春過ぎて 夏来るらし 白栲(しろたえ)の
衣干したり 天の香具山
=巻1-28 持統天皇=
春が過ぎて、もう夏がやって来たらしい。聖なる香具山の辺りには真っ白な衣がいっぱい乾してある。という意味。
持統天皇は、694年に都を藤原京に遷した。新都を囲む大和三山のうちで、最も神聖だとされたのが香具山である。「天の」は、香具山が天から降ったという古伝説に基づいて、香具山に冠される語。その香具山に真っ白な衣が乾かされている。その光景に、天皇は夏の季節の到来を感じ力強くさわやかに歌った。
白栲(しろたえ)は、楮(コウゾ)類の皮を剥いで、表皮を落とし白皮を灰汁で煮て川で晒し、さらにしごいて澱粉質を搾り出し、石に叩きつける。すると極細の繊維に別れ、これによりをかけて糸にする。その糸で織ったものが白栲だそうだ。
この万葉歌碑は、香久山中腹にある天香久山神社に建てられているものである。
天香久山神社は天香具山の南麗、南浦集落のほぼ中心に南面して鎮座し、天照大神を祀る。「古事記」「日本書紀」の神話にみられる天照大神の岩戸隠れされたところと称し、今もなお巨石4個があって、神代に天照大神が幽居した天石窟と伝えられる。『延喜式』神名帳に式内大社として登載されている古社なのである。