ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

スタンダーズ Vol.1 (Standards, Vol.1)

2007年12月25日 | 名盤


  「ファースト・アルバムはそのミュージシャンの本質を表している」という言葉を聞いたことがあります。このアルバムを聴くと、それはまさに真理だという気がしてなりません。
 今や、ジャズ・ピアニストの最高峰を極めた感のあるキース・ジャレット。
 彼のトリオは「スタンダーズ」と呼ばれ、数多くの作品を発表していますが、そのファースト・アルバムである『Vol.1』を聴くと、やはりこのトリオの本質が色濃く出ているように思うのです。
 
 
 スタンダード・ナンバーをキースならではの解釈で再構築するのがこのトリオのコンセプトのひとつですが、こうして聴いてみると、キースの音楽性の深さ、大きさには改めて圧倒されるばかりです。
 また、共演者のゲイリー・ピーコック(bass)、ジャック・ディジョネット(drums)とも当代きっての名手として鳴らしているだけに、キースのピアノと対等に渡り合っているのがよく分かりますね。
 


 

 それぞれが超一流である三人が、おそらくはとても楽しみながら、そして信じがたい集中力で演奏を繰り広げているのでしょう。彼らは一緒に音を出してみて、すぐに「何かが生み出せる」確信を得たに違いありません。集まるべくして集まったトリオ、と言えると思います。
 この三人の相性の良さは、例えば1+1+1が5にも6にもなるようなものだと言っていいでしょうね。


 それぞれに自由な音楽的背景や着想を持ちながら、それを放出する時にはひとつの方向に向いているところに、このトリオから得られる大きな感動があると思うんです。
 また言うまでもないことではありますが、三人ともがタイム感覚やグルーブ感を内包していることで、リズムの流れ、グルーブの波がより厚くより強力なものとなって聴いているぼくを包んでくれることも、このトリオの魅力のひとつだと思います。


     
 
 
 演奏中に「何かが降りてくる」ようなことを感じることがありますが、とくにぼくの好きな5曲目の『ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド』においては、まさにそういう深みへ下りて行くような雰囲気を感じます。ごくリラックスしていながら、一方では静かに、そして激しく燃え盛っているさまはスピリチュアルでさえあり、この曲をゴスペルのように荘厳で魅力的なヴァージョンに仕立て上げているのです。
 この曲におけるゴスペル・ロックのような演奏は、ぼくのフェイヴァリットでもあります。心が震えるんです。
 聴き始めた最初の頃は、あまりの素晴らしさに何度も何度も繰り返し、そのたんびに全身を耳にして聴いていました。


 ついつい堅苦しい文章になってしまいがちですが、平たく言うとぼくは、「これは文句のない名盤である」と言いたいだけなのです。
 


◆スタンダーズVOL.1/Standards VOL.1
  ■演奏
   キース・ジャレット・トリオ
    キース・ジャレット/Keith Jarrett (piano)
    ゲイリー・ピーコック/Gary Peacock (bass)
    ジャック・ディジョネット/Jack Dejohnett (drums)
  ■リリース
    1983年
  ■録音
    1983年1月11~12日 ニューヨーク市、パワー・ステーション
  ■プロデュース
    マンフレート・アイヒャー/Manfred Eicher
  ■レーベル
    ECM
  ■収録曲
   A① ミーニング・オブ・ザ・ブルース/Meaning of the Blues (Bobby Troup, Leah Worth)
    ② オール・ザ・シングス・ユー・アー/All the Things You Are (Oscar Hammerstein Ⅱ, Jerome Kern)
    ③ イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド/It Never Entered My Mind (Lorenz Hart, Richard Rodgers)
   B④ ザ・マスカレード・イズ・オーヴァー/The Masquerade Is Over (Herb Magidson, Allie Wrubel)
    ⑤ ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド/God Bless the Child (Arthur Herzog Jr., Billie Holiday)




コメント (14)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ニューヨークの想い (New Y... | トップ | 年頭の挨拶です~ »
最新の画像もっと見る

