牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

繁殖雌牛の育成(17)

2009-04-20 17:13:18 | 雌牛



⑧日光浴をさせる。
日光浴は、家畜に限らず必要である。
牛の体内で蓄積されるビタミンBなどは、暗い畜舎よりも直射日光を浴びる方が多くを蓄積できて、強健な体調維持には極めて重要であり、順調な受胎に深く影響をもたらしている。
そのため、和牛繁殖農家などでは、庭先に長時間繋いで、足腰を鍛えると同時に日光浴が昔から行われ、現在でも引き運動以上に実施されているようである。
多頭化では、運動場付畜舎にすることや、天井を高くするなど、採光を取り入れる工夫も重要である。
放牧管理では、日光浴の必要性もなく、高い受胎率と成っていると聞く。

繁殖雌牛の育成(16)

2009-04-19 16:43:57 | 雌牛

⑦引き運動をする。
引き運動については、繁殖で多産させるためには、足腰を鍛えておく必要がある。
そのためには、引き運動や強制的な歩行装置を利用して歩かせる工夫が必要である。
多頭化により飼養頭数が増加したり、道路事情が車社会になったことで、引き運動の実施には厳しい条件下にある。
以前は、数頭飼いが大多数の頃は、夕方になると大人や子供たちが牛に牽かれながら、引き運動をする光景が多々見られたものである。
引き運動の途中で、行き付けの川があり、綺麗な川面に牛を入れると、流れの水を心ゆくまで飲んで、暫くはゆったりとして佇み素晴らしい光景であった。
その他にも川では、牛を洗ってやったり、削蹄の前日には、少しばかり長めに入川させて、蹄を柔らかくしておくなどもあった。
引き運動が日課となることで、人にも牛にも足腰の鍛錬やコミュニケーションの場となり、引き運動が、牛飼いの基本的な効果をもたらしていた。
現在のような多頭化による群飼いでは、その様な風情はなかなか見られなくなった。
引き運動が、物理的に不可能となったことで、牛の運動量を増やすために、飼育場に広めの運動スペースを設けて、餌場と給水場を最も距離のある位置に設置することで、広い運動スペースをフルに生かすことで、可能な限り歩数を増やすことに繋がる。
足腰を鍛えさせるために、牛に鞍を背負わせて、丸太などを牽引させているケースもあると聞く。
引き運動ならぬ牽き運動である。

写真は、昔懐かしい牛の引き出し風景(全国和牛登録協会編和牛百科図説;'70より)

繁殖雌牛の育成(15)

2009-04-18 14:30:17 | 雌牛



⑥矯角する。
矯角をすることは、現時では大多数に於いて不要になってきている。
以前は、登録検査や共進会を意識して、殆どの雌牛には、矯角が行われていた。
現在でも、それらの影響を意識して実施しているケースを見かけることがある。
そもそも矯角とは、子牛から成畜への成長段階に伸びる牛の左右の角を、大きさ形、角度伸びる方向などを一対として同じ形状にバランス良く整えることである。
だから、矯角された牛の角は、見るからに格好良く見えるのである。
筆者は、矯角を習ったことはあるが、自らの実体験がないので、その昔習った恩師の玉稿によるが、矯角は、牛の角が7~9cm伸びた頃で、まだ角質が軟弱で固定していない状態から始める。
通常最初の矯角には、幅6~7cmの伸縮性のない布片を用いて、左右の角が寄るよう角がすっぽり隠れ気味に強く巻き付ける。
布片の締め加減は、牛が時々頭を振る程度が良く、振らないのは効果が少なく、度々振るのは強すぎる。
角が寄ると角根部の角表面の縦筋が曲がるから、それを見ながら酷く曲り過ぎないうちに止める。
第1回目の角寄せは、1日位でよいが、その後は、角の伸び具合や寄り具合を見ながら1~1.5ヵ月毎に行い、2回目以降は、2日間くらいかけて矯角を行い、生後14~15ヵ月令までに終えるとある。
この他、左右のバランスの悪くなった角の矯正や、後ろ向きの角の起こし方や前向きの角の起こし方などがある。
矯角は、予め角の形状をどのように矯正するかを設定しておくことが大事である。
以前は、畜主によって角の形に特徴があったものである。

写真は第5回全国和牛能力共進会特別賞「顔品」に選定された牛である。('87)

繁殖雌牛の育成(14)

