【永田満徳(みつのり)】 日本俳句協会副会長 俳人協会幹事 俳人協会熊本県支部長 「文学の森」ZOOM俳句教室講師

「俳句大学」学長 「火神」主宰 「秋麗」同人 未来図賞/文學の森大賞受賞

〜Facebook「Haiku Column」〜 ☆【俳句界】2022年9月号☆

2022年08月25日 00時54分08秒 | 月刊誌「俳句界」
俳句大学国際俳句学部よりお知らせ【国際俳句の取り組み】!
 
〜Facebook「Haiku Column〜
☆【俳句界】2022年9月号☆
 
◆俳句総合誌『俳句界』2022年9月号が発行されました。
◆俳句大学 〔Haiku Column〕のHAIKUから選句・選評した句を掲載しています。また、「俳句界」2019年1月号から毎月連載しています。
※ 2021年の『俳句界』10月号から、優秀な作品が揃って来ましたので、1ページ増えて、3ページに渡って掲載しました。
◆R 2・12月号から作者の国名を入れています。人種、国籍を問わず投句を受け入れていることから、その「人道主義的」スタンスが広く支持されています。
◆ 向瀬美音氏は日本語訳の改善に着手している。五七五の17音の和訳は、HAIKUをただ端に日本の俳句の五七五の17音にしただけではなく、原句のHAIKUの真価を再現するものであり、国際俳句の定型化に一歩近づくための有効な手立てであることを強調しておきたい。
◆例えば、ある日本の国際俳句大会で「飢えた難民の/前に口元に差し出す/マイクロフォン一本」のような三行書きにしただけで散文的な国際俳句が大会大賞、或いはある国際俳句協会のコンクールで「古い振り子時計―/蜘蛛の巣だらけになっている/祖父のおとぎ話」のような切れがあっても三段切れで冗漫な国際俳句が特選を受賞しているように、三行書きの国際俳句が標準になっていることに危惧を覚えて、俳句の本質かつ型である「切れ」と「取り合わせ」を取り入れた二行俳句を提唱して行きます。
◆2017年7月にフランス語圏、イタリア語圏、英語圏の55人が参加する機関紙「HAIKU」を発行しました。12月20日発行の2号では91人が参加しました。また、5月31日発行の3号では96人が参加し、320ページを数えます。さらに、12月26日発行の4号では112人が参加し、500ページを数えます。そして5号では150人が参加して、550ページを越えて、8月1日に出版しました。そして、6号を2020年12月に出版しました。また、2020年3月1日には「国際歳時記」の第1段として【春】、2022年6月には【冬・新年】を出版しました。「HAIKU」6号と「歳時記」春・冬・新年は原句の内容を損なうことなく五七五に訳出しています。
◆総合俳句雑誌「俳句界」2118年12月号(文學の森)の特集に「〔Haiku Column〕の取り組み」について」が3頁に渡って書いています。
◆「華文俳句」に於いては、華文二行俳句コンテストを行い、華文圏に広がりを見せて、遂に、2018年11月1日にニ行俳句の合同句集『華文俳句選』が発行されました。
◆ 二行俳句の個人句集では、洪郁芬氏が『渺光乃律』(2019、10)を〔華文俳句叢書1〕として、郭至卿氏が『凝光初現』(2019、10)を〔華文俳句叢書2〕として、次々に刊行している。さらに、全季節を網羅した「華文俳句歳事記」が2020年11月には刊行されて、これで季重なりの問題が解消されるでしょう。
◆さらに、2020年1月からは月刊『俳句界』に「華文俳句」の秀句を連載している。
◆『俳句界』2020年3月号の特別レポートにおいて、熊本大学で行われたラウンドテーブル「華文俳句の可能性」の報告が8頁に渡って掲載されました。
◆どうぞご理解ご支援をお願いします。
 
The September issue of 「HAIKUKAI俳句界」!
〜Haiku Colum of Haiku University [Monthly best Haikus]〜
◆the September issue of HAIKUKAI俳句界 has just been published.
◆It contains the best haikus of the month selected by M. Nagata.
◆according to the plan, we will continue to publish 2 lines haikus with kire and toriawase.
Septembre aout de 「HAIKUKAI俳句界」!
〜Haikus du mois de Haiku Colum de Haiku Universite〜
◆L Septembre de aout de HAIKUKAI俳句界 vient d'etre publie.
◆il contient les meilleurs haikus du mois selectionnes par M. Nagata.
◆Selon ce plan nous allons continuer a publier des haikus en deux lignes avec kire et toriawase.
 
