【永田満徳(みつのり)】 日本俳句協会副会長 俳人協会幹事 俳人協会熊本県支部長 「文学の森」ZOOM俳句教室講師

「俳句大学」学長 「火神」主宰 「秋麗」同人 未来図賞/文學の森大賞受賞

追悼 中村青史先生 ~愛弟子のように~

2023年12月15日 23時11分53秒 | 総合文化誌「KUMAMOTO」

総合文化雑誌「KUMAMOTO」45号
NPO法人 くまもと文化振興会(2023年12月15日発行)

追悼 中村青史先生

                          ~愛弟子のように~                                                                                                                            永田満徳 

 中村青史先生との出会いはかれこれ40年ほど前、大学出たてのころである。学校の同僚で、「熊本歴史科学研究会」の永野守人先生の家に呼ばれて行ったときに初めてお目にかかった。その席で、中村先生に「大学を卒業しても、さらに文学研究を続けたい」と思いを正直に述べたところ、「熊本には誰でも入れる『熊本近代文学研究会』があり、代表の首藤基澄先生に紹介しよう」となった。
 向井ゆき子さんによれば、「頼まれた以上は最後まで永田くんの面倒を見る」とおっしゃっておられたという。中村先生に私を「頼む」と言われたのは永野守人先生ではないかと思われる。永野先生には新任のころ、親身になってお世話を頂いたからである。

 「熊本近代文学研究会」は月一の研究発表と機関誌「方位」の寄稿という車の両輪で行われて、現在に至っている。私が研究発表と寄稿した文学者は夏目漱石や木下順二、小泉八雲などがある。「熊本近代文学研究会」では『熊本の文学』と題する熊本の文学者を扱った単行本を発行するようになり、私も『熊本の文学』(審美社)のⅠでは三好達治、Ⅱでは蓮田善明、Ⅲでは三島由紀夫を担当した。熊本カルチャーセンターの「熊本の文学」講座やその他の講話の基になったもので、貴重な財産となっている。
 また、首藤基澄先生には俳句を勧められ、現在、首藤先生が創立された俳誌「火神」主宰、俳人協会幹事、俳人協会熊本県支部長を任され、第二句集『肥後の城』(文学の森 令和3年9月)では熊本の風土を詠み込んだものとして「文學の森大賞」を頂くまでになった。
 それもこれも、中村青史先生の紹介がなければ今日の私はないと思っている。

 中村青史先生は熊本出身の文学者の顕彰の会を数多く立ち上げて来られた。中村先生の傍にいると、熊本の文学がじかに感じられて、おもしろく、いつしか中村先生のような郷土の文学を研究する者になりたいと思うようになった。
 中村青史先生から推挙、または勧誘頂いた熊本の文学顕彰会は以下の通りである。なお、役職は現在のものである。
 「熊本文化懇話会(文学)」会員
 「熊本アイルランド協会」理事
 「熊本八雲会」監事
 「徳永直の会」広報
 「熊本近代文学研究会」会員
 「くまもと漱石倶楽部」会員
 「草枕ファン倶楽部」会員
 「熊本・蘆花の会」会員
 中村青史先生は「熊本アイルランド協会」の理事の推挙の理由を「若い君が頑張れ」とおっしゃって励まされた。私を育てようというお気持に身の引き締まる思いであった。特に、「徳永直の会」「熊本・蘆花の会」は中村先生が会長を退かれる際に相談があり、知り合いを紹介したり、仲介を務めたりした。私をそれほど信任して頂いたことに感謝している。

