長田家の明石便り

皆様、お元気ですか。私たちは、明石市(大久保町大窪)で、神様の守りを頂きながら元気にしております。

物語の神学(後半)

2015-01-16 21:09:31 | 神学

6.福音主義神学における物語の神学の評価と展開

物語の神学は、北米の大学から始まったものではありますが、世界の福音主義神学にも大きな影響を及ぼしています。

福音主義神学は、一方ではリベラリズムに反対して聖書啓示に無比の権威を認めます。同時に、ファンダメンタリズムにも距離を置く面があり、聖書の一面的な字義的解釈に走ることにも慎重な姿勢を示します。そのような中で、リベラリズムに対抗するポストリベラリズムのあり方は、福音派神学者にとっても大きな関心を呼ぶものであったと言えます。

当然のことながら、福音主義の立場からポストリベラリズム、あるいは物語の神学に対して神学的評価をしようとする動きも起こりました。そのような初期の動きの中で最も重要なものとしては、北米の福音主義神学者として著名な、カール・F・H・ヘンリーによるものでしょう。彼は、1985年、イェール大学で連続講義を行う中で、物語の神学、特にハンス・フライの著作に対する批判を行ないました。このフライに対する批判は、フライの応答と共に、1987年、トリニティー・ジャーナルに掲載されました("Narrative Theology:An Evangelical Appraisal,"Trinity Journal 8(Spring 1987))。彼は、フライの方法が歴史的言及に関してあいまいである点を指摘し、聖書の言語霊感、無誤性の立場を擁護しようとしました。

その他、多くの福音主義神学者もそれぞれの視点から物語の神学やポストリベラリズムに対する評価や批判を行ないました。たとえば、英国の神学者マクグラスは、カール・ヘンリーよりはかなり広い立場のように思われますが、物語の神学の長所として多くの点を認めつつも、聖書の物語の権威や真理性の問題が回避されていることを問題点として指摘しています(注3)。

このように、福音主義の立場からは批判されるものを持っている物語の神学ですが、にも拘らず、福音主義神学の世界におけるこの神学の影響は広がり続けているように思えます。福音主義における聖書解釈においても、文書ジャンルに応じた解釈の必要が認識されるようになってきていたこともあったでしょう。あるいはまた、聖書学の進展の中から、従来の神学的枠組みの限界が感じられるような機会が増えつつあったということもあったかもしれません。そして、おそらくこの神学を巡る議論で大きな説得力を持ったのは、従来の福音主義神学のあり方がモダニズムのパラダイムを共有していたのではないかという思いがけない指摘だったかもしれません(注4)。更につけ加えれば、保守的な立場以外の神学者とも交流を持ってきた福音派神学者が、聖書物語の権威や真理性の問題を一旦横に置いた上で、共通の神学的枠組みを持ちながら神学的取り組みを進めることができると感じた一面もあるかもしれません(注5)。

7.福音主義神学における物語の神学への取り組み事例

現状において、福音主義神学の中で物語の神学がどのような形で取り組まれてきているのか、その全貌をつかむことは私にはとてもできません。今回は、とりあえず、ネット上を含め、日本語のもので目に留まったものをご紹介します。

*「神の物語を生きる-聖書のナラティブと神学」『リバイバル・ジャパン2011年8月 日号』(山崎ランサム和彦(リバイバル聖書神学校校長、日本福音主義神学会中部部会理事長)、地引網出版、30-33頁)
部分的紹介・・・http://www.revival.co.jp/rj/2011/08/post-179.php

雑誌『リバイバル・ジャパン』において、「福音主義の中における様々な神学と聖書解釈を主張していただく」ことを趣旨とする「他者からも学ぶ 神学交歓」というシリーズの中の1回として掲載されたもの。N・T・ライト、リチャード・ヘイズといった福音主義的な神学者の物語神学への取り組みを踏まえつつ、物語神学の基本的理解を簡潔、的確にまとめて提示しています。