永田満徳選評・向瀬美音選訳(仏・伊)・中野千秋訳(英)
 
【今月の秀句(monthly excellent Haikus)】  
(Facebook「Haiku Column」より)
 
Barbara Olmtak(Holland)
walnuts
cracking a brainteaser
〔Commented by Mitsunori Nagata〕
The 'walnut' is covered in such a hard shell that a special device called a nutcracker is used. The difficulty with 'Gotoku haiku' is that the ideas and expressions can become commonplace and easily fall into the clichéd category, but if the metaphor is good, the haiku can be memorable and impactful. The metaphor of solving a difficult problem as opposed to cracking walnuts is interesting and shows the quality of 'kotoku haiku'.
バーバラ オルムタック(オランダ)
難問をかち割るごとき胡桃かな  
〔永田満徳評〕
胡桃割りという特別な器具を使うほど、「胡桃」は堅い殻に覆われている。「ごとく俳句」は発想、表現がありふれたものになり、月並に陥りやすいという難しさがあるが、喩えが良ければ印象深く、インパクトのある句になる。胡桃を割ることに対して、難問を解くという喩えはおもしろく、「ごとく俳句」のよさを示している。
Stefania Andreoni(Italy)
sinfonia concertante -
un tramonto dipinge il temporale
〔Commentaire de Mitsunori Nagata〕
"Sinfonia Concertante" è un brano finalizzato alla collaborazione tra due o più solisti e un'orchestra dinamica. Combinando la variegata musica di strumenti solisti e orchestrali con la scena dei temporali dove si vede il tramonto tra le nuvole, piuttosto che i temporali che coprono il cielo, è più vivido come se fosse una Sinfonia Concertante che raffigura il tramonto cielo.
ステファニア アンドレオ(イタリア)
協奏交響曲雷雨を染める夕日なり 
〔永田満徳評〕
「協奏交響曲」は2つ以上のソロ奏者とダイナミックなオーケストラとの協演を目的とした楽曲。独奏楽器とオーケストラとが織りなす、変化に富む音楽に、空を覆う雷雲というより、雲間に夕日が見える雷雨の情景を取り合わせることによって、あたかも協奏交響曲のようだと表現したところに、より鮮やかな夕焼け空を描き出している。
タンポポ 亜仁寿(Indonesia)
wind chimes sold out -
where did the wind go
〔Commented by Mitsunori Nagata〕
The 'wind chimes', which had been hung in great numbers and rattled in a frightening manner, have been sold out, and the wind that had been sent to the wind chimes has disappeared somewhere else. However, the wind is still blowing. The beauty of this haiku is that it expresses that as the wind chimes for sale disappear, the wind also disappears. There is a discovery here, an interest that transcends logic.
タンポポ 亜仁寿(インドネシア)
風鈴は売り切れ風も消え失せる  
〔永田満徳評〕
数多く吊り下げて、おびただしく鳴っていた「風鈴」が売り切れて、それまで風鈴に送っていた風もどこかへ消えて行ってしまったという。しかし、風は依然として吹いているのである。この句のよさは、売る風鈴がなくなるとともに、「風も消え失せる」と表現したところである。ここには発見があって、理屈を越えたおもしろさがある。
 
【今月の季語(Kigo of this month】     
(Facebook「Haiku Column」より)
 
