
■製作年:2010年
■監督:李相日
■出演:深津絵里、妻夫木聡、樹木希林、柄本明、他
昨年の日本映画で各賞を総なめした「悪人」を見ました。主演の深津絵里がモントリオール映画祭で主演女優賞をとって話題になった映画でもあります。そんな映画「悪人」ですが、丹念に人物を描いている正攻法で直球勝負の作品でした。日本は映像文化が高度に発達し、やりつくした感があるのか、奇をてらったものやどうやって撮影したんだろうと思わせるもの、二重三重に捻りを加えた映像が多く見受けられるように感じていました。作品も比較的にこじんまりとしたイメージも強く、人間を描くスケール感や深さも弱い印象があり、私自身は残念だけれどそうした映像をあまり面白いとは思えなくなっていました。ところが「悪人」は真正面から直球勝負で描いていた作品であったので、これは素晴らしいと。
原作として小説があるので、話自体は架空のものなのではありますが、監督は徹底したリアリズムな演出を施しており、私は今村昌平に通じるような映像表現における骨太さをそこに感じました。人間を見つめること、徹底した眼差しで。そこには、深くしっかりとした人間観察力がないとここまでの映像は作れないのではないでしょうか?かなり強くそのように感じました。たとえば、登場人物たちは携帯電話を使っているので、この映画の話は現代の話なのではありますが、その携帯電話がもし映画に使われていないとしてもさほど映画全体のテイストには違和感は生じないのではないかと思うのです。つまり、それだけ世の中は変わっているようで変わっていない。むしろ映画は普遍的な部分を、人間のコアな部分を扱っているのであると。こうした人間の骨太な所を捉え表現しようとする監督は、個人的には好感が持てます。
もちろん映画も面白かったです。いろいろな賞を総なめしたのも納得できます。まだまだ日本映画もこうした作品を作れる土壌が残っているんだと希望が持てます。何といっても昨年韓国映画の「息もできない」を見た時には大きなインパクトを受けて、はたして日本映画はあのような骨太な作品を作れるのだろうか?と思ったのですから。
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