2009-04-17 20:01:54 | 雌牛


⑤鼻環を装着する。
鼻環については、肥育牛の場合は不要と考えているが、繁殖雌牛の場合は、鼻環があった方が捕獲し易いことは事実である。
ただ、牛には鼻環があるが故に、鼻環を人が掴むことでの痛みがあるために、常に人から避ける体勢を取っているようである。
もともと無ければ、牛と人とのコミュニケーションにより、捕獲をいやがらないケースも多々ある。
群飼いで、連動スタンチョンを設置して管理する限りでは、鼻環は不要である。
足腰を鍛えるための引き運動をする場合や分娩癖の悪い牛の場合などは、鼻環がある方が便利なことはある。
また、共進会などに出品する場合も、鼻環がある方が格好が付く。
さて、鼻環の装着法であるが、農耕牛であった頃は100%鼻環が必要であった。
その当時、鼻環を装着する器具と言えば、梅など木質の硬い木を削った穿孔棒で鼻孔内の鼻中隔軟骨の最も薄い隔膜に穴を開け鼻環を付けていた。
その後65年頃から鼻環全体が塩ビ製でそれを装着する器具が出回るようになった。
その器具は鋏状のもので、鋏の刃の部分に丸い輪っぱがあり、予め鼻環をその輪っぱにセッティングしておくが、鼻環の両端は2cm程度離れたままである。
また鼻環の両端に工夫がなされ、片方が鋭利に尖り、もう一方の端は、片方の尖った先端がカチッとはまり込む構造となっている。
器具にセッティングしたまま、その尖った部分を鼻孔内鼻中隔軟骨の最も薄い隔膜に当てて、両方の柄を思い切り挟み込むことで、軟骨を突き抜け、鼻環の両端同志がうまくドッキングしてロックがかかり、鼻環装着がワンタッチに出来る構造になった。
それが現在でも一般的に利用されている。
鼻環が装着されたら、頬綱を付けて鼻環を固定するのが一般的なようであるが、むしろ固定しないほうが、鼻孔内の軟骨は丈夫で早く回復する。
将来、調教や共進会を目指す場合は、手綱を括る位置が木製の台木付きで従来型の鼻環が格好が付く。

繁殖雌牛の育成(13)

2009-04-16 18:39:07 | 雌牛
写真は親牛も仔牛も生後まもなく除角した牛たちである。


④除角する(3)
これらの除角を行う場合は、多量の出血が予想されることから、こめかみ周辺を大きめの輪ゴムなどできつめに縛ってから除角することにより、出血がかなり抑えられる。
しかし、何れもかなりの馬力が必要であったり、器具自体に重量感があったり、切断面が窪んでしまったり、一長一短ある。
2)3)5)は、やり方によっては、瞬時に除角出来るが、他は瞬時という訳にはいかない。
体力を差ほど必要としないのは、4)5)であり、ワイヤによる切断は、次第にワイヤに熱が加わるために、止血の効果がある。
器具を用いて角の生え際を切断した場合、何れも直線的な出血に見舞われる。
以前は、こめかみを締めつけることをしていなかったため、出血は想像を絶するものであった。
そのため術者の作業衣は、真っ赤に染まったものである。
止血は、木炭を燃やしハンダごて様の先が尖ったものや鉄筋などを真っ赤に焼いて、出血箇所を焼いて止血するのが一般的である。
出血が収まれば、乳房炎軟膏などを塗布して細菌等の侵入に備える。
また、サルファ剤の粉末を切断面に振り掛けガーゼでカバーすると大事に至らなかったこともある。
止血後数時間支障がなければ、一安心である。
筆者は、何れ除角するなら、生後間もない時期に除角する方が、子牛の除角時の痛みなども軽減され、跡形もなく除角出来ることから、この方法を推奨したい。
以上が除角の道具であるが、願わくば、子牛の頃からコミュニケーションを親密に取り、除角不要のまま牛たちと共存すべきと考えている。
一方、除角ではないが、角にカバーを装着することで競合防止などの効果があるとした角カバーが市販されている。
角が10cm程度伸びた頃に、角カバーをビス留めして装着する。
角カバーの材質は、ゴム製で内部にアルミと思われるものが使用され、左右の角用にコンビとなっている。
装着した角は、月齢が経つに従って、いずれも同じ方向に垂れ下がる。
矯角時に加重を加えることで角を整えているが、牛カバーの自重(片方約150g)のために垂れ下がることが考えられる。



