ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

2046:ウォン・カーウァイの映像に酔う!

2005年07月11日 | 映画♪
「欲望の翼」「ブエノスアイレス」といった路線のウォン・カーウァイ作品が好きな人間であればそれなりに満足できるのだろうが、「木村拓哉」というキーワードや映画のキャッチコピー「その不思議な未来(2046)では、ミステリートレインが動き出し、アンドロイドが恋に落ちる。」やSFっぽさに対する期待からこの映画を見た人はかなり失望したのではないだろうか。決して駄作ではない。ただ期待に対する結果と言う意味では、微妙な作品だったのだろう。ウォン・カーウァイが描いた、男の愚かな「性」とロマンチズムを描いた佳作。

1960年代の後半、シンガポールでの恋の終わりを告げたチャウ(トニー・レオン)は香港の古びたホテルで売文業で生計を立てていた。暮らしのためと言い訳をしつつ、いかがわしい小説で生計を得、夜は華々しく遊び暮らす日々。ある日、彼は隣室の白玲(チャン・ツーイー)と親しくなる。しかし彼は「一生続く恋はない」として、一線を引いていた。チャウが泊まるホテルのオーナーの娘・ジンウェン(フェイ・ウォン)は日本人ビジネスマン(木村拓哉)との恋を父親に反対されていた。その想いを知ったチャウは、彼女たちをモデルにした近未来小説「2046」を書き始める。小説の登場人物たちは「2046」という場所を目指し、美しいアンドロイドとともにミステリートレインで旅をする。そこにたどりつけば「失われた愛」が見つけられると信じられていた。だが、そこから帰ってきた者はただ1人しかいない――。その物語を書くうちに、チャウの心には忘れられない過去の想いが蘇ってくるのだった…。




DVDだからなのか、いつもの色彩とちょっと違った感じを受けたが、ウォン・カーウァイ作品らしい美しい映像とそれぞれのシーンで作り出される雰囲気。どれもが一級品という感じなのだけれど、やはり映画を見る以前に刷り込まれた「SF」というイメージのためか、小説「2046」のシーン部分についてはやはり不満が。

ウォン・カーウァイ作品で最も好きな「欲望の翼」を想起させるような、ある意味、身勝手な男が女性たちと関係をもちつつ、どこかで真剣になれず、「一生続く恋はない」といわんばかりに諦めと刹那に生きる。求める女、求めつつごまかし続ける男。そうした両者の「心の渇き」を描かせれば、やはりウォン・カーウァイは一級品だ。

かって(「欲望の翼」)のようなギラギラとした渇きはないものの、大人の、大人だからこその「諦め」と「渇き」。そしてそのことに気付いた時にはきっと遅いのだろう。彼はあらゆるものを失ってしまっている。小説「2046」の結末がHAPPYENDにならないのは、まさに彼の生き方が問われているからだろう。真摯に求め続けなけなければ、そこには「幸福」などありえない。小説の主人公となった彼はアンドロイドに誰の姿を見たのか。

「2046」という年号が香港返還の年であることにどのような意味がこめられているのか分からない。その「そこでは何も変わらない」という言葉や、「失われた愛」が手に入れられる場所ということに、例えば中国と香港の融合という「希求」がこめられているという見方もあるのかもしれないが、「未来」という象徴的な意味合い以上のことは感じられない。それはひとえに小説のシーンの描き方が不十分だったためだろう。

単純に、小説家が小説を書くうちに自分の過去を思い出すというのであれば、何も「2046」もあれほど意味深な設定にする必要はない。むしろ同時代の、それぞれの人物たちが映し出される設定の方がいいだろう。あのような設定をするのであれば、そこに何かしらの「意味」を見出したい、その小説のストーリーの中でこそ描かれる何かがあると期待したいと思う。それがあのように中途半端な形になったのは、きちんと描ききるほどに練られていなかったのか、あるいは始めから描くつもりがなかったのに、日本のプロモーションの関係であそこまで注目を集めてしまったのか。

いずれにしろ、この作品の本筋であるチャンの「渇き」と手に入れられなかった「愛」への悔恨、ノスタルジーといったものは十分に描かれていたと思うし、それぞれのシーンの持つ美しさ、雰囲気は十分堪能できる。そもそも「恋する惑星」路線でもない限り、万人受けするものではないのだから、これくらいの評価の方が妥当なのだろう。

ちなみに、木村拓哉の演技はというと、ウォン・カーウァイ作品のような作家性の強い作品ではやはり木村拓哉の「自然体」の演技というのは合わないのだろう。日本人ビジネスマンとして登場しているシーンなど、1人だけ違和感を放っている。とはいえ、小説「2046」の中のアンドロイドと恋に落ちるシーンなど、ある意味、作らざろう得ないシーンなどはさすが!と思わせる雰囲気を作っている。木村拓哉の個性をどう活かせるかという点で、この作品は良し悪しの両面がでたといえる。

また僕は見ていないのだが、この作品はウォン・カーウァイの「花様年華」の続編だとか。ウォン・カーウァイ好きとしてはこの作品も是非見てみたいと思う。


【評価】
総合:★★★☆☆
映像美に酔う!:★★★★★
チャン・ツーイー!(ミーハーです):★★★★★

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欲望の翼「欲望の翼」




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