ゴルフィーライフ(New) ~ 龍と共にあれ

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カズオ・イシグロの世界に呼吸を合わせてみる

2017年10月22日 | 読書ノート

私が小説を読むのが不得手なのは、小説のテンポやタイム感にうまく適応できないからだと思う。

いわゆるビジネス書等の類ならさっと内容を掬い取りにいけるのに、
小説、それも長編小説だったりすると、その世界が発する、まったり悠々とした波長のようなものと、呼吸を上手く合わせられないような気がする。

ノーベル賞を取ったカズオ・イシグロを読んでみようと思った。
映画やドラマにもなった「わたしを離さないで」(ラブストーリー的なタイトルであるが、臓器提供という使命を負ったクローン人間をメタファーにした小説)が有名なようだが、
イギリスかぶれするのに丁度いいかもしれない、と読み始めた最新作は、
アーサー王亡き後のブリテン島を舞台にした「忘れられた巨人」。

人々を包む「奇妙な霧」が記憶を片っぱしに奪い取っていく世界。すべてがあいまいで断片的。
悠々として、霧のかかったような薄ぼんやりした空気感に馴染むのにはちょっとしたコツが必要だ。

 

 併せて読んでいる呼吸法の本にヒントを得たのだが、
「息を止めてみる」・「呼吸を減らしてみる」と、「今ここ」に意識を留めやすくなる=他者の呼吸(この場合の小説の波長)を感じるモードへの切り替えが
スムーズになることに気づいた。

カズオ・イシグロをさがして

示唆に富んだドキュメンタリーだと思う。
小説というものは、それ自体だけではなく、物語の背景に迫ることで豊かさを増す。むしろ、そちらの方が魅力的であったりする。
あとがきを読むのが一番愉しみだったりする。

海洋学者であった父がピアノや音楽を好んだこと、
自身がシンガーソングライターになりたくて歌っていたこと、
こんな風な落ち着いた大人でありながら振れ幅のある人は魅力的だ。
1時間過ぎ辺りでは、日本人としてのアイデンティティを望みながら諦めた経緯についても語られる。
マジョリティに属しているとは到底言えず、もはや出自不明なひとみたいになってきたせいなのか、
移民的な感情への処し方みたいな部分にも共感してしまう。
イングリッシュマン・イン・ニューヨークならぬジャパニーズ・イン・イングランド以上のものがある。
(エイリアンだったか)

28分辺りからは、カズオ・イシグロの小説のテーマである「記憶」について語られる。
50分過ぎでは、「記憶を固定しておきたいという強い想い」が小説家になった動機だと語る。
記憶はその人にとってのリアリティであり、現実であるから、人生そのものになる。

しかし記憶は時に変容し、自分自身も騙してしまう。
一方で、
「霧にいろいろと奪われなかったら、わたしたちの愛はこの年月をかけてこれほど強くなれていただろうか」
と主人公のアクセルは言う。

記憶や現実と幻想との境い目を、不鮮明な視界と思考をもたらす霧に重ねて物語るところがイギリスを舞台にした小説ならではだ。

ジョージ ハリスンが言っていたことを思い返させるテーマでもある。
(断片のキラメキとはそういうことだったか ~ 断片にある真実と祈りについて)

たとえば、1943年の家族の風景は、ほんとうに現実だったのだろうか。
その時の風景は誰が認識していた現実なのか、その家族以外の誰かが認識していた現実なのか。
その認識は今も生きた視覚として残っているのか、幻想だったんじゃないのか。

現実とは、一定の共通認識のもとにあるもので、そうでないものは幻想かもしれない、
そんな風に考えていくと、多種多様に展開されている世界中の現実はどこまでが現実なのか、よくわからなくなってくる。

現実というのはひとつの観念だ。どんな人にも、その人固有の現実がある。
だがほとんどの場合、だれかにとっての現実なんて、ただの幻想にすぎない。
いつのまにかみんな「この身体こそが自分である」という幻想を持たされてしまっている。
ぼくはジョージではない、本当にジョージではない。
今はたまたまこの身体を借りているだけなのだ。
その身体だって変化を遂げている。
赤ん坊だったり、若者だったり、そのうちに年老いた姿になり、やがては死んでゆく。
でもその奥に何かがある。それこそが唯一の現実なのだ。
誰かが元ビートルたちは現実から切り離されている、と思っていたとしたら、
それはその人の個人的な観念に過ぎない。
誰かが思っているというだけでそれが真実だとは限らない。
そうした観念が集まると、いくつもの層をなした幻想になる。

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