角カバー



角カバーを装着して1年後は角は下向きに垂れ下がる(メーカーのパンフレットから引用)

繁殖雌牛の育成(12)

2009-04-15 18:46:02 | 雌牛



写真2 ワイヤを左右に引きながら角を切断中




写真3 切断が終了した角


④除角する(2)
同様の除角器に3)コンベックスというものがある。これも全長が1m以上あるが、キーストンの刃は上下に切れるが、当器は半円径状の内刃が中心にあり、その外側に沿うように半円状の受け金があり、2本の木製の柄を狭くすることにより、両刃が密着することで除角するという器具である。
また器具と言うより、文字通り数本の針金を縒ったワイヤの両端を、術者が掴む取っ手(除角ハンドル)に固定して、ワイヤを角の切断面に当てて、術者が左右に引き返すを繰り返すことで除角する4)除角ワイヤが有る。
写真2は、子牛市場から導入して間もなく除角し、10産を終えて、他所から戻ってきた老廃雌牛であるが、若齢時に除角することで、残った角地が変形して徐々に伸び、項と耳の付け根辺りの皮膚に食い込もうとしていたため、除角用ワイヤで切断中の写真である。
写真3は、同ワイヤで切断した断面である。
この他、水道の給水管などに用いられている塩ビのパイプを、一気に切断する専用の5)鋏を利用して除角しているケースもある。

繁殖雌牛の育成(11)

2009-04-14 18:21:19 | 雌牛
                 写真1 生まれて2週間目の除角






④除角する(1)
除角については、複数の県に於いて、除角を推進する指導がなされているが、全国的な普及割合は、かなり低いようである。
前述したように、畜主の条件次第では、除角を必要とするケースもあるため、除角が不要とは言いかねるが、熟練の管理者の元では、必ずしも必要とは言い難い。
公共の施設などでは、管理担当職員の安全性を考慮に入れて、生後約1ヶ月以内に、角の生える部分に電気やガスを熱源とする除角器で数秒間押し当てて除角することにより、無角牛同様に除角しているケースがある。
写真1は、その除角風景である。
60年頃には、生後間もない子牛の除角に苛性加里を用いていたとある。
また、角が伸びたものを除角する道具としては、45年以前から利用されているもので、2本の柄を両手で円形状に回しながら角を切断する1)元祖除角器があるが、これは、切断面が平面に切れず、頭部の方へ丸く食い込むことがある。
切断面が水平に切れる道具に2)キーストン除角器がある。これは全長が90cm以上有り、木製の長い柄が着いていて角の切断面を、同器の先端の上下の刃の中に入れて、一気に両方の柄を植木鋏様に切るもので、かなりの重量感があり体格に自信のある術者向けである。

繁殖雌牛の育成(10)

2009-04-13 18:54:50 | 雌牛


③任意で家畜共済などに加入する。
家畜共済については、牛に掛ける健康保険様のものであるが、畜主全員が加入しなくてはならないというものではなく、任意での加入となる。
和牛の繁殖牛と肥育牛や酪農とは、加入の内容が若干異なっているようである。
肥育牛などでは、生産地の地元農業共済が管轄する範囲内によって、疾病率や死廃率が高ければ、その地域の共済掛け率も高く、低ければ掛け率も低くなるシステムになっている。
また家畜共済は、疾病にかかる保険と死廃にかかる保険の2本立てから成っている。
疾病時の診療については、初診料が通常1,050円で、土日祝日と夜間は2,100円を畜主が負担するが、診療費については保険が適用される。
この共済制度は、加入後、無制限に保険が適用されるものではなく、疾病等の診療についても死廃についても、その上限が設定されている。
経年的に、診療等の利用率が少なく、その限度額に大幅な差が生じている場合は、3年ごとの見直しで、掛け金率も下がるが、加入者の要望で掛金のランクを引き下げることも出来る。
その場合、保険金額の上限がさらに下がったり、死廃の対象還付額が低くなるケースもあるが、いずれにしても、自らの飼養管理の結果、疾病率等と掛金とのバランスを考慮にして、効率的な加入を考慮することも必要ではないだろうか。
要は、共済制度のシステムを熟知してから加入しないと、死廃等が生じた時に、思惑違いの結果を招くことがある。

