葦辺行く 鴨の羽がひに 霜降りて
寒き夕は 大和し思ほゆ
=巻1-64 志貴皇子=
葦が生い茂る水面を行く鴨の羽がいに霜が降っている。このような寒い夕暮れは、大和のことがしみじみ思い出される。という意味。
作者の志貴皇子は天智天皇の第七皇子。この歌は、706年、文武天皇(持統天皇の孫、軽皇子)にお供して、難波離宮へ旅した時の歌。政治の中心から離れて、あまり居心地のよいことではなかったと思う。だからこそ、冷静で淡々とした中に、繊細で柔らかな感性を感じる。
「羽がひ」は、たたんだ翼が背で交わるところ。
『万葉集』に詠まれた「アシ」は49首ある。
アシ(葦、芦、蘆、葭)またはヨシは、温帯から熱帯にかけての湿地帯に分布する背の高いイネ科の草の一種である。