牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

コントロールの良否を把握する

2009-08-31 23:51:12 | 肥育



腹作りのために粗飼料を飽食させ、生後15ヵ月令で採血した結果、血中ビタミンA濃度は125(IU/d1)とかなり高い牛が何頭かいた。
生後21ヵ月令の同濃度は、80程度のものもいた。
さらに25ヵ月でも70と言うのもいた。
この様に20ヵ月令以上において同数値が高ければ、同Aコントロールの失敗で、サシは期待できない。
生後21ヵ月令で同Aが順調に下がらなかった場合は、その後も尾を引き、なかなか数値が下がらない傾向があり、同コントロールによる肉質改善には至らない。
一方、同Aが下がらない理由の一つに、仕上げ用配合飼料の給与の低下がある。
育成時に順調な飼料摂取とそれに伴う順調な増体が24ヵ月令まで続くようであれは、同コントロールも旨くいく。
βカロチン含量の少ない配合と粗飼料を飽食させて、もりもりに肉付きが良好であれば、同Aの体内消費が進むために、血中濃度は下がり、極端な場合、同A欠乏症状に至るケースもある。
ところが、18~20ヵ月令で、何らかの理由により配合等の摂取量が低下した場合は、増体が進まず、同Aの体内消費も進まないために、同濃度は下がらず、常時同剤を補給し続けるケースと同様に、同Aは高いまま推移し、肥育後半にいたり、食欲を回復するケースが見られることもある。
これでは、和牛が潜在的に有するサシや肉色などを引き出せないままに肥育を終えることとなる。
草の利用性の良否により、同コントロールの開始時期を適切に行わないと失敗することとなる。
同コントロールの失敗は、同数値がかなり高い場合、コントロールの開始時期を1~2ヵ月早めるのも一考である。
18~20ヵ月令で、仕上げ舎に移動するケースでは、環境が異なるために、摂取量が一時的に低下するケースがままある。
このケースを経験する肥育牛は、最悪のケースと言っても良い。
育成から仕上げまで移動無しで全期間同じ房で飼う場合の方が、肥育は無難に終了できる。
同コントロールを形の上でしっかり行っても、実質成果とならない場合がある。
時たま、採血してその確認を行うことも必要なことである。
肥育牛の70%以上がつねに5等級というケースでは、余計な話でもある。


雌牛の方がきつい

2009-08-29 18:39:48 | 牛の管理




当方では、肥育頭数の約15%が雌牛である。
去勢牛と比較すれば、雌牛は性格がこまめに荒い。
去勢牛にも性格に問題のあるものはいるが、2頭飼いにすれば、大概は問題なく経過する。
ところが、雌牛の場合は個々の牛それぞれが自らの都合次第で、他牛を角で威嚇して餌場を確保したり、人の気配を感じて寄ってくる場合なども、角で掻き分けて寄ってくる。
そのために、2~4頭飼いの仕上げ舎に移動すると、互いに腹部などに小傷が付いている。
肥育末期になれば、次第にその頻度は低下するが、稀に最後までその癖が直らない牛もいる。

そこで、雌についてのみ、導入直後に除角することにした。
今から約45年以前、繁殖用雌子牛を6頭導入したが、強弱に差があり、群飼いが不可能となったことがあり、その競合を避ける目的で、除角した。
大変な血を見たものである。
国内でも、最初の試みであったが、それにより競合は完全に解決した。
とくに、繁殖雌牛の場合は、濃厚飼料に関しては、制限給餌のため、競合は避けられない。
今では、除角の機器も様々で意外と楽に出来るようになった。
当時は、輸入品もなく手作りの器具による一手であった。
以来除角は生後間もない頃に行ってきたが、導入後の除角は、実に久しぶりである。
それで、肥育中の競合は解消されるであろうと期待している。



牛の暇仕事

2009-08-28 19:56:55 | 牛の角



ウォーターカップで飲んでいる写真であるが、テーマは飲水の話でない。
角の話である。
被害が出て始めて気付くことはままあり、これまでも何度か述べてきた。
太めの牛房柵にしたが、思わぬことが意外と多発した。
導入舎であるが、月齢が進み角が10cm位に伸びた頃、角を折る事故が起きた。
当初は、どこに引っかけて折るのか気が付かなかったが、数回めに判った。
ウォーターカップの上方の横作に丸太を差し込んでいるが、この丸太は、角がパイプ内に入らないために差し込んだ写真なのである。
牛からは柵の外でもあり、まさか角をパイプに差し込むなどは考えてもいなかった。
ところが牛は暇だらけのために、何をしでかすか想像だにしないことをやってのける。
その様な時は、決まって良いことではなく、結果的に怪我などに繋がる仕草である。
この様なことの改善策は、自らで考えつくことではなく、牛に教えられることばかりである。