 私は様々な企画をするのが好きで、中村青史先生に文学の講師や果てはバスガイドをお願いしても、一度も否定されることはなく、何をやっても「いけいけどんどん」というタイプの先生で、思い通りの催しが開催できた。その気さくさに中村先生の器の大きさを覚え、ますます中村先生を慕うようになった。
 その主な例としては、まず、「九州地区高等学校国語教育研究大会熊本大会」が開催されたとき、私は「草枕の里」探訪と銘打ったバスツアーを担当した。中村青史先生に恐る恐るバスガイドをお願いしたら、快く引き受けて頂いた。中村先生の知識はもちろんのこと、バスの窓外を指差しながら、前田家ゆかりのだれそれが住んでいたとか、現地の息遣いが分かるような案内のため参加者に大変好評であった。中村先生を紹介した私は鼻が高かった。
 また、平成26年6月、「熊本県高等学校国語教育研究会(K5)」主催の一泊二日の文学研修「K5文学散歩in旭志」を事務局長として企画した。『窮死した歌人の肖像 宗不旱の生涯』(形文社. 2013.12)を執筆されたばかりの中村青史先生を講師としてお招きした。「四季の里旭志」のログハウスの一泊目の懇親会の折、「熊本近代文学研究会」のことに触れたら、「まあだ、やっとっとか?なんでおれに連絡せんとか」とおっしゃったので、驚いて、「先生のお歳ごろは、研究会を卒業しなはって参加ばされんと思っとりました」と言ったところ、「この研究会の発起人はおれじゃなかか!」とえらい剣幕だった。そこで、「えっ、先生は参加ばされる気いがあんなさっとですね」と言ったところ、「そりゃ、そうたい。ただな、研究会の後に呑まにゃ、参加せんぞ」ということで、飲み会をすることになった。早速、8月の「熊本近代文学研究会」が終わったあと、「中村青史先生出版祝賀会(暑気払いの会)」を計画した。これまで以上の参加者があり、面目を施した。

 私は文化総合誌「KUMAMOTO」の「はじめての文学」シリーズの執筆を依頼されたとき、中村青史先生に1号から23号までの原稿に目を通して頂き、その都度、適切な添削をして頂いた。
 その一例を示すと、「『はじめての三島由紀夫③』三島由紀夫のペンネームの誕生」(「KUMAMOTO」No.18.2017.3.15)の場合はいつものように画廊喫茶「南風堂」においで頂き、添削をお願いした。
 三島由紀夫の本名は平岡公威。一六歳の時、「三島由紀夫」という筆名、つまりペンネームを使い始めたのである。
というところを
 三島由紀夫の本名は平岡公威。一六歳の時から「三島由紀夫」という筆名、つまりペンネームを使っていたことになる。
と修正して頂き、文意がはっきりとして、しっかりとしたものになり、さすがと思い、賛嘆したものであった。

 中村青史先生の語録のうちで特に印象に残っているのは、
 明治維新の志士はいかに生き残るかが大事であって、生き残った者が維新後の時代を作ったのだ。永田くんも、とにかく長生きしろ!
という言葉で、中村先生自身がこの言葉通りの生き方をされている。
 いつまでもお元気で郷土の文学顕彰にご尽力されるとばかり思っていた。熊本文学の語り部を失い、熊本の文学顕彰においては大きな損失であるが、中村先生のご遺志を引き継いで、熊本文学の顕彰に努めていくことが中村先生の御恩に報いることである。
 その具体策として、私自身で言えば、俳句創作において、夏目漱石の言葉とされる「俳句はレトリックの煎じ詰めたもの」に倣い、連想はもとより、オノマトペ・擬人法・同化などを駆使して、多様な表現を試みている。そうすることによって、漱石俳句を継承し、並びに正岡子規の新派俳句を熊本にもたらした漱石の顕彰に努めたいと思っている。

 8月22日の午後6時からの中村青史先生の通夜に参列した。私は中村先生の直接の教え子ではないにも拘らず、愛弟子のように可愛がって頂いたので、奥様に
  中村先生には大変可愛がっていただきました。
と申し上げると、
  主人はいつも永田さんのことは気にかけていました。つい最近、永田くんは俳句で頑張っているぞとうれしそうに言っていましたよ。
とすぐお応え頂いた。その言葉をお聞きして、胸が熱くなった。
 そのあと、おだやかで、安らかなお顔をされていた中村青史先生に
  可愛がって頂きありがとうございます
とお声掛けしたところで込み上げてくる涙を抑えることが出来なかった。

 中村青史先生、安らかにお眠りにください。

(ながた みつのり/俳誌「火神」主宰 熊本近代文学研究会会員)

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漱石俳句のレトリックとは何か (令和5年度 漱石忌法要句会 )

2023年12月11日 17時39分33秒 | 漱石忌法要句会

令和5年度 漱石忌法要句会 (レジュメ・講師控用)             令和5年12月9日

漱石俳句のレトリックとは何か             

         「火神」主宰 俳句大学学長 永田満徳

 

