんなのである。
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「誤ってはいたものの心から信じた人々」確かにこういった冷ややかな眼差しをヒシヒシと感じます(^^;

豚さんのコメントの

>真実に由来して無いので、不都合な真実を突きつけられても、何も感じない。

というのも同じ種類なんでしょうね。

そういった冷ややかな視線に対するワクチン(暖かい励ましの言葉)と感じました。
 
 
 
Unknown (nj)
2012-10-08 00:58:11
コメントありがとうございます。教会の公式ページに紹介されていたのを見た覚えがあります。彼が重んじられているのが分かります。urlをありがとうございます。

ただ、彼の発言と引用された文を理解するには、翻訳の問題があり得ることや彼の発言の背後にある長年の研究と発言の意図・趣旨を理解しなければならないと思います。(今はこれ以上書けませんが。)

いずれにしても、ワクチンの言い換えが素晴らしい!
 
 
 
分かりにくい部分の原文 (nj)
2012-10-08 01:10:22
Skeptics and rationalists can account for visions, Bushman said, as being merely psychological or cultural. This allows them to think kindly towards visionaries as people who sincerely believed, even though they were sadly mistaken.「懐疑論者・・というものだ」の4行。

この部分の訳がこなれていないようです。時間がある時に訳を試みてみます。http://www.deseretnews.com/article/705362294/Mormon-scholar-explains-the-historical-difficulty-created-by-the-Golden-Plates.html?pg=all
 
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