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「凍りのくじら」 辻村深月 講談社文庫

2015-01-25 | 読書
  

珍しく二度読んだ。どのくらい評価されているのかわからないが、この本に出合ったことを幸せに思った。読み終わってからもなかなか頭から離れず、もう一度読んだ。そしてレビューを残すためにまた読んでいる。

名作とされる作品には、人生の普遍的な深い意味があって、どこかに誰にでも思い当たる箇所がいくつかある、そして時間が経って読み返すとまた別なところに自分と同じ人を見ることができる。そして全ての作品の中にどんな時でも心の支えになるないかが見つかる。それが後世に残る名作と言うものではないだろうか。

この作品はそういう読むたびに、どこか自分と照らし合わせて考えることが出来る。本を読むことが本当に面白い、心から共感できるということを感じさせる傑作だった。

どらえもんの道具がでてくる。作者はドラえもんの道具を自在に使いこなせるくらい読み込んでいて、読んでいるうちに、子供向きのマンガ、アニメだと思っていたものが次第にそれだけではなくて、意味の深い、大人にはまた違った価値がある名作だと感じ始める。

それは、主人公の亡くなった父と娘が親しんできた世界が今も共有されている証にもなっている。

ドラえもんの出す道具が、ストーリーにぴったり嵌っていく様子は、文字で読むよりも理解を深めるのに役立っている。

父を亡くし、母は治る見込みのない癌に侵されて死を待っている。そんな環境の独り暮らしの高校生で、作者はそれを、題名の示すように凍りに閉じ込められて、空気穴を見つけられず苦しんでいるくじらに例えている。
そして彼女に写真のモデルになってくれといって近付いて来る高校三年生の別所と言う学生も、親しくなるにつれ、彼もまた冷たい海の中で暮らしているのが解ってくる。

だが、彼の飄々とした環境の受けとめ方に触れ続け、いつか理帆子も凍りの割れ目から広い未来を見つけ、読後感のいい明るい終わり方にほっとする。

作者と主人公の理帆子をつい結びつけたくなる。幼い頃から本ばかり読んで、いつも世間と距離のある感覚を持ってきた、それが自分と重なってくる。

付き合っている若尾と言う青年が「カワイソメダル」をぶら下げているのに気がつく。彼は常に失敗を他人のせいにして逃げている、プライドを守ることだけを生きがいにしていることに理帆子が気づいて離れていった時、彼は自滅する。そういった生き方を絡めて、ドラえもんの道具を使った作者の慧眼は、ドラえもん好きからこういう物語が出来たのかと思いながら、何か新しい目が開いた気持ちがした。


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1 コメント

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Unknown (LEE)
2015-01-26 11:26:13
次に読む本を探しています。
いつもここに来て、情報を仕入れています(笑)
この本もチェックですね。
ぺニング・マンクルの本もまだ未読です。
読みたい本がどんどん増えてワクワクしますね。

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