書店で文庫本を眺めていたら漫画家の里中満智子も近松門左衛門の作品を書いているのを見つけました。彼女の作品は、以前に同じく文学作品をテーマに書いた「サロメ」を読んだことしかありません(その名声のみを聞くばかり)。なんですが、その僅かな経験の中でも、切り口に里中の作品に対する解釈がしっかり見て取れて、原作ととコラボレーションしてるなあという好印象の記憶がありますので、少しばかり期待しながら里中の漫画を購入したのであります。
その里中による漫画版「女殺油地獄」ですが、「サロメ」同様に、しっかりと近松に対峙している印象を受けました。さすが里中と作家の心意気のようなものを感じました。何よりも印象的なのは与兵衛の人物像です。昨日書いた富岡多恵子の「女殺油地獄」のエッセイではないですが、里中はただ物語を追っているだけではなく、与兵衛の内面に迫っているからです。
与兵衛の父親が死に変わって番頭であった徳兵衛が義理の父親となるところを、その与兵衛の記憶を辿るように描いています。漫画における与兵衛のモノローグ、彼の子供時代の様子を浮かびあがらせながら、“あやしいもんや 親父が生きてる時からできてたんかもしれん そのうち妹のおかちが生れて… 兄貴も徳兵衛もネコかぶるのが得意やけど おれはごまかされんぞ 兄貴はまじめな顔してせっせと親孝行して…フン! どいつもこいつもうわべはいい子ぶって… フン おれは自分に正直に生きていくわい”とは描かれているのです。それは里中の与兵衛論であり、まるで富岡のそれを読んでいたかのような与兵衛の内面に迫る描き方でありました。
そしてもう一箇所、豊島屋におけるお吉殺しの部分、与兵衛が金の無心を断られお吉を襲う時(お吉は売掛金が戸棚にあることは漫画では省略されています。ここもポイント。)、里中このような台詞を加えています。“命がかかっとんねん このさいだれの命でも命にかわりはあらへん”つまり与兵衛は自分の命のかわりにお吉の命を奪い金を盗み、“・・・・・・しらん・・・・・・知らんぞ・・・おれのせいやないからな・・・!”そう語らせてフラフラと豊島屋から去らせています。この部分においても里中の与兵衛論が見てとれるのではないでしょうか?
歌舞伎ではお吉殺しで終わらせておりますが、物語に決着をつけるため里中はその後の展開も描いております。そこにも与兵衛の人間が見てとれたのはいうまでもありません。
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与兵衛の父親が死に変わって番頭であった徳兵衛が義理の父親となるところを、その与兵衛の記憶を辿るように描いています。漫画における与兵衛のモノローグ、彼の子供時代の様子を浮かびあがらせながら、“あやしいもんや 親父が生きてる時からできてたんかもしれん そのうち妹のおかちが生れて… 兄貴も徳兵衛もネコかぶるのが得意やけど おれはごまかされんぞ 兄貴はまじめな顔してせっせと親孝行して…フン! どいつもこいつもうわべはいい子ぶって… フン おれは自分に正直に生きていくわい”とは描かれているのです。それは里中の与兵衛論であり、まるで富岡のそれを読んでいたかのような与兵衛の内面に迫る描き方でありました。
そしてもう一箇所、豊島屋におけるお吉殺しの部分、与兵衛が金の無心を断られお吉を襲う時(お吉は売掛金が戸棚にあることは漫画では省略されています。ここもポイント。)、里中このような台詞を加えています。“命がかかっとんねん このさいだれの命でも命にかわりはあらへん”つまり与兵衛は自分の命のかわりにお吉の命を奪い金を盗み、“・・・・・・しらん・・・・・・知らんぞ・・・おれのせいやないからな・・・!”そう語らせてフラフラと豊島屋から去らせています。この部分においても里中の与兵衛論が見てとれるのではないでしょうか?
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