電影フリークス ~映画のブログ~

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瘋狂殺手

2009-09-14 23:30:00 | 呉思遠と思遠影業



呉思遠が邵氏から抜けた後に製作した作品で割と有名なのが『蕩寇灘』(私は音読みで分かりやすく”トウコウタン”と呼んでます)ですが、これより少し前に撮った作品がありました。初監督した『瘋狂殺手』がそれです。71年という時期の武侠作品で『聾唖劍』と同じ明星公司の製作。共同で羅臻(同じく”ラシン”)監督がメガホンを取っている。(正確には呉思遠が執行導演という役割を負っている。)
呉思遠と武侠片ってあまり結び付かないのですが、この時期は武侠片が流行っていた事もあり呉思遠も流行に乗っかったのでしょうね。

今回この記事を書くまで羅臻監督のことを忘れてました。(もしかして呉思遠の師匠か?前の記事)少しも有名でないのでこの監督について知りません。邵氏時代からの付き合いと思いますが彼を追って行けば「龍虎闘」以外にも呉思遠がしたという助監督の仕事にぶつかるかも知れません。



またこの作品は袁和平初の武術指導作品である様です。邵氏を飛び出して向かった先はまず呉思遠のところだったということになると思うのですが、アクション監督で世界に名を広めた彼も最初は袁祥仁と共同ですがこの作品からはじまったのかと思うと感慨深いですね。

これ以降袁和平は独立製片公司で呉思遠とも手を組むことが多くなり、その道を突き進んでいきますが、最初は功夫片ではなかったんですね。この作品で出演もしているようですが、袁祥仁ら他のメンバーも参加してますので袁家班(のちの)の映画でもあるようです。

今回初めて分かったのですが袁日初も確認できました。

この作品で袁和平はアクションを構築するという職業に就いた。

タイトルロール演じる高遠は、70年に大ヒットしたローウェイ監督『五虎屠龍』(この作品のDVD化は非常にうれしい!)にも高家五兄弟の一人・高勇役で出演していた俳優。(彼もショウブラからシフトしてきた人物か!?)この時期人気を集めて数々の武侠片に出てて引っ張りダコ状態。。

あまり活躍しませんが(苦笑)脇役に馮淬帆。同時期には嘉禾の『鬼流星』にも出演。この人若い頃は時代劇もこなしてたんですよね。

ヒロインにまだ新人の歐陽佩珊を起用。

肝心の脚本は郭嘉。邵氏の『大殺手』(楚原のチャンバラ映画)なんかもそう。同じ羅臻監督と郭嘉のコンビにはジミーさんの『縦横天下』もあるようで。

ストーリーは嘉靖帝時代の海瑞・徐階のエピソードを一部下敷きにして展開されているようです。(文革で取り沙汰される「海瑞罷官」が有名かも。)

孤児だった馬天野(高遠)は江南大侠と呼ばれた師匠の林太清(謝之)に剣士として育てられた。
林の娘・彦萍(歐陽佩珊)は天野を慕っているが、林が兄弟子・宮昭南(馮淬帆)と結婚させると決めてしまったことから天野は正気でいられなくなり彦萍と一緒にいることすら出来なくなっていた。

兄弟子も彦萍が自分を愛していないと悟り天野を説得するが聞き入れてはくれない。言葉では解決できず激しく剣を突き合う二人であった。・・が、天野は追い詰められ崖から転落してしまう。その崖は落ちれば到底生きてはいられない絶壁だった。彦萍は泣いて宮昭南の顔を見るが言葉は出なかった。

林大侠は事態を知らされると宮昭南を問い詰め息子の様に育てた弟子が死ぬはずがないと豪雨の中を現場まで走って叫んで懸命に天野を捜索、崖下を覘くが天野の返事は無く弟子の死を認めざるを得なかった。

実は天野は崖に腕でしがみ付き自力で這い上がって奇跡的に生き延びていたのだった。偶然に崖の隙間から洞窟を見つけた天野は中へ飛び込むと、そこは長い間人が足を踏み入れていない様子であったが人間が住んでいた場所であった事は一目で分かった。

壁には見慣れない呪文のような絵文字が書かれておりミイラが洞窟の番をしていた。天野は壁の下から古びた剣を見つけ、それが自分の物になると高笑いした。
それは岩をも砕く恐ろしい狂気に満ちた剣だった・・・。