 はじめに 熊本時代の夏目漱石は俳人だった。

①正岡子規の新派俳句を熊本にもたらす

・運座「紫溟吟社」を開く(内坪井宅・明治31年10月2日)

・「紫溟吟社詠」(九州日日新聞M33,1)

・漱石離熊の明治34年、機関誌『銀杏』発刊

・紫溟吟社の精神は『白扇会報』に引き継がれる。(拙論「井上微笑」)

②漱石俳句全体の4割(1000句あまり)

・1月〔子規へ送りたる句稿 32 75句〕(明治32年1月)

75句の最後に「冀くは大兄病中煙霞の癖万分の一を慰するに足らんか」と書いている。

熊本近代文学研究会会員の俳人永田満徳さん(61)は「漱石は病床の子規の苦痛を添削によって軽減しようと考えた」とし、「この月75句、翌月の105句を送っている。その積み重ねが熊本時代の千句近くの句数。2人の友情の証しだ」と語る。[愛媛新聞(2016年9月17日(土)文化欄より〕

 

1.【漱石の俳句観】寺田寅彦「夏目漱石先生の追憶」(昭和7年12月)

○ 俳句はレトリックの煎じ詰めたものである。

○ 扇のかなめのような集注点を指摘し描写して、それから放散する連想の世界を暗示するものである。

※レトリックの語は、修辞学あるいは修辞法、修辞技法などと訳される。〈文彩〉、また単に〈彩〉

〔修辞的表現者〕  (『わざとらしさのレトリック 言述のすがた』講談社学術文庫)

・修辞学者の佐藤信夫は漱石の文学作品においてではあるが,「並はずれた修辞的表現者だった」「徹頭徹尾修辞的に書く、という散文は、漱石以後、《継承》されることがなかった」と言い切っている。

〔漱石の写生観〕  「自然を写す文章」(『漱石全集』第25巻)

自然を写す即ち叙事といふものは、なにもそんなに精細に微細に写す必要はあるまいとおもふ。

○自然にしろ、事物にしろ、これを描写するに、その連想にまかせ得るだけの中心点を捉へ得ればそれで足りるのであつて、細精でも面白くなければ何にもならんとおもふ。

〔漱石俳句の「活動」〕

○ 正岡子規の夏目漱石に下した二字評の「活動」

「明治二十九年の俳句界」において、正岡子規は漱石のことを下記の通りに述べている。

意匠極めて斬新ななる者、奇想天外より来たりし者多し。」

・首藤基澄氏の「子規と漱石―写生と連想―」(『近代文学と熊本』和泉書院)

漱石は(中略)具象から抽象まで、連想法によって自在な世界構築が試みられようとしていたとみていい。その時、対象や方法を限定することなくいかようにも「活動」できる幅があった。

〔子規の添削・評〕

〔明治30年2月の〔子規へ送りたる句稿二十三〕(『漱石全集』第17巻・岩波書店)〕

1066 ○○ 人に死し鶴に生れて冴返る      空想

1067    隻手此比良目生捕る汐干よな     見立て

1068     恐らくば東風に風ひくべき薄着

1069 ○○   寒山か拾得か蜂に螫(されしは     連想

1070 ○○ ふるひ寄せて白魚崩れん許りなり   比喩

1071  ○○ 落ちさまに虻を伏せたる椿哉       擬人化

1072    貪りて鶯続け様に鳴く         擬人化

1073  ○ のら猫の山寺に来て恋をしつ       擬人化

1074 ○○ ぶつぶつと大な田螺の不平哉       オノマトペ・擬人化

※子規の添削・評は句頭の○である。

子規が評価しているのは「俳句のレトリック」を用いた「空想」「連想」「比喩」「擬人化」「オノマトペ」である。

・子規は子規で、夏目漱石の俳句の特色、あるいは魅力が「俳句のレトリック」の応用にあることを的確に掴んでいるのである。

・ここに漱石の俳句を「活動」と評した所以があると言わなければならない。

 

2.【漱石俳句のレトリック】 参照:「漱石俳句研究」(1925年7月、岩波書店)