14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
その通り!! (土佐のオヤジ)
2007-12-25 12:44:04
これは、文句のない名盤である!
僕もそう言いたいですね!
とにかくこの演奏は、ものすごい集中力が生み出す異世界だと思います。
シンプルだけど、果てしない広がりの空間。
超一流とはこういうものだと感じます。
返信する
やや、こんばんわ。 (Nob)
2007-12-25 17:03:14
キース・ジャレットのピアノ♪ 
久々に聴くとホッとしますね。 
やはり、ジャズピアニストの中では一番落ちついた感じがしますが、これは曲のせい?(笑)
こちらは、スタンダードのアルバムなんですか! 
今、曲を見たらどれも知らなかったですが、これは英語のせい?(汗)
返信する
土佐のオヤジさん (MINAGI)
2007-12-25 22:23:48
このトリオは鉄壁ですよね~
お互いがお互いを触発し合う、とでもいったらいいのでしょうか、内容も「素晴らしい」の一語につきると思います。
好きなように音を出すと、「音の垂れ流し」状態に陥りやすいものですが、このトリオはすみずみまで意識が行き届いている感じがします。
いつ聴いてもみずみずしさを感じる1枚ですよね。
返信する
Nobさん (MINAGI)
2007-12-25 22:34:52
カンペキにこんばんは~
そう、キースのピアノは聴いているとなぜか安らぐんですよね。しかも演奏はアツい。
収録曲は全曲スタンダードです~ ただ、日本で言うスタンダードとアメリカでスタンダードとされているものの内容に若干ズレがあるのと、キースが隠れた名曲を探し出すのがうまい、ということが言えるのではないかと思います。だからわれわれの知らない曲が多くなるのではないでしょうか。
収録されている5曲の中では「オール・ザ・シングス・ユー・アー」が超有名曲ですよ。Nobさん、きっと聴いたら知っているんじゃないかな~
返信する
びっくり! (けい)
2007-12-31 07:38:59
夕べ ミントンに行ったんですよ。
そしたらかかっていたのが このアルバムでした!久々にキースを聴けた!って思いながら マスターのアルバム談義を聞いていました。
ここでそのジャケットがあったので その偶然に驚いています♪キースのスタンダードも落ち着いてきけていいものですね。
今年はMINAGIさんにとてもお世話になりました!本当にありがとうございます。これからもどうか見捨てないで(笑)よろしくお願いいたします♪(あつかましいです、わたし)
返信する
Unknown (ジェイ)
2007-12-31 17:27:18
MINAGIさん、こんばんわ。
お忙しくしていらっしゃるのでしょうか?

私が一番最初に聴いたジャズ・ピアニストは、
キース・ジャレット。ジャズって難解~!と思ったとですよ、そん時は。

さてさて、今年もあと数時間。MINAGIさんには本当に
お世話になり、有難うございました。
また来年も楽しいお話し、ためになるお話しを沢山
聞かせてくださいね。勉強になるんだわ、MINAGIさんのお話。
御身体に気をつけて、よいお年をお迎え下さいね。
返信する
けいさん (MINAGI)
2007-12-31 18:11:43
え~、それは奇遇でした(^^)。
ぼくはこのアルバムの「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」が大大大好きなのです。ジャズとかロックの枠を超越したような美しい演奏だと思うんですよ~
スタンダード曲の解釈がオーソドックスに聴こえながらも、随所に個性的な部分が見出せていて、そういう意味でも好きなアルバムです。

>今年は
 こちらこそです! いろいろとありがとうございました。来年も引き続きどうぞよろしくお願いいたします~
 (あつかましいだなんてとんでもないですよ。どうぞ今までの調子でよろしくです~^^)
返信する
ジェイさん (MINAGI)
2007-12-31 18:17:01
慌しさと体調不良で12月最後の10日間は失速してしまいました・・・(^^;)

キースも相当に幅広い音楽性を持っていますよね。ぼくは幸いにしてこのスタンダーズから入っていったので、楽しみながら感動を与えて貰えました。

今年もあと6時間を切りましたね~ 
ジェイさんにもいろいろとお世話になりっぱなしで、どうもありがとうございます。(^^)
勉強になるだなんて恐れ多いことです(汗)が、来年もこういう調子で進みたいと思いますので引き続きどうぞよろしくお願いします~
返信する
今年もお世話になりました (青竹ぴよ子)
2007-12-31 19:20:25
ジャズ音楽はまだまだ初心者ですが、
聴いていてとても心地良いものですね!
私はピアノが入っているジャズがとても
好きなので、視聴しましたが良かった~
年末にまったり聴くことができました

音楽を深くは知らないものですが、好きなものは
好きと言える人でありたいとは思います。

MINAGIさん、来年も宜しくお願い致します!
返信する
青竹ぴよ子さん (MINAGI)
2007-12-31 19:57:17
ぼくもジャズの中ではピアノ・トリオが一番好きなんですよ。
ひとくちにジャズといってもそれこそいろんな種類のサウンドがありますが、やはり聴いてて心地良いのが一番ですよね。

>好きなものは好きと言える
 これ、全く同感です。
 ぼくは批評家ではないので、いわゆる「ダメ出し」はしたくないのです。好みってそれぞれで違いますもんね。だから、できれば「これは良くない」式の記述はしたくないんですよ~ その代わり、好きなものは好き、の精神を持ち続けたいです。もっともっとたくさんの音に触れて、感動してゆきたいと思います。

青竹さん、こちらこそ来年もよろしくね!(^^)
返信する

コメントを投稿

名盤」カテゴリの最新記事