ビタミンAについて

2009-08-27 20:54:04 | 肥育技術


導入直後の素牛のビタミンA血中濃度を測定すると、低いものでは25(IU/dl)、高い数値では120(IU/d1)あるものもいて、かなりのバラツキがある。
これは、それぞれの生産現場の飼育環境が異なることと、とくに低い数値を示す場合は市場へ出す以前に風邪や下痢などの様々な疾患を患ったり、長距離輸送中のストレスにより、同Aの異常な消費があったことなどによるバラツキである。
導入時からこの様に低い数値では、順調な食欲は期待できない。
食い込みが悪ければ、増体どころではなく、体調維持さえままならない。
導入時に、一々採血して、それらを測定することは時間や経費が掛かり、なかなか現実的ではない。
この様な現状を回避するために、導入後約5ヵ月間は同剤の補給が必要となる。
数値が高い場合でも、補給によって体内要求を越す場合は、体外へ排出するため、全頭投与を行っても問題は起こりにくい。
数値が低い場合は、食欲不振や消化管内壁や関節等に支障が起こり、疾病を誘発しやすくなるため、牛が健康を維持し順調な食欲と増体を促すために、同ADE剤を補給することは当然の処置となってくる。
当方では、市販のADE剤ペレット(1袋1kg入り:10,000国際単位/g)を1頭1日当たり約2gを10日間隔で投与している。
その他、肥育前期用配合や乾草などによる同Aの体内蓄積量は、飼料標準に示されている基準値より、かなり高いレベルとなっている。
これにより、生後15ヵ月令では、血中濃度が約100(IU/d1)程度に揃え、その後は、同Aコントロールにより、50~60に落とし、それ以降は40~50で推移させ、仕上げ末期では30~35程度に理想的な数値を推移させることを目標とし、概ねミスをしない限りうまくいっている。
上記の取り組みが順調であれば、肥育後半の23~24ヵ月令頃に出やすいA欠症状は現れないが、個々の牛では、ペレットを摂っていない牛もいて、その頃にA欠が出る場合がある。
その場合は、同症状から早期発見して、経口同剤を一気に呑ませて、症状を出来るだけ早期に抑えることが肝要である。
コメントに応えて。

採血

2009-08-26 18:20:47 | 肥育技術



7~8年前から、肥育牛から採血して生化学検査を実施している。
全頭ではなく、導入時に5頭程度の採血を行い、それから生後15ヵ月令、21ヵ月目、25ヵ月目、そして出荷直前の5回を追次して実施している。
これまでの同検査では、ビタミンAの血中濃度は、以前農水省の研究班が提示したビタミンAのコントロールモデルに、概ね添った数値で推移してきており、肥育法に変化がないため、この1年間実施していなかった。
ところが、ここ数ヶ月、肥育成績が微妙に低下したため、同検査を本日再開した。
検査結果が判るには数日間かかる。

この採血法が以前とはかなり便利になった。
以前は、ステンレス製の採血針を頚静脈に差して、試験管に受けていたものである。
採血針が血管内でかすれたりして途中で留まってしまうと、順調に採血できた場合では、検査値に若干の差が出たものである。
今では、人の採血キットと同様で、採血管が引圧状態となっており、採血キットを血管にさせば、たちどころに採血管に血液が溜まる。
複数の採血管が必要な場合は、20ccなどの注射筒で血液を抜き、採血管に針をさせば、そのままで血液を移せて、実に便利になっている。

採血する術者により頚静脈から取ったり、肛門に面した尾部の付け根当たりから取ったりする。
また、採血は牛の保定次第で、失敗の頻度はかなり異なりる。
頚静脈であれば、牛の頭部をしっかりと保定し、採血する反対側頸部を凹状にし、採血する側を凸状にすれば安易に採血できる。
これは、採血だけではなく、補液する時などでも同様である。

採血なしでも順調な肥育成果が出ることが、もっとも良好なことであるが、肥育法が目的と異なる方向にいたっていないかを見極めるには、やむを得ない方策としている。



育成用粗飼料

2009-08-25 18:31:19 | 牛の餌



当センターでは、20数年もの間、導入牛には、オーストラリア産オーツヘイを与えている。
安定的に導入できることと、価格もUS産の他の粗飼料に比し、多少安価で安定しているからである。
導入後約半年間、飽食状態である。
オーツは、チモシーやイタリアンライグラスに比し、繊維が荒いために、子牛の消化には不向きではないかという情報もある。
しかし、当方では、この間然したる問題は生じていない。
栽培中は、硝酸塩濃度が高い植物であるが、出穂期を過ぎれば、濃度も低下するために、結構いけてる粗飼料と判断している。