「写生」「季語」「取り合せ」「省略」のほか、あらゆる俳句のレトリックが使われている。

参照:永田満徳『草枕』論 「『仕方がない』日本人をめぐって : 近代日本の文学と思想」所収(2010.9・南方新社)

https://blog.goo.ne.jp/mitunori_n/e/f50d567adb46e7e252fe164a949f6f84

比喩=あるものを別のものに喩える

日当りや熟柿の如き心地あり  漱石

熟柿になつた事でもあるような心持のある所が面白い(小宮蓬里雨)

人化=人間でないものを人間に擬える

叩かれて昼の蚊を吐く木魚かな  漱石

此処では木魚を或意味で人格化している(蓬里雨)

連想=季語の内包する美的イメージを表す

寒山か拾得か蜂に螫されしは   漱石

絵の表情から蜂に螫されたといふ架空の事実を連想した。(寺田寅日子)

空想=現実にありそうにもないことを想像する

無人島の天子とならば涼しかろ  漱石

思ひ切つた空想を描いた句。(寅日子)

デフォルメ=対象を強調する

夕立や犇く市の十萬家  漱石

十萬家といふ言ひ現はし方かの白髪三千丈の様ないささか誇大な形容(松根東洋城)

オノマトペ=音や声、動作などを音声化して示す 擬音語、擬声語、擬態語の3種類

ぶつぶつと大いなる田螺の不平かな  漱石   大いなる⇒大な〔子規へ送りたる句稿二十三〕

先生の所謂修辞法の高頂点を示す(寅日子)

化=主体と対象の一体化

菫程な小さき人に生れたし  漱石

作者が菫と合体し同化する(東洋城)

※漱石俳句に対して、門下生と呼ばれる寺田寅彦・松根豊次郎・小宮豊隆が標語している。

 

3.【レトリックを使った俳句】

〔代表例〕オノマトペ俳句  ( http://taka.no.coocan.jp/a5/cgi-bin/dfrontpage/ONOMATOPE.htm )参照

【比喩】・直喩(比喩)咳込めば我火の玉のごとくなり 川端茅舎  秋の蝉水切るやうに鳴き止みぬ 永田満徳

    ・隠喩(比喩)空蝉の一太刀浴びし背中かな 野見山朱鳥  金剛の露ひとつぶや石の上 川端茅舎

【擬人法】一生の重き罪負ふ蝸牛  富安風生                こそばゆき地球ならんか潮干狩  永田満徳

【擬 音】鳥わたるこきこきこきと灌切れば  秋元不死男           寒雷やびりりびりりと真夜の玻璃  加藤楸邨

     ライターの火のポポポポと滝涸る  秋元不死男         水枕ガバリと寒い海がある  西東三鬼

【擬  声】雪だるま星のおしゃべりぺちゃくちゃと  松本たかし  都府楼趾より遠足子がやがやと  野見山朱鳥

【擬 態】ひらひらと月光降りぬ貝割菜  川端茅舎            ふはふはのふくろうの子のふかれけり 小澤 實

〔俳句の効用〕永田満徳第二句集『肥後の城』より

①『肥後の城』におけるオノマトペ

・金田佳子:「自在なオノマトペ」(「火神」75号)

 ・一章 [城下町] なし

 ・二章 [肥後の城] ぽたり、だりだり、ごろんごろん、とろり

 ・三章 [花の城] どさり、ぬるんぬるん、ひたひた、ぼこぼこ、しゃりしゃり、ぱっくり、ぱんぱん       

 ・四章 [大阿蘇] とんとん、ぐらぐらぐんぐん、もぞもぞ、ゆったり、じっくり、ぽたんぽたん 

 独特なのは、「だりだり」くらいで、他は普通のオノマトペなのに句の中にあると印象鮮明、途端に句が生き生きとする。動詞や形容詞、形容動詞で説明されるよりずっと体感する。(佳子)

・今村潤子:特集永田満徳句集『肥後の城』(「火神」75号)

