ギュスターヴ・モロー「出現」(1876年)
本日も澁澤龍彦の訳によるJ・K・ユイスマンスの「さかしま」からギュスターヴ・モローのサロメについて書かれた部分を引用したいと思います。
“この画中では、ヘロデの宮殿はアルハンブラ宮のように、虹色に輝やくマウル風の板石の軽快な円柱の上にそそり立っており、銀のコンクリートや金のセメントで接着させられたようになっている。青金色の菱形に端を発する唐草模様は、円天井に沿ってうねうねと伸び、円天井の螺鈿の寄木細工の上には、虹色の光やプリズムの輝きが仄めいている。
殺戮はすでに終わったのだ。いま、首斬役人は血に染んんだ長剣の柄頭に手をかけ、無感動な表情を持して立っている。
聖者の斬り落とされた首は、敷石の床に置いた皿から浮き上がり、蒼白な顔、血の気の失せた開いた口、真っ赤な頸のまま、涙をしたたらせて、サロメをじっと見ている。一種のモザイコ模様がこの顔を取り囲み、後光のように光輝いて、柱廊の下に幾条もの光線を放射している。おそろしい浮揚した首のまわりの後光は、いわば踊り子の上にじっと視線をそそしだ、巨大なガラス上の目玉である。
おびえた者の身ぶりで、サロメは恐怖の幻影を押しやり、爪先だったまま、その場に動けなくなっている。彼女の人見は大きく見ひかれ、彼女の片手は痙攣的に喉を掻きむっている。
彼女はほとんど裸体に近い。踊りのほとぼりに、ヴェールは乱れ、錦繍の衣ははだけてしまった。すでに金銀細工の装飾と宝石しか身につけていない。胸当てが胸甲のように胴体をぴったり包み、見事な留金のような華麗な一個の宝石が、二つの乳房の間の溝に光を投げている。腰のあたりの下半身には帯が捲きつき、腿の上部をかくしている。また腿には巨大な瓔珞がまといつき、柘榴石やエメラルドを川のように引きずっている。最後に、胸当てと帯のあいだに見える素肌の腹は、臍のくぼみを刻んで大きく張り出している。臍の孔は、乳色と薔薇色の縞瑪瑙を掘り刻んだ小さな印章のようだ。
預言者の首から発する火のような光線を浴びて、すべての宝石の切子面は燃えさかっている。どの宝石も熱気をおび、白熱せる光線によって女体の輪郭をくっきり浮き出させる。頸にも、脚にも、腕にも、炭火のような真っ赤な、ガスの焔のように紫色な、アルコオルの焔のように青色な、星の光のように蒼白な、火花がぱちぱちと爆ぜている。
髭と髪の毛の先端に赤黒い血の凝りを付着させたまま、おそろしい首はなおも血を滴らせつつ燃えている。この首はサロメだけに見え、その陰鬱な視線は、王や王妃には注がれていないのである。ヘロデヤは、ようやく決着のついたおのれの憎悪を反芻している。太守ヘロデは、やや前かがみになり、膝の上に両手をのせて、まだ喘いでいる。黄褐色の香料に浸され、芳香と没薬の煙にいぶされ、樹脂のなかを転げまわった女の裸体が、彼を狂わんばかりにするのである。”
“老いたる王のようにデ・ゼッサントも、この踊り子の前で精根涸らし、披露困憊し、眩暈に襲われる始末であった。この踊り子は、油絵のサロメほどいかめしくもなければ尊大でもないが、はるかにひとを不安にするところがあった。
無感動な無慈悲な彫像、無垢な危険な偶像には、エロティシズムと人間存在の恐怖とが透けて見えていた。ここでは、しかし、大きな白蓮の花は消え、女神は影をひそめてしまった。いまや、怖ろしい悪夢が、旋回する舞いに我を忘れた女大道芸人、恐怖に身をすくませ、呆然自失した娼婦の首を締めあげるのである。
ここでは、サロメは正真正銘の女である。火のように激しい残酷な女の気質に、彼女はそのまましたがっている。そして一層の洗練と野蛮、一層の呪わしさと繊細さとをもって生きている。瀆聖の臥床に芽生え、不純の室に育った、偉大な媾合の花の蠱わしによって、彼女は眠れる男の官能を一層はげしく燃え立たせ、男の意志を一層確実に魅惑し馴致するのである。”
※J・K・ユイスマンス・著「さかしま」澁澤龍彦・訳(河出文庫)から引用