最近は、獣医師自身が畜主という例もあり、また牛をテキスト通りに支障なく飼養管理したり、それ以上の熱意で管理している畜主などで、疾病率や事故率が極力少なく、飼養管理に自信のある場合は、未加入のケースがあると聞く。
同共済に加入することは、疾病牛の治療を専門家に委ねることでのプラス面が多々あったり、患畜が出た際に、的確に対処できるのも獣医師である。
獣医師の指導を受けることで、徐々に疾病率が低下することにより、健康を取り戻すとともに、掛金率が下がるなどのメリットも生じてくる。
飼養管理の良し悪しによっては、必ずしも掛け損に至るとは言い難い。
繁殖雌牛の場合、餌の給与量の急変や盗食等による食滞、繁殖障害による診療などが予測できるため、同共済への加入は考慮に値する。

繁殖雌牛の育成(9)

2009-04-12 08:00:56 | 雌牛


②導入したら移動報告を行う。
日本でも牛海綿体脳症(BSE)の発症が確認され、その後トレサビリティーなる取り組みが実施されるようになり、国内に生存する全ての牛について、2004年12月から個体識別番号を記した黄色い耳標(タグまたはタッグ)の装着が義務づけられる様になった。
生まれた仔牛にも、しかるべき手続きの上、耳標を装着するとともに、牛を他所に移動した場合は、相手先の電話番号を付記して異動一括報告カードを家畜改良センター個体識別部へ報告することになっている。
最近は、インターネットの普及によりネットでの報告が一般的なようである。
当然繁殖用素牛を導入した場合も、上記により個体識別部へ移動報告することが義務づけられている。
この個体識別番号は、牛が一生涯同一でなければならないが、枝肉になり店舗でバック詰めされるまで、同番号が付記されて販売されている。
この個体識別番号制度は、それにより何時何処の誰による生産なのか、品種性別などと生まれてからの移動の経過が判るようになって、万が一BSEが発生した時に、その履歴によって発症の原因究明に役立っている。
当初は、10桁の数字に違和感があったが、時が経ち慣れることによって、肥育現場などでは、群内における個々の牛の識別が容易になったり、食肉市場から届けられる仕切り書なども同番号が付記されているために、格付け結果や仕切り内容などの個体確認が容易になった。
同システムが正確に運用されることにより、牛の盗難や不正が極端に減少する結果にもなっている。

写真は、鳥取全共でのチャンピオン牛であるが、全共などの共進会や子牛市や肥育牛の市場出荷などでも、この個体識別番号が確認され受付される。
牛の異動の全ては、同番号から始まる。

繁殖雌牛の育成(8)

2009-04-11 08:33:13 | 雌牛


①各種予防接種を行う。
予防注射については、5種混合ワクチンとヘモフィルスワクチン(1回目)は、子牛生産者が実施して子牛登記書の裏にその接種の詳細を記して子牛の競り市に出荷するシステムになっている。
第2回目のヘモフィルスワクチン接種は、自家保留牛や競り市から新規導入してから、子牛登記書の裏に記された接種日から約1ヵ月目に実施する。
2回目を確実に接種しないと導入後1~3ヵ月目に突然発症する恐れがある。
5種混合ワクチンは牛伝染性鼻気管炎、牛ウイルス性下痢症-粘膜病、牛のパラインフルエンザ、 牛RSウイルス感染症及び牛アデノウイルス感染症の予防用であるが、このワクチンは生後4~5ヵ月目に接種しているケースが多いため、導入後にRSウイルス感染症の感染を受けた群飼いなどでは、月齢のやや高い牛ほど感染しやすく、もたもたしていたら死亡することもある。
それらしき感染を見たら、導入から3~4ヵ月以内の全頭に再度同ワクチンの投与が効果的である。
その他、アカバネウイルス生ワクチンや牛下痢5種混合不活化ワクチンなどの接種も考慮に値する。
これらの二つのワクチンは毎年実施することで、その接種効果が顕著となる。
最近は、牛用に2~6種混合の様々なワクチンが開発されていて、キャトルウィン-6などは、牛伝染性鼻気管炎・牛ウイルス性下痢-粘膜病2価・牛パラインフルエンザ・牛RSウイルス感染症・牛アデノウイルス(7型)感染症の予防を対象とした製品も出回っているようである。
予防用ワクチンについては、出入りの獣医師の指導を受けて、牛の事後の体調にトラブルが出無いよう細心の注意が不可欠である。

写真は、予防接種を行うために繋がれた子牛たち