   春昼やぬるんぬるんと鯉の群  満徳

   しやりしやりと音まで食らふ西瓜かな  満徳

   湯たんぼやぼたんぼたんと音ひびく  満徳

 以上の句は修辞の上で擬声語、擬態語が大変旨く表現されている。このようなオノマトペを使った句は他にもあるが、そこに作者の詩人としての感性が匂ってくる。

②レトリックこそ、俳句の本命

【オノマトペ】ぐらぐらとぐんぐんとゆく亀の子よ  満徳     ぐらぐら=揺れる様子 ぐんぐん=勢いよく進む様子

【象徴】かたつむりなにがなんでもゆくつもり  満徳   かたつむり=「不屈」       

    こんなにもおにぎり丸し春の地震  満徳   おにぎり=「真心」

 

終わりに  技巧派漱石俳句の継承とその発展

・正岡子規没後、客観写生派の高浜虚子の「ホトトギス派」と革新派の河東碧梧桐を中心とする「新傾向俳句」に分かれ、大正、昭和初期には「ホトトギス派」が俳壇の主流となり、今日に至っている。

しかし、その一方で、熊本にて運座(句会)を開き、正岡子規の新派俳句を熊本にもたらした漱石俳句の継承者は全国的にみてもいない

・そこで、「私は漱石の後継者を自認し、漱石の言葉である「俳句はレトリック」に倣い、連想はもとより、擬人化・比喩・オノマトペなどを駆使して、バラエティーに富んだ、多様な俳句を作ることを心掛けました。」

:永田満徳「文學の森大賞」の受賞の言葉(「文學の森 各賞贈賞式(2023年5月16日)」「秋麗」7月号掲載

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第13回百年俳句賞授賞式!

2023年12月04日 23時02分31秒 | 百年計画

第13回百年俳句賞授賞式!

〜 最終選考員として選考評 〜

決定:最優秀賞 「磁石」 有瀬こうこ 氏

日時:2023年12月 3 日(日) 15:00〜16:30

場所:オンラインにて表彰式を行う。

内容:表彰式の場にて最優秀作品が発表される。

主催 有限会社マルコボ.コム

共催 朝日新聞社

協賛 石川商店

※ 優秀賞作品の中から最優秀賞を決定すべく、審査に臨みました。

※本授賞式においては、最終選考員の代表として、選考評を述べました。


第13回百年俳句賞選考評 永田満徳 「火神」主宰 「俳句大学」代表

作品「磁石」     有瀬こうこ

「磁石」は全体的に共感できる句が多かった。

  糸屑と言ヘぬ長さや春の風邪

この句に惹かれるのは下五「春の風邪」の季語との取合わせのうまさである。「糸屑」という、どうでもいい素材で、しかも「と言ヘぬ長さ」という措辞によって、糸屑は中途半端な長さであることを述べている。
このような上五・中七の内容と、ひどくなることはそう多くないが案外治りにくく長引くことがある「春の風邪」とをうまく突き合わせている。

  春の雷南京錠の匂ひかな

  うららけし小籠包をつまむ指

  炒飯に小さき国旗電波の日

  冴返る磁石で閉ぢるお針箱

「春の雷」と「南京錠の匂ひ」とは金属的な雰囲気が呼応し合っている。「うららけし」の句にしても、「炒飯に」にしても、「冴返る」の句にしても、大胆な取合わせであるが、微妙に響き合っている。

一物仕立ての句は難しいが、この作者のかかると、納得させられる。例えば、

  薬局の白梅を嗅ぎすぐ帰る

  大蟻に噛まれたことを言ひまはる

下五の「すぐ帰る」の措辞の置き方があざやかであり、また、「言ひまはる」という下五の措辞は俳諧味がある。

 見立ての句はさらに大胆でおもしろい。

  噴水の枝分かれして私語かしら

  とんぼうのブラック企業めく正面

こんな「噴水」を、あるいは、こんな「とんぼう」を詠んだ者がいるだろうか。

季語の斡旋の巧みさ、下五への転調の見事さ、発想の豊かさはこの作者の天稟の才能を物語るものであり、今後の活躍が期待できる。

※   第13回百年俳句賞 全応募作品

https://www.marukobo.com/50ku/oubo.html

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〜Facebook「Haiku Column」〜 ☆【俳句界】2023年12月号☆

2023年12月01日 21時37分12秒 | 「俳句界」今月の秀句
俳句大学国際俳句学部よりお知らせ!
 