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“この画中では、ヘロデの宮殿はアルハンブラ宮のように、虹色に輝やくマウル風の板石の軽快な円柱の上にそそり立っており、銀のコンクリートや金のセメントで接着させられたようになっている。青金色の菱形に端を発する唐草模様は、円天井に沿ってうねうねと伸び、円天井の螺鈿の寄木細工の上には、虹色の光やプリズムの輝きが仄めいている。
殺戮はすでに終わったのだ。いま、首斬役人は血に染んんだ長剣の柄頭に手をかけ、無感動な表情を持して立っている。
聖者の斬り落とされた首は、敷石の床に置いた皿から浮き上がり、蒼白な顔、血の気の失せた開いた口、真っ赤な頸のまま、涙をしたたらせて、サロメをじっと見ている。一種のモザイコ模様がこの顔を取り囲み、後光のように光輝いて、柱廊の下に幾条もの光線を放射している。おそろしい浮揚した首のまわりの後光は、いわば踊り子の上にじっと視線をそそしだ、巨大なガラス上の目玉である。
おびえた者の身ぶりで、サロメは恐怖の幻影を押しやり、爪先だったまま、その場に動けなくなっている。彼女の人見は大きく見ひかれ、彼女の片手は痙攣的に喉を掻きむっている。
彼女はほとんど裸体に近い。踊りのほとぼりに、ヴェールは乱れ、錦繍の衣ははだけてしまった。すでに金銀細工の装飾と宝石しか身につけていない。胸当てが胸甲のように胴体をぴったり包み、見事な留金のような華麗な一個の宝石が、二つの乳房の間の溝に光を投げている。腰のあたりの下半身には帯が捲きつき、腿の上部をかくしている。また腿には巨大な瓔珞がまといつき、柘榴石やエメラルドを川のように引きずっている。最後に、胸当てと帯のあいだに見える素肌の腹は、臍のくぼみを刻んで大きく張り出している。臍の孔は、乳色と薔薇色の縞瑪瑙を掘り刻んだ小さな印章のようだ。
預言者の首から発する火のような光線を浴びて、すべての宝石の切子面は燃えさかっている。どの宝石も熱気をおび、白熱せる光線によって女体の輪郭をくっきり浮き出させる。頸にも、脚にも、腕にも、炭火のような真っ赤な、ガスの焔のように紫色な、アルコオルの焔のように青色な、星の光のように蒼白な、火花がぱちぱちと爆ぜている。
髭と髪の毛の先端に赤黒い血の凝りを付着させたまま、おそろしい首はなおも血を滴らせつつ燃えている。この首はサロメだけに見え、その陰鬱な視線は、王や王妃には注がれていないのである。ヘロデヤは、ようやく決着のついたおのれの憎悪を反芻している。太守ヘロデは、やや前かがみになり、膝の上に両手をのせて、まだ喘いでいる。黄褐色の香料に浸され、芳香と没薬の煙にいぶされ、樹脂のなかを転げまわった女の裸体が、彼を狂わんばかりにするのである。”
“老いたる王のようにデ・ゼッサントも、この踊り子の前で精根涸らし、披露困憊し、眩暈に襲われる始末であった。この踊り子は、油絵のサロメほどいかめしくもなければ尊大でもないが、はるかにひとを不安にするところがあった。
無感動な無慈悲な彫像、無垢な危険な偶像には、エロティシズムと人間存在の恐怖とが透けて見えていた。ここでは、しかし、大きな白蓮の花は消え、女神は影をひそめてしまった。いまや、怖ろしい悪夢が、旋回する舞いに我を忘れた女大道芸人、恐怖に身をすくませ、呆然自失した娼婦の首を締めあげるのである。
ここでは、サロメは正真正銘の女である。火のように激しい残酷な女の気質に、彼女はそのまましたがっている。そして一層の洗練と野蛮、一層の呪わしさと繊細さとをもって生きている。瀆聖の臥床に芽生え、不純の室に育った、偉大な媾合の花の蠱わしによって、彼女は眠れる男の官能を一層はげしく燃え立たせ、男の意志を一層確実に魅惑し馴致するのである。”
※J・K・ユイスマンス・著「さかしま」澁澤龍彦・訳(河出文庫)から引用
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