飛鳥への旅

飛鳥万葉を軸に、
古代から近代へと時空を越えた旅をします。
「リンクメニュー」(分類別目次)機能付。

万葉アルバム 野草、のびる

2011年05月23日 | 万葉アルバム(自然編)

醤酢(ひしおす)に 蒜(ひる)搗(つ)き合(か)てて 鯛願う
我にな見えそ 水葱(なぎ)の羹(あつもの)
    =巻16-3829 長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)=


醤(ひしお)に酢を加え 野蒜(のびる)を搗きまぜたタレを作って鯛を食いたいと願っている。この俺様の目の前から消えてくれ、まずい水草の吸い物なんかは。という意味。

 多くの庶民は毎日、雑草のような野草ばかり食べていた。たまには鯛を食べたいという庶民の気持ちを切に表している。

醤(ひしお): 醤油や味噌の元祖でもろみに近い。大豆、うるち、酒、小麦を原料として醸造したもの
酢: 米から作る米酢と酒を腐らせた酒酢があった
醤酢:今の酢味噌の類
蒜(ひる): のびるのことで独特の強い臭気がある
蒜搗き合てて:蒜をつき砕いて 混ぜて
水葱;ミズアオイ科の一年草、葉を食用とする。水中に自生
羹: 熱い汁で吸い物のこと。

 のびるは、万葉時代には貴重な香辛野菜で、若菜を茄でて醤酢を和えたり、魚の膾に和えたり吸い物の具にもした。ノビルはニラよりも、カルシウム・鉄・ビタミンCが多い。ナギはミズアオイの別名で、水田や沼地、池、河川の下流域などに広く生育していたらしい。
 
 万葉時代の庶民にとって、のびるは生きるためにやむを得ず食す野草だったかもしれないが、現代の私にとっては、のびるは酒の肴に格好の食材である。
生のまま味噌をつけても、ゆでて酢味噌和えにしても、いずれも珍味だ。