〜Facebook「Haiku Column」〜
☆【俳句界】2023年12月号☆
 
◆俳句総合誌『俳句界』2023年12月号が発行されました。
◆俳句大学 〔Haiku Column〕のHAIKUから選句・選評した句を掲載しています。また、「俳句界」2019年1月号から毎月連載しています。
※ 2021年の『俳句界』10月号から、優秀な作品が揃って来ましたので、1ページ増えて、3ページに渡って掲載しました。
◆R 2・12月号から作者の国名を入れています。
◆どうぞご理解ご支援をお願いします。
 
The December issue of 「HAIKUKAI俳句界」!
〜Haiku Colum of Haiku University [Monthly best Haikus]〜
◆the December issue of HAIKUKAI俳句界 has just been published.
◆It contains the best haikus of the month selected by M. Nagata.
◆according to the plan, we will continue to publish 2 lines haikus with kire and toriawase.
 
décembre aout de 「HAIKUKAI俳句界」!
〜Haikus du mois de Haiku Colum de Haiku Universite〜
◆ décembre aout de HAIKUKAI俳句界 vient d'etre publie.
◆il contient les meilleurs haikus du mois selectionnes par M. Nagata.
◆Selon ce plan nous allons continuer a publier des haikus en deux lignes avec kire et toriawase.
 
Haiku Column(俳句大学)(「俳句界」R5年12月号)
永田満徳選評・向瀬美音選訳(仏・伊)・中野千秋訳(英)
 
【今月の秀句(monthly excellent Haikus)】  
(Facebook「Haiku Column」より)
 
Ana Irina(Romania)
one more distant planet...
dew drops
〔Commented by Mitsunori Nagata〕
Dewdrops" is a term that refers to the dewdrops that form on the surface of objects as water vapor cools. Dewdrops on leaves and plants are as beautiful as jewels, and one can truly feel the life of nature. The "planet" that is used as a dewdrop is undoubtedly the water planet Earth, as seen by astronauts from the moon. The earth, floating beautifully in blue in space, is a ball of dew itself.
アナ イリナ(ルーマニア)
もう一つ惑星があり露の玉 
〔永田満徳評〕
「露の玉」は水蒸気が冷えて、物の面に水滴となっている露を玉に見たてていう語。草木の葉などに結んだ露の玉は宝石のように美しく、まさに自然の生気を感じる。露の玉に見立てた「惑星」は紛れもなく、宇宙飛行士が月から見た水の惑星、地球だろう。宇宙に青く、美しく浮かぶ地球は露の玉そのものである。
Elena Zouain(Romania)
le retour à soi-
j'ouvre l'intimité d'une coque de noix
〔Commentaire de Mitsunori Nagata〕
Les noix à coquille dure sont difficiles à ouvrir, à tel point qu'il existe des outils spéciaux pour casser les noix. Cependant, le temps passé à casser les noix peut être très enrichissant. En cassant les noix en silence, on se pose des questions. Il s'agit d'une scène de casse-noix bien découpée, où l'on peut se retrouver "face à soi-même" sans le savoir.
エレネ ズアイン(ルーマニア)
胡桃割り自分自身と向き合ひぬ 
〔永田満徳評〕
硬い殻を持つ胡桃は割るのが大変で、胡桃割り専用の器具があるほどである。しかし、あえて手間をかけて胡桃を割る時間がとても豊かだったりする。黙々と割るうちに、いつしか自問自答している自分に気付く。知らず知らずに「自分自身と向き合」うことができる「胡桃割り」の一場面をうまく切り取っている。
Kim Olmtak Gomes(Holland)
ll the flavours of Matsuri
food stalls
〔Commented by Mitsunori Nagata〕
The Netherlands is home to a vibrant yatai culture. From bustling cities to quaint countryside, numerous food stall festivals are held each year, featuring a variety of food trucks and stalls offering all manner of delicacies. This is one national phrase that describes a "festival" where the food stall culture unfolds with a rich variety of food tastes.
キム オルムタック ゴメス(オランダ)
屋台よりなべて味はふ祭かな
〔永田満徳評〕
オランダは活気に満ちた屋台文化の本拠地である。賑やかな都市から趣のある田園地帯まで、毎年数多くの屋台が出るお祭りが開催され、あらゆるものを提供するさまざまなフードトラックや屋台が登場する。食べ物を豊かに味わうことのできる屋台文化が繰り広げられる「祭」を詠んだもので、一つのお国自慢の句である。
 
