飾釦

飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

永遠の妖女#22・・・ラフォルグ/吉田健一・訳「サロメ」

2008-03-11 | サロメ
ラフォルグ「サロメ」(吉田健一訳)

フランスの詩人・ラフォルグにサロメをテーマにした作品がある。作品名も「サロメ」。しかし読んでいくと不思議で変な作品と気がつく。なによりも読んでいてまず想起させられたのが、江戸川乱歩の「パノラマ島奇譚」である。舞台となる「白い、秘教的な島嶼」は乱歩のパノラマ島のような様相なのである。そこは空中庭園あり、果樹園あり、水族館ありと近未来的、超現実的空間にサロメはいるのである。

その空想空間は一方で世界の七不思議のひとつに数えられる「バビロンの架空庭園」を連想させなくもない。澁澤龍彦も「黄金時代」でもバビロンの架空庭園に魅惑的な空間とし言及しているが、この豪奢な世界に錬金術から天文学に精通する“子宮を持ったメシア”として絶対的な存在としてあるのだ。

“その体は黄水仙と同じ色をした地に黒い斑がある、何か蜘蛛のやうな感じの着物に堅固に包まれ、その服はところどころで留め金で留められ、美しい腕は蔽はず、それは扁桃の恰好をした上に各々一輪の石竹の花を配したその未熟な乳房の間で十八歳である彼女の年齢を思はせて両側から合せられ、臍の愛すべき窪みよりもう少し上のところで、嫉妬心に燃えるやうな鮮明な黄色の、細かに襞を取つた帯に変つて胴に密着し、腰のところで痩せた腿を締めてそれが侵し得るものではないことを示し、踵まで降りて来て再び背後で二つの長い、別々に漂ふ尾となつて上昇し、その先は青貝の留め具に結ばれ、この留め具が支へてゐる小形の孔雀の尾は空色、或いはその波紋状、或いは緑、金色と絶えず地の色が変わり、サロメの明らさまに稀有な頭に対する後光をなしてゐた。サロメは立つてゐて身じろぎし、その蒼白の指が開いた両足は踵の所に輪が嵌めてあるだけで、輪からは黄色の波紋状の目が醒めるやうな総が垂れてゐた。”

サロメは華美で妖艶な衣装で登場する。しかし、例の踊りは見せないでヘロデ王や客人の前で厭世的な中身の演説を始めるのである。彼女のそれは聴衆を魅了しイアオカナン(=ヨハネ)の首を要求する。それを手にしたサロメは宮殿の上からその首を海に向かって投げるのだが、自らも目測を誤って海へと落ちてしまう。頭骸骨は砕け悶え死するのである。

“彼女は運命の犠牲者だつたよりも、我々のやうに率直に生活する代わりに、虚構の生活を送らうとした為にかういふ結果になつたのである。”と話は結ばれる。

架空庭園の強力なサロメは、またあっけなく滅したのでありました。



“”部分「ラフォルグ抄」所収「サロメ」(吉田健一訳)小沢書店から引用


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