*「一つの物語としての聖書」(マイケル・ゴーヒーン:トリニティ・ウェスタン大学、リージェント・カレッジ大学教授)http://church.ne.jp/ayabe/history.html

日本の教会関係者に対してなされた講演の要旨のようです(講演がなされた状況、経緯など、詳細は不明)。福音の要約、福音の性質の解説から始まり、N.T.ライトの「物語は世界の現状を語る最善の方法である」という言葉を引用しつつ、特に全世界がどのようなものかを伝える最も基本的な方法として物語を提示しています。

*『神の物語』(マイケル・ロダール、日本聖化協力会出版委員会、2011年)

著者自身の説明では、「この本は、物語の神学をスタイルとして採用しつつ、神学的にはウェスレアン神学に立つキリスト教神学の入門書である」と紹介されています。保守派においては、真理命題の集積のように扱われて来た組織神学ですが、「物語の神学を反映した組織神学」というものが可能だとすれば、それはどういうものになるのか、ウェスレアンの立場で一つの形を提示したものと言えそうです。

これらは、雑誌の論考、講演要旨、書物と、文書の性質も違いますし、物語の神学の提示の仕方もかなり違っています。しかしながら、聖書文書のジャンルにおけるナラティブ(物語)の重要性を示し、物語が人の世界観や生き方に大きな影響を与えること等を強調している点など、共通したものを持っています。教派的背景も様々のようですが、物語の神学を福音主義神学に取り入れる試みが多方面に渡って行われていることを伺わせます。

また、注目したいのは、これらの事例において、物語の神学を福音主義神学に取り込むために必要な、一定の保留条件が付けられていることです。

・聖書の物語は神の物語であり、その主役は神である(ロダール13頁)
・書かれている出来事の史実性を尊重する(但し、ナラティブの文学的な側面を分析することと両立するものであること、あるいは、物語が出来事に対する解釈の要素を含むことを指摘)(山崎32頁、ゴーヒーン5頁、ロダール18-24頁)
・聖書が神の霊感を受けて書かれたものであり、神の啓示であることを踏まえる(ロダール25頁)

おそらく、今後も福音主義神学において物語の神学が広がっていくとするなら、これらの点がある程度統一的に明確にされることが鍵になりそうです。

今後のことは分かりませんが、福音主義神学のあり方を根底から改編していく可能性もあるように思われますから、その意味で神学者の方々には慎重な判断、吟味をお願いしたいと思います。同時に、これまでの神学的枠組みでは捉えきれなかった聖書の豊かなメッセージを汲み出す可能性を秘めたアプローチだとも思います。今後も、この神学の動向に注目していきたいと思います。

注3 マクグラス『キリスト教神学入門』(教文館、237頁)
注4 David K. Clark 'Narrative Theology and Apologetics'"Journal of the Evangelical Society Vol.36"p507(下記ネット上の参考ページ参照)
注5 『リバイバル・ジャパン 2011年8月21日号』(上記紹介記事、地引網出版、32頁)


その他のネット上の参考ページ(再掲)

「屋根裏部屋の思考」―「神学の二つのモデル」
http://okegawax.cocolog-nifty.com/blog/cat8535834/index.html

長谷川琢哉「宗教間対話とポストリベラル神学を巡って」『宗教学研究室紀要 第3号』(京都大学文学研究科宗教学専修)(2006年、28-41頁)
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/57733

堀江宗正「「物語と宗教」研究序説―リクール「物語神学を目指して」を読む」『東京大学宗教学年報』XV(1998年、61-78頁)
http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/handle/2261/26083

David K. Clark(Bethel Teological Seminary) 'Narrative Theology and Apologetics'"Journal of the Evangelical Society Vol.36"(1993,p499-515)
http://www.etsjets.org/JETS/36-4

Robert Weston Siscoe'Postmodern Development in Evagelical Theology'(2011)
http://digitalcommons.olivet.edu/honr_proj/

Gerald R. Mcdermott Ph.D.'The Emerging Divide in Evangelical Theology'(2013)
http://www.virtueonline.org/emerging-divide-evangelical-theology

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