今月の季語(Kigo of this month) 
(Facebook「Haiku Column」より)
 
【 秋 あき aki / autumn / automne 】
Neni Rusliana(Indonesia)
autumn morning
birds chirping from her cell phone ringtone
ネニ ルスリアニ(インドネシア)
秋の朝着信音に鳥の声 
Siu Hong-Irene Tan(Indonesia)
clear autumn lake
a lonely shadow
シウ ホング‐イレーヌ タン (インドネシア)
秋の湖寂しき影を一つ置き 
 
【 秋分 しゅうぶん shubun / autumnal equinox / autumn solstice 】
Gabriella De Masi(Italy)
equinozio d'autunno-
nel cappuccino il latte pari al caffè
ガブリエラ デ マシ (イタリア)
秋分やカプチーノに半分ミルク
Zamzami Ismail(Indonesia)
autumnal equinox
tap the gavel of the judge who handed down the verdict
ザンザミ イスマイル(インドネシア) 
秋分や審判下す小槌の音 
 
【 無月 むげつ mugetsu / night without the moon / nuit sans lune 】
Nani Mariani(Australia)
rainy moon
her breathing could be heard clearly(Tunisia)
ナニ マリアニ(オーストラリア)
息遣い聞こえてきたる無月かな 
Amel Ladhibi Bent Chadly
nuit sans lune
les questions sans réponses
アメル ラドヒビ ベント チャディ(チュニジア)
無月の夜答えなき質問よ 
 
【 流れ星 ながれぼし nagareboshi / shooting star / étoile filante 】
Angela Giordano(Italy) 
shooting star
a wish on his grandfather's lips
stella cadente
sulle labbra del nonno un desiderio
アンジェラ ジオルダーノ(イタリア)
流れ星老夫の唇に願ひごと 
Ariani Yuhana(Indonesia)
shooting star
the singer's appreciated abroad
アリアニ ユハナ(インドネシア)
海外で人気ある歌手流れ星 
 
【 秋の虹 あきのにじ  akinoniji / autumn rainbow / arc-en-ciel d’automne 】
Nuky Kristijno(Indonesia)
autumn rainbow
hand in hand we run towards the meadow
ナッキー クリスティジーノ(インドネシア)
秋の虹手に手を取りて草原へ 
Elena Zouain(Indonesia)
arc-en-ciel d'automne -
la lumière dans tes yeux sans frontières 
エレネ ズアイン(ルーマニア)
秋の虹君の目には国境なき光 
 
【 啄木鳥 きつつき kitsutsuki / woodpecker / pivert 】
Rufliyandhi Rambe(Indonesia)
woodpecker
an ax stuck in the trunk of a cinnamon tree
ルフリヤンディ ランベ(インドネシア)
啄木鳥やシナモンの木にささる斧 
Dyah Nkusuma(Indonesia)
wood pecker~
tireless tapping sound
ディア ヌクスマ(インドネシア)
啄木鳥や疲れ知らずの音続く 
 
【 紅葉 もみじ momiji / red maple tree / érable rougi de l’automne 】
Florence Mühlebach(France)
toujours ces feuilles d'automne ~
le vent guide mes pas
still these autumn leaves ~
the wind guides my footsteps
フロランス ミュールバッハ(フランス)
紅葉や風の導くわが歩み 
タンポポ  亜仁寿(Indonesia)
a maple leaf floating in my tea cup
missing my mother
タンポポ  亜仁寿(インドネシア)
母恋し紅葉の浮かぶティーカップ 
 
【 菊 きく kiku / chrysanthemum / chrysanthème 】
Irma Reeves(Indonesia)
chrysanthemums ~
mother's embroidery on her lap
イルマ リーブ(インドネシア)
膝の上に母の刺繍や菊の花 
Ana Irina(Romania)
chrysanthemum -
just a shadow of who I was
アナ イリナ(ルーマニア)
影でしかなかったわたし菊の花
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Facebook「華文俳句社」 〜【俳句界】2023.年12月号〜

2023年12月01日 21時21分20秒 | 「俳句界」華文俳句
俳句大学国際俳句学部!
 