しかし、今の時期になれば、何故かハエが集る。
以前、コメントでもそのことを指摘されたことがある。
当地では、後1月か1月半の辛抱である。



牛RSウイルス

2009-08-24 18:43:10 | 牛の病気


以前、牛RSウイルス病の発症で、導入牛が死亡したと記述したが、再び同様の事例が起きた。
以前の発生は、2~3月頃の最も気温が低い時期であったためか、幾つかの畜舎に感染した。
1頭は感染死したが、その他の育成畜には、急遽RSウイルス用ワクチンを接種することで、大事には至らなかった。
今回は、朝の見回り時に12頭の群飼いの中で、急死していたのに気付いた。
見るからに鼓脹症を疑うほど、腹部周囲はパンパンに大きくなっており、獣医師も鼓脹症を疑った。
導入後1ヵ月の去勢牛で、乾草を主体に前期用飼料を補給している状態で、鼓脹症にしてその原因を判断できない状態であった。
原因が判明しないのでは、再発が気掛かりであった。
万が一、他に死因を疑うことも、必要であろうと、獣医師に相談した結果、獣医師より家畜保健所に解剖を依頼し、受理されたので搬送した。
結果は、RSウイルスの感染症であることが判明した。
そこで気掛かりは、同房の11頭の牛たちであるが、それらには全くの肺炎を疑うような症状はなく、食欲良好のままである。
とは言え、再発防止のため、同ワクチンを取り寄せて接種した。
さらに、1昨日九州から導入の28頭についても、同接種した。
どうやら、同ウイルスが常在している可能性があるが、適宜慎重で最善の対応していくしかない現状である。
噂では、やや離れているが、同管内の酪農家でも、この一両日に同感染症で死亡例が起きたそうである。
導入牛は、競り市前に5種混合ワクチンを接種しているが、この中にはRSウイルスワクチンも含まれているが、その効果には個体差があり、過信は出来ない。
ヘモウイルスの場合も同様である。
今回のことは、前夜に確認できたはずであるが、監視が甘かったとしか考えようがない。
後悔先に立たずを実感せり。

こぼれ話

2009-08-21 18:57:25 | 予防治療


関東に住み帰省中の1.5歳の初孫が、筆者の前職であった近くの牧場で、牛と戯れている写真を撮ってきたので、親ばかの域を抜けないが、つい貼り付けた。
怖がると思ったが、意外とそうではなかったとの報告であった。
子らも、その牧場で育ったことから、無意識の中での牛への対応が、孫に伝搬したのであろうか。
で、本日はこれにて。



生産地に何かが起きている

2009-08-20 20:34:45 | 素牛


2月前も同様のことを書いた気がするが、気掛かりなので取り上げることにした。
鹿児島県のある離島の子牛セリ市が間もなく行われる。
それを前に子牛市に出場する500頭余りの出場名簿が届いた。
それによると、これまで目玉商品であった安糸福の産子が名簿から完全に消えている。
関係市場開設者は、名簿でその理由を知らせて貰いたいものである。
最近はその結果が以前ほどは無くなりつつある県有の高齢牛金幸の産子や安福久の産子が若干出場している程度で、後は新参の種雄牛の産子で賑わっている。
これでは買える牛がいないわ!が仲間の異口同音である。
この傾向は他産地でも見受けられるようであるが、主要精液による産子で、主産地のクオリティーを高めようとしているとしか考えられない。
県・JA・種雄牛繋養者などは、県内各地の係る産業をどの方向へ導こうとしているのだろうか。
不思議なことに、この地では安糸福はいなくなったが、同じ民間の種雄牛繋養者が所有する他の種雄牛の産子は生産されている。
子牛生産者が安糸福を拒んでいれば、理屈にもならないが、そうであれば生産者の思考力を疑いたくなる。
その他に安糸福に遺伝的不具合が生じたとしたら、やむなきことかも知れない。
地域の畜連関係者の今後の産業振興への取り組みとその説明責任も不可欠ではないかと注目したい。


頼みの綱になる一冊

2009-08-19 20:21:23 | 肥育技術

昨日の続きである。
2000年頃に養賢堂から「ビーフプロダクション」(著者:善林明治)という冊子が発行され、著者からその1冊を頂戴した。
著者は産肉生理学が専門であり、同書はこれまでの飼育学的な著書とはひと味異なり、肉用牛の筋肉・脂肪・骨などを中心とした発生や成長そして生産過程のメカニズムについて、品種・性別・栄養レベル・肥育期間ごとに調査研究した自らの研究実績に加えて、世界中の関連研究をも網羅した内容となっている。
老いを重ねると鮮明となる記憶と、話が煩雑になるにつれ喪失しつつある記憶があり、その時の頼みの綱がこの1冊でもある。
頁を捲れば、筋肉や脂肪組織の構造であったり、それらの発生や筋肉内脂肪の蓄積のメカニズムなどが理解できる。
牛肉は何故旨いかや肉や脂肪の発色などの詳細項目もある。
今や著名人と成られた松本大策先生も、自らの玉稿の中に同書からの引用が見られる。
先達の声や専門書などは、長年掛けて修得する諸々を一纏めにして修得できる貴重な存在である。
これらの書籍は、なかなか熟読することはないが、側にあることで千人力の味方を得た如き安堵感がある。