ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

間宮兄弟:森田芳光が描く新しい都市生活と幸せの行方

2008年04月19日 | 映画♪
何だろう。この柔らかな感じ。繭の中に包まれたとでも言うか、オタクたちというか、都市を生きる人間の新しい「幸せ」の求め方なのだろうか。「家族ゲーム」「(ハル)」など時代の感性を切り取ることに長けた森田芳光監督の魅力満載の作品。




【あらすじ】
兄・明信(佐々木蔵之介)と弟・徹信(塚地武雅)の間宮兄弟は、マンションで2人暮らし。一緒にご飯を食べ、野球観戦で熱くなり、ビデオを観ては涙する。もういい大人の2人だけれど、仲の良さは子供の頃と全く同じ。いや、むしろ人生を共にしてきた太い絆の分だけ、さらに仲良くなっているかも。ある日、彼らは行きつけのレンタル屋さんの店員、直美ちゃん(沢尻エリカ)と、徹信の務める小学校の依子先生(常盤貴子)を誘ってカレーパーティーを開くことを決意。頑張って彼女たちに声をかけるのだった。


【レビュー】
都市で生きるということは、大望を抱いている人間にとっては天にまで届こうかという梯子を上ることかもしれないけれど、多くの人間にとっては複雑にからみあった世界の中で、自分が安心できるテリトリーを見つけ、その中で暮らすことにほかならない。当然上り続けている人からみれば、そんなところで立ち止まるのかと思うかもしれない。しかし「幸せ」を測るものさしが、「金」でも「名声」だけでないのだとしたら、小さな世界の中でどれだけ安らかに暮らせるかというのも1つのものさしに違いがない。

間宮兄弟は「ベイスターズ」のファンであり、「ビデオ」マニアであり、「新幹線」マニアであり、薀蓄好きであり、読書好きであり、モノポリーなど様々なグッズやガジェットに溢れた生活を送っている。それは流行りのものを追いかけているわけではなく、自分のペースで自分なりの楽しみ方を送っている。

仲のよい兄弟2人だけで楽しい時間を過ごし、恋愛は苦手でどちらも彼女はいない。とはいえ、2人とも知的水準は高く、人間関係が築けないわけでもない。職場では全然普通に溶け込んでいる。

しかしそれだけだ。それ以上の深い関係を築こうとはしない。

ある日、弟・徹信は葛原依子の生徒が残した黒板のメッセージを見せられる。

「みんなと一緒になんてわたしには無理です。
自分のことしかわからない。みんなのことはわからない。
-中略-
みんな我慢している。
私はもしかすると我慢できない子供かもしれない。
だとしたら、みんなに迷惑かけないよう、1人ぼっちになった方がいいと思う。」

徹信にはこのメッセージにこめられた「痛み」は果たして届いていたのだろうか。
批評家のように、このメッセージを解説しようとした徹信には、やはり何かが欠けている気がするのは僕だけだろうか。

誰もが自分のことで精一杯で、他人のことを考える余裕などないのかもしれない。それでもその痛みや不安を皆が共感できるからこそ、それを超える何かがある。そう信じる。もしそこで傷つくことを恐れ、自分の中に閉じこもるのだとしたら、結局、痛みや不安は消えはしない。気付かないふりをしているだけなのだ。

「小さな幸せ」に囲まれること。それがもし繭の中にくるまれていることだとしたら、僕らはいつまでその繭に留まれるのだろうか。繭の外には「暴力」に満ちた世界が広がっている。激しい競争やわずらわしい人間関係にさらされることになる。都市の生活は「永遠の繭」を用意してくれるだろう。しかし依子も直美も、あるいは玉木も歩き出したのだ。

友情とも恋愛とも区分つかない関係の中で、傷ついた徹信に対し、明信はこう声をかける。

「2人でこれからも暮らそう。静かに。今までどおり。」

うなづきあう2人。彼らはこのままこの繭に留まるのだろう。
「小さな幸せ」に満ちた世界。

しかし僕らの人生の先には「死」が待っている。
こうしている瞬間瞬間もそこにむかっている。
彼らはこの最後の時まで果たして「繭」にくるまっているのだろうか。
そしてその時にもやはり同じように「幸せ」を感じていられるのだろうか。

【評価】
総合:★★★★☆
キャラにぴったり度:★★★★★
「(ハル)」は歩き出したけど、間宮兄弟は…:★★★☆☆

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(ハル)





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