Facebook「華文俳句社」
〜【俳句界】2023.年12月号〜
 
◆2023年『俳句界』12月号が発行されました。
◆「俳句四季」11月号(2023年)に於いて、菫振華氏はいみじくも「漢俳」について「日本の俳句とは別物だ」と述べています。
「漢俳」とは五·七·五の形と漢字で綴られた三行詩。
     趙朴
緑蔭今雨来     緑陰に今雨来たり
山花枝接海花開   山花、枝接ぎて海花が開く
和風起漢俳     和風 漢俳を起こさん
◆そこで、華文圏に俳句の本質かつ型である「切れ」と「取り合わせ」を取り入れた二行俳句を提唱して行きます。
◆2020年1月からは月刊『俳句界』に「華文俳句」の秀句を連載しています。
◆どうぞご理解とご支援をお願いします。
 
俳句大學國際俳句學部的通知!
~Facebook 「華文俳句社」Kabun Haiku 2023・12〜
◆2023年『俳句界』12月號已出版。
◆於華文圏提倡包含俳句的基礎「一個切」和「兩項對照組合」的二行俳句。
◆請各位多多支持指教。
 
華文俳句【俳句界】2023,12月号
永田満徳選評・洪郁芬選訳
 
華文俳句(俳句界12月号)
 
衝出樊籠的飛鳥
雙十節
雨靈
〔永田満徳評論〕
中華民國的建國紀念日(國慶日)設定在1911年武昌起義的日子,即每年的10月10日,也被稱為「雙十節」。國慶節慶祝儀式在台北總統府前的廣場舉行,包括升國旗儀式和國慶節慶祝大會等活動。透過描繪自樊籠升起的「翔翼之鳥」,象徵著所有事物都在慶祝國慶節儀典。
 
ケージより翔び立つ鳥や国慶日
雨靈
〔永田満徳評〕
中華民国の建国記念日(国慶日)は1911年の武昌蜂起の日、10月10日に設定されていて、「雙十節」とも呼ばれている。国慶節祝賀式典が台北の総統府前の広場で行われ、国旗掲揚式や国慶節祝賀大会などがある。「鳥籠(樊籠)」から一斉に「翔び立つ鳥」を描くことによって、あらゆるものが国慶節祝賀節式典を祝っていることを示している。
 
 
瑪尼堆上添加石子
上弦月
黃士洲
〔永田満徳評論〕
「瑪尼堆」是一種由白色石頭堆積而成的結構,通常呈方形或圓形。它們被放置在山頂、交叉路口、湖畔、寺廟、墓地等地,被視為西藏族人的守護神。「上弦月」被認為有助於精神的淨化。透過結合供奉的「瑪尼堆」和具有靈性效應的「上弦月」,它們共同營造出一種宗教氛圍。
 
マニ堆に加ふる石や上弦月
黃士洲
〔永田満徳評〕
「マニ堆(瑪尼堆)」は白い石などを四角く、または円形に積み重ねた祭壇である。山頂、交差点、湖畔、または寺、墓地などに置かれ、チベット族の人の保護神となっている。「上弦月」は精神の浄化を促すとされる。祈りの対象である「マニ堆」」とスピリチュアル効果のある「上弦月」とを取合せることによって、宗教的雰囲気を醸し出している。
 
 
影子從後迫近
秋聲
鄧紹佳
〔永田満徳評論〕
「秋聲」意指物體相互接觸的聲音,如風雨聲,樹葉聲,昆蟲鳴叫聲等。這些聲音深刻地傳達出秋天的氛圍。當一個人獨自在夜晚的道路上行走時,從身後悄悄接近的「影子」是在微弱的月光下顯現的身影,決不是黑暗的陰影。這個微妙的人影中,可以感受到秋天的氛圍,也感受到秋天的聲音,這顯示出一種敏銳的感性。
 
後ろより近づく影や秋の声
鄧紹佳
〔永田満徳評〕
「秋の声」とは物の触れ合う音、風雨の音、木の葉の音、虫の鳴く音など、しみじみと秋の気配を感じさせる響きを声にたとえたもの。夜道を一人で歩いているときにひたひたと後ろから近づいてくる「影」はほのかな月明かりに映る影で、決して暗い影でない。密やかな人影に、秋の気配とも、秋の声とも感じる繊細な感性を窺うことができる。
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