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年の瀬に思うⅡ- 貧富の二極化と新しい福祉国家
70年代以降、各国で国家改造がおこなわれました。
つまり、それまで国内経済を機能させてきた国家的な規制や大きな政府部門の存在は、高い利潤を求め、世界各国を市場として活動する投資ファンドや多国籍企業にとっては、企業の自由な行動を阻害するものとして攻撃の対象になってきたのでした。要するに、各国の国内経済の安定と巨大多国籍企業の利害は一致しなくなる。政府は、国内経済の安定化と多国籍企業の利害擁護という二つの課題に迫られるわけですが、政治・経済・社会のありようを巨大多国籍企業の利害を前提に変え続けてきたというわけです。
日本では、臨調行革の名のもと国鉄などの分割民営化がおこなわれ、労働組合の力は急速にそがれる形になりました。その後の規制撤廃、社会保障制度の改悪に抗することもできずに、貧富の差は拡大してきたといえます。
一国の市場であっても、世界市場であっても、規制がなく自由に企業がふるまうと何が起こるのか、強いものだけが生き残るという経済にすべてが委ねられると、だれが苦しむのか、この30年間、いやというほど日本国民もまた味わってきたはずです。そのドラスティックな展開を、私たちは今日の世界経済にみてとることができるのではないでしょうか。トヨタが世界一の自動車販売台数を高らかに発表したのは昨年のことでした。そして、今、同社史上初の営業赤字を一転して見込まなければならない事態に陥っているのですから。その後、続くのは労働者の解雇なのですから。
このように概略を俯瞰してみると、新自由主義というものを反転させて、いまの資本主義経済を人びとがいかにコントロールしていくか、これを考えざるをえません。
この際、しばしば見聞きするのは、日本と同じ先進国のなかでの福祉国家の経験です。
しかし、こうした福祉国家自身も、世界市場での弱肉強食を認め、世界市場での競争で勝つ必要性を否定してきわけではありません。別のことばでいえば、福祉国家を支えてきた社民主義者が訴えることができたのは、せいぜい広がる国内の格差への配慮であって、新自由主義を正面から批判することはできなかったのです。そうはいっても、今日の金融危機から国内経済をどう守るかという点で、政府が強く介入しようとする西欧諸国と日本との間に大きな対応の差が生まれていることも事実です。
日本は西欧の福祉国家とはちがったコースを戦後、たどりました。
別のエントリーで強調したように80年代に入るまでは、日本型雇用が安定しており、自営業や農業にたいしても規制と補助が機能してきたといえます。
しかし、国家財政の少なくない部分が、西欧諸国とちがって社会保障や教育などに使われずに、交通網や港湾・空港などインフラを中心にした大型公共投資に投下され、企業優遇税制もとられてきました。結局、このことは大企業の高蓄積を保障してきたといえます。つまり、日本はこの意味で開発主義的でした。
この点で、福祉国家が直接的に社会保障などをとおして国民生活を支援するのにたいして、開発主義をとった日本では、大企業の高蓄積を保障しながら、間接的に国民生活の維持・向上をこの時期に図ってきたといえるでしょう。
日本と西欧のこうした違いは、①明治以来のキャッチアップ重視、開発中心主義、②企業内組合によって、企業内課題、つまり賃上げにとどまり、公的保障や雇用に目が向きにくいこと、などに起因すると考えられます。
労働者の雇用不安がかつてなく広がる今、思うのは、西欧の福祉国家の経験もふまえながら、それとはちがって、新自由主義を反転させ、多国籍企業や投資ファンドに強力な規制を加えることのできる、新しい福祉国家を視野に入れることです。
そのためにも、大企業の横暴に強い指導をおこなうくらいのことは各党で一致してほしいところですが。
(「世相を拾う」08271)
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