【 猛暑 もうしょ mousho / scorching, heat wave / canicule 】
Olfa Kchouk Bouhadida(Tunisia)
canicule dominante ~
les klaxons de joie submergent les rues
オルファ クチュク ブハディダ(チュニジア)
猛暑なり道はクラクションに溢れたる 
Abdallah Hajji(Morocco)
canicule
mon ombre me précède à la rivière
アブダラ ハジイ(モロッコ)
猛暑なり影は私の前をゆき 
【 緑蔭 りょくいん ryokuin / the shade of a tree / ombrage des feuillages 】
Francesco Palladino(Italy)
tree shadows
my last home in the coolness
フランシスコ パラディノ(イタリア)
緑陰やわれの居場所はここにあり  
Gisèle Evrot(France)
couchés dans un coin d'ombre bleue ~
nos voix s'endorment
ジゼル エヴロット(フランス)
緑蔭やしばし二人は眠り込み 
【 麦藁帽子 むぎわらぼうし mugiwarabousi / straw hat / chapeau de paille 】
Françoise Deniaud-Lelièvre(France)
bourrasque soudaine
les chapeaux de paille se sentent pousser des ailes
フランソワーズ ドヴニオー ルリエーブル(フランス)
突風や麦藁帽に羽の生え   
Anne-Marie Joubert-Gaillard(France)
chapeaux de paille -
mère et fille comme des sœurs sous le soleil
アンヌーマリー ジュベール‐ガヤール(フランス)
麦藁帽姉妹のやうな親子かな 
【 アイスクリーム あいすくりーむ aisukuri-mu / ice cream / glace 】
Meije Li(France)
un enfant court vers le marchand de glaces ‐
un nuage le suit
メイジュ リー(フランス)
アイスクリーム売りに子は走る雲それを追ふ 
Mara Faccioni(Italy)
strawberry ice-cream -
my son's fresh kisses on my cheecks
マラ ファッチオーネ(イタリア)
アイスクリームわたしの頬に子のキッス  
【 香水 こうすい kousui / perfume / parfum 】
タンポポ 亜仁寿(Indonesia)
many perfume scent blowing in the wind-
beautiful lies
タンポポ 亜仁寿(インドネシア)
美しき嘘や香水をちこちに  
Kim Olmtak Gomes (Holland)
hot date
flames of perfume
キム オルムタック ゴメス(オランダ)
香水は炎のごとき逢瀬かな  
【 蟬 せみ semi / cicada / cigale 】
Nuky Kristijno(Indonesia)
cicada song
feeling of loneliness strikes me
ナッキー クリスティジーノ(インドネシア)
蟬の声込み上げてくる孤独感  
feten fourti(Tunisia)
lever du jour sans doute
les oiseaux prenant la relève des cigales
フテン フルチ(チュニジア)
あかときや蟬の鳴き声に鳥が継ぎ 
【 蝸牛 かたつむり katatsumuri / snail / escargot, limaçon 】
Rina Darsa(indonesia)
snail
life goes so slow
リナ ダルサ(インドネシア)
かたつむり人生かくもゆつくりと  
Nani Mariani(Australia)
snail
wherever I go I'm always alone
ナニ マリアニ(オーストラりア)
かたつむり何処へ行くにも一人ぼつち 
【 百合 ゆり yuri / lily / lys 】
Christina Chin(Malaysia)
silence except for the wind
lily fields
クリスティーナ チン(マレーシア)
風の音だけが過ぎ去る百合の園  
Angela Giordano(Italy)
candidi gigli
l'innocenza dei bambini
アンジェラ ジオルダーノ(イタリア)
白百合や子らはなべて無邪気なる
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Facebook「華文俳句社」 〜【俳句界】2022.9月号〜

2022年08月25日 00時50分28秒 | 月刊誌「俳句界」
俳句大学国際俳句学部!
 
☆Facebook「華文俳句社」☆
〜【俳句界】2022.9月号〜
 
◆2022年『俳句界』9月号が発行されました。
◆華文圏に俳句の本質かつ型である「切れ」と「取り合わせ」を取り入れた二行俳句を提唱して行きます。
◆2020年1月からは月刊『俳句界』に「華文俳句」の秀句を連載しています。
◆どうぞご理解とご支援をお願いします。
 
俳句大學國際俳句學部的通知!
~Facebook 「華文俳句社」Kabun Haiku 2022・9〜
◆2022年『俳句界』9月號已出版。
◆於華文圏提倡包含俳句的基礎「一個切」和「兩項對照組合」的二行俳句。
◆請各位多多支持指教。
 
