農文館2

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

『苦海の美学』書評・3

2021-10-06 14:59:30 | 日記
「週刊新潮」表紙絵画家・成瀬政博さんが、松本市民タイムス9月11日付で、『苦海の美学』について、以下の書評を投稿しています。

 「30歳で亡くなった娘が遺した膨大ともいえる文章と絵。彼女の死とそれらの作品群を、父はどう受容すればよいのか。父は松本城近くの路地の片隅に娘の絵を展示する小さな美術館(康花美術館)を設置した。そして3冊の本を上梓した。そして紹介するのは4冊目の本である。
 この美術館が開館してまもないころぼくは訪れ、強い思いに打たれた。絵を描くことを生業としている自身の足元が揺らぐ感覚にとらわれたのだった。卓越した表現のもと、生きていることの不安と苦悩がこれほど深く描かれた作品に近年触れてなかった自身の考えの浅さと軽さに打ちのめされたのである。
 この本の著者である父が、娘の最後の作ともいえる銅版画群を読み解いた書である。「父親の理性が見過ごしていた、彼女の内奥に潜む繊細な感情の起伏と葛藤、それが作品に絡んでいること」を読み解いたものである。著者である父は評者としての娘との距離を取ろうとしてのことか、生まれてわずかにして死んだ娘の弟の語りとして著述する(著名も弟の名前)。
 娘、康花さんが26歳の時に書いた「現代美術の一考」と題する文章があるが、父はそれを深めるかのように、論述する。引用された彼女の文章が、今、ぼくにはとても重い。

 (『苦海の美学』須藤岳陽著、而立書房、1800円プラス税、注文・FAX03-3292-8782)


コメントを投稿