栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

この世はフェイクで溢れている~口コミ編

2020-02-05 10:34:02 | 視点

 ネット販売に押され実店舗の売り上げが減少し、閉店するところが増えている。

有名なファストファッションの店舗も大手有名ブランドもその例外ではなく、実店舗はいずこも苦戦しているようだ。

 インターネット接続が簡単になり、どこにいても地域差関係なく、同じ商品が安く買えるとなれば、客がインターネット上のショップに流れるのはやむを得ない。

ネットの利便性は時間に関係なく、商品が安く買えるだけでなく、膨大な類似商品の中から選べるという選択の自由があることも大きいだろう。

 ところで、本当に「選択の自由」があるのだろうか。

言葉を変えれば、自分の自由意思で商品を選び買っているのだろうか。


 何をバカな。自分で選んで買っているに違いないではないか、と言われそうだが、そのことを少し考えてみよう。

 まず実店舗の話から。

先日、日産自動車の販売店に行ってきた。目的は日産の電気自動車、リーフを見るためだ。

試乗までしたかったが、思い立ったのが夕方だったから展示車があるかどうかだけ確認し、閉店30分前に行ったので試乗は次回に回し、取り敢えず実車を見、説明を聞いて帰宅した。


 なぜ夕方になって急に出かけたのかと言えば、実はネット広告のせいである。

ネットでニュースを見ていると画面に待ってましたと言わんばかりの広告がよく表示される。それらのほとんどはネット上で一度、商品を検索したり、商品画像をクリックすると、その分野か関連ある商品が次回からPC画面に勝手に表示されてくる。

 例えばスマートウォッチを買うと次回から何度も別のスマートウォッチの広告画面が表示される。

すでに買った商品を、その後何度も繰り返し表示されるのはうるさくて堪らないが、検討中の商品や類似商品が表示されるとついクリックしてしまうことがある。


 この場合がそうだった。このところ車情報をよく見ていたため日産リーフの広告画面が表示されたわけだが、それが分かっていながらついクリックした。まさに思う壺。

その直後にディーラーに電話し、あたふたとリーフを見に出かけたのだから、完全に釣られた。

 1泊2日の試乗もあるから、ぜひ試乗予約を、と勧められたが、旅行日を決めてからと、心は動いたが取り敢えず予約はせずに帰宅。

そして帰宅後、ネットでリーフの評判をチェックした。多かったのは給電に要する時間の問題。

 営業担当者の話では200km超辺りで給電するのが時間的にもバッテリーの持ちの問題からもちょうどいいとのことだった。

 その計算で行くと、給電所要時間20分/1回として中国自動車道を550km走って帰省するの3回給電しなければならない。

20分×3回=60分。給電のための1時間ロスはちょっと考える。1時間あれば高速道路から降りて撮影に充てることができる。

さらに自宅で給電する場合は別途200V用の電気工事、約5万円余りが必要になる。そ

うなるとリーフはまだ高い買い物になるから取り敢えず検討対象から外した。

そう考える材料を与えてくれたのもネット上の口コミ評価だった。

 このようにネット上の口コミ評価は商品の購買決定権を持っていると言ってもいいかもしれない。

そして恐らく多くの人が私と似たような行動をとっているに違いない。

 となると、ここに思惑が働く。

ネット上でいい評価を得たい→いい評価を書き込んで欲しい→いい評価を書き込んでくれた人にはなんらかのインセンティブを与えてもいい、という図式が出来上がる。


 需要があれば供給が生まれるのは今も昔も変わらない。

実際にその商品を使っ(た)ている人の評価を聞きたい、使用者の評価程確かなものはないと思うからである。

だが、ここに落とし穴がある。

 「アマゾン」や「楽天市場」で買い物をする時に「口コミ評価」を見る人は多いと思うが、評価が低い(星の数が少ない)商品より、評価が高い(星数が多い)商品の方を買おうと考えるのは誰しも同じだ。


 結果、評価が高い商品の方が売れている。

 問題はその評価が信じられるかどうかだ。

そのことに思いを致したのは最近で、それまでもネット通販で商品を買っていたが、口コミ評価は旅先の宿を決める時以外はほとんど見たことがなかった。

 それが腰痛悪化で2か月近く外出できなかったため、重いもの、嵩張るものはもちろんだが、ちょっとした小物までネット通販で買うなどネットショッピングを利用する機会が増えた。

 それまでほとんど気にも留めなかった口コミ評価を丹念に見るようになったのもこの頃からだが、その内あることに気付いた。

多くの口コミ評価が商品を実際に使用した上で書き込まれたものではなさそうだ、と。


 「届いたばかりでまだ使っていませんが、よさそうです」「安く買えてよかった」「まだ飲んでないが、おいしそうです」「使いやすそうです」「スムーズな配送でした」等々。

 こうした書き込みは主に1万円未満の商品、どうかすれば数1000円の商品に多く見られたので、それほど気にも留めなかった。

どうせポイント稼ぎの書き込みだろうぐらいに思ったから。

 ところが、どうもそうではないらしい。そこにビジネスが介在していたのだ。

もちろん、すべてがそうではないだろうが、商品レビューを書き込むことで、その商品がもらえたり、常連になると勝手に商品が送られてきて、5つ星等の高評価を書き込んでくれという指示があるらしい。

 指示してくるのは出展業者である。口コミ投稿者は商品が無料で手に入るわけだから、低評価は書き込まない。


 かくしてネットの口コミ評価は高評価だらけになる。たまに中・低 評価があるが、それらは実際に使用してみた実感想だ。

 そういう内実を知らない消費者が高評価を信じて購入すると、後で、あの評価は何だったのかと、ガッカリすることにもなる。

これが詐欺行為とまでは言わないが、「フェイク評価」なのは確かだ。

 なぜ、こうした「フェイク口コミ」の書き込みが行われているのか。

理由は高評価レビュー・口コミが多い程、上位に表示されるからだ。

ネット検索で見られるのは大体上位10番目ぐらいまでというのは定説で、できれば上位3番目ぐらいまでにランクされるかどうかで売り上げが大きく変わる。


 そのためには高評価を多く書き込んで欲しい→評価・レビューを買う、という図式が出来上がっている。

 最近の研究では、消費者の購買行動を左右しているのは評価の程度より、レビュー・口コミ投稿の多さの方だという結果も示されている。

 たしかに口コミ投稿数の少ない商品は買うのをためらってしまう。

それは客が入ってない店より客が多い店の方に吸い寄せられて入るのと同じだ。多くの人がその店を利用している安心感がそうさせるわけだ。

 その辺りの心理をうまく利用し、「フェイク」で客を釣るサクラ商法なのは間違いない。

顔が見えないネット社会だからこそ、消費者には賢さが要求される。