華文俳句【俳句界】2022,9月号
永田満徳選評・洪郁芬選訳
民宿的八腳紅眠床
蚊帳
慢鵝
〔永田満徳評論〕
「紅眠床」象徵使用者的社會地位,漢式的紅眠床以中國傳統圖案裝飾。台灣現在幾乎都是洋式的床具,但是在清治時期和日治前期,紅眠床還被製作並且被使用。台灣的蚊子多且大,蚊帳可以說是日常的必需品。這首俳句以蚊帳和高級紅眠床的兩項對照組合,氣韻生動的描繪台灣的在地生活。
蚊帳を吊る民宿の部屋紅眠床
慢鵝
〔永田満徳評〕
「紅眠床」は使用者の社会的地位を示し、漢式期の紅眠床には中国の伝統的紋様が施されている。現在は洋式ベッドが主要な寝台家具になっているが、清中期から日領前期は紅眠床の制作がなされていた。大きく、多い台湾の蚊の対策として必需品とも言える「蚊帳」と高級な「紅眠床」とを取り合わせることによって、台湾の生活の特色を浮き彫りにしている。
迎城隍人看人
亂彈
胡同
〔永田満徳評論〕
「迎城隍」是迎接守護城市的城隍神的儀式。「人看人」、「亂彈」是指參觀的人觀看參加的人,然後接下來人們演變成觀看京劇中的歌舞「亂彈」。台北有俗諺:「五月十三人看人」,就是描寫大稻埕「霞海城隍廟」的盛況。此俳句將台灣的重要祭典描繪得栩栩如生。
迎城隍人は人見て乱弾す
胡同
〔永田満徳評〕
「迎城隍」は都市を守る神である城隍神(じょうこうしん)を迎える儀式。「人は人見て乱弾す」とは見物人が参加している人の数を見て、のちに京劇に発展する「乱弾」という歌や踊りを始めるということである。台北では「5月13日は人を見る」ということわざがあるほどの大盛況ぶりを描写することによって、台湾の重要なイベントの特徴を表現している。
愛玉
鄒族爬樹高手
穆仙弦
〔永田満徳評論〕
「鄒族」是台灣原住民的一個族群。日語稱為愛玉子,是藤本植物,常纏繞於岩石或樹木上,果實可用來製作果凍狀的點心。鄒族的故鄉為神木所在地的檜木森林,遍地皆是原始的自然秘境。作者對焦在「爬樹高手」,並與台灣特有的「愛玉」冰點搭配,勾勒出原住民文化的特有生態景觀。
雛族の木登りの名手愛玉子
穆仙弦
〔永田満徳評〕
「鄒族(ツォウ)」は台湾の先住民族の一つ。日本語では愛玉子と呼ぶ、つる性植物の「愛玉」はその果実からゼリー状デザートが作られる。鄒族の里は神木と称されるヒノキの林があり、自然のままの景色が広がる秘境である。「木登りの名手」に焦点を当て、台湾の定番スイーツ「愛玉子」と取り合わせることで、先住民の文化や希少な生態を描き出している。
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自在なオノマトペ ~句集『肥後の城』を読む~

2022年08月12日 21時07分48秒 | 第二句集『肥後の城』

自在なオノマトペ ~句集『肥後の城』を読む~

 

                      金田佳子

 

 コロナがちょっと収まっていた去年の十一月、小さな旅に出た。帰り、八代駅から電車に乗るとどんどん暗くなり、大きな丸い月まで出てきた。思わずこの句が浮かんだ。

  通勤車月の出づれば旅となる

 永田満徳さんの第一句集『寒祭』のなかの句である。

 永田さんの句は、こんな風にふと頭に浮かんでくる。今度の第二句集『肥後の城』でも、避難所の炊出しのおにぎりを詠まれた

 こんなにもおにぎり丸し春の地震

 三角のおにぎりを見るとつい口ずさみ、地震の時のいろいろを思い出す。かたつむりを見れば、たとえその時じっとしていても

  かたつむりなにがなんでもゆくつもり

 という具合だ。ふと口ずさみ愛唱するというのは、間違いなく私にとって名句である。

 さて、そんなことを思いながら『肥後の城』を読み返した。すると今度はオノマトペが気になった。抜き出してみよう。

 城下町   なし

 肥後の城  ぽたり、だりだり、ごろんごろん、とろり

 花の城   どさり、ぬるんぬるん、ひたひた、ぼこぼこ、

       しゃりしゃり、ぱっくり、ぱんぱん       

 大阿蘇   とんとん、ぐらぐらぐんぐん、もぞもぞ、ゆったり、じっくり、ぽたんぽたん              

 独特なのは、「だりだり」くらいで、他は普通のオノマトペなのに句の中にあると印象鮮明、途端に句が生き生きとする。うまい。動詞や形容詞、形容動詞で説明されるよりずっと体感する。例えば、