舞台は松江華亭県(現在の上海市松江区。明・清代は松江府として中国15大都市の1つとして名を轟かせた。)に移る。松江府君主の息子・徐(午馬)は略奪、不当な懲罰、誘拐など悪政を重ね、農民から暴動が起こる寸前。しかし地元当局は仲裁する勇気も無く野放し状態であった。
巡撫(清代では各省に置かれた民政軍務を司る官職。単に清官でも可)の海瑞(唐迪)は朝廷から起用され荒れ果てた府の警備をはじめた。人々から”海大人”と呼ばれ高く信頼されている。宮昭南と彦萍は林大侠の命により海瑞保護に派遣された。しかし海瑞は松江府へ向かう途中、何者かに襲撃されてしまう。徐が手を回したのだ。
一方、剣の威力を試したい天野は茶楼で酒を飲んで待つ。騒ぎを起こした人物と一戦を交え感触を確かめた。騒ぎが徐の耳にも入り天野を抹殺せよとの命令を下す。その後、師匠の林太清のもとへ戻った天野だったが、師匠の予想を裏切り以前の天野ではない言葉を発する。林大侠は天野に失望し退去せよと一度は言ったものの気が変わって天野と勝負する。致命傷を負った林大侠は天野自身に関わる衝撃の事実を明かすと、天野は斬って斬って斬り捲る殺人狂徒と化した。


海瑞襲撃も失敗。次々と手を打っても失敗に終わり悔しむ徐は再度天野を大軍を送り攻撃させた。徐は天野の予想以上の武力に驚き酒を注いで味方に引き込もうと試みた。当然のように海瑞殺害を企てた徐は大金を積むが天野は金で動く男ではなかった。しかしここで徐はある話を持ち出し天野に海瑞殺害を決意させるのだった。

夜、屋敷で海瑞は徐の悪事の数々を告発した民衆からの書面を読み上げる。
徐の父・君主の徐堦(姜南)の門下生だった海瑞だが、恐れる事は無いと近隣県主を呼んで助言する。そこへ黒装束の軍団が襲撃して来るが宮壮士達が加勢して返り討ちに。

その後1人の人物が宮昭南の前に現れた。それは天野だった。海瑞の屋敷から森へ場所を移した二人は再び剣を交えた。刺客が現れたと彦萍にも告げられ後を追う。追っ手が来て形勢不利となった天野は一時退散する。負傷した宮昭南は彦萍に手当てをしてもらった。二人は家に戻ると留守を預かっていた林福から林大侠の死と犯人を告げられる。

次の手を考える徐堦は海大人を晩餐会へ招待させる妙案を思いつき息子の徐と共に招待状を持って行かせる。海瑞に会いに行くと海瑞は徐堦に告発状と引き替えに所有する広大な土地の引き渡しを迫った。切迫した状況で徐は大胆な行動に出た。海瑞を守る彦萍達と徐の軍団で大決戦が始まった。天野が突如現れ、海瑞の命を狙う。彦萍が応戦し更に朝廷から派遣された”死亡使者”四人衆が天野と対決。彦萍は全ての仇を討つ為に天野に斬りかかり最終決戦に挑んでいった・・・。
















袁和平




さて、感想は…。前半のドラマ場面の比重はそれなりに高く入り込む要素があってアクション場面とのバランスも良い感じだった。序盤の洞窟で高遠が剣を発見する件はスリルを与えるし、アクションは当然ながらチャンバラになるが剣捌きもカッコよく見えた。(袁和平らしいアクロバットを織り交ぜててこれは斬新的)後半の展開は分かりづらい面もあるが、これでもかこれでもかと敵を斬る天野に尽きます(敵も限りなく襲って来るが)。なぜ天野は斬りまくるのか。この辺りの表現も十分感じることが出来た。この表現手法がきっと呉思遠なんだと思う。
ローウェイ監督が悪役を演じ石堅とバトルしてカンフーアクションを披露する『鬼流星』って面白いと思う部分もあるのだが、『瘋狂殺手』の持つシナリオの重厚さ(『鬼流星』って監督が脚本も兼ねてるせいか捻りも感じられず)、袁和平のアクロバットを多用したアクションには圧倒されました。アクションシーンにスローモーションを入れるなど効果もバッチリでありました。
公開がほぼ同じ時期の2作品、『鬼流星』と『瘋狂殺手』。馮淬帆や姜南などキャストも一部被ってはいるが、単純な比較は出来ない。成功の指針の1つである興行成績的なデータも不明ではあるのだが、私個人的な評価としてどちらに軍配が上がったか。もうお分かりと思います。

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