  助手席の西瓜のごろんごろんかな

 これで車がカーブの多い道を走っていることがわかる。

  天草のとろりと暮れぬ濁り酒

 濃密な日暮れの時間ととろりと濁る酒。

  制服をどさりと脱ぐや卒業子

 どさり、という言葉に制服の重さだけを思う人はいないだろう。

  ぐらぐらとぐんぐんとゆく亀の子よ

 孵ったばかりの海亀の子だろう。はじめは覚束ない足取りだったのが海へ向かって砂浜を一心に進んで行く。ぐんぐんと進んで行く。上空では鳥が旋回しながら狙っている。早く早く!そんな気持ちになった。

 『肥後の城』は、私にとってオノマトペの可能性を感じた句集だった。

 ところで、永田さんは国際俳句にも力を入れていらっしゃるが、これは外国語に訳せるのだろうか?

 

 

 

                        

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〜季語で一句 33 〜 『くまがわ春秋』8月号

2022年08月01日 00時57分04秒 | 月刊誌「俳句界」
俳句大学投句欄よりお知らせ!
 
〜季語で一句 33 〜
 
◆『くまがわ春秋』8月号が発行されました。
◆Facebook「俳句大学投句欄」で、毎週の週末に募集しているページからの転載です。
◆お求めは下記までご連絡下さい。
・info@hitoyoshi.co.jp 
 ☎ 0966-23-3759
 
永田満徳:選評・野島正則:季語説明
季語で一句(R4.8月号)
 
水無月(みなづき)   「夏-時候」
大工原一彦
水無月や聴診器から水の音
【永田満徳評】
「水無月」をここでは水が無いから「水無月」だとする説を採ってみる。診察室の情景だろう。暑いさなかに「聴診器から水の音」が聞こえているという。「水無月」にふさわしい涼やかな診察風景を捉えている。
【季語の説明】
旧暦六月の異称。「無(な)」が「の」にあたり、「水の月」である説や田に水を引く時期で「水無月」という説など。本格的な暑さとなり、農家では稲の生育を待つばかりの農閑期となる。酷暑にあえぎながらも、夕立が起こり、涼しさに秋の気配を覚える時期でもある。青葉の茂る時期なので「青水無月」としても詠まれる。
 
蚊(か)         「夏-動物」
西村楊子
蚊の羽音止みて刺さるる覚悟かな
【永田満徳評】
「蚊の声」は蚊の羽音。蚊に刺されると、かゆいので、嫌われる虫のひとつ。「蚊の羽音」がしているうちはいいが、しばらくすると、止む。刺されるかもしれない瞬間を「覚悟」という言葉で言い留めている。
【季語の説明】
「蚊」はハエ目に属する昆虫。世界に存在し、うち日本は100種程度である。ヒトなどから血液を吸う吸血動物であり、種によっては各種の病気を媒介する衛生害虫。夜分出ることが多いが、藪蚊などは昼も出る。蚊帳を吊ったり、蚊遣火を焚いたりして、蚊が近づくことを防ぐ。一団になって飛んでいることを「蚊柱」という。
 
黴(かび)        「夏-動物」
大津留直
黴臭き聖書繙き懺悔する
【永田満徳評】
「黴」は「古くなる」などの意味があるが、有益な種類の黴もある。「聖書」であればこそ、古くなって、黴臭くなればなるほど価値が出てくる。「懺悔する」ことで、キリスト教を大切しようとしているところがいい。
【季語の説明】
「黴」は梅雨時の高温多湿化で生育するものが多いため、夏の季語となる。黴が発生しやすい4大条件は、温度、湿度、酸素、栄養で、ホコリや食べカス、皮脂や垢などの栄養分が揃えば、どんな場所でも繁殖する。梅雨の季節を象徴するが、味噌醤油を製造する麹黴やペニシリンを作る黴など、有益なものもある。
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